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ラストマイルを観た話


映画公開が情報解禁になってから、本当にずっと楽しみにしていた。

あの制作チームが大好きで
アンナチュラルが大好きで
MIUが大好きで
満島ひかりさんが大好きで
岡田将生さんが大好き

こんなの楽しみじゃないわけないがない。
フルーツ山盛り生クリームましましのスペシャルDXパフェぐらいのご褒美映画じゃない、と。

まあ、そんな甘ったるい映画ではなかったのだけれど。

公開初日を迎えて、ワクワクして、初日に観にいき、そしていろんな感情が刺さりきったまま一夜を超えて。それでも消化しきれない感想をつらつらネタバレバリバリで書いていきます。

あくまで個人の感想です。


良くも悪くも、日本人の映画だと思った。
お客様のために、そう、当たり前なのだ。

ネットでポチッっとしたものが翌日届く。
物がお得に買える。セールだって、ラッキー!

あまりに当たり前に浸透しすぎているその流れは、たとえ爆弾が紛れてても物流を「止められない」、いや「止められない」

仕事で受け取れなかったものを再配達してもらう。映画の世界では遅れたのは配達員のせいじゃないのに「遅れてすみません」と謝って、頼んだのは自分なのに「怖いので持って返ってもらえます?」と平然と言葉にする。爆弾が紛れ込んで、あれだけのニュースで、現場はめちゃくちゃだなんてこと、少し想像すれば簡単に分かるはずなのに「いつ届くんですか?!」というクレームが止まらない。

絶対に止まらない、止められないそのベルトコンベアーを、命さえも差し出して止めようとした山崎が無情にも止めることができなかったそれを「センター長」という肩書きを持つエレナが最後、止める。絶対に止めない、と言っていた彼女が、復帰で失敗できないと思っていた彼女が、いっせいーのーせ!で。やめちゃいましょう!と。

ずっと止まらなかったベルトコンベアーが、止まる。

なんて皮肉なんだろう、と思った。
なんてやるせないんだろう、と思った。

社会は、立場の強いものが全てなのだ。綺麗なスーツを着て、暖かいところでWEB会議に出席して口だけでどうにかしろ、という上司。動くのも、対処も、責任も簡単に下のもに押し付けてくる。上から下へ皺寄せがどんどん止まらない。

立場が、権力が、肩書きがあればどうにかできる力がある。

綺麗事じゃなく、それが社会の縮図で、当たり前のことでどうしようもなくて、どうにかしたくて、どうにもならない。

山崎はただ、止めたかっただけなのに。ベルトコンベアーを。
それでも止まらなかった。
頭から大量に血を流して、植物状態になるほどの大怪我をしても止まったのはたったの数分だけだった。

「バカなことをした」

そこにはどんな思いが込められていたんだろうか。
意識が朦朧としながら、動き出したベルトコンベアーを見て、どれだけやるせなかっただろうか。

そんな彼を、間近で見続けていた彼女が起こしてしまったこの事件は、本当に彼女の根性と執念だった。本来なら使わなくていい根性だったのに。そんな根性いらなかったのに。

きっと憔悴しきっていく彼を見ていて知っていて、止められなくて。ただでさえ自責の念にかられそうな状況で自分のせいで悩んでいた、なんて大きな力によって嘘を真実のように詰められた彼女が数年がかりで準備をして、戸籍を買い取り、周到な準備をし、それを見届けることなく最初の犠牲者として爆弾を自らの手でその引き金を引く。会社なのか自分なのかどちらに復讐すれば良いのか分からず、結局両方に復讐をすることを選ぶなんて。

間に合わなかった。

病気になって、心を病んで、それでも止まらない社会。
どんなことがあっても止められない物流。

消費されていく命と物。
日本人特有だと言われる勤勉さと正確さがこんなにも苦しい社会。

1年目、2年目に順調だったエレナが
3年目に寝れなくなった。

私は知っている。その感覚を。
仕事へのやる気とプライドとやらなければの搾取の連続で壊れていく音を。思考を止めれば飲み込まれるその恐怖を。虚になってロッカーに鍵をさしこめないあの目の暗闇を。止めたかった山﨑の気持ちを。衝動を。最悪の選択肢が頭に浮かぶその思考を。0を。

よく、わかる。
決して他人事じゃない、映画の御伽噺なんかじゃない。
これは働く人全員と、消費する全員の当事者の映画なのだと。

極悪人はいない、分かりやすい敵はいない、誰も悪くない。

全員が悪い。全員が限りなくスイッチを押していて、見て見ぬ振りをして、それが間に合わないに繋がっていく恐怖。


委託ドライバーの親子も、八木さんも、エレナも梨本さんも山﨑も、全員仕事に対する責任感とプライドと誇りがある。ただ、社会はプライドがあって責任感があって一生懸命な人が損をする。前職で業務外のことを押し付けられていた梨本さんのように。誰しもが心当たりがあるはずだもの。一生懸命したところで誰も大切になんてしてくれない、真面目にやったって誰も見ていない。やればやるほど仕事を押しつけられる。でも、一度プライドと誇りを持って働いたことがある人は、どうしたってあの頃の充実感と達成感が忘れられないの。中毒のように、高揚感が忘れられない。人の役に立てている、社会の役に立っているということが、自己肯定感を満たしていく。だからきっと、委託ドライバーのお父さんは何度もの何度も、同僚のすごかった話をするんだと思う。それが誇りであってほしいから。

