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メタバース 徹底して解るまで まとめ


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メタバース 徹底して分かるまで その1

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okudenaohito

2022年8月4日 13:48


イントロダクション メタバースとはなにか

メタバースとはなにか?をわかりやすく正確に説明してみたい。
Matthew Ball のThe Metaverseが非常に上手に丁寧に説明しているので、その流れをパラフレーズしていく。この本は三部にわかれていて
第一部:メタバースとはなにか
第二部:メタバースを作ろう
第三部:メタバースはすべてをどのようにかえていくのか
の順番に説明をしている。

本書の特徴は歴史的文化的に説明をしながら、技術やプロダクトおよびサービスの説明をかなり正確に行っていることにある。

メタバースは1930年代、ヴァヌバー・ブッシュが”Memex"を思いついたときから始まるという。この話は多くのコンピューターユーザーならしっているだろう。1945年の『アトランティック』誌で発表された。だがこの記憶拡大装置memory extender の略語でよばれた高速で何でも自由に検索できる機械は単なる空想では無く、階層構造でデータを整理しない想像上の電子デバイスであり、これを思いついたときにブッシュはthe Carnegie Institution of Washingtonの所長だったという。彼はその後、後のNASAになる組織の副所長を1939年から41年まで担当して、ついて、フランクリン・ルーズベルト大統領を説得して、Office of Scientific Research and Development(OSRD)を設立して、第二次世界大戦を戦うための技術開発を無制限の予算でおこなうことになった。

OSDR設立の四ヶ月後ルーズベルト大統領はブッシュと副大統領のウォレスとのミーティングを行い原子爆弾の開発、マンハッタンプロジェクト、を始めることになる。このプロジェクトを実質上マネージしていたのがブッシュである。戦後、彼が手がけたプロジェクトが明らかになっていく。1960年代アメリカは国防総省(Department of Defense)の予算でいくつもの軍事プロジェクトを実行して行く。その一方でブッシュのMemexの考え方はHTMLの考え方を生み出し、無限にネットワーク上にあるコンテンツをテキストをクリックすることでアクセスできる仕組みへと進化していく。アメリカ政府はthe Internet Task Forceを発足させ、そこを始まりとしてthe Internet Protocol Suiteが開発される。その後、the Department of Defense はWorld Wide Webの開発の資金援助を行い、現在のHTMLが登場することになる。 こうした技術の展開は我々普通の人の目に触れることはないが、SFの世界は次の世界がどのようになるかのわかりやすいビジョンを与えてくれる。1968年、アメリカの家庭には10%あまりのカラーテレビしか普及していなかった。だが、映画『2001年 宇宙の旅 A Space Odyssey』ではiPadのようなデバイスで朝食中にコミュニケーションしているシーンが描かれている。この装置がiPadとして我々の生活に登場するのは45年以上あとになる。 2021年、Facebookの創業者Mark Zuckerbergはソーシャルメディアの会社からメタバースの会社になると宣言した。この流れにはFacebook以外の会社も参加した。マスコミはメタバースに関するニュースを多く報道した。この動きは西欧諸国だけではなかった。中国のTencentがメタバースに参加した。他にも多くの会社が韓国で活動を始めた。中国政府はこうしたゲーム産業の動きにブレーキをかけるべく規制をしたが止まらなかった。メタバースの動きは次世代のコンピュータを生み出すと思われ始めた。有線でインターネットに繋がるPCの時代から、モバイル携帯とクラウドコンピューティグの時代へと変化した動きが、さらにもう一度大きく変化していくと議論され始めた。このような変化は「破壊的変化」と呼ばれる。だが、破壊的変化は始まった当初は人々は気がつかない。そして変化が終わったときには社会が変わっている。 一体何がおこっているのか、これからどうなっていくのか、を明確に Matthew Ball はThe Metaverse and How It Will Revolutionize Everythingで説明する。本ノートではそのエッセンスをできるだけわかりやすく紹介したいと思う。


追記 2022/08/18
Ballの語る「歴史」として紹介していますが、Ballの説明だけをだして、その問題に関して、僕の立場の明確な言及がなくて、「これって、正しいの?」みたいな指摘があります。たしかに、僕も30年くらいここに付き合い、HTMLの初期にいろいろ活動をしていた経験と当時WWWについて言われていたことと違うなという感じはありましたが、そういう「歴史」も確かにあるなとおもい紹介しています。このあたりここでもっと書いておくべきだったと思い、追記で「定説」を加筆しておきます。

具体的には、Hypertextの成り立ちからHTMLまでの歴史の部分で、「CERNではなく米国国防総省によってWWWができたような記述はおかしい」といった指摘です。たしかに、World Wide WebはCERNに所属していたティム・バーナーズ・リーが開発したものです。これがMosaicによって使いやすい仕組みが加えられて一気に普及しました。このとき、国防総省(DoD)の資金援助があったかは英語のWikipediaではW3Cに対してDoDの機関であるDARPAが協力をしたとあります。つまりBallの説です。僕はBallの本を読むまでCERNの説で考えていました。ですが、ブッシュが1930年代からアメリカの軍事戦略に深く関わってきたというBallの本の流れとメディアラボが軍需からの研究資金がなくなって、バブル期の日本に営業をかけたという話を実際に現場で見聞きしていて、Ballの書く「歴史」もあるかなと紹介しています。二つの解釈ができるという点を本文でコメントとしてしっかり書いておくべきでしたね。ここに追記しておきます。

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メタバース 徹底して分かるまで その2:

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okudenaohito

2022年8月4日 16:25

さて、Ballの本だが三部にわかれていて、順番に行きたい。第一部はメタバースとは何か? Whatis the Metaverse? である。4章にわかれていて
第1章: 未来の短い歴史(A Brief History of the Future
第2章: 混乱と未決定なこと (Confusion and Uncertainty)
第3章: 定義の試み(ようやく)(A Definition Finally)
第4章: 次のインターネット(The Next Internet)
である。それでは第1章未来の短い歴史からパラフレーズしていきたい。

メタバースの想像力は1992年にニール・スティーブンソンが発表した『スノークラッシュ』だと言われる。僕の手元にあるのは1993年にでたペーパーバック版である。


シリコンバレーを訪問したときに、案内をしてくれたアメリカのスタートアップのエンジニアがこれは面白いと紹介してくれた。当時シリコングラフィックスの大型のグラフィックコンピュータを使って自分の研究室で独自に実験をしようと考えていた頃である。当時のグラフィックスコンピュータの能力と価格を考えると、このような世界が来るのはいつか、という気がした。その後何年かたって、さらに高性能のグラフィックコンピュータが登場して、ヴァーチャル・リアリティの実験がいろいろと行えるようになった。僕の研究室でもいろいろとVR作品をつくっていた。というわけで、技術的な可能性はわかるが、まさにSFだなあと思ったことを覚えている。SFCが開設して3年。自在にインターネットを使うことが出来るキャンパス生活が安定してきたころだ。ちなみのこの頃の全世界のインターネットユーザーは約1,500万人だ。

『スノウクラッシュ』では、地球の2.5倍の大きさの仮想地球の上を動き回って労働から娯楽までの経験がSFとして描かれる。いくつもの場所(burbclave)があり、そこは都市国家として、独自の憲法、国境、法律、警察などがあり運営されている。このSFはディストピアであって、ここで描かれるメタバースはリアルの世界の状況を悪化させる。

スティーブンソンの想像力はその後20年かけて少しずつ実現していく。この小説に影響をうけたAmazon創業者Jeff Bezosは2000年に宇宙旅行に挑戦するBlue Origin社を創業してスティーブンソンをシニア・アドバイザーとして招聘した。Google Earthの開発で知られるKeyhole社もまたスティーブンソンをアドバイザーとして招聘しようとした。彼らの製品も『スノークラッシュ』にインスピレーションをえていたからだ。2014年から2020年、スティーブンソンはMagic Leap社のChiefe Futuristとして働いていた。この会社はMixed Realityの会社で知られているが、スティーブンソンの小説にインスパイヤーされたという。

『スノークラッシュ』のテック業界での評判にもかかわらずスティーブンソン自身は彼の小説のイメージをそのまま実現することには批判的だという。雑誌のインタビューにこたえて「『スノークラッシュ』はインターネット以前、ワールドワイドウェブ以前の技術ででっち上げたものにすぎない」と言う。またメタバースの概念も、彼が最初に作ったわけではない。

1935年に空想科学小説家のStanley G. Weinbaum は
短編小説『ピグマリオンの眼鏡(Pygmalion's Spectacles)』の中で、仮想現実に関する包括的かつ具体的なフィクション・モデルを提示した。この物語の中で、主人公のダン・バークは、「視覚と聴覚を与える映画、味覚、嗅覚、触覚」を可能にするゴーグルを発明した妖精の教授、アルベルト・ルートヴィヒに出会う。この小説は最初のヴァーチャルリアリティ小説と呼ばれている。


またレイ・ブラッドベリーは1950年に短編小説The Veldtを出版している。これはディストピア小説である。

この物語では、人々は入浴、食事、寝かしつけなど、すべてをやってくれる家を手に入れた。これが、主人公のハドレー夫妻を破滅に導く。すべての機械が、子から親への愛のエッセンスを排除してしまったのだ。ピーターとウェンディという子どもは、お父さんとお母さんをアフリカのサバンナに閉じ込めることに何のためらいも感じなかった。彼らの愛は親ではなく、家と機械に対するものだった。親がすべきことをすべてやってくれる家だから、子供たちは家に対して愛を育んだ。親はその家の持ち主に過ぎないのだ。

2つ目の問題は、機械では無くハドレー夫妻の責任であった。現代の多くの親と同じように、子供を甘やかしている。テクノロジーが私たちに代わってすべてを行うことになった場合、子供は親を愛する能力を持たなくなる。

1953年のフィリップ K・ディックの小説「The Trouble with Bubbles」のあらすじは次である。

人類が他の生命体とのつながりを求めてワールドクラフトと呼ばれるプラスチックの泡を買うことができる。そのキャッチフレーズは「自分の世界を持とう!」。ワールドクラフトの所有者は、宇宙全体を創造することができ、その発展に必要なすべての変数をコントロールすることができる。その宇宙には、人間と同じような生命体が存在する。主人公のネイサン・ハルは、誰が最も優れたワールドクラフトの世界を作ったかを審査するコンテストに参加する。その後、優勝を発表された出場者が自分のバブルを粉砕し、破壊してしまう。ハルは、所有者が泡の中の生活を支配していることに不道徳さを感じ、これ以上ワールドクラフトを作らないように法律を制定するよう働きかける。物語の最後、ハルはアジアに向かうために新しく作られたトンネルを走ろうとしていたが、予期せぬ地震によってトンネルが破壊され、彼の世界もまたワールドクラフトであることが暗示される。

数年後、アイザック・アシモフが The Naked Sun(1957)を発表する。人間と人間のface to faceのインタラクション、見ることと直接接触すること、が嫌悪される社会を描いている。

物語は、ある男がソラリア社会で殺害され、その死を調査するために、地球政府の依頼で主人公イライジャ・ベイリーが呼ばれ、彼は人型ロボットR・デインエル・オリバウとコンビを組み、問題解決に向かう。

この小説では、アシモフはソラリア社会の特異な伝統、習慣、文化を説明する。この惑星は2万人の人口を厳格に管理し、すべての仕事はロボットが行い、その数は人間より1万倍も多い。という設定で小説は展開していく。

1984年、ウィリアム・ギブソンは「ニューロマンサー」を発表して、サイバースペースという言葉が有名になる。

サイバースペースを示す言葉はマトリックス The Matrixとも呼ばれ、1999年に Lanna Wachowskiと Lindy Wachowskiの制作する映画のタイトルとなった。映画のストーリーは紹介しないが、注目するところは「マトリックス」の中で人間と機械が戦い、生き残った人間たちが地下都市ザイオンに避難する。主人公ネオ達はマトリックスに侵入し、奴隷となった人間のプラグを抜いて開放する、と言う設定だ。


さて、すこし細かくSFにおけるメタバースについて説明したが、要するに小説に描かれたメタバースは暗くて未来がない感じがする。ところが文字では無くプログラムで構築されたメタバースの雰囲気やイメージは、文字の世界の暗さに比べて、明るい楽観的な感じがするのである。Ball は次のようなサブタイトルをつけて話を続ける。

The Program Is More Optimistic than the Pen

これを訳すと、プログラムされたメタバースはペンで(文字で)書かれたメタバースより楽観的だ、ということである。どういう意味だろうか? 次回に詳細に見てみよう。

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メタバース 徹底して分かるまで その3

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okudenaohito

2022年8月5日 12:35

The Program Is More Optimistic than the Pen

ブッシュによる想像上の機械Memexが雑誌『アトランティック』に掲載されたのは1945年である。

いかにこの機械(メタバースに向かっていく装置)を作るかの挑戦がその後数十年にわたって続くのである。最初の挑戦がなされていたのは1950年代で、メインフレームコンピュータが中心であった。コンピュータどうしを有線でネットワークに繋ぎ、データを共有する。1970年代になるとテキストベースの仮想世界が登場する。MUD(Muliti-User Dungeons)と呼ばれ、ロールプレイゲームのDungeons & Dragonsをコンピュータソフトウェアで行うことができた。下記の写真はDungeons & Dragonsである。

下記の写真はテキストベースのターミナルでDungeons & Dragonが遊べるソフトウェア。これをMUDといい、コンピュータゲームの出発点である。

コンピュータゲームの次の大きな一歩は1986年にComodore64上で遊ぶHaitatというものだった。これはMulti-User Experiences (MUSH)というジャンルの先駆けであり、ユーザーにゲーム環境を自分でデザインしてゲームプレイにおける経験を変えることができるようにしたものである。

「ハビタット」という名前を聞いたことがない人もいるかもしれない。1986年に発売されたこのビデオゲームは、制作したスタジオ(ルーカスフィルムゲームズ、後のルーカスアーツ)がいくつかの名作を生み出すことになったものの、大きな話題となることはなかった。多人数参加型オンラインゲームが流行する何年も前に、このゲームによってコモドール64のユーザーは、時間単位で課金されるダイアルイン・オンライン・サービスを通じて互いに交流することができたのである。

Hatitatが登場した1980年代登場人物とゲーム環境の両方にプレイヤーが参画できるゲームの時代であった。ゲーム環境は二次元空間であったが、Pac- ManやSuper Mario Brothersが登場したのもこの時代だ。

懐かしいね。これもまたメタバースのご先祖だ。

そして、Habitatが登場する。これはアバターという概念を導入した最初のゲームである。サンスクリットで、神の先祖みたいな意味で、ユーザーの仮想身体を意味した。『スノー・クラッシュ』でこの言葉が使われるようになる。

1990年代は文化的にはメタバースの概念を拡大するようなゲームやデジタルサービスはなかった。人工知能などの仕組みはかなりこの時代に発達した。Habitatは日本でも富士通が積極的に展開していた。下記は富士通Haitatである。

今回調べていたら、まだ説明のサイトが残っていた。
https://pr.fujitsu.com/jp/news/1997/Sep/habitat/habitat2_concept.html

サイトから引用すると

●現実では不可能なことを実現した、もう一つの世界『富士通Habitat』

●パソコン通信が文字主体だった1990年にはじまった初めてのビジュアル通信 『富士通Habitat』。単に絵がついたパソコン通信としてではなく、話して いる相手に近づく/遠ざかる、相手の方を向く/そっぽを向くというボディ ランゲージが、コミュニケーションをいかに豊かにするかを世に問うものと なりました。

●クリエイティビ ティ溢れるアバター(ユーザー)にも恵まれ、機能を充分に使いこなしたゲー ムやイベントの数々が創作され、Habitat国は発展してまいりました。

●『富士通Habitat』で最も要望が多かったのが、アバターの表情を変えたい ということでした。この念願を果たすために『HabitatII』の開発を進めた といっても過言ではないでしょう。コミュニケーションに重大な位置を占め る表情を、『HabitatII』では4種類用意しました。ノーマル/笑う/泣く /怒る、この4つの表情がコミュニケーションの地平をさらに広げました。 ストレートな感情を示すのはもちろん、嬉しそうな口調で顔が泣いていたり など、さまざまなニュアンスの表現が可能になったのです。

●一見してわかる自 分だけのアバターを作るために『HabitatII』では、体型などさまざまな部 分で個性化できるようにしています。まず、男女の2種類だった体型を、男 女それぞれに痩せたスレンダータイプ、ガッチリした男性、グラマラスな女 性など8種類に増やしました。加えて、洋服の色だけでなく肌の色まで変え ることができるスプレー、アクセサリーなども充実。そして、将来的には、 ヘアカラーやカラーコンタクトなど、髪や瞳の色を変えることもできるよう に設計しています。

●日進月歩のパソコンの世界を反映して、ビジュアルが緻密に美しくなってお り、ダンスなどの動作が追加され、Habitat国の生活を豊かにする小物が増 えるなど、変わったところは他にもありますが、もう1人の自分として、違 う人生を楽しむパイパーコミュニケーションネットワークのコンセプトはそ のままです。さらにサービス開始以降も随時空間の拡張や機能やグラフィッ クの充実をはかっていく計画です。

●『HabitatII』は、現実にはとても不可能なことをやすやすと実現する仮想 空間としての面白さを生かしたまま、よりリアリティのあるワンダーランド をご実感いただける新しい世界なのです。

