【コロナで脱資本主義】エピソード7 サラリーマンは現代の奴隷か?(6)
エピソード7
サラリーマンは現代の奴隷か?(6)
もう一度、先ほどの図を掲示しよう。
<貨幣> - <商品の消費> - <増加した貨幣>
※※※※※※※※※※
そう言って図を書くと、なぜかマルクんは遠い目になった。
「どうしたの? マルクん?」とエリカが訊く。
「あ、ちょっと思い出してしまって……」
「なにを?」と今度はボクが問う。
「……。わかりました。二人のために、私のあの辛い思い出を話しましょう。そうだ。ちなみに二人はビートルズは好きですか?」
実は、ボクたちは揃って大のビートルズマニアだ。
「なら、ビートルズの初期のナンバーに『アンナ』というカバー曲があるのは知ってますね」
「もちろん!『あいつが好きなら一緒にどこかに消えちまえ。その代わり、あげた指輪は返してネ』ってなんともせこい歌を、不良少年の面影が残るジョン・レノンが歌っているところがかわいらしいよね」
エリカはとても嬉しそうだ。
「同感です。そして、その『アンナ』の歌詞ではありませんが、私はこの図を見るたびに嫌な思い出が頭をよぎるんです」
「どんな?」
「額にして六十万円。一昨年、プロポーズするつもりで大枚はたいて指輪を買ったんですが、見事に破局してしまいました」
「へぇー、マルクんにそんな女性(ひと)いたんだ。長い付き合いだけど、アタシ、気付かなかった」
「ええ、いたんです。で、しかたがないので、買取販売店にその指輪を持ち込んだんですが、なんと、買値は五万円だって言うんです」
マルクんは、もはや涙目だ。
「現実は厳しいですね。消費どころか、一度も薬指にはめさせてもらえなかった指輪の価値が十分の一以下になってしまうのですから、この無念さを図にぶつけると、貨幣から始まる流通はこのようにならなければおかしいですよね」
言って、マルクんは図を書いた。
<貨幣> - <商品の消費> - <減少した貨幣>
それを見て、ボクの体は軽く粟立った。当然、エリカも気付いているだろう。これは大きな問題だ。完全に矛盾に陥ってしまった。
ボクは、思わず席を立って、黒板に書かれたマルクんの図に、新たな図式を書き加えた。
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