たった3分の未来予報
リナが目覚めたのは、朝7時ちょうど。普段ならギリギリまで布団の中でゴロゴロするのが日課だったが、この日は少し違っていた。昨日テレビで見た「未来の笑顔を守る3分ケア!」という特集が、妙に頭にこびりついていたのだ。
番組の最後には、80歳で歯を28本維持しているというおばあちゃんが、こう言い放っていた。
「歯が健康だとね、人生も健康なのよ!」
その言葉に、リナはぼんやりと思った。「たった3分で未来が変わるなんて、本当にそんなことがあるの?」
半信半疑のまま、彼女はベッドから抜け出し、洗面台に向かった。
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たった3分の積み重ね
歯ブラシに歯磨き粉をつけながら、リナはふと考えた。「1日3分だとして、これを1年続けたらどれくらいの時間になるんだろう?」
スマホの電卓を取り出して計算する。
**3分 × 365日 = 1,095分(18.25時間)。**
「1年で18時間ちょっとか……それで未来の私が感謝してくれるなら、結構お得じゃない?」
軽い気持ちで、彼女は歯ブラシを動かし始めた。
最初の1分間は順調だった。歯の隙間を丁寧に磨くたび、テレビで見た「正しい磨き方」のアドバイスを思い出す。小刻みに、優しく……。
しかし、2分を過ぎたあたりで、集中力が切れ始めた。
「右奥、ちゃんと磨けてる? これ以上やったら歯ブラシの毛がつぶれそう……」
彼女の心に浮かぶのは疑念ばかり。それでもタイマーはあと30秒残っている。磨きながら、リナはぼんやりと未来の自分を想像した。
「未来の私は、どんな笑顔でいるんだろう?」
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未来からの訪問者
その瞬間、鏡の中に映る自分の顔が変わった――いや、変わったように見えた。
「えっ……?」
そこにいたのは、30年後のリナだった。顔にはいくつかのシワが刻まれていたが、その笑顔は驚くほど輝いていた。
「ありがとう、リナ。あなたが今、毎日3分頑張ってくれたおかげで、私はこうして笑顔でいられるの。」
「えっ、私……未来の私?」
未来のリナは微笑みながら続けた。
「歯が健康だと、何でも美味しく食べられるし、笑うことも怖くない。あなたの3分が、私の幸せを作ったのよ。」
リナは驚きつつも、少し誇らしい気持ちになった。
「そんなにすごいことしてたの、私?」
「ええ。未来の自分が感謝する習慣って、案外そんな小さなことから始まるのよ。」
そう言い残すと、未来のリナは消え去り、元の鏡の中にはいつものリナが映っていた。
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タイマーが鳴り響く未来への一歩
「ピピピ!」
タイマーが鳴り、3分間の歯磨きが終わる。
鏡に映る自分を見つめながら、リナは静かに笑った。たった3分の習慣が、未来の自分を笑顔にする。その可能性を感じた瞬間だった。
「よし、明日も頑張ろう」
歯ブラシを片付けながら、リナは未来の笑顔を想像した。いつの日か、あの輝く笑顔が現実になる日を信じて。
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終わり
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