公園の熊
急に涼しくなったので、秋用のローテーションを考えた。
朝夕の時間を、朝はガーデニング、夕方は散歩に充てることにした。
職場の通勤途中に、大きめの公園がある。
仕事帰りに、そこを歩いてみることにした。
9月の夕日は小さなちぎれ雲に遮られて、柔らかい。風も、ぬるく柔らかい。
犬の散歩をする人、子どもを遊ばせている人が遠くに見える。
グラウンドゴルフ場の横を歩く。
心地良い間隔で、幾種類かの木が植えられている。いろんな形の枝が、揺れている。桜は分かるけれど、そのほかの木は分からない。細かい刷毛みたいな葉の、しなやかな木、星形の大きな葉っぱを広げた木・・・風の木、星の木、と呼んでみる。
一般にどう呼ばれているか分からなくても、きっと大事なのは、私とその木の関係。
中学の頃、宮沢賢治が既存のクラシック曲にオリジナルの曲名を付けていた、という記事を読んで、まねしたことを思い出す。ラジオから曲を録音して、カセットテープにためて、ひとつひとつ、曲名を考えた。確か、ラベルのピアノ曲の名前はすべて、大空をわたる風や雲に関係したものになった・・・
固まっていた股関節があたたまり、すこしずつほぐれていく。
真ん中に池があったり、脇を川が流れていたり、あずまやがあったり、ベンチがあったり、小山があったり、どこを切り取っても美しい。私は、人の手が入った公園が好きだ。名のある庭園じゃなくても、ふつうの、郊外にある、市民のための公園が。
池をまわって後半にさしかかったころ、道の脇に、銀色の熊が座っていた。夕方の風に吹かれて、熊のオブジェはただ座っている。
私との間に、この熊のオリジナルの名は、無い。そういうものを超えた佇まいを感じた。これは、銀色の熊。
さっきより陽が少し傾いて、光がほんのりオレンジ色を帯びる。
風はゆるゆると吹き続け、熊の周りの草がゆれている。
心にすとんと落ちて、ずっと残る風景がある。遙かな昔の思い出は、みんなそうだ。
永遠に夕方の、永遠の公園に、銀色の熊。
車に戻って、エンジンを入れる。
夫に「今から帰る」とラインを入れ、私は車を出す。
空はぼんやりとグレーがかったオレンジ色。ぬるい風は吹き続ける。私の車にも、遠ざかる公園にも。
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みんなのフォトギャラリーからkaede.n5557さんの写真「日々思うこと、感じること 11/07」を使用させていただきました。
ゆるゆるとうす明るい、あの日の公園の色に似ていました。