読書感想文『 沈黙 』遠藤周作著 主人公は雄弁に語る
キリスト教に精通していないので、宗教的な問題にはふれないでおく。
ザビエルが織田信長と謁見し、それからキリスト教は西日本にひろまる。
そして、聖人になったザビエルは、インドのどこかの協会にいまも安置されている。
隆盛をほこったキリスト教も、秀吉から家康の時代にうつるにつれ迫害されだす。
そして、いまも小説やテレビのテーマとしてあつかわれる島原の乱がおこった直後から『 沈黙 』の物語がはじまる。
読んでおもったのは、江戸時代の支配階級のひとたちは、まぁ、ひどいよね。
第二次世界大戦のドイツと比較されるほどに、陰湿にひどい。
海外からきた宣教師だけでなく、自国民すらも殺すのだから恐ろしいよね。
黒船がきた衝撃からヒステリックに開国論者を弾圧。
その弾圧に幕府の恐ろしさの一端がみえる。
島原の乱から黒船来襲まで、ひたすらに自国民をイジめていた江戸時代の繁栄の影を垣間見る。
火あぶりや槍での串刺し、斬首では、見物人、野次馬たちがキリスト教に感化される恐れがある。
なので、日本の残酷に優秀な官吏は、逆さ吊りという拷問方法をあみだす。
興味のあるひとは、逆さ吊りを調べてください。
わたしは、吊られるまえに、棄教(キリスト教徒をやめること)するね、ぜったい。
なので、棄教せずに、拷問にたえにたえ、死んでいく人たちの気持ちがわからない。
『 沈黙 』の主人公は、思っていること、考えていることを語ってくれる。
けれども、なぜ、そこまで痛みや拷問にたえるのか、カスミをつかむように理解できない。
『 沈黙 』の信仰にたいする気持ちは理解できない。
だから『 沈黙 』は、おもしろくない、そのようなことはない。
むしろ、破綻するであろう予感の火にあぶられながら、日本を漂流する主人公の気持ちは手にとるようにわかる。
死の予感、破綻、意地、祈り、救済、ひりつき凍えるような恐怖におびえる日々。
彼の思考は、信仰心という幹から縦横無尽に思考、思索の枝がのび、ひたすらに悩みつづける。
主人公の悩みは、よくわかる。共感もできる。
作家であり、苛烈な批評で有名な開高健は『 沈黙 』についてこのように書いている。
うまい小説であり、休まずにさいごまで読まされたと。
わたし流にいうならば、酒を呑むのをひかえ『 沈黙 』を一気に読みおえた。
『 沈黙 』は、海外の宣教師だけでなく日本のキリスト教たちも棄教せずに殺される。
日本人の教徒たちは、おおくを語らない。
まさに『 沈黙 』したまま死んでいく。
年貢をおさめるのがつらく、朝から晩まで働かされ、クタクタな現世。
殉教すれば、日本の教徒たちはパライソにいけると考えている一説がある。
日本の教徒たちが信じるものは、キリスト教でなくとも、一向宗でもよかったのではと考えた。
そのあたりの答えはでない。
わかりやすい人物も登場する。
物語の序盤でさっさと裏切る人物がいる。
この人物も主人公なみに口をうごかす。
恥も外聞もなく、罪をおかしました、許してくださいと延々つぶやきつづける。
この人物の気持ちは、まるッとわかる。
わたしが『 沈黙 』の時代に生きていたら、きっと同じ行動をとっただろう。
いくつか、『 沈黙 』のなかで心にのこった文章がある。
日本は沼地のようなもので、キリスト教は大地にねづくことなく腐ると語っている。
キリスト教のおしえと、日本人の相性はわるいのだろうか。
仏教や神社ほどには、教会をみかけない現世の日本。
つぎに、宣教師たちが、日本にきたせいで、平凡に苦役にたえていたキリスト教徒の村人たちが殺されることになった。
キリスト教を日本にひろめるという心意気はすばらしいものだとは思う。
その結果、日本人の教徒が殺される。
このあたりの矛盾というか因果関係は、『 沈黙 』の重要は要素になっている。
物語の最後あたりで、見たことある名前が登場したと気づく。
坂口安吾の小説?エッセイ?『 イノチガケ 』に『 沈黙 』の主人公の正式な名前が書かれている。
『 沈黙 』では、すこし名前をかえている。
坂口安吾は資料を調べて書いたようにみうけられる。
なので、おそらく正確な名前だろう。
坂口安吾は、『 沈黙 』の主人公については、5行ほど書いてあるだけだ。
別の人物に、坂口安吾は焦点をあてている。
『 沈黙 』の主人公が書きしめした文書のおかげで、日本人はキリスト教のことを深く知ることができた。
作者の焦点はちがえども、物語は密接にからみあっている。
坂口安吾の『 イノチガケ 』には、どれだけのキリスト教徒が殺されてきたのか数字で淡々と書きしめしている。
数字の羅列を見せつづけられると、異様な迫力が浮かびあがる。
いろいろな感情が数字にこめられていたのだろう。
その感情をおしつぶし、人を処刑していく支配階級や官僚の姿が、数字から浮かびあがる。
キリスト教については、理解できなかった。
けれども、日本の支配層の、異様な冷酷さを教えこまれた『 沈黙 』
いまの、日本の支配層も。
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