とある。

富士通研究所のメンバーはカーネギーメロン大学の人工知能の研究グループと共同研究を繰り返していた。実は僕は1995年くらいからだと思うが富士通研究所からたのまれてHABITAT改善のアドバイスをしばらくしたことがある。といっても、デモをみてプロジェクトの関わる人間との意見交換とサジェスチョンみたいなことであったが、かなり詳しいところまで議論した。当時富士通はFMTOWNSOSというマイクロソフトのOSをパワーアップしたOSをもっている非常にすぐれたパソコンをプラットフォームとして、そこでビジネスを考えていたのだが、インテルの「インテル入ってる」戦略に押されてFMTOWNSはどうにもならなくなっていった。

1990年代はメタバースのゲームとしての展開はあまりなかったが、ハードウェアの進歩にあわせていろいろなゲームが登場した。ユーザーが協力して環境を構築するゲームとして1994年にWeb world, 1995年にActiveworldsが登場した。ここで環境をつくるためのグラフィックエンジンと記号操作の処理エンジンの融合が試みられて、画面は1980年代とは大きく変わっていく。

Wikipediaによると、1995年にActiveworldsがActiveWorlds, Inc.によってサービス開始して、1997年ベンチャー投資を使い果たした後、会社のほぼ全スタッフが解雇される。その後別の資本を探して、Activeworldsは拡張を続ける。27年たった現在(2022年)もまだ活動をしている。www.activeworlds.comが彼らのアドレスだ。

ユーザーは自分の名前を付けて Active Worlds の世界にログインし、他の人が作った 3D 仮想世界や環境を探検する。ユーザーが世界やユニバースを所有し、カスタム3Dコンテンツを開発することができる。ブラウザは、ウェブブラウジング、ボイスチャット、基本的なインスタントメッセージの機能を備えている、と説明されている。現在の活動の様子がYoutubeで報告されている。以下はスクリーンショット。
https://www.youtube.com/watch?v=md1fFTymGYI



このころ、3Dグラフィックスの技術的進歩があり、なかでも注目するべきはGoogle Earth である。Google Earthのコア技術は、1990年代後半にIntrinsic Graphics社で開発された。当時、同社は3Dゲームソフトウェアライブラリを開発していた。3Dソフトのデモとして、映画「パワーズ・オブ・テン」のようなズームインできる回転する地球儀を作成した。Intrinsic社から独立する形で1999年にJohn Hanke氏が率いるKeyhole社が設立された。彼らは大規模な地図データのデータベースを流す方法を開発し販売をしていた。Intrinsic Graphics社は、ゲームライブラリが売れなかったため経営難となり、中核のエンジニアはKeyholeに移行していった。

さて、ここからは個人的な話になるが、この頃、僕はNTT研究所のリサーチプロフェッサーをしていて、NTTが解体されたので、三年の年期のうち半年だけ中央研究所の仕事で、あとは自分で研究テーマを決め手という話だった。このなかでいろいろな仕事をしたのだが、3Dコンピュータのシリコングラフィックス社の大型のコンピュータを4台購入してインタラクティブVRを作るという仕事を主にしていた。そこで定番のように見せられるのが「パワーズ・オブ・テン」のリアルタイムシミュレーションだった。

モダニズム家具で有名なイームズが作った映像で、Youtubeで見ることが出来る。


これは1977年に作られた教育映画で家具デザインで有名なチャールズ・イームズとその妻、レイによって脚本が書かれ監督された。タイトルのPowersとは「力」の意味ではなく「冪乗」という意味であり、「10の力」ではなく「10の冪(10n)」という意味である。内容は映像をみてもらいたい。

何度もこのリアルタイム3Dシミュレーションのデモをみていて、新規性もかんじなくなっていた。その後、研究所のメンバーは、研究所の解散とともに、NTTDocomoとNTTDataに散っていった。僕は、3年の任期なので、残ってNTT研究所では光ファイバーのなかでダークファイバーと言われている未使用の回線の利用の開発をしていたが、それがおわって、リサーチプロフェッサーの任期も終えたころ、NTTDataから共同研究が提案された。当時gooというサービスがあった。またこのころ多くのDISデータが公開され始めていた。地理学者がこのデータの活用をいろいろ考えていた。

そこで、「デジタルシルクロード」というコンセプトを提案した。シルクロードをヴァーチャルにつくり、車で駆け抜ける、というアイデアである。技術的には結構おもしろかった。また画像映像データと言うことでNHKのかつて番組を担当していたディレクターと会ったが、映像は実は3Dシミュレーションに必要なデータは無いことが分かった。映像が全部必要なリアルタイムシミュレーションと必要なところを撮影して、さらに編集する映像メディアの違いだ。いずれにしてもGISデータのパブリックドメイン化をもとにして、データベースの構造の設計と、三次元ブラウザーの検討をしているときに、参加しているある企業から思わぬ横やりがはいった。地理情報データを販売している会社であり、データを公開するというのはビジネスモデルに反するというのだ。
 
この頃web2と言う考えはまだ無かったが、googleの拡張できるデータベースをみていると、このデータを使わせた方が販売するよりもビジネスとしていいなと分かる。軍事から民間の目的に使うデータを販売するより、一般的な用途で使わせた方がいい。当時はプラットフォームという概念はなかったが、そのような方向に向かうプロジェクトになっており、地図の権利をもつ会社は反対する、ということである。

その後2007年、googleはストリートビューを発表した。これをつかうと、世界遺産や歴史的な建造物も探索できる。もちろんシルクロードを走るイメージを生成することも出来る。対象は地球の表面から空へ、海へ、地球をこえて、月へ火星へと展開していく。現在ではこの作業を可能にするファイルフォーマットはKeyhole Markup Language(KML)呼ばれる。この仕組みを考案したKeyhole社は2004年にgoogleに買収されていた。

ここまでが2003年にSecond Lifeが登場するまでの話である。登場するやいなや、多くの利用者を引きつけて、このプラットフォームでビジネスを仕様と多くの会社が集まり、投資をした。Harvardなどの大学も参加して、活況を呈した。また株式市場をつくり、独自の貨幣Linden Dollarsを発行した。


2005 年から 2006 年にかけて、Second Life は BusinessWeek 誌のカバーストーリーで仮想世界と Second Life のアバター Anshe Chung を取り上げるなど、メディアから大きな注目を集め始めた。その頃までに Anshe Chung は Second Life の申し子、そして仮想世界が住民にもたらす経済機会の象徴となっていた。同時に、Second Lifeはユーザー数の急激な増加を経験した。

セカンドライフの開発はLinden Research, Inc.によって行われた。創業は1999年で、創業者であり初代CEOはフィリップ・ローズデールである。「セカンドライフ」プラットフォームは、オンライン仮想世界であり、コンピュータユーザーが3Dオンライン環境でタスクベースのゲームや社交に参加できるソフトウェアベースのアプリケーションである。

その後、Second Life はユーザー主体の組織へと変化する。ゲーム性をきはっくにして、ユーザが創造する、コミュニティ駆動型の体験へ移行した。

2010年10月、Rosedale は CEO の職を退くことを発表した。そして現在にいたる。

さて、Second Lifeについてはもう少し詳しく検討したい。
(続く)

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メタバース 徹底して分かるまで その4:

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okudenaohito

2022年8月6日 16:42

Second Lifeは決して失敗したわけではない。
https://secondlife.com/  にアクセスすれば日本語で楽しむことが出来る。10年近く活動を続けてきた。下記がロゴである。


second lifeの世界の中に株式取引所もあれば独自の通貨Linden Dollarsも発行している。

ファウンダーPhilip Rosedaleも最近CEOに帰り咲いている。

最近のGlobal Finance誌(2022年5月13日) で記者のインタビューに答えているので、概要を紹介しておこう。
https://www.gfmag.com/topics/blogs/second-life-philip-rosedale-interview#:~:text=Philip%20Rosedale%20is%20a%20digital,currency%20traded%20around%20the%20globe.

メタバースの未来。Second Lifeの創設者フィリップ・ローズデールとのQ&A


フィリップ・ロセデール氏は、最初の仮想世界の一つであり、現在も大人のための主要なソーシャルプラットフォームであるセカンドライフの創始者である。メタバースへの大きな希望について、Global Financeに語った。

GF:メタバースとは何でしょうか?
ローズデール: 人々が「メタバース」と言うとき、2つの変化を組み合わせたインターネットのライブ・ソーシャルバージョンを思い浮かべる。1つ目は、2Dから3Dへの移行である。インターネット上で行っている多くのことが、3Dになるとより意味を持つようになります。2つ目は、リアルタイムでの他者とのインタラクションです。ここはこれから非常に大切である。

メタバースのユースケースもまだはっきりとしていない。7歳から14歳の子供たちはゲームは好きだが、メタバースにはあまり関心がないように思う。20歳の人たちがコミュニケーションをとるときは、アバターではなく、素顔や音声を使う。私は Second Lifeを始めた当初は、すべてのビジネスがメタバースに存在する必要がある、と言っていたかもしれないが、いまではそうはおもっていません。私たちはほぼ間違いなく、他の人たちと一緒にライブで存在する3D環境において、ある種のショッピングをすることになるだろうが、それがすべてにおいて必要だとはおもわない。

この20年間で、セカンドライフでは 人はお互いに親切にし、助け合い、一緒に学び、お互いをよく知るようになった。テクノロジーは悪いものだと思っている人が多いけれどそれは正しくないとおもう。人々がSecond Lifeつまり想世界に一緒にいることで、たくさんの良いことが起こっているのだ。

我々は 広告をビジネスのベースにしてはいない。ユーザーの行動を操作したり、監視したりするようなこともしていない。いまのソーシャルメディアは、監視とマーケティングによる行動ターゲティングによって成長してきたビジネスです。そのビジネスモデルがメタバースの世界にまで広がると、大きな被害を被ることになる。なぜなら、あなたの体の動きの情報から、あなたが神経質になっているとか、ある病気に苦しんでいるとかが情報として吸い上げられると今まで見たこともないような方法で操られてしまう。もはや広告がどこにあるのかわからなくなる。現実世界では、広告を小さな四角の中に入れて、消費者と広告主の間に公平な戦いがあるようにしています。しかし、ソーシャル・メディアでは、そのルールを破ったのです。私は、あなたに物を売ろうとする人間のふりをすることができますが、あなたはそれを知りません。ソーシャルメディアではすでにそうなっていて、それがどんな害をもたらしたかを考えてみるといい。

セカンドライフはこのような事を行っていない。それにもかかわらず、FacebookやInstagramが広告からユーザー1人あたり得るよりも高い収益を得ている。セカンドライフは、2種類の手数料で運営されている。一部の取引には手数料がかかる。例えば、仮想世界の誰かからメガネを買うとしたら、2ドルほどかかりますが、そこにはわずかな取引手数料がかかる。次に、Second Lifeに土地を所有する必要はありませんが、所有する場合は、毎月固定料金、つまり固定資産税が発生します。つまり、Second Lifeは比較的小規模であるが、非常に優れたビジネスであり、多くの利益を上げている。
。しかも、害を及ぼすことなく、それを実現できるのです。

Second Lifeの通貨であるリンデンドルはドルに対して取引される最初の通貨であり、セカンドライフは、仮想世界に通貨交換機能を提供するビジネス(ティリア)を丸ごと構築している。私たちは、特に米国において、合法的な送金を行うための規制ライセンスをすべて持っている数少ない企業のひとつなのだ。仮想世界では、アバターとして出身地を明かさないため、国境を越えた完璧なトランザクションが必要になる。どこの国の人であっても使えるお金の仕組みが必要なのだ。リンデンドルは暗号通貨ではない。リンデンラボは、従来の銀行や暗号通貨とはまったく異なる方法で、システム内のお金を管理している。

どんな新しい技術も、最初は欲に駆られ、ある種のバブルを引き起こす。もちろん、インターネットもそうだった。いま同じように、暗号通貨や仮想土地、芸術品やバーチャルなもののためのNFTなどがあるが、おそらくそれらの価値のほとんどすべてはバブルに過ぎないのだ。

おどろいたことにセカンドライフは確実に地道に活動と続けていた。またセカンドライフの成功をみて、MinecraftとRobloxが2010年代に始まり、子供達をユーザーとして、使いやすいサービスを提供して、大成功していく。次回はこの話をしたい。

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メタバース 徹底して分かるまで その5:

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okudenaohito

2022年8月8日 16:21

Roblox


さて、しぶとくのこって来ているセカンドライフは子供達を引きつけられないとCEOが述べていたが、セカンドライフの成功をみてMinecraftが、そしてRobloxが2006年に登場した。子供やティーンエイジャーが使いやすいインターフェイスを工夫して、さらに表現における自由度を向上させた。今回はRobloxを詳しくみてみる。

多くの人たちがマインクラフトをつかって「世界作り」に参加している。子供の世界とあなどるなかれ、なんとロサンゼルスに匹敵する広さが開発されており、中国のAztterという会社は五〇〇スクエアーマイルスの広さの土地をサイバースペースス上に開発したという。

2021年には1億5000万人の人が毎月マインクラフトを使っていたという。だが、Robloxはさらに上をいき、同じ頃には2億2500万人のユーザーが毎月遊んでいたという。Roblox上で開発されたAdopt Meは、かわいいペットを飼ったり、家をデコレーションしたり、友達と遊んだりする場所で、Robloxのウェブサイトとアプリで無料でプレイすることができる。

さて、このゲームだが2人のゲーマーによって2017年につくられ、2021年には300億回、訪問者が来たという。このように30人未満の少人数で作られたゲーム(遊園地?)がRoblox上にはいくつかあり、プラットフォームであるRoblox社から合計で10億ドル以上の支払いを受けたという。

robloxの歴史に関しては下記のrobloxの歴史のビデオでよく分かる。


RobloxのCEOは次のようなメッセージを出している。

Robloxのメタバースのビジョンは、没入型共同体験のプラットフォームを作ることだと述べる。ユーザーはここで学んだり、仕事をしたり、遊んだり、制作したり、社交をしたりする事が出来る。そのために、みんなが集まって 共有体験に基づいた豊かなコミュニティを育成することが出来る場所をつくったという。Rpbloxは「人が本物の人間関係をつくれる魅力的で礼節のあるコミュニティを築くにあたって、メタバースとその先の両方にあるコミュニケーションの未来を思い描いています。」と述べる。かなりいい感じだ。そして、「Robloxではメタバースはみんなのためのものだという信念」をもってプラットフォームを提供しているという。さらに「このビジョンを実現するために慎重に考慮した上で意識的にコミュニケーションの安全性を図っている」と述べている。

プラットフォームとしてのRobloxには三つの理念があるという。
第1の理念:コミュニケーション機能は、没入型3D体験の中では特に実社会で私たちがコミュニケーションを取る方法に根差していなければならない。第2の理念:メタバースで私たちがコミュニケーションする方法は、物理的な現実の制限を受けない。Roblox上のプラットフォームの中にいるとき、公園で誰かに話しかけるのと同じようにプラットフォームの他の場所にいる友達とも会話することができる。
第3の理念: デジタル上で礼節を守り、安全なプラットフォームを維持すること。一対一のコミュニケーション、小さなグループや親しい友達とのコミュニケーション、公的なコミュニケーションにおいて、当社のコミュニティでは、コミュニティの基準に合わせないユーザーに警告を出して自己管理することができ、そのユーザーはそのプラットフォームから追放されたり、発言する特権を取り消されたりします。 メタバースは、現実の拡張機能でもあり補うものでもあるので、私たちが現実で実践している礼節の基準がデジタル世界にも適用されなければなりません。

この理念のもとに開発をしているという。開発をしたい人はRobloxが提供する教育スタジオに参加して講習をうけて、コンテンツを作り始めればよい。
コンテンツの作り方から、販売する市場、ビジネスの作り方などが説明される。ちょっと時間をかければ誰でも開発が出来る感じがしてなかなか素敵である。

また多くの過去につくった作品やプログラムも公開されていて再利用ができるようになっている。

こうして開発者がつくった「いろいろな経験が出来る世界」のユーザーがちょっとしたアバターに着せるアクセサリーなどをつくって公開することも出来る。これをUGCと呼ぶ。

こうしてゲームや遊園地のような物を開発して、多くの人があつまってくるとプラットフォームのRobloxは開発者にお金を払う。

開発者向けエコノミクス

さて、ここは非常に興味深いので詳しく説明した。Roblox社はベターバージョンとしてこのあたりの仕組みを公開している。アドレスは下記だ。

興味深いので、細かくコメントをしておく。

2021年12月に、170万人のクリエイターと開発者がRobux(当社プラットフォームの通貨)を獲得した。平均して、Robloxは、使用されたインエクスペリエンス1ドルあたり28セント*を開発者に支払う。

Robloxプラットフォームの特徴

  • 開発者がRobloxで収益を得た後にのみ支払いが発生する。

  • Robloxでは、開発者はマネタイズ後に課金されるため、リスクを最小限に抑えることができる。られます。これは、キャッシュペイアウトストラクチャーの開発者シェアの数字に反映されています。これは、開発、保管、テスト、メンテナンスに関連するすべての費用が支払われた後の推定手取り額である。

  • Robloxは、その収益の一部を、すべてのツール、サービス、サポート、手数料、運営費、研究開発費に充当している。これにより、開発者は初期費用とリスクを最小限に抑えてコンテンツを構築できる。

