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不滅の言葉の魔術師 - シェイクスピアの生涯と芸術への影響

こんにちは。芸能事務所トゥインクル・コーポレーション所属、パントマイムアーティストの織辺真智子です。

これまでの記事で中世後期からルネサンス期の舞台芸術史をご紹介してきましたが、今回は16世紀に生まれた比類なき天才、ウィリアム・シェイクスピアについて詳しくお話しします。イングランドの小さな町で生まれたこの少年が、後に世界文学の巨人となり、数世紀にわたって人々の心を魅了し続けることになるとは、誰が想像したでしょうか。シェイクスピアの生涯と、彼がパントマイムやバレエに与えた影響について、私なりに調べた範囲でご紹介いたします。


みんな大好きシェイクスピア

天才の誕生と若き日々

1564年、イングランドのストラトフォード・アポン・エイヴォンという小さな町で、ウィリアム・シェイクスピアは誕生しました。4月26日に洗礼を受けたことは分かっていますが、正確な誕生日は不明です。7歳頃からキングズ・ニュー・スクールに通い、ラテン語を中心とした古典教育を受けました。この教育が後の彼の作品の深みと豊かさの源となったのです。

18歳のシェイクスピアは、自分よりも8歳年上のアン・ハサウェイと結婚します。この早すぎる結婚は、若きウィリアムに重圧をもたらしたかもしれません。しかし、この経験が後の作品における複雑な人間関係の描写に活かされたことは想像に難くありません。

ロンドンでの飛躍

1592年までに、シェイクスピアはロンドンの演劇界で頭角を現していました。彼は「ロード・チェンバレンズ・メン」という劇団の創立メンバーとなり、後にジェームズ1世の庇護を受けて「キングズ・メン」へと発展していきます。この時期、彼の才能は急速に開花し、次々と名作を生み出していきました。

言葉の魔術師

シェイクスピアの創作活動は、1590年代から1610年代にかけての約20年間で最も輝かしい時期を迎えました。この期間に彼は、驚異的な速さと質で作品を生み出し続けました。37の戯曲、154のソネット、そして2つの叙事詩。これらの作品は、今日でも世界中で上演され、読まれ、研究され続けています。

シェイクスピアの魅力のうちの一つは、その比類なき言語能力にあります。
彼は英語に1,700以上の新しい単語を導入したとされています。例えば、「assassination」(暗殺)、「lonely」(孤独な)、「excitement」(興奮)などの単語は、シェイクスピアが初めて使用したか、あるいは広めたものと言われています。

また、彼の作品には、今でも広く引用される名言が数多く含まれています。皆様もご存知ですよね。「To be, or not to be」(ハムレット)、「All the world's a stage」(お気に召すまま)、「The course of true love never did run smooth」(夏の夜の夢)など、彼の言葉は人生の真理を鋭く突いています。

シェイクスピアは、比喩や修辞法を駆使して、複雑な感情や状況を鮮やかに描き出しました。例えば、「ロミオとジュリエット」での「What light through yonder window breaks? It is the east, and Juliet is the sun.」(あの窓から差し込む光は何だ? ああ、東の空だ。ジュリエットは太陽なのだ)という台詞は、恋する若者の心情を美しく表現しています。

悲劇、喜劇、歴史劇の傑作

シェイクスピアの悲劇は、人間の深い苦悩と葛藤を描き出し、観客の心を揺さぶります。「ハムレット」では、父の復讐と自身の存在意義に悩む王子の姿を通じて、人間の内面の複雑さを描き出しました。「オセロー」では、嫉妬に狂う将軍の姿を通じて人間の暗い情念を浮き彫りにし、「リア王」では老いと狂気、親子の関係性を鋭く描写しました。

喜劇作品では、「十二夜」で双子の兄妹の取り違えを軸に、恋愛と友情の複雑な関係を描き出しました。「じゃじゃ馬ならし」では、強気な女性と彼女を「飼いならそう」とする男性の攻防を通じて、当時の結婚観や男女関係を風刺的に描いています。

歴史劇では、「ヘンリー4世」で放蕩息子から理想の君主へと成長する王子の姿を描き、「リチャード3世」では、野心に駆られた暴君の台頭と没落を通じて権力の危うさを描き出しました。

バレエに息づくシェイクスピア

シェイクスピアの作品は、バレエの世界にも大きな影響を与えました。17世紀初頭から、シェイクスピアの戯曲はバレエ作品として上演されるようになりました。「ロミオとジュリエット」は最も有名なシェイクスピア・バレエであり、「白鳥の湖」や「ジゼル」と並ぶ人気を誇っています。「真夏の夜の夢」「冬物語」なども、多くの振付家によって再解釈され、舞台に掛けられています。

バレエにおけるシェイクスピア作品の特徴は、言葉を使わずに物語を伝える点です。ダンサーたちは、繊細な表情や動きを通じて、シェイクスピアの描く人間ドラマを表現します。

パントマイムとの奇妙な関係

シェイクスピアとパントマイムの関係は、一見すると対照的なものです。シェイクスピアが「真面目な」演劇の頂点とされる一方、パントマイムはより軽快で大衆的な娯楽として発展しました。

しかし、実際にはシェイクスピアの影響はパントマイムにも見られます。物語の構成、登場人物のタイプ、言葉遊びやユーモアの使い方など、シェイクスピアの喜劇とパントマイムには共通点が多くあります。

シェイクスピアの幻想的な場面や変身のモチーフは、マイムやパントマイムの視覚的な演出にもインスピレーションを与えました。また、シェイクスピアの複雑な言葉や感情表現を、言葉を使わずに表現しようとする試みが、マイムの技術向上につながったという説もあります。

時代を超えて輝き続ける星

シェイクスピアの天才は、時代や文化の壁を越えて、今なお私たちの心に深く響きます。彼の作品が描く人間の喜び、悲しみ、葛藤は、400年の時を経てもなお新鮮で、私たちの心に強く訴えかけてきます。

シェイクスピアは、まさに「すべての時代の、すべての場所の」詩人なのです。彼の言葉は、これからも世界中の人々の心を魅了し、インスピレーションを与え続けることでしょう。私たちには、この比類なき天才が遺した豊かな文学遺産を楽しみ、味わい、そして新たな世代にも紹介していくという素晴らしい機会が与えられています。シェイクスピアの作品を通じて、私たちは人間の本質や感情の機微を学び、そして芸術の力を再認識することができるのです。

(追伸:実は私、NHK BSでシェイクスピアの役を演じたことがあるんです。生まれて初めてつけひげをつけました☺️ シェイクスピアの魅力を肌で感じた貴重な経験でした。これからも、パントマイムアーティストとして、シェイクスピアの作品から学び、自分の芸術に活かしていきたいです。)

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