「恐るべき緑」は役にたつ
すげー、小説だった。
読んでいて小説だということを忘れてしまう。この本が一人の作家の想像力で出来ていることが衝撃だ。
科学史に名を残す、偉人たちが変わるがわる主人公になる短編集だ。
一番好きなのは、フリッツ・ハーバーの物語。
化学兵器の父。毒ガス開発の父だ。いうまでもないが実在した人物だ。時代や場面がコロコロ移り変わる浮遊感に支配される短編だ。
とても詩的で、どの文章も死の香りが漂ってくる。
ナチス兵の最後、シアン化物服薬自殺からホロコーストのガス室。美術品の塗料として人々を魅了したプルシアンブルーと青酸カリをめぐる逸話が絵巻のように展開されていく、最後の1ページで本のタイトル、「恐るべき緑」が科学への畏怖と自然への畏怖の念と明かされる。
何が史実で、何がフィクションなのか路頭に迷うことになる。
表紙を見ていて、ずっと頭を巡らせていた食べ物がある、抹茶のロールケーキだ。
となり駅の催事で販売されていた、そのロールケーキを形容すると、恐るべき緑、表紙の緑がしっくりくる。
それくらい緑だった。
抹茶のロールケーキを食べるのに最適なのは緑茶だし、あとわたしは緑のスニーカーしか履かないと心に決めている。緑の虜なのだ。