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【Audible本の紹介29】「働き手不足1100万人」の衝撃(古屋星斗)

今回紹介するのは、2024年1月に発行された『「働き手不足1100万人」の衝撃』です。

2040年に働き手不足1100万人、という数字は衝撃的です。日本の労働力人口は7000万人くらいですから、その15%が不足するとなると、15年後は大変な社会が来るのでは、と考えてしまいます。

その原因としてあげられる「労働供給制約社会」というキーワードが印象的です。日本の社会が、構造的に、生活を維持していくために必要な労働力を提供できなくなるのではないか、という分析(この背景は人口動態)です。

筆者の古屋星斗(ふるやしょうと)さんは元経済産業省の官僚で、その後リクルートワークス研究所の主任研究員に転じた方です。

本書は、2023年3月にリクルートワークス研究所が発表した未来予測シミュレーションをもとに更に考察を深めた一冊です。この未来予測シミュレーションは、テレビ、新聞、ネットで数多く取り上げられ、大きな反響を呼んだそうです。

本書の前半は、日本の労働市場(需要・供給)の現状分析と未来予想シミュレーションの紹介です。後半は4つの処方箋の提案です。特に前半の分析部分が良くて、ぜひお勧めしたいので、今回は前半のみの紹介とします。

【本書のポイント】

× これまでの人手不足
  景況感や企業業績に左右されて、需要の増減をベースとして労働者の過不足が生じる

○ 労働供給制約
景況感や企業業績に左右されず、労働供給量がボトルネックとなる
                      ※山田宏さんyoutube参照

以下の紹介は、本書の構成に従って行います。


第1章 働き手不足1100万人の衝撃

・生活維持のための労働力がなくなる
・20年で生産年齢人口は1428万人減
・日本の労働力率は先進国でトップクラス など

まず、今後どんな社会がやってくるのか、という概要的な説明です。生産年齢人口が減り、高齢人口が増える社会。労働供給は減るが、医療・介護などの需要は増える社会。このような社会においては、生活維持のための基礎的なサービスを提供するための労働力が足りなくなる状況が生まれます。

一方、多くの女性がパートタイムで働いていたり、高齢者の雇用延長が65歳や70歳まで進んでいたりして、日本の労働力率はすでに高い水準で、大きな改善は難しそうです(ただし、質の変化は求められるところ)。

第2章 都道府県別&職種別 2040年の労働需給予測

・ドライバーの不足率は24%【職種別シミュレーション】
・充足率75%以下は31道府県【都道府県別シミュレーション】
・人口67万人の島根県の需給ギャップが小さいワケ など

業種別にシミュレーション結果を見ると、2040年には、介護サービス職で25・2%、ドライバー職で24・1%、建設職で22.0%の人手が足りなくなる

また、東京以外の全ての道府県で需要が供給を上回る予測であり、多くの道府県では需要の3/4を満たされない見込みとのこと。

島根県の需給ギャップが低いのは、働く女性比率の高さが影響しているのでは、との分析。(同様に北陸地方も低い)

第3章 生活維持サービスの低下と消滅

・人材確保は最優先の経営課題
・エッセンシャルワーカー(物流、インフラ、医療・介護)が足りない
・顕在化する警察官、自衛官のなり手不足 など

この章は、生活維持サービスで働く人々の不足による、生活面での具体的な影響を示しています。なお、企業が人材確保に努める中で、公務員職場が人材獲得競争に負け、公務面でも生活維持サービスが低下する恐れも示されています。

また、生活維持サービスが提供されなくなると、それを家庭や個人で対応することになり、仕事どころではなくなる恐れがあるとのこと(無人島の住民は実は忙しいという例)

第4章 働き手不足の最前線・地方企業の窮状

・【事例1】「地元の企業同士で若者の取り合いになる」
・【事例2】「人手不足で店を畳まざるをえない」
・【事例3】「閑散期のはずなのに毎日仕事を断っている」 など

この章では、地方社会・企業の現状が記述がされていて、興味深いです。以下、いくつか列挙し、紹介します。

・東北地方の製造業企業の社長の声。人手不足は経営上優先順位の高い課題。地域内で若者を取り合う時代が来ている。省力化、自動化など労働環境改善に努めている。

・東北地方で警備業を行っている会社の声。市内の全ての警備会社が断り、県外の警備会社に3倍の単価で依頼する事態が起きた。工事現場の安全が確保できない事態が予想される。

・自動車整備工場の社長の声。大型車の整備で手がいっぱいになり、小型車の整備に手が回らない。有資格者が不在となり、労務廃業が起きている。このままでは、車検制度が維持ができない。

・地域のバス会社や配送会社の声。地域社会の高齢化により、60歳代、70歳前後が中心となるドライバー。一人一人のできることも限られてきていて、体調面に留意しながら。やりくりでなんとかするしかない状況。

第5章以降 4つの処方箋の提案

「機械化・自動化」「ワーキッシュアクト」「シニアの小さな活動」「仕事におけるムダ改革」が提案されています。
「ワーキッシュアクト」とは、個人が、本業以外で、誰かの困りごとや地域コミュニティのための活動を行うこと、を言うそうです。

※この処方箋部分は今回の紹介からは省略します。

自分の感想について

この本を、地方在住者である地方公務員の立場で考えると、まず、現状分析が明確で、分かりやすいことが良かったです。データ分析により現状と将来予測が整理されることで、今、どこに課題があるか、今後、事態がどう進むか、イメージできました。

島根県庁などの地方自治体は、ある意味、この働き手不足対策にわりと早い段階から取り組んでいます(「課題先進県」という表現もあります。)。そのやり方が適切かどうか、については、この本の分析に照らした確認の必要性を感じました。

一方、新しく起きつつある事態への対応もしなければなりません。中には、本書に示された課題なり、処方箋に示された取組について、今、まさに検討を行っているもの(省力化支援など)もありますので、施策構築に生かしていければ、と思いました。

ビジネス上重要な課題認識を整理する上で、とても有効な本だと思います。


(参考)山田宏さんのyoutubeによる解説


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