彩の国トレニックワールド100k 挑戦記
国内最高峰の呼び声高い彩の国トレニックワールド 100マイル。その登竜門とも言われる100kに参加し、無事に完走しました。
朝の準備
朝5時、アラームが鳴る。埼玉県在住なので、会場までは約2時間で行けるのがありがたい。
今日の挑戦に向けた興奮と緊張が入り混じり、心臓が高鳴る。
このレースに向けて、3月から4月にかけて準備を積んできた。ヤビツ峠走から始まり、northコースの試走、直登ばかりの神戸トレイルへの出場。土日の峠練習で生じた筋肉痛の中、平日の仕事後にも練習を重ねてきた。
4月は400km以上を走り、獲得標高は8000m以上。入賞常連の列強と比べれば多くはないが、自分にとっては最多の月。どれも楽ではなかったが、自分なりに全力で準備してきたつもりだ。
体に保護クリームを塗り、サプリメントを摂取して準備を整える。列車で越生駅へ向かう道中、頭の中は今日のレースのことでいっぱいだ。
越生駅に近づくと、車内には半袖短パンの屈強なトレイルランナーたちが増えてくる。彼らのオーラに圧倒され、車内は異様な雰囲気に。
会場に到着するとちょうど駅伝がスタートするところで、名取選手が勢いよく飛び出していくのを目撃した。1時間後には自分もスタートするわけで、あまり時間はない。急いで準備を進め、スタートラインに並ぶと、他のランナーたちのエネルギーが凄く、その熱気に圧倒されながらも、自分のペースで進むことを心に決めた。
Today is the day.
North
スタートから堂平キャンプ場までは、このレースにしては珍しくゆるやかな登り(14kmで770mアップ)。周りのランナーが緩斜面を飛ばす中、自分はマイペースを心掛け、エネルギーを温存するよう努める。それでも、他のランナーに抜かされるよりも抜くことの方が多く、オーバーペースではないかと疑う場面もあったが、これまでのトレーニングを信じて進む。
しかし、慈光寺の手前、金時山あたりから状況が一変する。暑い。脱水症状が進み、楽なはずの下りがしんどくなり、いつもの速度で進めない。
『慈光寺の下りは飛ばすな』
よく聞くPodcastでそんなことを言っていたのを思い出し、自分のペースは大丈夫なんだと自分に言い聞かせる。寺が見えてきた時点でエイドステーションかと一安心したのもつかの間、大会運営側のトラブルにより2km先にあることが判明。補給が待ち遠しく、ようやくたどり着いた時の安堵感は大きかったが、そこでの体力の回復には時間がかかった。
お恥ずかしながら、慈光寺を降りきってからくぬぎむらまでの記憶がまったくない。あまりにも辛かったのだろう。それでも、くぬぎむらでTwitterのフォロワーのきるしゅさんに会い、「まずいです」と半笑いで弱音を吐きつつも彼から元気をもらう。こういうのが効く。ありがたい。
水を浴びて再出発。そして、ここからがNorthコースの最深部。長いうえに嫌らしい上り返しが3回もある。そういえば、ニューサンピアで待ってる彼女には8時間から10時間で着くと連絡していた。急がないと。
しかし、足取りは重く、目標の8時間30分をニューサンピア手前で過ぎてしまった。53km地点も過ぎているが、まだ辿り着けず。慈光寺エイド近くでの迂回の影響だろう。気持ちが沈んでいく。
暑さに負けぐないようにと思いながらも、元気が落ちてしまい、ロードに向かう。 暑さが厳しく、通常は楽な平地も歩くしかない。ニューサンピアには辿り着くが、頭にはリタイアの考えが浮かぶ。
その時、体育館から出てきた彼女を見つけた。約束どおり応援に来てくれたのだ。
……やらねば。
彼女としばし談笑した後、気力を振り絞り、もう一度立ち上がってNorthコースへ向かう決心をした。
結果
刈場坂峠 2:19:19.11
堂平キャンプ場 3:31:59.26
慈光寺 5:21:50.14
くぬぎ村 6:41:31.08
ニューサンピアIN 8:44:30.75
当初の計画では8時間30分程度で戻ってくる予定だった。これは100マイルを完走するためにはnorth+southで20時間を切る必要があると言われており、そこを意識してのこと。
去年、同じタイムで戻ってきた選手の走力を見て、自分にも行けるという自信があった。しかし、実際には去年よりも気温が高く、天気予報を見た時点で計画を修正すべきだったことは明らかだ。