  • 開発者にRoBuxで支払われる29%は、支払われた全額がDevExプログラムを通じて交換され、プラットフォームで使用されないことを想定している。

  • 詳細
    1)24.1%: アプリストアおよび決済処理手数料
    これらの手数料は、Apple(iOS)、GoogleおよびAmazon(Android)、Microsoft(XboxおよびMicrosoft Store)に直接支払われている。この費用には、クレジットカードやPayPalなどの他の支払方法に関連する処理手数料や、当社のプリペイドカードの販売に関連する費用も含まれている。
    2)18.8%:プラットフォームのホスティングとサポート
    これらの費用は、Robloxのすべての体験が使用するサーバーのメンテナンス、プラットフォーム全体のカスタマーサポート、ユーザーと体験のモデレーション、およびユーザー獲得にかかる費用である。
    3)12.4%: プラットフォーム投資
    Robloxプラットフォームへの将来的な投資と継続的な研究開発に関する費用である。
    4)15.7%: Robloxシェア
    Robloxはこの割合で、継続的なサービスや運営コストをまかないます。
    5)24.5%:デベロッパーシェア - デベロッパーエクスチェンジ
    この割合は、構築した世界での取引に基づくその世界のオーナーの収益で、開発者の収益シェアとは異なる場合があります。
    6)4.5%: 開発者シェア - エンゲージメントベースの支払い (EBP)
    開発者は、魅力的な体験が出来る世界を構築するだけで、さらにRobuxを得ることができます。Robloxはプレミアム会員があなたの体験に費やした時間の割合に基づいて支払いを計算します。このエンゲージメントベースの支払いは、プレミアムペイアウト機能によって自動的に行われ、魅力的な体験が出来る世界を構築した開発者に報酬を与える方法である。このパーセンテージはプラットフォームの平均を反映していますが、EBPによる実際の収益のパーセンテージは、エクスペリエンスでのエンゲージメントレベルに基づいてエクスペリエンスごとに異なる場合がある。


獲得した現金の計算
Robuxの獲得方法によっては、Robloxが支払う平均的な分配額と異なる場合があります。最終的に、当社は以下の変数でお客様の現金シェアを計算します。

Robloxでは、コンテンツや体験を作ることで以下のようなRobuxの獲得方法があります。

  • アバターアイテムの作成と販売 - クリエイターはアバター用のアクセサリーや洋服を作成し、Robloxマーケットプレイスや自身の体験で販売することができる。

  • 特別な体験が出来る場所内での購入 - 開発者は自分の開発した場所内で、特殊能力やアクセサリーなどの販売を行うことが出来る。

  • 魅力的な体験を提供する - 開発者は他の場所よりも魅力的な体験を構築するだけで、追加のRobuxを得ることができる。Robloxはプレミアムサブスクライバーが特別な体験ができる場所で費やした時間の割合に基づいて開発者への支払いを計算する。このエンゲージメントに基づく支払いは、開発者がつくった特別な場所内で購入に加え、魅力的な場所を作った開発者に報酬を与える方法として自動的に行われる。

  • スタジオアセットやプラグインの作成と販売 - 開発者は、モデル、メッシュ、プラグインなどの特殊なツールやアセットを作成し、コミュニティに販売することができる。

  • 現金化:アカウントにサインインすると、獲得したRobuxをDeveloper Exchangeページで確認することができる。現金に換えるのも簡単で、簡単なフォームを使用します。

  • Robuxの分け前の計算方法
    Robloxで何かを作ると、開発者が関わったアイテムや能力の取引代金の何パーセントかを受け取ることができる。「Robuxの稼ぎ方」に記載されているすべての取引(エンゲージメントに基づく支払いを除く)には、最大で3つの利害関係者が存在する。

  1.  仮想アイテムの作成者は30%を得ます。

  2.  アイテムの販売者が40%を取得します。

  3.  プラットフォームが30%取得する。

Robuxの現金への変換方法


さて、最も気になるところを説明しよう。Robuxを獲得すると、開発者アセット、プラグイン、広告、体験内アイテム、バーチャルアイテムなどを購入するために、引き続きプラットフォームで使用することができる。また、アカウントに50,000Robux以上ある場合、開発者交換プログラムを使ってRobuxを実際の通貨に交換することができる。Robloxは現在、獲得したRobuxあたり0.0035米ドルの為替レートを使用して、受け取るリアル通貨の量を算出している。

とある。2019年にはこうした開発者達(そのほとんどは30名以下)に支払われた額の総額は10億ドルだったという。

さて、2010年代はこのように新しいプラットフォームが登場してきて大きなビジネスになっていったわけだが、もう一つのプラットフォームであるFortniteはこの構造のなかでアップルなどハードウェア機器がプラットフォーマーとして30%近いお金を徴収する構造に意義を申し立てた。たしかに、クラウド時代のプラットフォーマは創造的な行為に関しては何も貢献していない。
 
次回はこの問題についてかんがえていきながら、メタバースに関するBallの議論を次回は展開したいと思う。


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メタバース 徹底して分かるまで その6:

3

okudenaohito

2022年8月13日 15:03

ForniteとUnreal Engine5


前回、Robloxの話を書いたが、株式を公開して、現在少し値が下がっている。おもったほど顧客が伸びないからだ。子供が遊ぶという場所の提供のビジネスが大人にまでは展開しないということだろう。セカンドライフが子供に展開できないで悩んだ問題とおなじように、こちらは子供以外の市場にでていけない感じだ。

ゲーム会社のEpicはFortniteで知られている。これは、2017年7月に発売された大規模マルチプレイヤー・オンライン・ビデオゲームである。3種類のゲームモードがありそれぞれ、「Save the World」「Battle Royale」、そして「Creative」である。当初は「 セーブ・ザ・ワールド」が主流だった。これは、最大4人のアクターが敵を攻撃しするPvE協力型シューター・サバイバルゲームである。と言ってもちんぷんかんぷんだろう。PvE協力型とはPlayer versus environmentの略だが、オンラインゲームで、コンピュータが制御する敵との戦いを示す言葉で、player versus monsterと呼ばれることもある。1人でAIの仲間を引き連れてモンスターと戦ってもいいし、複数でモンスターと戦ってもいい。

世界を救え Save the World


壮大なPVEアクションを構築する。友達と一緒にモンスターの大群を阻止するために戦い、広大で破壊可能な世界を探検しする。巨大な砦を築き、武器を作り、戦利品を見つけ、ヒーローをレベルアップさせよう。とゲームのページは参加者に呼びかける。


プレイは無料だが、かっこいい服などは有料であり、好みに合わせて服を購入する。これをskinと呼ぶ。


次のフォートナイト「 バトルロイヤル」は、PvP対戦ゲームである。PvPとは「Player vs Player」のことであり、人間と人間がゲームの上で戦う。1つの巨大なマップのうえに建物や破壊可能な環境が組み合わさった戦場があり、そこで戦い最後に残った者が勝ちである。

ここでのスキンの売り上げもたいしたものだ。無料で与えられるスキンは皆同じだ。だが、かっこいいスキンをきている仲間がいる。彼らはスキンをfortniteから購入しているのだ。
購入するためには、バトルで勝ち抜き、レベルを上げると報酬が支払われる。それで入手できる。またスキンだけを購入することもできる。アイテムショップから現金をはらって購入するのだ。戦いで位を上げなくても新しいスキンを入手できる。ゲームが導入されて以来、膨大なスキンがデザインされた販売された。

クリエイティブモード

クリエイティブモードはゲームでは無くて、プレイヤーが自分だけの島を作るものである。フォートナイトは無料のバトルロイヤルゲームである。だが、現在はそこで、ライブが開催されたり、ただ集まってコミュニケーションをする場所になっている。イベントによっては1000万人をこえる人があつまってくる。これについては次回話をする。

メタバースを巡る破壊的イノベーションとて注目に値するのはEpic社が発表したゲームエンジンunreal engine 5である。下記の映像はEnreal Engine で製作したものである。


unreal engine5 の発表は圧倒的に革命的だ。
1)学習や社内プロジェクトの開発では無料で使用できる。
2)作製したコンテンツが収益を生まないあるいは収益がロイヤルティ基準値を下回る場合9には商用プロジェクトであってもEpic Games社 に一切料金を支払わずにコンテンツを配布することができる。
3)Unreal Engine のコードを組み込んだ市販の製品 (ゲームなど) を配布し、その製品からの生涯総収入が 100 万米ドルを超える場合に限り、5%のロイヤルティが発生する。

メタバースのなかで、いわゆるVR/AR/XRと言われているところにおいてreal engine5の技術と提供ポリシーは画期的な仕組みである。これは基本C++で書かれているソフトウェアであり、学習方法もがっちりと公開されている。これは弱いものいじめのショバ代稼ぎプラットフォームビジネスではなくて、スター育成ジムみたいなもので、修行中やデビューしたての者の世話をせっせとして、スターになったらある程度のマネージメントフィーをもらう。これで大きくなっていく。


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メタバース 徹底して分かるまで その7:

3

okudenaohito

2022年8月13日 15:28


The Coming Fight to Control the Metaverse (and You)

Ballの本の第1章の最後の節のタイトルはメタバース(とあなた)を支配する来るべき戦いと題されている。MinecraftやRobloxのような会社の成功に続いて、2010年代後半にはFortnite社がFortnite Creative Modeを発足させた。Fortnite社はゲーム会社だったが、世界をつくってそこに人をあつめて、プラットフォーム会社からお金をもらうMinecraftやRobloxの方法に追従したのである。ゲームを作るのではなく、メタバース上に場所をつくり、そこに人を集める非ーゲームでの経験を提供するサービスを始めた。たとえばそこでコンサートを行う。トラヴィス・スコットのライブが行われ、そのYoutube録画が2億回再生されたという。

さて、いままでMUDからFortniteまで何10年にもわたる社会的仮想世界の歴史を見てきたが、メタバースの世界がSFからビジネスや消費者の世界に拡がり、技術的な想像力をこえたところで展開してきたことが分かるだろう。

Fortnite社を制作したEpic社のCEOのTim Sweeneyは、長い間かかって作ってきたいろいろなものが部品となってメタバースとして統合された、と述べている。統合された技術は
1)無線の測度、無線機器、無線アプリケーションなどが進化して無線技術として統合され
2)インターネットサービスを利用するユーザーが急増した。第二世代iPadが登場した2001年当時にはまだ幼児だった利用者がいまは自分の意思でiPadを利用できる若者になっている。

この変化の中でRobloxは大きくなっていった。2006年にプラットフォームを発足させ、2008年には史上最大のメディア体験提供プラットフォームの一つとなった。 これは技術的な能力向上の時間軸でもあるが、またRobloxのコアユーザーが、まさに "IPad Native "として幼児から青年に育った、ということも深く関係する。つまり、Roboxの成功は、それを可能にした技術に加えて、新しいメディア消費者も生み出していたのだ。

以上、 Ballの話をすこし追加調査をして説明した。SFでは暗く描かれているメディア的生活の未来であるが、ある程度まで実現してみると結構楽しそうな経験を我々に提供してきたではないか、というわけだ。明らかにここにはマスメディアの世界も、物を購買する経験も、ゲームに集中する経験もない。まったく新しいタイプの経験がユーザ目線のコンテンツ制作によって作られている。未来はデストピアでは無く、楽しそうでは無いか?

こう考えると、これから登場しようとするメタバースを技術への想像力からだけでは無く、実際のプログラムを開発して人々につかってもらうという視点からみて考える事が非常に大事になる。

というサブタイトルがついている。メタバースと(あなた)を支配することを目的としてこれから起こるであろう戦い、と言う意味だ。何がメタバースをそしてあなたを制するようになるのか?というわけだ。デジタル世界と自然世界と人間の共生が可能になるメタバース概念は七五年前に始まり、何度も技術的な変貌をしていまに至る。SF作家の想像力で展開してきたメタバースの定義と説明はくらいものであったが、今登場しようとしているメタバースはそれとはちがっているようだ、と言うわけである。

ここではBallの話を展開する前に、メタバースの覇者となりそうな技術とサービスについて紹介してみたい。それはEpic社のゲームFortnite及び、世界構築プラットフォームFortnite Creativeを支えているUnreal Engineという技術と、Appleのプラットフォームからの離脱をもとめて起こした裁判である。

Unreal Engine といってもなじみのない人も多いと思うので、説明をしておこう。メタバース空間における環境や事物などを非常に高性能で描き出すソフトウェアである。これがプラットフォームになるのではないかと言われている。ではその前のプラットフォームは何か?




次のプラットフォームは何になるかの技術予測はいろいろあるが、実際にバトルがすでに始まっている。それがUnreal Engineを要するEpicとApple社との裁判である。

現在、Unreal Engine は、学習や社内プロジェクトの開発であれば無料で使用できる。したがって、ユーザーが自分でつくるコンテンツにおいては無料である。販売してもかまわない。カスタム プロジェクト、やリニア コンテンツ (映画やテレビ番組など)、さらには収益を生まない製品を作る限り無料だ。また有料で販売しても収益がEpic社のロイヤルティ基準値を下回る場合は、商用プロジェクトであってもEpic Games に一切料金を支払わずに配布することができる。(Unreal Engine のコードを組み込んだ市販の製品 (ゲームなど) を配布し、その製品からの生涯総収入が 100 万米ドルを超える場合に限り、5%のロイヤルティが発生する)。

つまり、100万ドル売り上げない限り、5%のロイヤリティは発生しない。このくらい売り上げたら、将来のためにもEpicにドネーションしたくなる。ためしにやってみて、使ってもらって、そのときにはお金はかからない。そのなかから成功すればかかるが、その金額は非常に妥当だ。プラットフォーマーが一人勝ちの現在のスマホのビジネスモデルとは大きく違っている。VR/AR/XRと言われているところの制作に関わっている人から見るとこれは画期的な仕組みだ。現在プログラムはオープンソースである。基本C++で書かれているソフトウェアであり、学習方法もがっちりと公開されている。これはなかなか面白いアイデアで、弱いものいじめのショバ代稼ぎプラットフォームビジネスではなくて、スター育成ジムみたいなもので、修行中やデビューしたての者の世話をせっせとして、スターになったらある程度のマネージメントフィーをもらう。これで大きくなっていく。大きくなれば、Epicは巨大な利益を上げることができる。

さて、このように大きく前に飛び足してきたEpic社であるが、狙っているのはメタバース時代のプラットフォームなのであろうか。このことを考えるための格好の事例が、2020年にEpicがAppleを訴えた裁判である。最初はEpic の敗訴であったが、状況はまた変わりつつあり2022年になっても、状況は予断を許さない。これはメタバースを考えるときに非常に重要な裁判であり、その意味は知財やプライバシーの保護などの法的な問題をこえてビジネスの新しい枠組みを生み出してしまいそうなダイナミズムと緊張感がある。この問題について次回は議論をしたい

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メタバース 徹底して分かるまで その8:

2

okudenaohito

2022年8月13日 15:18


Epic対Apple その1

さて、2020年にEpicがAppleを訴えて、最初はEpic の敗訴であったが、状況はまた変わりつつあり2022年になっても、状況は予断を許さない。これはメタバースを考えるときに非常に重要な裁判であり、その意味は知財やプライバシーの保護などの法的な問題をこえてビジネスの新しい枠組みを生み出してしまいそうなダイナミズムと緊張感がある。この問題についてまずは裁判の流れを整理しておきたい。

裁判の始まり


それは2020年8月に突然始まった。Epic Games がAppleに対してiOS App StoreにおけるアプリがAppleがApp Storeで提供する以外のアプリ内課金を行うことを制限していることは問題であると、訴えたのである。Epic Gamesの創業者であるTim Sweeney氏は以前、AppleがApp Storeで購入するたびに30%の収益をカットすることに異議を唱え、同社のゲーム「Fortnite」でAppleを回避するか、Appleがカットする割合を少なくすることを望んでいた。Epic Games は2020年8月13日にフォートナイトでApp Storeの決済システムを迂回する変更を意図的に実施し、アップルが同ゲームをApp Storeからブロックするよう促し、エピックは訴訟を起こしたのだ。この裁判はいま議論が高まっているメタバースの将来に大きく関わってくる裁判であるが、それはプライバシーの保護とか独占禁止法違反といった法律上の議論をはるかにこえて、インターネットの未来に関わる大きな動きを表している。

この問題の正しい理解がメタバースとはなにかに深く関わるとおもうので、二回にわけて解説しておきたい。まずはこの起訴の展開を時系列で簡単に見てみよう。資料としてAppleInsider誌の記事を活用した。なお、この裁判は2021年9月10日に判決が出ていて、Epicの敗訴になったが、ビジネスの大きな流れがEPIC側に変わったと感じられるものであった。Epic社は中国のハイテク大手テンセントが40%の株式を保有している。時系列にそって流れを見ていこう。

2020年6月
2020年6月のインタビューでEpic GamesのCEOであるTim Sweeney氏は、近い将来、iOS版を含むモバイルプラットフォームにもEpic Games Storeが登場する可能性があることも示唆した。

2020年7月
Sweeney氏は、App Storeとその料金体系を公に批判した。7月のインタビューでSweeney氏は、AppleとGoogleがそれぞれのアプリストアポリシーによってイノベーションを阻害しているという主張の概略を説明した。
7月10日、Appleの副社長兼副総括顧問であるDouglas G. Vetterは、Epicの統括顧問Canon Penceに連絡し、EpicがApp Storeで「アプリ内コンテンツの売上から数億ドル」を稼ぐなど、大きな成功を収めていることを指摘し、「Epicは素晴らしいアプリがなければこの成功を収めることはできませんでしたが、それでもAppleがEpicなどのデベロッパに価値をもたらしています」述べている。

8月17日、AppleはEpicに対して攻めの姿勢を見せ、Appleは8月28日にEpicのすべての開発者アカウントを抹消し、iOSとMacの開発ツールから切り離すと通告した。

