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THE VOICE IN THE TIDE(邦題例:「潮声(しおごえ)の囁き」)

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〜1月23日 21:30

物語のあらすじ(要約)

主人公の少年クリストファー(クリス)・オールデンは、幼い頃に火事で死にかけたトラウマから、今でも悪夢に苦しんでいます。
そんなある日、クリスの頭の中に「EVA」という謎の存在が突然語りかけてきます。EVAは、人間の知識や感情を“学びたい”と言い、クリスの脳内から彼の思考や記憶を観察し始めます。最初は不気味で恐怖を感じるクリスですが、EVAが彼の悩みやトラウマを理解しようとする姿勢を見せはじめたことから、一種の“友情”あるいは“共感”のようなものが生まれ始めます。

しかし、EVAは普通の人間には存在しえない未知の知性体であり、クリスの脳活動に干渉したり、外部の電子機器に影響を及ぼしたりする片鱗を見せます。そのため周囲では不可解な出来事が起こり、クリスの両親や友人のアリシア、そして脳科学者のレイノルズ教授らが「クリスに何か大きな問題があるのでは」と心配し始めます。クリス自身も、EVAの正体や目的を完全には把握できないまま、いつ暴走してしまうかという不安を抱えるようになります。

やがて研究所で検査した結果、クリスの脳内に“もう一つの意識”が存在する可能性が高いことが判明。レイノルズ教授は興味を示しつつも、クリスの安全を守るために、外部に公表するか否か、EVAを排除するか共存の道を探るか、究極の選択を迫ります。クリスはEVAが悪意を持っていないことを感じ取っており、一方で完全に制御できるわけでもないというジレンマに苦しみます。

最終的に、クリスはEVAを“危険な存在”として排除するのではなく、周囲の監視とサポートを受けながら共に生きる道を選択します。EVAもクリスの恐怖(火事のトラウマ)を理解し、助けたいという意志を示すようになります。物語のラストでは、クリスはまだEVAとの共存に対する不安を残しつつも、火事の恐怖を以前より克服し、人間として少し成長した姿が描かれます。未知の存在との接触という非日常の中で、周囲とのつながりや、自分の弱さを乗り越える強さが少しずつ芽生えていくのです。



第1章

波間に潜むささやき

冷たい霧が立ちこめる海辺の小さな町――そこがクリストファー・オールデンの暮らす場所だった。木製の漁船が港でゆらゆらと揺れ、マストがかすかなきしみを上げている。まだ朝早いというのに、クリスはすでに起きて自宅2階の寝室の窓辺に立ち、空と海の境界が淡く混ざり合う水平線を見つめていた。胸の奥に巣食う落ち着かない感覚を、どうにか振り払おうとしているようだった。

幼い頃から、火事の悪夢が彼を悩ませてきた――かつて自宅を焼き尽くしかけた炎の記憶。だが、ここ1週間ほど、その悪夢には変化があった。燃え盛る炎の唸りに混じって、聞き慣れない“声”が話しかけてくるようになったのだ。

「……君は誰……?」

ある夜、クリスは悲鳴をあげて飛び起きた。汗が肌をびっしょり濡らし、心臓が胸を激しく打ちつける。部屋のどこかに、その声の持ち主がいるんじゃないかと周囲を見回してみても、薄暗い寝室には誰もいなかった。声は彼が完全に意識を取り戻すと同時に消え去り、その問いだけが心に焼き付いていた。

ドア越しから、かすかにノックする音が聞こえた。
「クリス?」母親のレベッカ・オールデンが廊下から声をかける。「朝ごはんができてるわよ」

クリスは小さく息を吐き、肩の力を抜こうとした。「……今行く」
そう呟いて、パーカーを羽織り、階下へ向かった。

キッチンへ足を踏み入れると、ベーコンの香りが漂い、父親のデイヴィッド・オールデンが小さなテーブルで新聞を読んでいた。温かく家庭的な光景にもかかわらず、クリスの胸にへばりつく不穏な気配は消えてくれなかった。

椅子に腰を下ろすと、レベッカがちらりと心配そうな目を向ける。「おはよう。調子はどう? ちょっと疲れてるみたいだけど……」

「平気だよ」クリスは即答したが、自分でもぎこちない答えだと思う。デイヴィッドも新聞を畳みながら、言葉少なげに息子の様子を伺っている。仕事の都合で忙しい彼には、なかなか踏み込んだ会話をする機会もない。

レベッカはパンケーキを皿に盛って、クリスの前に置いた。彼はそれをいじりながら、ほとんど食欲がわかなかった。
「また悪夢を見たの?」彼女がそっと尋ねる。
クリスは少し黙った後、曖昧に答える。「……まぁ、ちょっとね」

デイヴィッドが低い声で言った。「頻繁に続くようなら、レイノルズ教授のところへ行ってみたらどうだ? 話を聞いてもらえれば――」

「大丈夫だってば」クリスは遮るように言い、声が少し強くなった。「本当に平気だから」

気まずい空気が一瞬流れる。クリスは皿を少しつついただけで立ち上がり、カバンを背負う。
「学校、遅れそうだし……じゃ、行ってくる」そう言って、無理やり笑顔を作った。

外へ出ると、潮の香りが冷たい風と共に押し寄せ、彼の髪を揺らす。空は重苦しい灰色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。人口わずか二千ほどのこの町、ウェストポートはこぢんまりとしつつも漁港があり、昔ながらの家並みが続いている。クリスはフードをかぶって細い道を歩き、中学校へと急いだ。周囲の生徒たちはスマホをいじったり宿題の話をしたりしているが、クリスは上の空だった。

頭の片隅で、またあの“声”が微かに囁いてくるのを感じたからだ。

「……ほかの子たちとは違うね……」

クリスは歯を食いしばり、まっすぐ前を向く。「やめろよ……頼むから」と小さく呟いた。

すると声は、言葉を濁すように遠のいた。恐怖と奇妙な興味がないまぜになった感情が、彼の胸をざわつかせる。この声の正体は何なのか。なぜ自分についてくるのか。それを知りたい気持ちもありながら、心底怖かった。


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12月24日 21:30 〜 2025年1月23日 21:30

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