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日常を取り戻せ
検査結果を見る時、私はテストの答案を返される時のような感覚を思い出す。
その日の私はちょっと不安だった。
これまでに比べて少しだけ不摂生な生活を送り、いやそれが日常だったから、少しでも日常生活を取り戻す準備を始めていたから、それが結果としてどう表れてくるのか気になっていた。
焦ってはいけないのはわかってる。でも早くプレドニンを減薬したくって、ステロイド卒業したくって、普通の生活取り戻したくって、というか、この薬を飲みながら、どこまで普通の生活ができるのかがわからなくって、今のこの異常な引きこもり生活をどうにかしたくって、どうにかしないと身体は治っても心が崩壊してしまいそうだったから、それを知りたかった。
2020年10月17日。
その日は甲状腺疾患の伊藤病院への通院日だった。
真冬のような寒さが訪れると予報されていた日。GO TOキャンペーンやらも開始され人も多そうだし風邪ひきそうだし不安がないと言えば嘘だっただろう。でもインフルエンザが流行る前にほんの少しの日常を取り戻したくて、気分転換も兼ねて向かった表参道。
プレドニンの減薬を見る消化器肝臓内科への受診は9日後。その前の途中経過として、甲状腺検査ついでに数値をみておきたかった。もしここで結果が悪かったら、残りの9日間で巻き返し策を練るつもりだった。一夜漬けの学生のように。
診察室から名前が呼ばれると、私は大きく呼吸をして部屋へ入った。
机の上には検査結果の紙が置かれている。
「問題ないですね。」
先生の一言が、緊張していた私の心を優しく包み込む。
そして確認する。
AST: 15
ALT: 15
γ-GTP: 18
TSH: 2.4
FT3: 2.3
FT4: 1.14
超順調!
肝臓数値、甲状腺通知ともに完璧だった。
心が小躍りするのが見えた。
「ヨウ化カリウム、まだちゃんと効いてますね。」
先生に言ってみた。副作用は少ないが、飲み続けることで次第に効果が弱くなってくると言われていた薬。効果が弱まったら、根本治療ができるかわりに副作用もあり、隔週通院が必要となるメディカゾールへの切り替えが必要になると予告されていただけに、ヨウ化カリウムが効いてくれていることはとてもうれしかった。
「肝臓も甲状腺も自己免疫疾患なので、ステロイドがこちらにも効いているのかもしれませんね。ヨウ化カリウムを減薬してみましょうか。」
ここでまさかのヨウ化カリウムの減薬がきた。
毎朝2錠づつの服用から、毎朝の服用を1日ごとに2錠、1錠にすることになった。これまでにないような減薬方式。間違いそうだから間違わないようにせねば。そう心に誓いながら、うれしさのあまりすごく笑顔で診察室を出る自分に気が付いた。
出来が悪くて不安だったテストで、まさかの満点を取った時の感覚。
ひさしぶりに日常が返ってきた気がしてうれしかったんだ。
ラリルレリラリルレリラリルレリリ。