2020年8月
Epic社はApple社を訴える。その訴状では、Appleが「市場を支配し、競争を阻害し、イノベーションを抑制しようとする巨大企業」となったことを非難していた。また、Appleの規模と影響力は、"歴史上のあらゆる技術独占企業のそれをはるかに超えている "とまで主張している。
この訴訟の重要な点は、EpicがApp Storeのガイドラインを遵守していたかどうかを論じるのではなく、ガイドラインそのものに異議を唱えている点である。App Storeのポリシーに対する異議申し立ては、主にAppleのアプリ内課金に対する「法外な」30%の手数料であった。

8月18日
Appleが公開した最初の攻撃は、比較的単純なもので、「Epicが自ら作り出した問題」を是正しないEpicが悪いと非難する、平易な文章で構成されていた。

8月20日
大手新聞社のグループがティム・クックに連絡を取り、Epicの戦いに拍車をかけ、購読料の変更を促した。現在のポリシーでは、App Storeの手数料は、アプリ経由で出版物を購読する場合、初年度は30%に設定されているが、次年度以降は15%に引き下げられる。Wall Street Journal、New York Times、Washington Postなどの出版社グループは、30%の手数料を撤廃し、15%に引き下げることを要望した。

8月23日
Epicは、一部のプレイヤーの反Apple感情を利用するため、8月23日から「FreeFortnite Cup」トーナメント「FreeFortnite Cup」トーナメントを開始した。この大会では、パロディ広告に登場するAppleのキャラクターに似た「Tart Tycoon」スキンなどのデジタルアイテムを含む、選りすぐりの賞品が用意された。
物理的な賞品もEpicから提供されるが、これも明らかに反Appleの方向に傾いていた。Appleの「Think Different」グッズを彷彿とさせるデザインの「Free Fortnite」帽子が約20,000個配られ、同時に、その他の賞品として、プレイヤーがAppleのルートを通らずにFortniteをプレイできるプラットフォームでもあるコンソールやコンピュータが1,200個用意された。
同日、EpicはAppleの法廷提出書類に対する反論を提出し、Epicの差止命令申し立てに対してAppleは反論した。マイクロソフトがこの反論に加わる。マイクロソフトは「AppleのSDKやその他の開発ツールへのEpicのアクセスを拒否することは、EpicがiOSやmacOSでUnreal Engineをサポートすることを妨げ、Unreal Engineやそれを使ってゲームを作った、作っている、作るかもしれないゲームクリエイターを実質的に不利な立場に置くことになります」と述べた。

8月24日
AppleとEpicは米国連邦地方裁判所のイボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事に面会し、この事件の最初の法的審理を受けた。判決では、EpicはAppleがFortniteを禁止したことによる回復不能な損害を証明できず、Epic自身が招いた事態であるとされた。"私人に契約上の合意を遵守させること、あるいは迅速とはいえ通常の手続きによってビジネス上の紛争を解決することに対する一般的な公益 "を Applestoreは上回らなかったとされて、Epicの主張は認められなかった。Appleは、Epicの直接支払の統合は、法的スクラムを蹴るために意図的に行われたと主張し、Epicの弁護士は後に、Appleに手を出させるために必要だったとして、それが真実であることを認めた。
FortniteはApp Storeから外され、一方で、AppleはEpic Games Internationalの開発者アカウントに対してアカウト閉鎖などの行動を起こさないよう法廷から命じられた。開発者のアカウントのアクセス禁止はエンジンのアップデートを制限し、ひいてはソフトウェアをライセンスするデベロッパーに打撃を与えることになるとされた。Appleは次のように述べた。
「我々はGonzalez-Rogers裁判官の「賢明な進め方」に賛成しています。つまりEpicがApp Storeのガイドラインを遵守し、裁判が進行している間も営業を継続することであるという意見に同意しています。Epicが裁判官の推奨する手順を踏めば、我々は喜んで『フォートナイト』をiOSに復帰させるでしょう。9月に法廷で我々の主張をすることを楽しみにしています。」

8月26日
Epic Gamesは「フォートナイト」のプレイヤーに対し、AppleがApp Store経由のアップデートや新規インストールを「ブロック」しているため、アプリのアップデートに期待しないようにと伝えた。8月27日のシーズンアップデートは、ゲームが再生できる他のすべてのプラットフォームで利用可能になりますが、iPhone、iPad、またMacではありません、としたのである。

9月5日
EpicはAppleがフォートナイトをダウンロードできるようにするために、裁判所を説得する2回目の試みを行った。権力を悪用した独占禁止法違反で訴えられたAppleは、その後「その同じ権力を使って、Epicに違法な制限に従わせようとした」とEpicは述べた。

9月8日
反訴で、AppleはEpic Gamesの訴訟を "金銭に関する基本的な意見の相違に過ぎない "とした。「Epicは自らを現代の企業ロビン・フッドとして描いているが、実際には、App Storeから得られる多大な価値に対して何も払いたくないだけの数十億ドル規模の企業である」と付け加えた。

9月9日
Epic Gamesは、Appleに対し、9月11日以降、Epic GamesのアカウントでSign in with Appleを使用して認証することを「今後は許可しない」と伝え、アカウントを更新してこの方法から移行するよう消費者に警告を発しました。翌日、Epicは、AppleがEpic GamesのSign in with Appleへのアクセスを「無期限延長」したことを伝えた。しかし、それでもユーザーはとにかくアカウントを更新することを推奨していました。
同日、Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏は、AppleがEpicの行動の大きなポイントを見逃していることについて書いた。このスレッドでは、Appleが反訴においてEpicの行動を単純化しすぎていると指摘し、この件に関する世論の法廷に揺さぶりをかけようと試みた。

9月16日
この日に提出された書類で、AppleはEpicがApp Store「Fortnite」紛争全体を、AppleがiOSで人気が低下していると考えている同ゲームのプロモーションとして利用していると非難した。"Appleに対するEpicの主張とは全く関係のない理由で、Fortniteの人気は衰退している "とAppleの申請書には書かれている。「2020年7月までに、Fortniteへの関心は2019年10月4日と比較して70%近く減少していました。この訴訟(とそれが生んだ一面トップの見出し)は、フォートナイトへの関心を再活性化させるために作られたマーケティングキャンペーンの一部と思われます。」と述べたのである。

9月28日
この日に行われた第二回の長時間にわたる活発な審理では、AppleとEpicが交互にYvonne Gonzalez Rogers判事に自分たちの言い分を主張し続けた。Epicは、App StoreにおけるFortniteアプリの復活と、Unreal EngineにリンクされたアカウントがAppleからこれ以上損害を受けないよう保護されることを求めた。

9月29日
この日、多くの有名アプリ開発者が集まり、「アプリ公正連合」が結成された。このNPOは、開発者がApp Store向けに開発する際に直面する問題を明らかにすることを目的としている。

9月30日
陪審員なしの第3回目のヒアリングが開かれた。AppleとEpicの両社は、協議の結果、一般人ではなく、裁判所自身が判断すべきであると裁判所に申し入れたのである。

10月9日
この日、ロジャース裁判官の判決が発表され、AppleとEpic双方に複雑な結果がもたらされた。EpicはUnreal Engineと連動した開発者アカウントを保護することができた一方で、Appleに対して「Fortnite」をApp Storeに復帰させるよう強制する要求が却下された。Appleは当初、陪審員裁判を推していたが、手続きの合理化のため、要求を取り下げた。ロジャー判事が予備審で「2つの事件を審理したくない」「2つの事件を一度に審理したい」と認めたことに触れ、Appleは陪審裁判を見送ることで事態の収拾を図ると述べてた。

11月10日
Epicはプレイヤーにクレジットを提供を開始した。ゲーム内通貨V-Bucksを購入したmacOSとiOSの『フォートナイト』プレイヤーにクレジットを発行し、iOSとmacOS版のアップデートが事実上ブロックされている間、購入したものを他のプラットフォームで利用できるようにしたのである。

11月11日
カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のYvonne Gonzalez Rogers判事は、この日提出した書類において、Appleが提起した不法行為に基づく反訴に対する判決の申し立てを、Epicに認めさせた。これにより、契約違反に関するものを除き、AppleへのEpicの反訴は事実上、すべて棄却された。

2021年2月1日
この日、トーマス・S・ヒクソン米連邦判事により、ティム・クックは7時間の宣誓証言を受けなければならないとの判決が下された。同時に、ゲームの配信方法を巡ってAppleがSamsungを召喚しようとした試みも否定した。

2月10日
Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏は、この日のインタビューで、「フォートナイト」に決済処理オプションを導入することは2020年8月から、数カ月を費やして戦闘計画を立てたものであると述べた。

2月16日
ノースダコタ州で、AppleにApp Store以外での代替支払方法とアプリのダウンロードを許可するよう強制する法案が、Epic Gamesの援助を受けて作成された。上院法案No.2333の法案草案が、Epic Gamesに雇われたロビイストによって議員に手渡された。

2月19日
AppleがValve Softwareに対して、同社のSteamストアフロントに関する販売データの提出を要求していたことが、裁判所に提出された書類で明らかになった。Appleは、2015年以降のビデオゲームの販売と流通を示すデータを求めていた。ValveはApple Storeのデータ要求を押し返した。

2月26日
反appleの傾向は続き、ミネソタ州で反App Store法案が浮上した。この法案は、アプリ開発者がApp Storeのアプリ内課金の仕組みを回避できることを許可しようというものある。この法案は、他の2つの州と同様に、開発者がAppleとGoogleのそれぞれのシステムに制限されることなく、サードパーティの決済メカニズムを使用できるようにすることを目的としている。

4月14日
AppleはEpicの裁判に先立ち、専門家証人からのサマリーを提出した。そのうちの1つがDaniel L. Rubinfeld博士による反論で、Appleは "代替アプリストアやAppleのアプリ審査ガイドラインに該当しないアプリとiPhoneを相互運用させるためにはハードウェアとソフトウェアを再設計しなければならない "と主張しているものだ。Epicの創設者であるTim Sweeney氏は、iOSがすでにApple Enterprise Programを通じて「ユーザーがウェブからアプリをインストールする仕組みを持っている」という点で、この発言を「でたらめ」とTwitterで「消費者向けソフトウェアの配布で訴えられないのは、契約上の制限だけだ」と批判した。

5月3日
裁判が始まり、EpicはAppleに対して冒頭の弁論を行いました。その中でEpicは、AppleがiOSアプリの配信とApp Storeの決済を独占していると非難した上で、今回の訴訟は "市場が自己修正しない "ことから、すべての開発者のエコシステムを変更するためのものだと説明した。EpicはiOSをmacOSになぞらえ、iOSは意図的に壁に囲まれた庭のようなエコシステムにされたと主張した。AppleはmacOSに似たよりオープンなディストリビューションを容易に採用できたはずだとEpicは提案した。また、Appleが徴収する30%の手数料についても言及し、Apple幹部からのメールを用いて、同社自身がその比率を変更することを検討したことを示した。その他、App Store Reviewのプロセスに対する攻撃も行われ、開発者に対する扱いが偏っているように見えること、Appleのプロセスは「恣意的」「予測不可能」「ルールの適用に一貫性がない」という開発者からの不満が述べられた。

Epicは、ゲーム以外のアプリやツール、無料コンテンツなど、さまざまなアプリを販売しているという自社のEpic Games Storeについても取り上げた。"Fortnite "はこの騒動の発端となったゲームで、ソーシャルな集まりの場として言及されており、Epicの "Metaverse "構想は、ライブコンサートや映画鑑賞会なども含むのだと説明した。

5月3日
この日、Tim Sweeney氏は証言台に立ち、Epicが 「当初はAppleのポリシーに批判的な見解を示さなかった」が、やがて 「Appleのポリシーがもたらすあらゆる負の影響を認識する 」に至ったと述べた。Appleの30%の手数料と、コンソールベースの販売における同様の手数料の間に違いがあるかどうかについて、Sweeney氏は、コンソールは赤字で販売され、ゲーム開発者を必要としているゲーム業界では、「一般的なバーゲン」であると述べた。この質問は、以前Sweeney氏が特別待遇をAppleと交渉しようとしたことに言及したものだったが、Appleがそのような取引や特別待遇の交渉をする気がなかったことを述べていた。

「Fortnite "の長期的な進化は、クリエイターが作品をユーザーに配信するためのプラットフォームとして "Fortnite "を開放し、クリエイターが利益の大部分を得ることになるだろう」とSweeney氏は語る。「Appleが上から30%取ることで、Epicとクリエイターがこの未来の世界に存在することは非常に難しくなります。」と述べたのだった。

5月14日
この裁判で、Epic側に賛同する新しいプレイヤーが登場した。それは、Roblox社である。この「ゲーム」の開発者は、ウェブサイトを更新し、自らをゲームプラットフォームではなく、「体験」創造ツールであると表現し、EEpic社の裁判での主張への支持を表明したのだ。いまや「ゲーム」という言葉は「体験」に置き換えられ、タイトルは「ゲーム」から「発見」に変わり、「プレイヤー」は「人々」にかわったのだ、と述べた。ゲームは開始と終了が定義され、課題が設定されている。一方Roblox」での体験は、マップやワールドを使用し、体験が制限される境界を提供しているが、アプリ自体はゲームではないとしたのだ。

5月21日
この日、ティム・クックは、証言台に立った。彼は、App Storeがゲーム会社の日常的な運営へ関与するのは限定的であり、主にゲームのレビューの立場に限られている説明したあと、次のように述べた。「iPhoneの開発開始以来、1000億ドルを投資してきたが、その金額はさらに加速している」とクック氏は述べ、「我々は、ユーザーを重視し、顧客に対して正しいことをすることにマニアックなこだわりを持っています。」と結んだ。
クック氏によると、安全性、プライバシー、セキュリティはアップルの戦略の重要な要素であり、アプリ追跡の透明性などの項目の作成に役立ったという。

9月10日
この日判決が下された。イボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は、法廷でアップルがほぼ勝利した判決を出した。Appleにとってこの判決は、Appleが独占企業ではないこと、そしてEpicがAppleの独占的行為を証明できなかったことを確認するものであった。アップルにとって最大の争点は、開発者がアプリに "アプリ内課金に加えて、顧客を購入の仕組みに誘導するボタン、外部リンク、その他の行動喚起、アプリ内のアカウント登録を通じて顧客から任意に得た接点を通じて顧客と連絡を取る "ことを禁止する差し止め命令である。
Epic Gamesは、モバイルゲーム取引のこのサブマーケットのかなりの部分へのアクセスに対するAppleの支配に挑戦するためにこの訴訟を起こしました」と裁判官はのべるが、「最終的に、Epic Gamesはやりすぎました。」と判決を結んだ。

9月12日
Epic Gamesは、この判決に対して、米国第9巡回区控訴裁判所に控訴を行なった。この控訴審では、控訴の理由や説明がなされておらず、詳細については、後日、かなり長文が控訴審で発表されるものと思われている。

10月8日
Appleも控訴した。イボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事の判決で述べられたApp Storeの「アンチステアリング」規定の変更を強制する差し止め命令の停止を求めたのである。

10月23日
Epicは、Appleの上訴に対して反対意見を提出し、Appleはたとえ一時的な変更であっても、この変更によって回復不能な損害を被ることを法的に証明するのに十分なことをしていない、と述べた。

12月8日
この日Appleは、12月9日に施行される予定だったアンチステアリング禁止令の効力停止を求める訴えに勝訴した。イボンヌ・ゴンザレス・ロジャース裁判官の判決に含まれるこれらの条項は、開発者が代替支払方法へのアプリ内リンクやボタンを追加することをAppleに認めるよう強制するものだった。

2022年1月13日
AppleはEpicにFortniteをApp Storeに戻すこと自体を許可していませんが、このゲームは別のルートでiOSとiPadOSに戻ることになった。NvidiaとEpicは「フォートナイト」をクラウドストリーミングサービス「GeForce Now」を通じてプレイ可能にすることを発表しましたのである。「フォートナイト」は専用アプリではなく、Safariブラウザ経由でプレイ可能で、既存のPCベースの移植版ではなく、タッチベースの操作に最適化されたモバイルネイティブ版で開発されていた。

1月20日
この日の控訴審でEpicは、シャーマン法に関する請求とAppleの契約違反に関する判決の取り消し、および差止命令による救済を要請した。また、控訴裁判所が判決に誤りがあることに同意したので、問題の裁き方について追加の指示を受けた上で再審を要望すると述べた。この判決が覆らない場合、Epicは「この判決は独占禁止法の確立された原則を覆し、連邦地裁自身が認識しているように、健全な独占禁止政策を台無しにするものである」と主張した。

1月28日
34州とコロンビア特別区の検事総長の共同書簡は、AppleがApp Storeの独占で「競争を抑圧」し続けていると控訴裁判所に書簡で伝えた。この訴訟に関してEpicの味方をすることが固く決められていた。
「Appleの行為は、モバイルアプリ開発者や何百万人もの市民に損害を与え、現在も与え続けています」とこの書簡は述べる。「一方、AppleはiPhone向けのアプリ配信とアプリ内課金ソリューションを独占し続け、競争を抑圧し、年間約1兆ドルのスマートフォン産業において超競争的な利益を蓄積しています。」
米国司法省も、ジョナサン・カンター司法長官補佐官の署名はないものの、独自の書簡を提出した。カンター氏はかつて、アプリ公正連合(Coalition for App Fairness)の主任弁護士を務めていた。

2月1日
この日、マイクロソフト社もEpic社の裁判所への提訴を支援する人々のリストに加わった。マイクロソフトは、「この事件が内包する法的、経済的、技術的な問題に対して、ユニークでバランスのとれた視点」を持っていること、また、アップルのようにハードウェアとソフトウェアの両方を販売しているので、独占禁止法をサポートすることに「関心を持っている」ことを挙げている。Appleは「並外れたゲートキーパー力」を持っているとMicrosoftは述べ、その上で、判事による判決の誤りを指摘するジャブを打つ。この判決は、Appleがその中で事業を展開している他の多くの分野を含め、「ゲームをはるかに超えた潜在的な反トラスト法上の問題を持っている」。

2月6日
2021年11月にEpicを支持するアミカスブリーフに署名した企業の中に、シアトルに拠点を置く編み物スタートアップのKnitrinoが含まれていることが2月6日に判明した。ニトリノがアップルと揉めたのは、ポリシーによりアプリ内システムで物理的な商品とデジタル商品の両方を販売できないため、アプリのApp Storeから承認を得るのに問題があったためだ。話し合いにもかかわらず、審査委員会への訴えは19分で却下された。選択肢の少なさ、外部からのコントロールに対する不満もあったからだ。

3月24日
Epic Gamesとの法廷闘争は続いており、この日両社は米国第9巡回区控訴裁判所に冒頭弁論を提出した。両社とも、Epic Games対Appleの訴訟の最初の判決に満足していなかったため、控訴することになった。先の裁判ではEpicは敗訴し、AppleはApp Storeの変更を課されましたが、控訴の結果が出るまで原判決は保留されることになった。
原判決では、開発者が外部の決済手段にリンクすることを妨げるAppleのアンチステアリング条項がカリフォルニア州不正競争法に照らして不当であると判断され、裁判官はAppleに対して開発者が外部の決済手段を利用できるようにApp Storeを変更するよう命じた。Appleの提出した書類は、この控訴審の側面を取り上げており

3月31日
Apple、反トラスト法訴訟でEpic社はRoblox、Koch Groupの創業者から「法廷の友人」の支持をえたが、Apple社もリストを準備書面の提出期限が3月31日に終了した時点で、アップル社に有利な提出書類が多数届いていたことが判明した。Appleを支持するリストには、ACT-App Association、Computer & Communications Industry Association、Washington Legal Foundation、そして国家安全保障の専門家や学者のグループなどが含まれていた。
ーーーーー
さて、以上を踏まえて、ネットワークビジネスの大変化が目の前に迫っているという話を次回に行う。





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メタバース 徹底して分かるまで その9

12

okudenaohito

2022年8月13日 18:45

プラットフォームビジネスはなくなるか?

