清水寺の マジックアワー
年末に京都に行ってきた。
京都を歩くのは10年ぶりくらいだろうか。
大学生の頃はよく遊びに行っていた。
御所の近くのホテルに荷物をおろし、まずは四条のイノブンへ。
イノブンは地下1階から4階まですべて雑貨の、何時間でもいられるお気に入りのお店だ。
子供も小学生になったため、文房具やおしゃれグッズのフロアは一緒に楽しめるし、年末と言っても平日の昼間だから空いている。
冬の京都は とにかく寒い。
特に寺や神社は 地面から冷えが伝わってきて、
口を開けば「うーー。寒っ。」と みんなわかっていることをお互いに何回も言ってしまう。
今回は2泊の予定だし、時間はたっぷりある。
人の少ない ぬくぬくあったかいイノブンで 時間を気にせず 雑貨を物色する。
あー。至福の時間である。
寺にも行った。
私は人混みが苦手なので、いわゆる『KYOTOどすえ~』みたいな場所は 今回避けるようにしていた。
六波羅密寺でおみくじをひき、銭洗弁財天でお金を洗う。
おみくじとお金洗い。
子供と一緒に行く寺社は、何かイベントがあった方が楽しい。
午後は東山にある和菓子屋さんで、和菓子作り。
このインバウンド時代に 海外のお客さんがいても英語を全然話そうとしないおっちゃんの説明を聞きながら、練り切り、干菓子など作る。
終わったのが15時ごろ。
寒いし、今日はもうホテルに帰って近所の銭湯なんか行くのもいいなーと思ってたら、
夫が「清水、行く? せっかく京都来たし」 と言いだす。
え、清水? めっちゃ混むやん。
京都のー、年末のー、インバウンドだらけの町でー、
清水のあの坂を登る、元気・やる気・根性は、私にはほぼなかった。
うーーん。正直乗り気ではない。
乗り気ではないが、イノブンも六波羅密寺も 私が行きたいと言って決めた場所だ。
しゃーない。夫の意見も取り入れるか。
「うーん。じゃあちょっと行ってみる?」
清水寺行きのバス停まで 歩く。
バスの列には、私たち家族以外は全員海外の人たち。
ここは日本?
英語、イタリア語、中国語、韓国語。
いろんな言葉が聞こえてくると、それはそれでワクワクする。
ちょうどバス停の前が京都国立博物館で、でっかい噴水とでっかいでっかい洋館があり、ついそっちに興味がそそられる。
調べると、今は展示替え中で 中は見れないとのこと。
しゃーない。今日は清水か。
バスが来た。
混んでる。めっちゃ混んでる。
入り口ドアぎりぎりまで 人が乗っている。
数秒止まるが 降りる人がいないので乗れず、
結局 続くバスも同じ状況で 4本連続でバスを見送る。
20分立ちっぱなしなので、地面からの冷えがビンビンに足にくる。
あかん。清水 行かれへんやん。
ここから歩きで行くには 果てしなく遠い。
私の中での清水へのやる気は 限りなくゼロになっていた。
もう、ホテルでコロコロするか~。
と、その時、タクシー(誰も乗ってない)が向こうからやってきた。
「これに乗る?乗ってしまおか!」 そう言って夫がささっと手を挙げ、タクシーが止まる。
あーー。清水行き決定。
タクシーの中で
「バスがすんごい混んでて全然乗れませんでした。最近ずっとこんな感じなんですか?」と聞く。
「ずっと混んでるでー。特に清水は最悪。いっちばん最悪やー。」
いっちばん最悪・・。ですよねー。
「あの、できるだけ寺に近い場所でおろしてもらっていいですか?一番歩く距離が短い場所で」とお願いする。
「あー。そしたら坂の途中で降ろしますわー。お客さん、夕日見たいなら16時までに行った方がええで。16時半過ぎると山で夕日が隠れるから。」
夕日?
こちとら とにかくおみくじ引いて舞台まで見れたら 満足なんじゃい。
早くホテルでゆっくりしたいー。
清水の表参道、どんぐり共和国とすみっこ暮らしのお店が並ぶ通りの手前で タクシーは止まった。
トトロやすみっこって、どこにでも出没するよね。
寺まではまだ少し坂を登るが それでも いちから登るよりは全然ましだ。
人でいっぱいの 石畳の階段を登っていく。
お土産ものや、スイーツ屋さん。
子供が、スヌーピーの店を見つけ あとで寄りたいと言う。
はいはい、帰りに寄ろうね。
いざ、清水へ。
清水寺には確か大学生の時に来た、はずだと思う。
本堂の舞台に行った記憶も ある。
清水寺の正門の どどんとした構えが見えてくる。
「あれ?こんな門だったっけ?」と思うくらい、朱色がきれいなことに驚く。
五重塔の 朱色と緑色のデザインも綺麗だ。
正門を背に立つと、京都タワーを含む京都の町が 見渡せる。
あいにく 夕日は雲に隠れ 後光だけが指している。
それでも十分 きれいだ。
冬の京都 ええやん。寒いけど。
舞台がある本堂まで行く。
外側に柵はついているが、長年の観光客の蓄積なのか 床の傾斜が外側に傾いており、
柵も、ひょいっと身を乗り出したら飛び越えられそうな 心もとなさだ。
高所が苦手な私には きつい。
ここは退散するか、と 舞台の中ほどに身を寄せる。
ふと目をやると 舞台のさらに奥の高見台から、こちらを写真で撮っている人達がたくさんいる。
舞台より そっちの方が混んでいた。
雲が動いて オレンジの光が人々を照らしていく。
あ、この光の色は 絶対 夕日がきれいなやつだ。
そう気づいて 急いで高見台へと向かう。
高見台につき、舞台の方を振り向くと
きれいな 本当にきれいな夕日がそこにはあった。
思わず拝む。
何かわからないけど 手を合わせたくなり 祈る。
人間が組み立てた建造物にたくさんの人たちがいて 同じ太陽を見ている。
きっと ここは昔からずっと そういう場所なんだろう。
太陽の光が差し込んで オレンジ色に染まっている人たちの顔を見て
人間って 愛おしいな。
そんなことを思った。
帰りに スヌーピーの店で子供はアイスを食べ
グレーとピンクの混ざった色の 薄い雲を見ながら 私はなんだか幸せな気分だった。
清水寺 ええやん。
今日はゆっくり帰ろう。
四条に出て 何か温かいものでも 食べて帰ろう。
(写真 右奥が舞台、左手前が高見台【奥の院】)