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詩歌のたねの使い方
これは詩歌のたねについての2000文字弱の記事です。
「詩歌のたね」は文字通り詩歌の種子を出力する器具である。AIとか人工知能とかが叫ばれている時代に、あえて逆行するように原始的な擬似乱数を使う。しかし短歌や俳句の吟行が、予期しない風景と出くわすことを期待する擬似乱数発生器と捉えられ試みられているのならば、諸事情により吟行できない詩歌人のための擬似乱数発生器にもまだまだ需要を見込めるはずだ。
主な使い方
まず、詩歌のたねは[出力]ボタンを押すと分類・感情・動詞・題材の4項目とタロットカードの画像、つまり5項目を出力する。利用者はこの5項目をヒントに詩歌を発想する。ちなみにタロットカードを使ったのは、ヨアヴ・ベン・ドヴ博士の弟子を名乗るとある占い師の「俳句とタロット読みって似ていますね」という発言に由来する。なのでタロット部分はストーリーキューブやオラクルカードなどでも代用・補助できる。
次に、この詩歌のたねの使い方の肝はすべての項目を使おうとしないこと。短詩であればすべての項目を使う必要がない。
最後に詩歌のたねから作った詩歌は10個に1個の割合でヒットが生まれると心得よ。だから毎日のノックの打ち方練習みたいに詩歌のたねを使うと効果的だ。詩歌のたねは詩歌そのものではないので頼りすぎるべからず。
では、例示する3つの詩型について、試しに出力してみた次の結果をもとにそれぞれの場合での使い方を述べる。
![](https://assets.st-note.com/img/1735782018-0vqOg4ocshrTI5zaLJUViZKM.png?width=1200)
俳句の場合
俳句の場合はまず具象を探す。多くの場合、下のタロットカードはタロットカードに慣れていないうちは無視した方がよい。しかしこの例の場合「LA LUNE」は月であり、この記事を執筆している時期は冬なので、冬の月や寒月などの季語が使える。5項目に季語がない場合は連想したり歳時記からランダムに引用したりして構わない。さらにタロットカードには「犬」が2頭描かれており、それと関連して動詞「食う」、題材「影」などが使えそうだ。ここで
冬月/寒月+影を食べる犬
というイメージができる。材料が揃い二物衝撃で処理できそうだと見込んだら、一気呵成に俳句にし立てあげてしまおう。
寒月や犬は電話の影を食う
「電話」は三拍余ったので、タロットカードの月のまわりのあやしげな水滴から電波→電話をなんとなく連想してあてはめてみた。月夜の散歩に出た飼主がスマートフォンで誰かと話しているとき、ひもじそうに影を鼻でつつく犬を想像できるだろうか。他の項目の「水辺」「情欲」といった要素は無理に使わなくても構わない。俳句はあくまでも具象にこだわる。
短歌の場合
短歌の場合はまず感情「情欲」を押さえる。ちなみにこの詩歌のたねの感情はスピノザが『エチカ』で分類した48感情を根拠にしている。まぁ、それはいいとして、いったん「情欲」と決めたら自分の感情を情欲まみれにしなければならない。う……うふ〜ん♡ また、タロットカードの絵柄から引用するとして今回は犬は使わず月や蝦を使おう。蝦と分類「水辺」は関連しており、また題材「影」(古語で光)は月と関連しており使えそうだ。そういったことを加味して「情欲」でつなげていくと次の歌ができる。
海底を蝦のうごめく予感して脳の襞まで月光まみれ
俳句と同じようにすべての項目を使おうとしないこと。感情の項目に関連して使えそうなものだけを採用しよう。
詩の場合
現代詩を作る場合はまずそれぞれの項目から連想する単語を数個ほど列挙する。
「水辺」→川・湖・海・堤防・風・丸石
「情欲」→性交・少年・獣・異性・性器
「食う」→歯・舌・胃・唾液
「影」→光・湿度・境界・音
「LA LUNE」正位置→城郭・都市・双子・月おじさん・高射砲・秘密・妄想・疑惑
それからこの20個ほどの単語を使って、心の向き様を方位磁針として、詩を綴っていく。そのとき注意しなくてはならないのは、タロットカードの絵柄・要素・単語に注目しすぎるとイタロ・カルヴィーノ『宿命の交わる城』の高尚な二次創作になってしまうこと。もちろん、それでよいならそれに徹する手もある。
堤防を少年が歩いている
夏の胃袋をさらけだしながら
うちがわとそとがわの境界は
月の満ち欠けにさらわれていった
現代詩は、書き出しに困ったとき、最初の一行が決まらないときなどの補助ツールとして詩歌のたねを使ったほうがいいだろう。
さいごに
3つの詩型について詩歌のたねの使い方を例示した。しかし使い方や使う項目は上に挙げた例が正解ではなく、諸君なりのやり方を見つけていったほうが諸君にとっても、そして私にとってもいい。そして詩歌のたねは練習用や締め切り直前用など使い方を限定したほうがよく、他のやり方との相乗効果によってこそ発展する手法だと考えている。それは、この詩歌のたね開発の参考にさせていただいた吟行もそのような手法であるように。
それでは諸君の詩的生活の幸福と発展を祈る。