さて、今回は、Epic vs Appleの裁判が判決に関係なく、メタバースの登場への大きな動きになるという話をしてみたい。プラットフォームビジネスがなくなる、というのが筆者の考えである。

最初にプラットフォームビジネスは残る、という考えを紹介しておこう。参考にした論文は”Epic versus Apple and the future of app stores”で、December 2021Communications of the ACM, Volume 65, Issue に掲載されたもので著者はMichael A. Cusumanoである。

https://idm.mit.edu/wp-content/uploads/2022/07/Michael-Cusumano.jpeg

クスマノ氏はMITのスローンスクールの教授を長く務め、インターネットビジネスについて影響力の強い本を30年近く出版してきた。マイクロソフトの勝利を説明したMICROSOFT SECRETSは1995年である。出版されたときに、びっくりして読んだ覚えがある。

その後、The Business of Platforms: Strategy in the Age of Digital Competition, Innovation, and Power 2019 等を出版している。

彼がEpic とAppleの裁判についての意見をACMの雑誌に載せている。かいつまんで紹介しておく。

Epic対Appleとアプリストアの未来


マイケル・A・クスマノ著
コミュニケーションズ・オブ・ザ・ACM、2022年1月、第65巻第1号、22-24ページ

Epic versus Apple and the future of app stores
ACMとはAssociation for Computing Machiner の略称で、wikiによると、1947年に創設された世界最大の科学的かつ教育的なコンピュータサイエンス学会である。余談になるが、計算機科学分野での最高の栄誉とされている「チューリング賞」はACMが出している。
iPhoneなどスマートフォンはほんの12年ほど前に市場に登場してくる。当時はソフトウェアを探し、インストールすることが大変だった。そこに「オンラインアプリストア」の考えが登場して、簡単にソフトを選んでインストールできるようになった。そしてこの仕組みはソフトウェアビジネスを根本的に変えた。アプリストアは、ユーザーが必要なソフトウェアがみつかる便利なものであったが、スマートフォンやパソコンのOSと連動しており、ユーザーがそこでさまざまな企業のソフトウェアを見つけることができるマーケットプレイスとして機能した。
  このマーケットプレイスにはプラットフォームへのアクセス、ユーザーインターフェース、互換性、価格、支払い方法、品質、セキュリティ、知的財産権などを規定する一連のルールがすべて含まれている。この仕組みを活用して現在多くのソフトウェアが販売されている。2021年現在、Android OSを搭載した携帯電話やタブレット端末向けのGoogle Playストアには約350万本、iPhoneやiPad向けのAppleのApp Storeには約220万本のアプリが登録されている、という。
  さて、今回のEpic vs Appleの動きは、今後の法的判断や政府による法整備によって、appleやgoogleによるアプリストアの運営が困難になることをしめしている、とクスマノ氏は説明する。実はアプリストアは、20年ほどまえから登場してきたプラットフォーム・ビジネスの重要な要素になっていた。Apple社は、2020年にApp Storeから(大半のアプリが無料であるにもかかわらず)約200億ドルの利益を得ており、さらにiPhoneアプリの売上のうちモバイルゲームが約70%を占めている。一説には、AppleのApp Storeの利益率は78%にも上るという。
  我々はこの動きを当然のようにおもっている。14年前の2008年にApple App Storeが登場して、ソフトウェア会社がビデオゲームのソフトウェアライセンス、アップグレード、購読、バーチャルグッズを販売すると、その30%を関税としてappleに支払うことになっている。スマホゲームからソフトウェアゲームへと業界が動いているときに、30%の税金の話を筆者(奥出)はあるところで聞いて、なんという利益率だ、と思った記憶がある。それにもかかわらず、アプリストアは、その利便性と流通力から、スマートフォンユーザーがソフトウェアにアクセスし、開発者がユーザーにアクセスする主要な手段であり続けてきた。このビジネスモデルを今回ゲーム会社のEpicが公然と批判して、裁判を起こした。その流れを前回は見てきた。
  フォートナイトを知っているだろうか。これは戦闘ゲームで、なんと約2億人のユーザーを持ち、無料で遊べる。だが、プレイヤーは様々なアイテムをカスタマイズしたり、衣装やアクセサリーを購入したり、バトルパスを購入することが出来る。これは有料でV-Bucks(ゲーム内通貨)を購入して支払う。推定70%のプレイヤーがこうしたゲーム内購入を行い、2019年には1カ月あたり3億ドルにも上るとクスマノはこの論文で説明している。ポイントは、Appleが初期支払いの30%だけでなく(フォートナイトは無料なのでここではこの税金は発生しないが、)ユーザーがゲームをプレイしながら購入する「アプリ内」支払い-グレードアップやアクセサリーの購入にあてる、から30%の税金をとるのは不当だ、というものだ。
  これに対してAppleは、EpicがApp Storeを通さないアプリ内課金を禁止する利用規約に違反していると主張し、フォートナイトをApp Storeで販売できないようにして、またiPhone上でプレイできないようにした。Epicは2021年8月にAppleを提訴した。Epicはユーザーはアップグレードやバーチャルグッズを直接(Epic Games Storeなどを通じて)購入し、その売り上げの30%をappleに払わないで済ませたい、と主張したのだ。この訴訟は2021年5月に裁判となり、9月に最初の判決が下され、Epicは敗訴した。裁判官であるYvonne Gonzalez Rogersは、AppleがサードパーティのiPhoneアプリマーケットプレイスやアプリ内課金を禁止し続け、30%の手数料を徴収することを認めたのだ。 だが、ここで注目すべきは、判決はモバイルゲームのみを対象としている。他のソフトウェア製品やデジタルサービスのアプリストア販売に対する扱いについては言及していない。
  クスマノ氏は裁判を総括して、プラットフォーム・ビジネスが今後成立するかどうかが問われていくとする。プラットフォーム・ビジネスは、定義上、2つ以上の市場サイドを接続し、それらのサイド間でネットワーク効果を生み出すことに依存するものである。ネットワーク効果とは、同じプラットフォームやサービスを利用するユーザが増加することによって、それ自体の効用や価値が高まることである。 例えば、電子メールを使うユーザーが増えれば増えるほどメールを送信できる相手が増加し、メール自体の価値が高まる、というのも1つの例だ。スマートフォンやコンピュータは、アプリケーションなしにはほとんど価値を持たず、そのほとんどはサードパーティから提供されている。したがって、本来であれば、プラットフォーム企業は開発者に報酬を支払うべきである。ところが、現状においては、アップルやグーグルは、独立系ソフトウェア会社が生産した何百万ものアプリケーションに対価を支払うどころか30%もの重税を課し、自らソフトウェアやサービスを開発していない。一方、ユーザーは現状ではマーケットプレイスや決済システムがなければ、ユーザーは何百万ものアプリケーションを簡単に検索することはできない。というわけで、アプリストアは今後も存続し、プラットフォーム企業、アプリケーション開発者、そしてユーザーに特別な価値をもたらす。しかし、私たちがすべきことは、これらのマーケットプレイスを管理し、それらが生み出す富を共有するための、より公平な方法を見つけるこことだとクスマノ氏は論文を結んでいる。

メタバースは社会をよりよく(better)にすることで情報社会に破壊的イノベーションを起こす


  しかし、詳しく紹介した裁判記録から、Epic社の述べていることを考えると、メタバースの登場でプラットフォームビジネスは成立しなくなるというのが本来の流れではないだろうか?基本の考えは破壊的イノベーションである。この言葉使う人は多いが、正確な定義を知っているだろうか。クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』(1997)で提示した考えで「破壊的」(disruptive)という言葉の理解がポイントである。これは破壊的という言葉が非常に高度な先端的な技術を示していると誤解されて使われていて、技術系の投資家はそうした技術を探す。だが、クリステンセンのいう「破壊的イノベーション」とはいわゆるブレークスルー技術ではない。彼はハードデスクの破壊的イノベーションの研究を事例に使っているが、最初はオモチャのように見えるプロダクトが、やがて主流の大手企業の市場を徐々に侵食する現象を破壊的イノベーションという。大容量高速の8インチハードデスクの会社が小容量低速の5インチハードデスクの会社にとってかわられる。このとき8インチハードデスクを製造していた大手企業は5インチを製造する新興企業にかてない。なぜなら、5インチハードデスクを必要としているPC市場が勃興しており、8インチハードデスクをつかっていたミニコンピュータ市場が縮小していたからである。ミニコンからパソコンへ動きをとめることは構造上難しい、とクリステンセンは述べたのだ。

それまで高価で複雑で、資金やスキルのあるごく少数の人だけがアクセスできたものが安価で単純な構造になって、広く多くの人が使えるようになるときに破壊的イノベーションがおこる。コンピュータ産業は「ミニコン→PC→ラップトップ」と動いてきた。8インチ、5インチ、3.5インチのハードデスクが対応する。その後スマートフォンがプラットフォームになる。最初にこうした次のプラットフォームの候補が登場した時には、価格も技術も収益性も低い。だが、こうした技術こそが既存の市場を破壊するイノベーションとなるのだ。

破壊的イノベーションとは、ビジネス構造を破壊するようなイノベーションの事である。つまり、かつては高価で高度に洗練された製品やサービスを、より多くの人々がより手頃な価格で利用できるものにするイノベーションのことだ。誰が何をつかって誰を破壊しようとしているのか、を見ることが非常に大切になる。メタバースを破壊的イノベーションなのか?とするとどのような市場を壊そうとしているのか?

メタバースを巡るappleとEpic社の動きは破壊的イノベーションとどのように関係しているんだろうか?メタバースという技術があって、それが社会に普及していく戦いなのだろうか?いま没入型三次元インタラクション技術を巡る理論はそこにフォーカスが当たっている。だが、VR技術を考えるとそれほど新しい技術ではない。経営学を勉強した人なら、これは技術では無くてプラットフォームの戦いだ、と言うだろう。googleもfacebook もAmazonもプラットフォームである。MacやPCもかつてのプラットフォームである。携帯電話もプラットフォームである。そして当然iPhoneもプラットフォームである。プラットフォームの戦いなのか、非常に高価な技術が組み合わせを変えて既存の市場を壊し、新しい顧客を見つけようとしているのか?Ballはそう考えない。

BallはThe Metaverseの第1章  A brief history of the future、 これからやってくる未来、を理解するための短い歴史と題された章の最後で、メタバースは軍事技術の投資が市民社会に拡がって出来上がったインターネットとはことなり、商業とデータ収集と広告と仮想プロダクトの販売によって作られてきた技術だという。さらにコンピュータ領域で、巨大な企業が市場を押さえ我々の生活を支配したあとで登場してきた技術だという。だが、こうした技術のおかげで大量のデータを人工知能や機械学習で処理できるようになり、メタバースが生まれた。インターネットのビジネスモデルは広告とソフトウェアの販売であった。利用者の数というスケールが問題となり、利用者がいま何をしているのかの情報でビジネスが動いていった。さらに、インターネットで大きくなった会社は自己の利益をまもるために本来オープンではじまったエコシステムを閉じるようになっていった。

プラットフォームを作ることで、ユーザーと開発者の基盤を確保すると同時に、新しい分野に進出し、潜在的な競争相手を阻止するために、各巨大企業は過去10年間、エコシステムを閉鎖してきた。これは、多くのサービスを無理やり束ねたり、ユーザーや開発者が自分たちのデータを簡単にエクスポートできないようにしたり、様々なパートナー・プログラムを停止したり、自分たちの覇権を脅かす可能性のある営利目的やオープンスタンダードさえ(完全にブロックしないまでも)阻害したりすることで行ってきた。これらの策略は、プラットフォーム会社が比較的多くのユーザー、データ、収益、デバイスなどを持つことから生じるフィードバックループと混ざり合い、インターネットの大部分を効果的に閉鎖しているとBallは糾弾する。 今日、開発者は基本的に許可を受け、支払いを行わなければならない。ユーザーは自分のオンライン・アイデンティティ、データ、あるいは権利の所有権をほとんど持っていないのだ。

人々がメタバースのディストピアを懸念するのは、むしろ妥当なところだとBallは続ける。 メタバースという概念は、私たちの生活、労働、余暇、時間、富、幸福、そして人間関係が、デジタル機器やソフトウェアによって拡張されたり支援されたりするだけでなく、仮想世界の中で費やされる割合がますます高まることを意味するからだ。ここの視点は非常に重要である。PCの前で過ごす時間を考えてみるといい。40年前にはせいぜい文章を書くときぐらいだったのが、メールを書いたり読んだりすることに使い、プレゼンテーションを準備するためにコンピュータの画面を見るようになった。ニュースやメッセージを読み書くことに時間を使うようになる。携帯電話やスマホが登場すると、友達とメッセージを交換したり、自分の日記を書いて公開したりすることに費やすようになった。メタバースは何百万人、何十億人という人々にとって、デジタルとフィジカルの両経済の上に位置して両者を統合する存在となっていく。その結果、仮想世界を支配する企業は、今日のデジタル経済をリードする企業よりも支配的になる可能性が高い。ここにプラットフォームの創出では無くて破壊的イノベーションがおこるのだ。今日の巨大デジタル企業の市場が破壊されるからである。

その破壊あるいは変化はどのようにおこるのか。それはメタバースが、データの権利、データセキュリティ、誤報と過激化、プラットフォームのパワーと規制、不正使用とユーザーの幸福など、今日のデジタル社会が直面する難しい問題の多くをより明確にすることから始まる。メタバース時代をリードする企業の哲学や文化、あるいはビジネスにおける優先順位は、単にバーチャルであるとか報酬が多いということではなく、未来が現在よりも良くなるためにむかっていくのである。

我々が、ユーザーとして、開発者として、消費者として、現状をリセットして自分の未来を決定する能力をもっているということを確認できるのがメタバースなのだ。ここが理解できると、メタバースは、人々の距離を縮め、進化のために破壊されねばならない産業を変革し、より平等な世界経済を構築するチャンスでもあるのだ。メタバースが持つ可能性がほとんど理解されていないのが現状だ。ここを変えていきたい、とBallは第1章を結ぶ。良き未来のためのメタバースの短い歴史を理解した上で、細かな議論に移っていくのだ。





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メタバース 徹底して分かるまで その9

12

okudenaohito

2022年8月13日 18:45

プラットフォームビジネスはなくなるか?

