た の し い お も い で
ここは宮城県のとある水族館。
今日の営業も間もなく終わろうかという夕暮れ時、撮影コーナーに立つ私の元に一人の女性客がいらっしゃいました。見覚えのあるお姿だったので、今日のお昼に撮影されたお客様だとすぐに気がつきました。
「今日家族で撮影してもらった者ですが、今からでも写真を買うことはできますか?」
「もちろんですよ。いまお探ししますので少々お待ちくださいね」
ご家族の写真はすぐに見つかりました。小学校低学年と幼稚園生くらいのご姉妹がお母さまと三人で写っています。女の子たちがとても可愛くて良い写真だったので、ご購入いただけなかったのが残念でよく覚えていたのです。
「お待たせしました、はいどうぞ」
私は写真を台紙に入れて袋に包み、お渡ししました。その時、お客様が持っているA4のコピー用紙が目に留まりました。用紙の中央に貼られている写真がチラッと見えたからです。
撮影に参加いただいたお客様全員にL版のノベルティ記念写真をプレゼントしており、それを私たちはフォトカードと呼んでいます。
フォトカードには、お客様の写真が入りますので、台紙付き記念写真など商品を購入されなかったお客様にも想い出をお持ち帰りいただけます。喜んでいただくことは多いですが、カードを紙に貼ってくださっているのは初めて見たので、私は興味深く感じ、尋ねてみました。
「それって、今日お渡ししたフォトカードですか?」
「ええ、そうなんです。家に帰ったら、娘がこれを作っていたんですよ」
微笑みながらお母さまは用紙を見せてくれました。
そこには色鉛筆でたくさんの花々。
おうちの絵もかわいらしく描かれています。
紙の中央には、ご家族で撮影されたフォトカードが貼られていて。
そして大きく
「 た の し い お も い で 」
見た途端、私の胸にこみ上げるものがありました。
「カードを貼って、絵を描いて、ずっと持って眺めているものだから…。私も、あの時写真を買っておけばよかったなって思うようになって」
家が近くなので、またすぐに戻ってきちゃいましたと苦笑いするお母さま。その後大事そうに写真を持って、お子様の待つ家へと戻っていかれました。
お客様が帰られた後も、私の目にはあのイラストが焼き付いているようでした。私たちの撮った写真をかけがえのない想い出にしてくれた、お子様のまっすぐな気持ちが本当に嬉しくて。
そしてお子様の気持ちに応えるお母さまも本当に素敵だなと思いました。
写真を購入されなかったお客様にもお持ち帰りいただけるフォトカード。
無料で差し上げているものですが、それをこんなにも大切な宝物にしていただけるんだという新しい発見がありました。そして想い出がプライスレスであることを改めて思い知らされました。
これからも一枚一枚にこだわりを持って撮影していこうと思いました。その一枚が、お客様の大切な想い出になりますようにとの願いを込めて。