また、急な登りで息が上がるのは仕方ないと思っていたが、今になってみれば、もっとストライドを小さくすれば体力を温存できたのだと思う。
South
決意して走りだしたのは良いが、桂木観音への道中体が徐々に動かなくなっていった。あと50 km近くはあるぞ。この状態で残りを走るのは恐ろしい。
「暗くなる前に桂木観音に辿り着いてでライトをつけよう。急がないと」と思いつつ、「いや、先にライトをつけるべき」と迷う。
結局、休憩を兼ねて一時停止しライトをつけたが、チェストライトを忘れてしまい走りにくい。
そういったトラブルに苦しみつつも桂木観音に到着し、ベンチに座り込んだ。ロングレースでこうなるのは初めてで、未経験のことに戸惑う。まだ50km残っている。リタイアを考える。戻るべきなんじゃないかと。
偶然、隣に座った100マイラーがリタイアを宣言し、泣き始めた。
……。体力はほぼないが、後悔は避けたい。
水を補充し、桂木観音を出た。
次はKinocaだ。
以前試走した際の感想は、Southコースの中でゆるやかな登りが多いというもの。けれども、実際ではほとんど走れなくなっていた。歩くしかない。
山を3km/hで歩くと、17-18時間かかる。無理だ。
1時間後、歩くことさえ嫌になった。電波が届く場所で座り込み、NAVITIMEで帰宅方法を調べた。西吾野から電車はあるが、最終的にはコースを歩かなければならない。まぁいいや。荷物は明日取りに行く。
彼女に「リタイアします」とラインした。彼女はたった20分の応援のために来てくれたが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
せめてできることだけはやろう。
羊羹4つを食べ、約600kcal摂取。これでダメなら諦める。
……体が動いた。
ハンガーノックだった、速度が全く違う。
Kinocaに着いて、サンドイッチ2つとシチューを食べた。必要なのはカロリーだ。天覚山の強烈な登りを登った。試走のおかげで順調だが、少し疲れが出てきた。
竹寺に辿り着く。すこし眠気が出てきたので竹寺の野戦病院さながらの休憩所で寝る。ここでマダニに嚙まれるが、すぐ取り外して先へ。
見慣れた東吾野の魔界への入り口も、登りも、ラストだ、と思うとなんとかなる。
高山不動で朝が明ける。
気づいたらもう何を食べても、飲んでも足が軽く動くことはなくなっていた。けれども、もう、あとちょっとなのだ。
夢中でダウンヒルして桂木観音へ。もう思うことは何もない。
「長かったよね!」
たぶんあれは石山匠さんだったのだろう。ありがとうございます。
そうして、残りのロードを走り切り三度目のニューサンピア越生へ。
完走。
初めての100kmを走り抜けた旅、完璧からはほど遠かったけれど、心の底から湧き上がる充実感に包まれた。
結果
ニューサンピアOUT 9:04:20.82
桂木観音 10:30:49.15
kinoca 13:19:37.43
竹寺 16:12:17.89
高山不動 19:39:04.89
桂木観音 21:30:24.48
ゴール 22:27:02.96
25位/345人 (男子)
4位/40人 (39歳以下)
反省
2月にCOVID-19、3月にカンピロバクターに罹患、そこまでトレイルから離れた後、急ピッチでトレーニングを再開したが、下りの耐性しかつけられなかった。
トレイル練習後の筋肉痛で重視しているeasy-moderateランニングが制限され、必要なロング走も不足していた。フィットネスの基本となるリディアードの有酸素ランニング (Steady state run) やダニエルズのeasyペースが足りなければ、当たり前だがロングトレイルレースでのパフォーマンスは落ちる。
レース運びではハンガーノックを起こして大きな時間ロスがあった。あれがなければ1時間近くははやく帰ってこれた。けれども、そこから立ち直ったことは成長。以前はトラブルに完全に屈していた (それこそ去年のITJとか)。
次のAレースは9月にあり、月2くらいで熱中症を起こさないように配慮しながらロングトレイルしながら(できるのか?)、ちゃんとeasy-moderateのランニングもやっていきたい。疲労のマネジメントも。