自分が辞めたところで社会はベルトコンベアーのように動き続ける。自分がいないと回らないなんてことはない。代わりはいくらでもいる。正社員と派遣社員。自分を追い込んで心を病んで真面目に一生懸命働いたところで誰も見てはいないし、社会は自分を必要としていない。自分が思っているより役に立ってないのかもしれない。そして、一度崩れた心は簡単には戻らない。命より大切な仕事なんてないのにね。

だから、最後は救いだった。
全部間に合わなかった物語の中で、最後。きちんと魂を込めて仕事をして、自分は濡れても荷物を濡らさないようにしていた、委託ドライバーのお父さんが、自社の商品にプライドを持っていた息子が、助けた命。損をする社会の中で、一生懸命が悪いわけがない。誇りを持って仕事をする人はかっこいいに決まっている。上層部がドライバーに応援にくる、と決まった時の八木さんの顔。朝の光。

そして吸い込まれるようにロッカーを見て息を詰める梨本さん。きっと、センター長になった彼の心は蝕まれていくのだろう。社会はそう簡単に変わらない。ストライキが起きても、人が亡くなっても、爆発しても、一度止まったぐらいじゃ何も変わらない。世間も数ヶ月後には忘れている。無情にも世界は動き続けるのだから。

結局堂々巡りなのだ。
映画を観た後、とてつもなく大きな宿題を渡された気がした。
鑑賞中はその展開の速さに一滴も出なかった涙が、エンディングが流れ始めた瞬間にどうしようもない感情でいっぱいになった。

大きな社会の中で、結局なにができるのだろう。



追記;翌日2度目のラストマイルへ。全てを知っている状態で見ると、ありとあらゆる伏線が見えてきて、この充実感が2時間なの本当にすごい。


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ここからは、思考力をゼロにした箇条書きで
(作中感想・パンフレット感想)

・エレナの服装可愛い!!!!!!!ぱっつん前髪可愛い!!!!!
・岡田将生顔が美しすぎない・・・?その容姿でホワイトハッカーしてたの?好きじゃん。
・アンナチュラルの世界線があの時ままずっと続いてたのを感じて泣けちゃう。
・くのつく言葉思いつかなかったんだ・・・ずっとそうやっていじられてきたんだね、中堂さん。丸くなったね、中堂さん。相変わらず可愛いね、中堂さん。
・テンパリすぎて病院じゃないUDIラボに電話かけちゃう六郎可愛い。あと1年早かったらってことは、研修医終わったらUDIラボ戻るの?ねぇ?(大泣き)
・中村倫也が出てきた瞬間、大きな声を映画館で出さなかっただけ褒めてほしい。
嘘だろ。キャスト名未発表で中村倫也はズルすぎるよ。
・ターラターラタララーっていうあの伊吹のテーマソング流れた瞬間5mm浮いた。きた。って鳥肌たった。まじで。もう。たまらなかった。
・誰よりも先にエレベーターに向かうのに、最後に乗るの本当に伊吹って男のよさ
・手袋持ってるか聞くの、こうやってずっと相棒してきたんだと思うと心が潤うね
・え?MIU2020年のドラマなの?こんなにずっと好きなのに2020年!?!
・いつだって、ここから、という綾野剛のコメント痺れるよな。
・筧まりかのファーストシーンが、あのカセットコンロに火をつけるシーンだと聞いて震えてる。演技力・・・だってもう、全部を背負い込んでた目をしてたよ。
・白井くんが出てきた瞬間、全ファンが泣いたよね。なんて粋な・・・許されるように生きているんだね。
・「やまさき」濁らなかったですね、の台詞鳥肌たったよね。毛利さんってやっぱり優秀なんだ・・・好き・・・
・エレナが爆弾引いちゃって、解放された後のエレナと梨本さん可愛すぎるだろう。高校の部活がPC部だったことを打ち明ける梨本さん、エレナに心開いたんだ、がわかって可愛い。
・母子家庭の家族、あの台詞だけで元夫が無職で浮気をしていたクズで、娘に負い目を感じていて、娘もそれを分かっているけど思春期とか色んな思いでちょっとギクシャクしていて、お母さんがいっぱいいっぱいで一生懸命で、っていうのが伝わってきて本当に苦しい。妹がベランダにいる時落ちるんじゃないかとヒヤヒヤした。多いから、そういう事故。本当に気をつけてほしい。
・部屋番号404!!!!
・八木さんにだって家庭があって、養わないといけない家族があって。現場上がりだし多分ほんとにいい上司なんだと思う。実直。ドライバーが爆発に巻き込まれた時に、本当に安否を心配していたもの。「伝言する手間が省けた」って電話を切るシーン、痛快だった。
・佐野親子なしで語れないよね、今作。「誰も父さんのことなんて大切にしてない」って息子に言われた瞬間、力関係が入れ替わったの。あの瞬間。火野さんすごい。
・五十嵐さんもすごい悪い人じゃないんだよ。本当にいるんだもん、こういう上司。山崎の苦しみに気づけなかった、どうもしなかった人だけど、同じぐらい五十嵐さんも多分抱えていたんだと思う。山崎の苦しみに気づけなかったことに気づいてしまうと五十嵐さんが壊れてしまうんだと思う。
・エレナが眠りから覚めるところから始まって、眠って終わるの綺麗すぎる
・え、最初の電車で偽広告流れてるじゃん
・ぎゅうぎゅう詰めのバスの横をタクシーでスイスイ進んでいくの、そこですでに肩書きのある正社員と派遣社員の社会の縮図というか、構図が明確。
・このキャスト、本当によく集まったな

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