さて、今回は、Epic vs Appleの裁判が判決に関係なく、メタバースの登場への大きな動きになるという話をしてみたい。プラットフォームビジネスがなくなる、というのが筆者の考えである。

最初にプラットフォームビジネスは残る、という考えを紹介しておこう。参考にした論文は”Epic versus Apple and the future of app stores”で、December 2021Communications of the ACM, Volume 65, Issue に掲載されたもので著者はMichael A. Cusumanoである。

https://idm.mit.edu/wp-content/uploads/2022/07/Michael-Cusumano.jpeg

クスマノ氏はMITのスローンスクールの教授を長く務め、インターネットビジネスについて影響力の強い本を30年近く出版してきた。マイクロソフトの勝利を説明したMICROSOFT SECRETSは1995年である。出版されたときに、びっくりして読んだ覚えがある。

その後、The Business of Platforms: Strategy in the Age of Digital Competition, Innovation, and Power 2019 等を出版している。

彼がEpic とAppleの裁判についての意見をACMの雑誌に載せている。かいつまんで紹介しておく。

Epic対Appleとアプリストアの未来


マイケル・A・クスマノ著
コミュニケーションズ・オブ・ザ・ACM、2022年1月、第65巻第1号、22-24ページ

Epic versus Apple and the future of app stores
ACMとはAssociation for Computing Machiner の略称で、wikiによると、1947年に創設された世界最大の科学的かつ教育的なコンピュータサイエンス学会である。余談になるが、計算機科学分野での最高の栄誉とされている「チューリング賞」はACMが出している。
iPhoneなどスマートフォンはほんの12年ほど前に市場に登場してくる。当時はソフトウェアを探し、インストールすることが大変だった。そこに「オンラインアプリストア」の考えが登場して、簡単にソフトを選んでインストールできるようになった。そしてこの仕組みはソフトウェアビジネスを根本的に変えた。アプリストアは、ユーザーが必要なソフトウェアがみつかる便利なものであったが、スマートフォンやパソコンのOSと連動しており、ユーザーがそこでさまざまな企業のソフトウェアを見つけることができるマーケットプレイスとして機能した。
  このマーケットプレイスにはプラットフォームへのアクセス、ユーザーインターフェース、互換性、価格、支払い方法、品質、セキュリティ、知的財産権などを規定する一連のルールがすべて含まれている。この仕組みを活用して現在多くのソフトウェアが販売されている。2021年現在、Android OSを搭載した携帯電話やタブレット端末向けのGoogle Playストアには約350万本、iPhoneやiPad向けのAppleのApp Storeには約220万本のアプリが登録されている、という。
  さて、今回のEpic vs Appleの動きは、今後の法的判断や政府による法整備によって、appleやgoogleによるアプリストアの運営が困難になることをしめしている、とクスマノ氏は説明する。実はアプリストアは、20年ほどまえから登場してきたプラットフォーム・ビジネスの重要な要素になっていた。Apple社は、2020年にApp Storeから(大半のアプリが無料であるにもかかわらず)約200億ドルの利益を得ており、さらにiPhoneアプリの売上のうちモバイルゲームが約70%を占めている。一説には、AppleのApp Storeの利益率は78%にも上るという。
  我々はこの動きを当然のようにおもっている。14年前の2008年にApple App Storeが登場して、ソフトウェア会社がビデオゲームのソフトウェアライセンス、アップグレード、購読、バーチャルグッズを販売すると、その30%を関税としてappleに支払うことになっている。スマホゲームからソフトウェアゲームへと業界が動いているときに、30%の税金の話を筆者(奥出)はあるところで聞いて、なんという利益率だ、と思った記憶がある。それにもかかわらず、アプリストアは、その利便性と流通力から、スマートフォンユーザーがソフトウェアにアクセスし、開発者がユーザーにアクセスする主要な手段であり続けてきた。このビジネスモデルを今回ゲーム会社のEpicが公然と批判して、裁判を起こした。その流れを前回は見てきた。
  フォートナイトを知っているだろうか。これは戦闘ゲームで、なんと約2億人のユーザーを持ち、無料で遊べる。だが、プレイヤーは様々なアイテムをカスタマイズしたり、衣装やアクセサリーを購入したり、バトルパスを購入することが出来る。これは有料でV-Bucks(ゲーム内通貨)を購入して支払う。推定70%のプレイヤーがこうしたゲーム内購入を行い、2019年には1カ月あたり3億ドルにも上るとクスマノはこの論文で説明している。ポイントは、Appleが初期支払いの30%だけでなく(フォートナイトは無料なのでここではこの税金は発生しないが、)ユーザーがゲームをプレイしながら購入する「アプリ内」支払い-グレードアップやアクセサリーの購入にあてる、から30%の税金をとるのは不当だ、というものだ。
  これに対してAppleは、EpicがApp Storeを通さないアプリ内課金を禁止する利用規約に違反していると主張し、フォートナイトをApp Storeで販売できないようにして、またiPhone上でプレイできないようにした。Epicは2021年8月にAppleを提訴した。Epicはユーザーはアップグレードやバーチャルグッズを直接(Epic Games Storeなどを通じて)購入し、その売り上げの30%をappleに払わないで済ませたい、と主張したのだ。この訴訟は2021年5月に裁判となり、9月に最初の判決が下され、Epicは敗訴した。裁判官であるYvonne Gonzalez Rogersは、AppleがサードパーティのiPhoneアプリマーケットプレイスやアプリ内課金を禁止し続け、30%の手数料を徴収することを認めたのだ。 だが、ここで注目すべきは、判決はモバイルゲームのみを対象としている。他のソフトウェア製品やデジタルサービスのアプリストア販売に対する扱いについては言及していない。
  クスマノ氏は裁判を総括して、プラットフォーム・ビジネスが今後成立するかどうかが問われていくとする。プラットフォーム・ビジネスは、定義上、2つ以上の市場サイドを接続し、それらのサイド間でネットワーク効果を生み出すことに依存するものである。ネットワーク効果とは、同じプラットフォームやサービスを利用するユーザが増加することによって、それ自体の効用や価値が高まることである。 例えば、電子メールを使うユーザーが増えれば増えるほどメールを送信できる相手が増加し、メール自体の価値が高まる、というのも1つの例だ。スマートフォンやコンピュータは、アプリケーションなしにはほとんど価値を持たず、そのほとんどはサードパーティから提供されている。したがって、本来であれば、プラットフォーム企業は開発者に報酬を支払うべきである。ところが、現状においては、アップルやグーグルは、独立系ソフトウェア会社が生産した何百万ものアプリケーションに対価を支払うどころか30%もの重税を課し、自らソフトウェアやサービスを開発していない。一方、ユーザーは現状ではマーケットプレイスや決済システムがなければ、ユーザーは何百万ものアプリケーションを簡単に検索することはできない。というわけで、アプリストアは今後も存続し、プラットフォーム企業、アプリケーション開発者、そしてユーザーに特別な価値をもたらす。しかし、私たちがすべきことは、これらのマーケットプレイスを管理し、それらが生み出す富を共有するための、より公平な方法を見つけるこことだとクスマノ氏は論文を結んでいる。

メタバースは社会をよりよく(better)にすることで情報社会に破壊的イノベーションを起こす


  しかし、詳しく紹介した裁判記録から、Epic社の述べていることを考えると、メタバースの登場でプラットフォームビジネスは成立しなくなるというのが本来の流れではないだろうか?基本の考えは破壊的イノベーションである。この言葉使う人は多いが、正確な定義を知っているだろうか。クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』(1997)で提示した考えで「破壊的」(disruptive)という言葉の理解がポイントである。これは破壊的という言葉が非常に高度な先端的な技術を示していると誤解されて使われていて、技術系の投資家はそうした技術を探す。だが、クリステンセンのいう「破壊的イノベーション」とはいわゆるブレークスルー技術ではない。彼はハードデスクの破壊的イノベーションの研究を事例に使っているが、最初はオモチャのように見えるプロダクトが、やがて主流の大手企業の市場を徐々に侵食する現象を破壊的イノベーションという。大容量高速の8インチハードデスクの会社が小容量低速の5インチハードデスクの会社にとってかわられる。このとき8インチハードデスクを製造していた大手企業は5インチを製造する新興企業にかてない。なぜなら、5インチハードデスクを必要としているPC市場が勃興しており、8インチハードデスクをつかっていたミニコンピュータ市場が縮小していたからである。ミニコンからパソコンへ動きをとめることは構造上難しい、とクリステンセンは述べたのだ。

それまで高価で複雑で、資金やスキルのあるごく少数の人だけがアクセスできたものが安価で単純な構造になって、広く多くの人が使えるようになるときに破壊的イノベーションがおこる。コンピュータ産業は「ミニコン→PC→ラップトップ」と動いてきた。8インチ、5インチ、3.5インチのハードデスクが対応する。その後スマートフォンがプラットフォームになる。最初にこうした次のプラットフォームの候補が登場した時には、価格も技術も収益性も低い。だが、こうした技術こそが既存の市場を破壊するイノベーションとなるのだ。

破壊的イノベーションとは、ビジネス構造を破壊するようなイノベーションの事である。つまり、かつては高価で高度に洗練された製品やサービスを、より多くの人々がより手頃な価格で利用できるものにするイノベーションのことだ。誰が何をつかって誰を破壊しようとしているのか、を見ることが非常に大切になる。メタバースを破壊的イノベーションなのか?とするとどのような市場を壊そうとしているのか?

メタバースを巡るappleとEpic社の動きは破壊的イノベーションとどのように関係しているんだろうか?メタバースという技術があって、それが社会に普及していく戦いなのだろうか?いま没入型三次元インタラクション技術を巡る理論はそこにフォーカスが当たっている。だが、VR技術を考えるとそれほど新しい技術ではない。経営学を勉強した人なら、これは技術では無くてプラットフォームの戦いだ、と言うだろう。googleもfacebook もAmazonもプラットフォームである。MacやPCもかつてのプラットフォームである。携帯電話もプラットフォームである。そして当然iPhoneもプラットフォームである。プラットフォームの戦いなのか、非常に高価な技術が組み合わせを変えて既存の市場を壊し、新しい顧客を見つけようとしているのか?Ballはそう考えない。

BallはThe Metaverseの第1章  A brief history of the future、 これからやってくる未来、を理解するための短い歴史と題された章の最後で、メタバースは軍事技術の投資が市民社会に拡がって出来上がったインターネットとはことなり、商業とデータ収集と広告と仮想プロダクトの販売によって作られてきた技術だという。さらにコンピュータ領域で、巨大な企業が市場を押さえ我々の生活を支配したあとで登場してきた技術だという。だが、こうした技術のおかげで大量のデータを人工知能や機械学習で処理できるようになり、メタバースが生まれた。インターネットのビジネスモデルは広告とソフトウェアの販売であった。利用者の数というスケールが問題となり、利用者がいま何をしているのかの情報でビジネスが動いていった。さらに、インターネットで大きくなった会社は自己の利益をまもるために本来オープンではじまったエコシステムを閉じるようになっていった。

プラットフォームを作ることで、ユーザーと開発者の基盤を確保すると同時に、新しい分野に進出し、潜在的な競争相手を阻止するために、各巨大企業は過去10年間、エコシステムを閉鎖してきた。これは、多くのサービスを無理やり束ねたり、ユーザーや開発者が自分たちのデータを簡単にエクスポートできないようにしたり、様々なパートナー・プログラムを停止したり、自分たちの覇権を脅かす可能性のある営利目的やオープンスタンダードさえ(完全にブロックしないまでも)阻害したりすることで行ってきた。これらの策略は、プラットフォーム会社が比較的多くのユーザー、データ、収益、デバイスなどを持つことから生じるフィードバックループと混ざり合い、インターネットの大部分を効果的に閉鎖しているとBallは糾弾する。 今日、開発者は基本的に許可を受け、支払いを行わなければならない。ユーザーは自分のオンライン・アイデンティティ、データ、あるいは権利の所有権をほとんど持っていないのだ。

人々がメタバースのディストピアを懸念するのは、むしろ妥当なところだとBallは続ける。 メタバースという概念は、私たちの生活、労働、余暇、時間、富、幸福、そして人間関係が、デジタル機器やソフトウェアによって拡張されたり支援されたりするだけでなく、仮想世界の中で費やされる割合がますます高まることを意味するからだ。ここの視点は非常に重要である。PCの前で過ごす時間を考えてみるといい。40年前にはせいぜい文章を書くときぐらいだったのが、メールを書いたり読んだりすることに使い、プレゼンテーションを準備するためにコンピュータの画面を見るようになった。ニュースやメッセージを読み書くことに時間を使うようになる。携帯電話やスマホが登場すると、友達とメッセージを交換したり、自分の日記を書いて公開したりすることに費やすようになった。メタバースは何百万人、何十億人という人々にとって、デジタルとフィジカルの両経済の上に位置して両者を統合する存在となっていく。その結果、仮想世界を支配する企業は、今日のデジタル経済をリードする企業よりも支配的になる可能性が高い。ここにプラットフォームの創出では無くて破壊的イノベーションがおこるのだ。今日の巨大デジタル企業の市場が破壊されるからである。

その破壊あるいは変化はどのようにおこるのか。それはメタバースが、データの権利、データセキュリティ、誤報と過激化、プラットフォームのパワーと規制、不正使用とユーザーの幸福など、今日のデジタル社会が直面する難しい問題の多くをより明確にすることから始まる。メタバース時代をリードする企業の哲学や文化、あるいはビジネスにおける優先順位は、単にバーチャルであるとか報酬が多いということではなく、未来が現在よりも良くなるためにむかっていくのである。

我々が、ユーザーとして、開発者として、消費者として、現状をリセットして自分の未来を決定する能力をもっているということを確認できるのがメタバースなのだ。ここが理解できると、メタバースは、人々の距離を縮め、進化のために破壊されねばならない産業を変革し、より平等な世界経済を構築するチャンスでもあるのだ。メタバースが持つ可能性がほとんど理解されていないのが現状だ。ここを変えていきたい、とBallは第1章を結ぶ。良き未来のためのメタバースの短い歴史を理解した上で、細かな議論に移っていくのだ。

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メタバース 徹底して解るまで その10

okudenaohito

2022年8月16日 19:31

アメリカ憲法と宗教


政教分離は日本だけの規則ですか、という質問をうけたのでちょっと説明をしておきたい。

アメリカ合衆国憲法修正1条「宗教活動の自由」では、宗教活動の自由を、単に内心領域における信仰の自由を保障するだけではなく、信仰に結びついた行為の自由をも保障する趣旨の規定であるとされている。日本国憲法第19条「信教の自由」も「宗教的行為の自由を保障する」としている。
また、特定の政党が特定の宗教集団に対して何らかの便宜をはかることは、政府が特定の宗教(あるいはすべての宗教)を有利に扱うことであり、「国教樹立禁止条項(Establishment Clause) 」に抵触する。憲法学者は一般的にこれを政府が宗教に干渉あるいは関与してはならないと解釈している。
このあたりは大学でアメリカ憲法をならうと最初にでてくることである。だが、この二つ、矛盾していないか?と思う。アメリカの大学院でアメリカ憲法の文化史的意味を勉強していたときに担当していたある大物教授が、「これは政府が宗教に干渉してはいけない」と解釈してはいけないといった。独立当時のアメリカ社会はジョナサン・エドワードなど大物の宗教家がいて社会を動かして大変な権力だった。民主主義の社会を作ろうとしたジェファーソン達は「宗教の人たちは政府に干渉しないでね」といったのだという。つまり、宗教活動の自由はいいけど、僕らが政治やっていることに干渉しないでくれる?と言ったと解釈するのだ、という。建国当初からアメリカは多様な宗教的活動が盛んで、それにたいしてアメリカ合衆国連邦最高裁が最初の解釈を修正しながら、いろいろな解釈を加えてきた。が時代によってそれは大きく変わる。トーマス・ジェファーソンはこんな人だ。


これがアメリカ合衆国憲法である

レッシングのコードはここに遡って議論をしている。


アメリカが憲法で決めたような国になったかというと、どうだろうか。公民権運動によてセグリゲーションを撤廃したあたりはさすが、であったが、最近になってあれ!という事が沢山起きている。とりわけ、レーガンからパパブッシュは南部のファンダメンタルな宗教右翼と共和党の連携が選挙に大きく影響した。宗教右翼、さらには日本に多くある福音派教会のなかでアメリカ宗教右翼と近いところとどう向き合えばいいのか。またカルトの問題もある。共産主義への恐怖が戦後いくつもの今も生き残っている戦略を実行してしまった。さらにはルーズベルト以降ようやく立ち上げた重工業が崩壊して大量の人が取り残された。日本の戦後成長も似たような問題を抱えてきた。こうした大変動の時代における我々心の問題を宗教の視点から考えるのが宗教学という分野だ。

宗教学の宗教に関する概念も大きく変わる。僕が勉強したときは市民宗教とかいわれて、宗教は個人が自発的な選択によって加入する行為とされていた。難しく言うと公共(パブリック)ではなく私事(プライベート)とされていた。これは国家は個人の信仰の自由に介入してはいけない、といことである。政教分離・信教の自由はこう考えられていた。それにたいして当時の民主主義は逆に「宗教は国家の活動に介入しないでね」と言っていたというのだ。そして、この時代の政治は普通選挙法によって選ばれた代議士が行うものではなかった。

というわけだが、宗教学の立場からすると、実際にいろんな事が起こっている。信仰はパブリックアクションを生み出し続けている。これってアメリカ建国時代の宗教観からすると憲法的にアウトだ。建国時のファナティックな宗教はその後「俗化」してスピリチュアルなパワーを失ったと、40年前には習ったが、その後のアメリカや日本の歴史はスピリチュアルな集団が増えていった。


ようするに何が起こっているのかよく分からなくなっているのだ。前回のアメリカの選挙戦の分析でアメリカの専門家が「分断が」「分断が」と叫んでいて、とても専門家の分析とは思えない状況だったが、公共の存在に政治と宗教が混在していた、つまり分断と言うより融合状態だったわけである。公共的領域と私的領域の融合であり、分断ではないのだ。
こうなってしまった理由はどこにあるのか?最近僕がおもっていることはあるのだが、それはまた追々。いずれにしても、憲法は大事、ということです。不完全だとしても政教分離をきめた近代憲法から始めないと大変な事になる。暗黒時代に戻ってしまう。アメリカ憲法の最初の解釈にもどるなら、宗教は政治をほっておいてくれ、僕らは自由に政治をしたい、という解釈になる。しばらくメタバースの定義を紹介するが、この考え方を基本に持っておくことがとても大事になる。


