まぼろしの坂口健太郎
数年前のこと。彼氏のいないわたしを気づかい、友達が紹介してくれると言った。
「おもちちゃん、好きだと思うよ。坂口健太郎似。」
ちょっと待って。坂口健太郎は、怪しいぞ。わたしは書店に行くと、必ず男性ファッション誌もチェックする。おしゃれスナップには、いつだって坂口健太郎っぽい人がいる。背が高くて、髪型とか服装とか寄せれば、それっぽく見える。
友達が気になることを言った。
「ただ、いつ会っても帽子を被っているんだよね。お店でも脱がない。もしかしたら…」
できれば髪の毛は、あってほしい。わたしは、髪の毛を気にする器の小さい人間だ。徐々にハゲていったのと、始めからハゲているのは、別の話。
結果、3回会った。始めの2回は帽子を脱がなかった。そして、まったく坂口健太郎に似ていなかった。友達も驚いていた。
なぜ、あなたが驚くの。会ったことあるでしょ。
「わたしが知っているのは、色白でひょろひょろだった」とのこと。
友達は、さらりと聞いた。
「雰囲気、変わったね」
「そうなんですよ。体鍛えてて、日焼けもして、真っ黒で」
坂口健太郎、どこ行っちゃったの。体を鍛えて日焼けしたら、いなくなったの。戻っておいでよ。
たぶん、それは元から似ていなかったのだろう。
3回目に会った時、彼は少し慣れたのか、帽子を被ってこなかった。フサフサではなかったけど、ハゲてもいなかった。3回会った収穫は、彼はハゲではないということ。
それ以降、なんとなく会うことはなくなった。
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