ネギ
スーパーで夕飯の食材を買った帰り道。
ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンから流れる音楽の波を掻い潜って「パサッ」という音が聞こえてきた。
すぐ後ろを振り返るとネギが落ちている。
先ほど私が買ったネギだ。
危ない危ない。大事な食材が。
2円をもったいぶって購入したMサイズの袋が少し小さかったか。
一緒に買ったキャベツと缶ビールの6本パックがビニール袋の底を陣取っているせいでますますネギの根元の居場所が追いやられ、落ちやすくなっていたようだ。
そういえば子どもの頃、学校からの帰り道にネギが落ちていたことがあった。
当時は友だちと「落とし物にしては大きいな!」なんて笑っていたが、まさか自分がその当事者になりかけるとは。
私も大人になったな。
私はネギが好きだ。
まず、何より美味しい。
一本で緑と白、2つの顔を見せてくれる。
料理の中で存在感を示すこともできるし、薬味という脇役のポジションで他の食材を引き立てることもできる。
そして、地味に好きなポイントが、必ず買い物袋から飛び出てしまうところ。
緑色の頭をひょっこりと出して、そんなに目立ちたいか。
分かる、分かるよ。
中学生の頃、通学路で好きな子に声をかける勇気が無くて少し大股で歩き、存在に気付いてもらおうとしていた私には分かるよ、その気持ち。
(もちろんこの努力が実を結んだことなんて一度もない)
そんな淡く幼い自己顕示欲を眺めていると(想像していると)愛おしさが湧いてくる。
さらにさらに、、、
スーパーからの帰り道、袋から飛び出るネギが目に入ると「ああ、私、ちゃんと自炊して偉いなぁ。ちゃんと生活できていて偉いなぁ…」と自己承認欲を満たすことができる。
ゴリゴリのヤンキーが持つ買い物袋からネギがひょっこりしていれば、ギャップ萌えもできる。
私がスーパーでギャップにキュンとしたのは、そのヤンキーがネギを買っているのを見た時と、全身黒づくめのモード系ファッションに身を包んだ女性が「雪見だいふく」を買っているのを見た時くらいだ。
野菜が大人気アイスと肩を並べるのだから、このネギの凄さが分かっていただけるだろう。
今は、ネギを丸ごと炭火焼きにする「カルソッツ」を食べてみたい。
以前テレビでカルソッツを出しているイベントを見たので、そういうのに行ってみたいなぁ、なんて。
今日はこんな感じで、長くならないように。ネギだけに。
………ははっ。
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