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メタバース 徹底して解るまで その11

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okudenaohito

2022年8月16日 19:35

次回からメタバースの定義に向かっていくが、そのまえにいまここで我々が置かれている状態を説明してみたい。

メタバース研究をまとめ続けているが、「メタバースは忍耐強く勉強しないと分からないので頑張ろう」という趣旨の記事がワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルあたりにちらほらでてきている。哲学的にも技術的にも難しい問題をもっているが、なによりも25年くらい前に登場したお間抜け経済理論ニューエコノミーの繰り返しじゃないか、という議論が動き始めた。もう忘れたと思うがSONYの社長が一ツ橋の経済学者と一緒にぶち上げたやつだ。リーマンショックでぶっ飛んだ経済理論だが、これによってアマゾン、グーグル、Facebook, など巨大IT企業がうまれた。当時、IT革新によりビジネスの取引コストが低下 し、新規の参入障壁が低下し、その結果競争 が厳しくなり、それに打ち勝つためには各企業 は大幅なコスト削減、生産性の向上を目指さね ばならならなくなっていた。IT革新のネットワーク 効果、限界コストの低下から各企業の戦略として「収穫逓増」という経済を実現することが重要と、とされた。それを担うのがライシュのいう「シンボリックアナリスト」だ。 いまそこらへんでおこなわれているメタバースビジネス論とかマーケティング論を話している感じの人たちね。ペラッペラの言葉で話すパフォーマー。恥ずかしい。でも20年前もいっぱいいた。だが、結局は分散化して自由になった経済活動が、巨大資本と巨大システムで統合され、そこでの利益拡大の活動を支援する大幅なコ スト削減、労働生産性の伸びなやみ、が続いている。さて、これをどう打開するのか?メタバースという技術環境をどのように活用してここを乗り切るか。収穫逓増みたいなインチキ広告に(記事、講演会、書籍)にだまされるな、20年前の失敗を繰り返すな、というわけだ。ライシュたちは悔い改めたと言っているが、日本の当時の経済学者経営学者もその末裔も、ちゃんと考えた方がいい。メタバースで「収穫逓増」はおきない。利益拡大もおきない。しかし、すくなくともインターネットが巨大なシステムになって現在の状況を生み出した動きをとめて、もとに戻すことはできる。だがそれには理論とビジョンが必要で、忍耐深く学ばないとわからないことなのだ。あすからSDGsなんて無理。そこにむかって辛抱強くいくしかない。高層ビルをたててビジネスを拡大なんて無理。丁寧に街作りをしなくてはいけない。「辛抱」が大事なのです。辛抱して理解することが大切なのです。これがBallのメタバース論のメッセージです。

前に書いたが、大学の一般教養の経済学は40年くらいまえには基本ミクロもマクロもケインズ的な枠組みが強くて、サミュエルソンの経済学、ちょっと進んでジョーン・ロビンソンの厚生経済学が中心だった。普通の需要と供給の平衡状態の計算と政府による支出のメカニズムが説明された。お金持ちから税金をとって経済的に低い状態にあるひとに再分配をする。この仕組みがイギリス経済を衰退させて英国病を生んだ、といわれはじめ、サッチャー政権が大きく政策をかえていった。アメリカでフリードマンがここを理論化した。要するに稼いだやつから稼げなくなったやつへの所得の再分配をやめる、ということだった。で、僕がアメリカに留学した頃には素晴らしかったアメリカの医療が10年くらいかけて崩壊していった。このときシカゴ大学でフリードマンの同僚だった宇沢弘文は激怒して、『自動車の社会的費用』とかをかいた。この経済政策のときに使われたのがハイエクであり、リバタリアニズム的な考え方とされる。たしかにアメリカのpositivismと言われるアイン・ランドの小説と思想を好む人たちは、自由に経済活動をして稼げないやつはほうっておく、という考え方をする。収穫遁増という間抜け理論が1990年代に登場して、金持ちは稼いだ金を政府に吸い上げられることなく、金持ちになっていった。で、社会はボロボロになった。


日本では小泉政権の時に大きく舵をきって、アメリカのフリードマン系の経済学者でも手をつけられなかった、大企業の雇用の責任を免除して、「労働流動性」を増加させるという禁じ手を実行して、非正規雇用が大量に生まれた。なぜこの政策を採用したのかよくわからないが、そうなって人材派遣会社天国になっった。
こうした社会を組み替えることが出来るのがリバタリアニズムなのだが、フリードマンの経済理論とのイデオロギー的な区別が明確につかないで、混乱したままである。現状の「リバタリアニズム」のイメージとブロックチェーンが可能にするリバタリアニズムは違っている。が多くのブロックチェーンのエンジニア達はフリードマン的なリバタリアニズムか、アイン・ランドのposotivism的なリバタリアニズムを哲学的武器として思考してコードを書いている。だが、技術としてのブロックチェーンはオープンソースでフリーという流動性と、信用の連鎖という不変性を共存させる興味深い技術で、これをふまえた新しいリバタリアニズムが求められている。技術的に言うと分散型台帳とp2p認証である。これは暗号貨幣だけではなく社会の様々な分野で応用可能なものなのだ。組織を否定するが組織を運営する、この矛盾する特性、透明性と匿名性、を生かした技術を支える哲学の構築がいま非常に求められている。言ってみれば、ニューリバタリアニズムである。このあたりこれからしばらくよく考えて、新しいメタバース設計に向かっていきたいと考えている。
あしたからBall のメタバースはこの議論に入っていく。ちょっと前振りをしておきました。

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メタバース 徹底して解るまで その12

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okudenaohito

2022年8月18日 06:28

メタバース 徹底して解るまで1 で紹介したWWWの歴史について指摘がいくつかあるので、追記しましたが、ここにも上げておきます。歴史をどう書くかは歴史的事実とそれを解釈するビジョンのせめぎ合いで、今後Ballの説の紹介も、僕のコメントを増やしていこうと思います。今後もできるだけ指摘された点には答えていきます。
ーーーーーーーーー
Ballの語る「歴史」として紹介していますが、そこへの明確な言及がなくて、「これって、正しいの?」みたいな指摘があります。たしかに、僕も30年くらいここに付き合い、HTMLの初期にいろいろ活動をしていた経験と当時WWWについて言われていたことと違うなという感じはありましたが、そういう「歴史」も確かにあるなとおもい紹介しています。このあたりここでもっと書いておくべきだったと思い、追記で「定説」を加筆しておきます。

具体的には、Hypertextの成り立ちからHTMLまでの歴史の部分で、「CERNではなく米国国防総省によってWWWができたような記述はおかしい」といった指摘です。たしかに、World Wide WebはCERNに所属していたティム・バーナーズ・リーが開発したものです。これがMosaicによって使いやすい仕組みが加えられて一気に普及しました。このとき、国防総省(DoD)の資金援助があったかは英語のWikipediaではW3Cに対してDoDの機関であるDARPAが協力をしたとあります。つまりBallの説です。僕はBallの本を読むまでCERNの説で考えていました。ですが、ブッシュが1930年代からアメリカの軍事戦略に深く関わってきたというBallの本の流れとメディアラボが軍需からの研究資金がなくなって、バブル期の日本に営業をかけたという話を実際に現場で見聞きしていて、Ballの書く「歴史」もあるかなと紹介しています。二つの解釈ができるという点を本文でコメントとしてしっかり書いておくべきでしたね。ここに追記しておきます。

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新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。

新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。

メタバース 徹底して解るまで その13

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okudenaohito

2022年8月18日 19:09

Ball 第2章 混乱と不確かさ confusion and uncertainty

メタバースという言葉が混乱しているのはデジタルメディアの業界のリーダーが自分の会社のビジネスモデルにあわせて説明しているためである。

たとえばマイクロソフトのCEO Nadellaはメタバースを「世界をアプリで描かれたキャンバスにする」と述べている。Windowsを拡大してAzureをクラウドとして提供して、コミュニケーションのツールとしてMicrosoft Teamsを提供して、ゲーミングプラットフォームとしてXboxを提供して、メタバースとしては最近買収したマインクラフトと昔から独自に展開してきたマイクロソフトフライトシュミレーターを使う。

Facebook のザッカーバークは没入型ヴァーチャルリアリティをつかい、Oculusでその世界に没入してソーシャルネットワークサービスを行おうとしている。Epic の提案するメタバースは、友達と自由におしゃべりをして、ブランドのお洋服を着ておしゃべりをしたりすごすことであり、Fortniteにおいて提供されている。これはFacebookで提供されているような広告だらけの世界とは違うとEpic CEOのSweeneyは述べる。

中国の大手デジタル企業であるTencent、Alibabaなどもメタバースへの参入を検討している。(Epic の株の相当部分はTencentが持っている)。だが、どの企業も自分の力でメタバースを経験していないのではないか?だが、大切なことはメタバースを実現する技術は現在利用可能な状態にある。だが、技術者のコミュニティはメタバースを構成する基本的な技術について紛糾した議論を続けており、VRにARを含めるべきかとかVRはVRゴーグルのような没入環境でのみ経験できるのか、とかの議論が続く。そして、あまりにも多くの種類の暗号通貨がブロックチェーンによって作られている。メタバースが今日のインターネットの分散化だとすると、プラットフォームの議論はなりたたないし、利用者のデータをプラットフォームが所有するという前提は成り立たない。

メタバースは一社によってのみ運営されるのではメタバースではない、という意見をUnityのCEOであるJohn Riccitielleは持っているという。Unityはクロスプラットフォームのエンジンを提供していると言うのである。もちろん、ザッカーバークはメタバースはひとつだという。インターネットはthe internetであって、an internetでもthe internetsでもない、とするのだ。

メタバースの説明で最近よく使われるのは2011年のErnest ClineのReady Payer Oneである。半年ほどまえに筆者もメタバースの説明をするときにこのイメージは利用したことがある。


ここで定義されるメタバースはWilliam Burns IIIが述べているものでVRなどの世界の学術論文では20年以上まえからこの言葉が使われていた。

彼によると、メタバースとは、仮想的に拡張された物理的現実と、物理的に持続する仮想空間が融合してできた集合的な仮想共有空間であり、すべての仮想世界、拡張現実、インターネットの集合体を含む。メタバースという言葉は、「メタ(beyond)」と「ユニバース(universe)」という接頭語を組み合わせたもので、未来のインターネットの概念を表すのに使われる。この概念は、持続的に共有される3D仮想空間で構成され、認識された仮想宇宙にリンクされている、とある。最近はlikedinでこのあたりの説明を繰り返している。

この定義はStephensonのSnow Crashを継承するものだが、2011年に小説が出版され、2018年にはスピルバークによって映画化されて我々の想像力のなかにメタバースのイメージをつくったといってよい。

Ballはここで描かれるメタバースのイメージを1990年代のインターネットのイメージと比べている。当時「情報スーパーハイウェイ」や「World Wide Web」の上をキーボードとマウスで「サーフィンしよう」と言っていたわけだ。おなじように、ただし今回は3D空間で、というわけだ。25年たって振り返ってみると、このときのイメージは貧困でどのような世界がくるのか、に関しては人々の間に誤解を生んだ。リアルと仮想の世界を悪の技術資本主義者が支配する帝国を破壊するというストーリーもチープならセコンドライフが次の世界を作ると言われていたが、現在では小規模な愛好者だけの世界に縮小している現実も説明しない。このような世界の可能性を見せるのは現在のインターネットの巨大企業が政府から独占禁止法で訴えられるのをさけるためではないかといううがった意見もある。このような視線からメタバースを考えることはあまりないので、ワシントンポストの記事を紹介しておこう。

”How Facebook’s ‘metaverse’ became a political strategy in Washington
With a buzzy push for next-wave virtual reality hardware, the tech giant is trying to outrun its mounting woes.”
By Elizabeth Dwoskin, Cat Zakrzewski and Nick Miroff
September 24, 2021

そもそもメタの発表も唐突だった。2021年、フェイスブックは多くの批判にさらされていた。誤報の拡散、プライバシーの乱用、競争の圧殺、民主主義の弱体化などでフェイスブックブランドは大きく毀損されていた。回復を狙って選択されたのが仮想世界、「メタバース」だ。メタバースでは、人々はゲームをしたり、暗号通貨の支払いをやり取りしたり、会議に参加したりすることができる。だが、Facebookにとってそれは、Facebookが再びクールなブランドになるためだった。

一方で、これは政治的な戦略でもある。連邦政府で独占禁止法の政策をたてている人にむけて、政策立案者の間で会社の評判を回復させ、次世代インターネット技術の規制を逃れるためにキャンペーンだというのだ。

フェイスブックはシンクタンクと会合し、来るべき仮想世界のための標準やプロトコルの作成について議論しており、これによりフェイスブックは、連邦取引委員会が昨年起こした大規模な反トラスト法違反訴訟から話題をそらすことができる。Facebookのグローバルアフェアーズ&コミュニケーション担当副社長であるニック・クレッグとFacebookの運営責任者であるシェリル・サンドバーグは、ザッカーバーグに代わって、ワシントンにおける対応をおこなっており、ザッカーバーグは新しい最高技術責任者(CTO)アンドリュー・ボズワースとともにFacebookをソーシャルメディア企業から未来型技術プロバイダーへと転換させようとしているという。

ハーバード大学メディア・政治・公共政策研究所のジョアン・ドノバン研究員は、
「技術を新鮮で新しく、クールなものに見せかけることができれば、規制を回避することができる。そして、政府がそれに追いつくまでの数年間は、それで防衛することができるのです」

と述べる。

FacebookのスポークスマンKevin McAlister氏は、同社は数年前にバーチャルリアリティに大きく賭けていたと語った。

我々は、それがモバイルインターネットの後継であるため、メタバースの構築を支援することに注力しています "と彼は声明で述べている。「これは評判ではなく、基礎的なものです。責任を持って行いたいので、政策立案者、学者、パートナー、その他の専門家と今話しているところです。"

現実にはこうした努力にもかかわらず、フェイスブックは議会での反トラスト法案、8月にFTCが再提訴した反トラスト法、そしてソーシャルメディア企業のビジネスモデルや製品を弱体化させかねない欧州やインドでの差し迫った法律などの対応に直面している。この10年足らずの間に、Facebookはアメリカのイノベーションの象徴として賞賛された会社から、テクノロジー・プラットフォームがいかに多くの社会的害悪を生み出してきたかの象徴に成り下がった。このような事実の発覚により、世界中でテック業界に対する法律や訴訟が相次いでいる。

2016年の大統領選挙で、Facebookがケンブリッジ・アナリティカに利用されて、プライバシースキャンダルがおた。トランプ政権時代、ザッカーバーグは共和党との関係も改善せず、一方で盟友だった民主党とも距離ができた。Facebookのプラットフォーム上で極右過激派が活動し、選挙の嘘や誤報、プライバシー侵害が蔓延して、多くの民主党議員が同社に反感を抱くようになった。フェイスブックはバイデン政権での受けの良さを期待したが、コロナウイルスの誤報の拡散をめぐってホワイトハウスとケンカになっている。

こんな状況の中で、メタバースのコンセプトは、同社のこれまでの自主規制の取り組みの一部とも符合する。2019年には、トランプ氏の活動停止など、コンテンツの決定を裁定する独立した監視委員会を設立した。

フェイスブックの政策チームのメンバーは、「次」のインターネットのためのルールづくりのパートナーとなりうるシンクタンクや他の企業にメタバースのアイデアを早期に紹介することで、こうした敵意を克服できるかもしれないと考えている。匿名を条件にワシントンポストの記者に数人の関係者が話をしており、Facebookのワシントンチームは、FTCの訴訟や最近ワシントンで提案された反トラスト法関連の法案など、反トラスト法から話をそらすことを明示的に命じられているという。

さて、破壊的イノベーションの理論からすると、政府の介入がなくても巨大になった製品やサービスはちっぽけなイノベーションが滅ぼしてしまうことがある。EpicがAppleやGoogleに対して行っている裁判は、EpicがAppleやGoogleが得ている巨大な利益は不当だ、と主張するもので、彼が考える来るべきネット宇宙つまりメタバースの実現を邪魔する、というものなのである。 Facebookの主張とは大分違うのだ。

破壊を生むには混乱は必要なことである ( Confusion as a Necessary Feature of Disruption)

さて、ここまでをふまえて、歴史の針を25年ほど前に戻したい。wikipediaはインターネットを次のように2000年代の半ばに定義してそれはいまも当時とそれほど変わっていない。特にインターネットプロトコールスイート(Internet Protocol Suite)はTCP/IPと呼ばれネットワークとネットワーク、さらにディバイスをつないでいくものとされた。以下、wikipedia internetから必要なところをまとめておいた。

(ところで、wikipediaの英語のinternetと日本語のインターネットでは微妙に表現が異なる。日本の状況をいれて説明しているということもあるが、切り口が大分違う。では英語が信頼できるかというと、wikiから、サイテーションが明らかでないところがあるとウォーニングが出ていたりする。まあ歴史がさだまらないところも破壊的イノベーションとしてのインターネットらしいとも言える。以下は英語wikiのinternetをまとめたものである。)

現在のIPネットワーキングは、1960年代と1970年代に発展し始めたLocal Area Network (LAN) とインターネットの開発が統合されたものである。それは1989年のティム・バーナーズ=リーによるWorld Wide Webの発明と共にコンピュータ及びコンピュータネットワークに革命をもたらした。

インターネット・プロトコル・スイート(TCP/IP)は、1970年代初期に米国国防高等研究計画局 (DARPA) による研究から登場した。1960年代後半に先駆的なARPANETの構築後、DARPAはその他様々なデータ転送技術における研究を開始した。1972年、ロバート・カーン (Robert E. Kahn) はDARPA情報処理技術室 (IPTO: Information Processing Technology Office) に雇われた。そこで彼は衛星パケット網と地上の無線パケット網の研究に取り組み、それらを横断して通信ができる事の価値を認識した。1973年春、ヴィントン・サーフ(Vinton Cerf): その当時既に完成していたARPANET Network Control Program (NCP) プロトコルの開発者)は、ARPANETの次世代プロトコルを設計する事を目標に、オープン・アーキテクチャ相互接続モデルに取り組むためにカーンと合流した。

