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しまらなかった、〆のラーメンをしめたのは。

ホームに降り立つと、鉄腕アトムのメロディが流れていた。よく考えてみれば長く東京暮らしをしていても、まだ降りたことのない駅は沢山ある。
この駅もそう。通過したことしかなかったのに初めて降りた理由はひとつ。ラーメンを食べるためだった。

最近の夫はラーメン病に犯されている。テレビで紹介されたラーメンにひかれ、すぐにお店を調べる。
お酒や居酒屋メニューもあることで、しめに食べたいラーメンとして紹介されていた。

ネットから予約がとれることがわかり、夫が開くホームページより2名で予約をする。テーブル席も選べたので、もちろんテレビで紹介されていたように、〆でラーメンを食べるつもりでつまみながらお酒も飲む前提でテーブル席の予約。
確認メールも届き、準備万端でどのおつまみを注文するかまで決めていた。

入店し、予約してる旨を告げるとハイチェアーのカウンターに通された。
あれ?お酒を飲むとなると、このハイなチェアー界でも上位に君臨するようなハイなハイチェアでは足がきつい。

確認メールを見ても、テーブル席で受けてくれているはず。

勇気を出して、「すみません、テーブルで予約していたのですが」と、もちろんお客様は神様ではないので、下手に出て聞いてみたところ

「テーブル、他で予約入って来ちゃってるんで!」という、だからなに?感が満載で返って来た答え。

そう言われたらこっちももう1ターンくらい返したい。

「いや、でもテーブルで確認メールも来てますが…?」と言うと、

「当日予約とかも入っちゃってるんでー」

2回目のだからなに?感。話を聞いていない答え。

うちは昨日から予約してましたが、当日予約の方にテーブル予約が移ったということ?どういうことか、日本語で話してほしかった。

「じゃぁもういいです、帰りますわ」と言いたそうな顔をする夫をなだめ、降りたこともない駅までわざわざ〆のラーメンを食べたいがためにわたしたちはここに飲みに来たのだから、もう2度とくることのないだろうこの店の絶賛されていたラーメンを食べようじゃないか。

と、お酒もつまみも頼まずにラーメンをオーダー。嫌な予感しかしないお店で長居する気は失せた。
それじゃぁ〆じゃない、普通のラーメンだけどもうそれでいい。

出て来たラーメンは、キングオブコント2014でシソンヌが披露したコント風に言えば、くせぇラーメンです。

うちのテーブルにラーメンを出せば、あとはスタッフは手が空く。狭い店なのに4人か5人いるスタッフたち。新入りの子に対して、自己紹介タイムが始まった。

わたしの座った席は、ラーメンがカウンターから出てきたりスタッフみんなの携帯が置いてあるような、そんな作業用のごしゃーっとしている場所の隣。

そこにわらわらとみんなが集まって来て、コードネームのような名前を披露していく。全員カナカタ3文字の名前だった。
サークルの新歓コンパの空気感。わたしの右側、人だらけ。

それが終われば、バイトリーダーによる、新人バイトの指導。
ホール同士で連携を取るように、といった内容の高圧的な指導。
いやだから、サークルの先輩か!その前に、隣でそれをやらないでくれ。

求人欄に「和気あいあいとした職場です」って載せてそう。

ここで重要な点がひとつあって、新人のバイトのこ意外全員ノーマスク。
厨房の人は暑い中で調理している。熱中症予防でマスクを外すのはいいんだけど、ずっとプライベートで出かけた先のエピソードトークをドヤ顔でこっちに聞こえるボリュームで話しながらラーメンを作ったり、遠慮なしにくしゃみする姿や、ホールの別の人も咳をしている。

わたしの知らない世界がそこにあり、もう耐え難し!!で、出てきたラーメンを脇目も振らずにマッハで食べる。
うすいチャーシューで大量の麺を包んで口の中へ運ぶ。そのひと口がでかいことでかいこと…!

ねぎ多めでオーダーしたので、ねぎを食べたいがためにスープを全部飲んでしまったら「おいしかったですありがとう」の意味に取られてしまうと思い、ささやかな抵抗でスープは残した。ねぎにもスープにも罪はないのにごめん。

それほどまでに、久しぶりになんとも言えない気持ちにさせてくれたラーメン屋に出会ってしまった。

もちろん、帰り際あのバイトリーダーはくっちゃべることに忙しいため見送りの挨拶などなし。

そんな具合だったので、味なんてよく覚えてないけど、この前食べた2枚チャーシューが乗っていたとんこつラーメンの方が美味しかった。
気分の問題かもしれないけど。あのラーメンは誠実だった。

やはり、お店は味より人なんだと思う。
すてきな人が作ってくれるご飯には、きちんと愛情という隠し味が入っていて心までも満腹にしてくれる。

〆じゃないラーメンではしまらない。どうしたって、思ってたのんと違ったので2軒目に軽く飲める焼き鳥屋に行った。

昔住んでいた家の最寄り駅にあったお店に入ると、よく行っていた頃と店員さんは変わっていたけど、相変わらずとても印象の良いお店だった。

感染対策はもちろんのこと、凍結パイン酎にやきとり、ほかほかのたまごやきに、気配り上手な店員さん。
ラーメンを食べた後なのに色々食べた。記憶を上書いていくように。

はちきれんばかりのお腹を抑えながら大満足でお会計をお願いすると、計算するまで食べて待っていてくださいと、ひと口アイスが渡された。

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〆のひと口アイス。スーパーやコンビニに売っている、なんの変哲もないかもしれないこのアイスが、やっと見つけたお宝のように思え心の底からのごちそうさまでしたが言えた。

最後にここでおいしいものを食べるためだったとしてもラーメン屋での試練は、わたしたちには少々厳しすぎたけれど。

口コミや点数など関係なく、いいお店は沢山あるからこれからもメディアに踊らされずに自分の目と舌を信じて開拓して行きたいとしみじみ思ったラーメン事変。

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星野うみ。
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