「女性落語家なんて…」と思っていた私に「推し」ができた話
「女性落語家なんて、聞けたもんじゃない」
ついこの間まで私は内心、そんな思いを抱いていた。
・・・ゴリゴリの権威主義。
男尊女卑、というつもりはなかったが、こと落語に関しては、女性の出る幕はないと思い込んでいた。
女性が演じる熊さんや八っつぁんには、どこか無理を感じていた。廓話のような男目線からの噺でも違和感が強い。そもそも落語ってのは、宿命的に「男の芸能」ではないのか?・・・私は自分で気づかぬうちにヘイトの陥穽に落ち込んでいたのだった。
・・・だが。
そんな私に、去年から今年にかけて「革命」が起きた。
気がつけば、の変節。
2022年3月の国立演芸場。
女性噺家3人による疑似アイドルユニット「おきゃんでぃーず」の解散イベントで、私は曲にあわせてペンライトを振り回していた。
・・・なんだ?どうしてこうなった?
舞台の上で歌い踊る「おきゃんでぃーず」・・・林家あんこ、林家つる子、春風亭一花の3人を見つめながら、私はこれまでの自分を振り返っていた。
☆私の落語遍歴☆
物心ついた頃から、落語が好きだった。
小学校で噺家が演じた『桃太郎』に爆笑し、落語を知った。図書館で探し出した「子ども寄席」という本に歓喜した。
ラジオの落語番組に齧りつき、日曜には「笑点」にチャンネルを合わせた。
小さん。志ん朝。小朝。次々と目の前に現れる名人、達人、気鋭。
ハマった。これ以上の娯楽はないと思った。
早熟だった私は、自らを大人っぽく見せようとしてその頃から「落語好き」を吹聴し、なにかといえば落語にまつわる蘊蓄を口にしていた。周囲の大人からしてみたら『真田小僧』の亀坊以上にイヤな子供だったに違いない。
小さん、米朝、志ん朝、小三治に小朝。
その時々の名人の口演を耳に馴染ませながら社会人になり、「イヤな子供」は気づけば蘊蓄まみれの「面倒くさい大人」になっていた。
「出会い」が人を変えることもある
そんな私の心が動いたのは「note」での、あるクリエーターさんとの出会いがきっかけだった。
「ぼんやりRADIO」という名のその人は、落語に関する記事が多く、造詣も深い。それもそのはず、なんと奥様が噺家さんだというのだ。しかも、「note」の中では奥様へのあふれる愛情を、手紙を模した記事で真摯に綴られている。
記事を読み、その思いに触れるたび、私は自分を恥ずかしく感じた。
女性噺家さんの芸に触れようともしてこなかったこれまでの私は、ただの「食わず嫌い」ではなかったか。
「真打」を目指し研鑽を重ねる若手の努力を侮ってはいなかったか。
私の人生を豊かにしてくれた名人たちにも、前座や二つ目の時期があり、良き聴き手が彼らを慈しみ、育んできたのではなかったか。
私の「推し」は林家あんこさん!
そんな折にTVで、2021年の「NHK新人落語大賞」を見た。芯の強さと個性的なハイトーンをうまく生かした噺で大賞を受賞した桂二葉さん。そしてテンポが良く、くるくると表情の変わる快活な林家つる子さん、と女性噺家の躍進が目立った回だった。女性噺家の夜明けが来る。そう思いながらネットでいろいろと調べているうちに、つる子さんが「おきゃんでぃーず」というアイドルを模した女性噺家のユニットを組んでいることを知った。
以前の私ならば「話芸をおろそかにしてアイドルごっこなんて」とヘソを曲げていたかもしれない。だが、今の私は、それが彼女たちにとって必死の『生存戦略』なのだということは理解できる。
「おきゃんでぃーず」のメンバー3人をつらつら眺めているうちに、中でもひときわ奥ゆかしさを醸し出す「林家あんこ」さんが気になった。
そうなのだ。私はグイグイ前に来る人よりも、うしろでちょっぴり躊躇っている感じの人に目が行くタイプなのだ。
いちど気になってしまったらもう止まらない。とにかく一度みてみよう、と寄席を訪ね、あんこさんの噺を聴いてみる。
第一印象は、「実直」。
その場限りの笑いを拾いに行くのではなく、さらり、と『聴かせる』芸。
うんうん。こういうの好きだなあ。
このタイプの人が時間をかけて成熟していくところを見てみたい。
この瞬間、あんこさんは私の『推し』になっていたのだった。
以来、日々、遠く離れた北の大地から「きょうもがんばれ!」と、弱ーい念を送り続けている私なのである。
ここまで読んでいただいて『なに、この記事?』と思った方、私の言いたいことはたった一つ。
人は変われる。気づいた時が変わるチャンス!
誰かの思いに気づくとき。
自分の至らなさに向き合うとき。
ひたむきに励む人の背を見たとき。
湧き上がる興味を受け止めたとき。
変わるチャンスなんか、無限にある。
だからあなたも変わりませんか?
より、あなたらしいあなたに。
自分の好きな「自分」に。
凝り固まっていた私に「気づき」をくれた「ぼんやりRADIO」さん。
未来に向かう人を応援する喜びをくれた「林家あんこ」さん。
お二人に感謝です!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?