”呼びかけ”の変化の裏にあるものは
新年早々、能登地方を中心に起きた大地震。あまりの出来事に、胸がつぶれる思いだ。被災された方々に、一日も早く平穏な時間が戻ることを心から祈っている。
テレビを通じて情報収集をしていたところ、おや、と思うアナウンスがあった。避難所のトイレについて、注意点をNHKの男性アナウンサーが以下のように呼びかけたのだ。
他の注意点とあわせてさらりと伝えていたが、「犯罪被害」とまで踏み込んだ表現をするようになったのはいつからだろうか。X(旧ツイッター)でも、同様の驚きをつぶやく投稿がみられた。
「女は避難所には行かせられない」
ふと、前職で報道の仕事をしていたときのことを思い出した。十数年前、とある地震災害の応援業務で遠方の地域に派遣されたことがあった。一分一秒でも早く被災地に入らねばと新幹線と飛行機を乗り継いで現地入りした私に、受け入れ担当のデスクが言った言葉は強烈だった。「女か、女は避難所に行かせられないんだよな」。
急いで来たのに何なんだ?と困惑したものの、被災地取材が初めてだった私は時間もないので役場まわりの取材サポートに回ることになった。深夜の余震に備えて待機用のマイクロバスで仮眠をとりながら、時々刻々と更新される情報を集めて伝える業務。たった1週間の応援だったが、発災直後の騒然とした空気の中、ロジも混乱していて疲労困憊。交代者が来たときはほっとした。それ以来、あのときのデスクの言葉は不快だったが特に疑問を持つこともなく、その後取材で深めようと思ったこともなかった。取材者として、甘かったと思う。
東日本大震災の被災地での調査
被災地での性暴力の実態の一端を知ったのは、東日本大震災から10年の節目で制作を手伝った企画がきっかけだった。
「東日本大震災『災害・復興時における女性と子供への暴力』に関する調査報告書」(東日本大震災女性支援ネットワーク)という資料を読んで、愕然とした。つきまといや覗き見をはじめ、想像を絶するケースが記されていた。
こうした被害は、阪神・淡路大震災でも報告があったそうだ。しかし一部メディアから「証拠がない」とバッシングを受け、調査を行なった方々は長い間沈黙することになったという。
声をあげて、そして
冒頭で触れた呼びかけがいつから始まったか、正確な情報は持ち合わせていない。こうした呼びかけをしなければならない現実があることは悲しむべきことだ。ただ、その現実が可視化されたことは一歩前進だと思いたい。そしてその裏には、辛い思いをしながら勇気を出して声をあげた人たちの存在があり、それを受け止めた取材者がいたのだと想像する。
災害が相次ぐ日本。声をあげずとも、人権が守られる日が来ることを願ってやまない。
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