(中略)

ネットワークの役割を最低限まで減らす事で、それらの特性が何であろうとも、ほぼ全てのネットワークを統合できるようになった。それによりカーンの当初の問題も解決した。よく言われる事は、TCP/IP(サーフとカーンの取り組みの最終成果)は「two tin cans and a string」(2つの空き缶と1本の紐、すなわち糸電話)でも機能するだろうという事である。

(中略)

ルーターと呼ばれるコンピュータはそれぞれのネットワークにインタフェースを提供し、ネットワーク間で行き来するパケットを転送する。

その着想は1973〜74年度にスタンフォード大学のサーフ ネットワーク研究グループによってより詳細な構造が作り上げられ、最初のTCP/IP仕様 RFC 675 を生み出した。

(中略)

その後、異なったハードウェア上の実用プロトコルを開発するため、DARPAはBBNテクノロジーズ、スタンフォード大学およびユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンと契約した。4バージョンが開発された。TCP v1、TCP v2、1978年春にはTCP v3とIP v3に分離、そして安定版のTCP/IP v4 - これは今日のインターネットでもまだ使われる標準プロトコルである。

1975年、スタンフォード大学とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン間で、2拠点のTCP/IP通信試験が実施された。1977年11月、アメリカ、イギリス、ノルウェー間で、3拠点のTCP/IP試験が実施された。1978年から1983年にかけて、複数の研究施設でその他いくつかのTCP/IPの試作が開発された。1983年1月1日、ARPANETはTCP/IPへ完全に切り替えられた。

1982年3月、アメリカ国防総省は全ての軍用コンピュータ網のためにTCP/IP標準を作成した。

だがTCP/IPがどのようにインターネット世界を変えていったかは、2021年にアップデートされたwikipediaのインターネットの項目を読むと、明確である。以下、英語版のwikiのinternetのhistoryの部分の紹介。翻訳ではなく、筆者のまとめである。

インターネットとワールドワイドウェブの沿革

1960年代、アメリカ国防総省の高等研究計画局(ARPA)はコンピュータのタイムシェアリングの研究に資金を提供した。インターネットの基本技術の一つであるパケット交換の研究は、1960年代初頭にポール・バランが、独立して1965年にドナルド・ディヴィスが始めたものである。1970年代、ARPANETは当初、ボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルスのいくつかの都市圏のいくつかのサイトのみを接続していた。その後、ARPANETは徐々に分散化した通信ネットワークへと発展し、アメリカ国内の遠隔地のセンターや軍事基地を接続するようになった。

ARPANETの開発は、1969年10月29日にカリフォルニア州メンロパークでレナード・クラインロックが指揮するカリフォルニア大学ロサンゼルス校ヘンリーサムエリ工学応用科学部のネットワーク測定センターとダグラス・エンゲルバートによるSRIインターナショナル(SRI)のNLSシステムの間で相互接続された2つのネットワークノードから始まった。3番目のサイトはカリフォルニア大学サンタバーバラ校カラーフリード対話型数学センター、次にユタ大学グラフィック学部であった。将来の成長の兆しとして、1971年末までに15のサイトが若いARPANETに接続された。(筆者注:エンゲルバートとユタ大学のサザランドがここで出てくるのはなんともしびれる。


Computer Networks: The Heralds of Resource Sharing

がタイトルなのだが、調べたらyoutubeである。

短いドキュメンタリー作品で、ARPANETとTCP/IPの話である。

ARPANETの初期の国際的な協力はまれであった。1973年にはスウェーデンのタヌムの衛星局を経由してノルウェーの地震観測網(NORSAR)に接続され、イギリスの学術ネットワークへのゲートウェイとなったユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのピーター・カースティンの研究グループにも接続された。ARPAプロジェクトと国際ワーキンググループにより、複数の別々のネットワークを単一のネットワークまたは「ネットワークのネットワーク」にできるよう、さまざまなプロトコルや標準が開発されることになった。 1974年にヴィント・サーフとボブ・カーンはRFC675でインターネットネットワークの略語としてインターネットという用語を使用し、後のRFCでもこの使用が繰り返された。(中略)

ARPANETへのアクセスは、1981年に全米科学財団(NSF)がコンピュータサイエンスネットワーク(CSNET)に資金を提供したときに拡張された。1982 年、 インターネット・プロトコル・スイート (TCP/IP) が標準化され、 相互接続されたネットワークの世界的な普及が可能になった。TCP/IP ネットワークへのアクセスは 1986 年に再び拡大し、全米科学財団ネットワーク (NSFNet) が研究者向けに米国内のスーパーコンピュータサイトへのアクセスを提供し、最初は 56 kbit/s で、後に 1.5 Mbit/s と 45 Mbit/s の速度で拡大した。1989年に米国とオーストラリアで商用インターネットサービスプロバイダ(ISP)が出現し、ARPANETは1990年に廃止された、とある。

懐かしいね。1990年慶應大学SFCキャンパスがオープンして、僕は助教授として着任。36歳だ。で、1991年にアメリカの大学で教えることになって、インターネットを使って相手の大学と授業シラバスと大学内の書店への教科書の発注をおこなった。あまりのコミュニケーションのスピードにびっくりしたのをおぼえている。

wikiでの歴史に戻ろう。

1992年、T3 NSFNETバックボーンが開通して、半導体技術と光ネットワーキングの着実な進歩は、ネットワークのコア部分の拡張と一般市民へのサービス提供に商業的に関与する新たな経済的機会を創出した。1989年半ばには、MCI MailとCompuserveがインターネットへの接続を確立し、50万人のインターネット利用者に電子メールと公衆アクセス製品を提供した。わずか数カ月後の1990年1月1日には、PSInetが商業用の代替インターネットバックボーンを開始し、1990年3月、コーネル大学とCERNの間に、NSFNETとヨーロッパを結ぶ初の高速T1 (1.5 Mbit/s) リンクが設置され、衛星を使用するよりもはるかに強固な通信が可能になった 。ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)0.9、ハイパーテキストマークアップ言語(HTML)、最初のWebブラウザ(HTMLエディタでもあり、UsenetニュースグループやFTPファイルにアクセス可能)、最初のHTTPサーバソフトウェア(後にCERN httpdとして知られる)、最初のWebサーバ、そしてプロジェクト自体を説明する最初のWebページなど、バーナーズはWebを実現するためのすべての道具を1990年のクリスマスまでには構築したのであった。1991年にはCommercial Internet eXchangeが設立され、PSInetが他の商用ネットワークであるCERFnetやtAlternetと通信することができるようになった。

とある。僕はこの時アメリカの大学で教えていて、あるとき多分ニューヨークタイムズの日曜版で、ヴィンセント・サーフがワシントンDCで大がかりなロビーイングをした、という記事を読んだ。当時光ケーブルでいくのかインターネットで行くのかの議論がアメリカであって、光ケーブルでインターネットだと主張したのだ。アメリカの「情報ハイウェイ」は実は光ファイバーの伝送で、この分野は日本が優れていた。ここに特化する投資がおこなわれていたときにインターネットだと述べたのである。

この動きを目の当たりにして、僕は歴史や文化理論を研究している場合ではないと、インターネット研究を最初からやり直そうとおもってアメリカの大学から帰国してSFCのキャンパスに再び舞い戻った。さて、寄り道はこのくらいで、wikiの記述に戻る。

1995年には、NSFNetが廃止され、商業トラフィックを運ぶためのインターネットの使用に対する最後の制限が取り除かれ、インターネットは米国で完全に商業化された。

世界のインターネット利用者。
利用者数

下記の表は世界人口に対して、全世界、途上国、先進国の人口あたりのインターネットの普及率を示している。

2005年:65億人ー16%ー8%ー51%

2010年 :69億人ー30%ー21%ー67%

2017年 :74億人ー48%ー41.3%ー81%

2019年:77.5億人ー53.6%ー47%ー86.6%

技術が進歩し、商機が相互成長を促すと、インター ネットのトラフィック量は、ムーアの法則に代表される MOS トランジスタのスケーリングと同様の特性を持ち始め、18 ヶ月ごとに 2 倍になる。この成長はエドホルムの法則として定式化されており、MOS技術、レーザー光波システム、ノイズ性能の進歩によって可能となる。

1995年以降、インターネットは、電子メール、インスタントメッセージ、電話(Voice over Internet ProtocolまたはVoIP)、双方向のインタラクティブなビデオ通話、ディスカッションフォーラム、ブログ、ソーシャルネットワーキングサービス、オンラインショッピングサイトなどのWorld Wide Webによるほぼ即時のコミュニケーションの増加など文化や商業に多大な影響を及ぼした。1Gbit/s、10Gbit/s、あるいはそれ以上の速度で動作する光ファイバーネットワークを介して、ますます大量のデータが高速に伝送されるようになった。

インターネットは、これまで以上に大量のオンライン情報や知識、商取引、娯楽、ソーシャルネットワーキングサービスを原動力に成長を続けている。1990年代後半、公衆インターネット上のトラフィックは年間100%増加し、インターネットユーザー数の年間平均増加率は20~50%と考えられていた。 この成長は、中央管理の欠如がネットワークの有機的な成長を可能にし、またインターネットプロトコルの非専有性がベンダーの相互運用性を促進し、1つの企業がネットワークに対して過度の支配力を行使することを防いだことに起因することが多い。2011年3月31日の時点で、インターネットユーザーの推定総数は20億950万(世界人口の30.2%)1993年にインターネットは対面電気通信で流れる情報のわずか1%を伝えただけだが、2000年までにこの数字は51%に増加し、2007年までにすべての電気通信情報の97%以上がインターネット上で運ばれるようになった。

以上、wikipediaから必要な情報をまとめておいた。Ballはこれを前提に話をすすめていく。今これを読むと日常、インターネットコミュニケーションに慣れ親しんでいれば、なんのことかなんとなく解る。だが、このwikipediaを1990年代にこれを読んだ人がいて、何のことを言っているのか解らない人がほとんどだっただろう。この文章からどのような未来がうまれてくるか、想像できる人は少なかったはずだ。だが、現在このwikiの文章を読むと、世界はこの通りになっていると解る。この30年間インターネットの展開のど真ん中である慶應大学SFCキャンパス、後に日吉に創設された大学院慶應メディアデザイン研究科(KMD)で教育研究をおこなっていて、このことは痛感する。

さて、この大変化はシュンペーターのいう破壊的イノベーションだとBallは述べる。唐突に現れてくるテクノロジーに対して我々は判断を誤る。おもちゃだとあざ笑うこともあれば、どの技術がどのように世界を変えて、それはなぜかということへの判断も誤る。あるいはこの変化が起こるタイミングを間違って判断する。

1998年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは「なぜほとんどの経済学者の予想は間違っているのか」という論文を書いている。非肉にも、彼が用いた例はインターネットであり、彼は「Metcalfeの法則とはネットワークにおける潜在的な接続数は、参加者数の二乗に比例することである。だとすると、お互いに話すことなどなくなるではないか。2005年までにはインターネットが与える経済的なインパクトはファクスと同程度に過ぎない」と述べた。経済学者クルーグマンも経済学者であり予言は間違っていた、というわけだ。

もちろん今から見るとクルーグマンの予言は間違っていることは経済学者でなくてもわかる。だが、その後しばらくクルーグマンの議論の影響があり、インターネットが社会に与える影響は過小評価されていた。映像コミュニケーションへのインターネットの影響もYoutubeやSnapchatのような子供の遊びだと思われており、ハリウッドがインターネットコミュニケーションに舵を切るのは2010年代の半ばである。

Ballは続ける。次世代のプラットフォームが必要だという議論はあってもそのプラットフォームがどのようなデバイスを使って、どのようなビジネスモデルで動くのかもはっきりしていない状態が続いている。その歴史を見てみよう。

1)マイクロソフト

マイクロソフトは1981年にIBMPCが導入されたときにMSDOSをOSとして販売することで巨大な会社となった。その後も対抗馬が出ると「Embrace, Extend, Extinguish 抱き込み、伸ばして、消し去れ」という悪名高い方法でしのいでいた。アメリカの司法省がマイクロソフトは市場での優位性を生かして正当な競争を破壊していると主張したところだ。

日本はインターネットとは無縁に携帯電話を進化させていた。1980年代から2000年、いやiPhoneが登場するまで携帯電話の産業規模は非常に大きかった。日本の経済はここで再生するのではないかという勢いがあった。この市場にマイクロソフトは出て行くことにして2010年にWindows Phoneを発売する。

Windows Phone (WP) は、2012年にWindows Phone 8が後継となり、2015年、Windows 10 Mobileがリリースされ、PCとの統合と統一を進めた。Microsoftはこの時Windows Phoneブランドを廃止したが、技術的にはWindows Phoneの路線を継承した。マイクロソフトはノキアとの大規模なパートナーシップを進め、最終的には70億米ドル強で同社のモバイルデバイス事業を買収した。しかし、AndroidとiPhoneが引き続きスマートフォン用のプラットフォームの支配権を持ち、アプリ開発者のWindows Phoneに対する関心は12年代中ごろまでには低下しはじめた。マイクロソフトは2016年に、買収したノキアのハードウェア資産に対して76億ドルの評価損を計上した後、Microsoft Mobileのスタッフを解雇した。 マイクロソフトは代わりにAndroidやiOSとのソフトウェア開発や統合を優先し始め、2017年にWindows 10 Mobileの開発を停止した。

http://allaboutwindowsphone.com/images/features/misc/htc7pro.jpg

https://assets.media-platform.com/gizmodo/dist/images/2019/12/10/20190121gizmodo_windows_phone.jpg

マイクロソフトのスマートフォンビジネスへの失敗の分析は次の要素による。

1)スマートフォンのドミナントファクターを理解できなかった。

これはタッチスクリーンを使う、というのがスマートフォンのドミナントファクターであった。これを理解できなかったのはマイクロソフトだけではなく、日本の携帯電話メーカーも同じである。小さな物理的なキーボードの開発に技術を投入していた。そして持っていた市場を一気に失った。

2)プラットフォームビジネスモデルが理解できなかった

これはOSのライセンスを販売するというマイクロソフトのビジネスモデルとはことなり、まず端末を販売する。そしてユーザーはこれを補助端末ではなく、プライマリー端末とする。

3) 誰でも使える機械にする

4)最適価格を当時で500ドルから1000ドルとする。

5)あらゆる事に使える(携帯電話は仕事と電話だけ)

だが、日本の携帯電話とマイクロソフトのWindows Phoneは2007年にiPhoneが登場すると同時に市場を一気に失ったのである。

なぜこんなことが起きたのか。当時のマイクロソフトのCEOであったSteve Ballmerは「500ドル!!さらに毎月お金を払う?こんな高い携帯電話をみたこともない、と述べ、ちゃんとしたキーボードがないなんて信じられない。e-mail マシンですらない。」と述べたという。iPhoneとiOSそしてgoogleのAndoroidはこうして破壊的テクノロジーとなって巨人であるマイクロソフトを葬り去ったのである。2016年にはインターネットの主流はスマートフォンのユーザーとなっていた。

2)Facebook

Ballはマイクロソフトに次いで、Facebookの動きを説明する。Facebookは商業化されたインターネットの最も成功した会社といわれ、最初はモバイルフォンの動きの判断を誤っていた。iPhoneが発売されてもFacebookはブラウザーベースのサービスを中心に活動をしていた。Appleがアプリストアを開始して、Facebookもそのプラットフォームを通じでアプリを販売したが、それはブラウザーをつかわないだけで、HTMLベースのいってみれば「シンクライアント」だった。2012年にFacebookはまったく最初からコードを書き直したFacebookアプリケーションを完成させてAppleのアプリストアからダウンロードできるようにした。ザッカーバークはHTML5に依存していた開発体制から脱却をすると宣言した。この転向はザッカーバークは遅れた、と述べているが、モバイルビジネスにピボットした成功例だと言われている。ピボットとは路線変更を意味するシリコンバレージャーゴンである。

その後Facebookは広告からの収益を5%から23%へと増大させた。つまりHTML5の時代に失っていた利益はぼうだいなものだったのである。また2014年に買収したWhatsApp、iOS版のFacebookアプリ発表の2012年の少し前に買収したInstagramが順調に広告の売り上げを伸ばしていった。

ドットコムバブル崩壊と破壊的イノベーション

こうしてビジネスの中心がPCからスマートフォンへと動く破壊的イノベーションが起こる流れは、ドットコムバブルの崩壊後の動きとして説明することが出来る。これについてもwikipedia英語版を参考にBallの解説に説明を加えておきたい。ちなみにwikipediaの英語版のインターネット関係の説明に関してはかなりの正確さがあり、かつちょっとでも間違うと強烈な突っ込みがあるので、他のwikipediaの説明に比べて、かなりの信憑性があると判断している。

ドットコムバブルはインターネットバブルとも呼ばれ、インターネットの利用や普及が大きく伸びた1990年代後半に起きた株式市場のバブルである。1995年から2000年3月のピークまでの間に、ナスダック総合株価指数は400%上昇したが、2002年10月にはピークから78%下落し、バブル期に得た利益をすべて手放した。ドットコムショックでは、Pets.com、Webvan、Boo.comなどの多くのオンラインショッピング企業や、Worldcom、NorthPoint Communications、Global Crossingなどの通信企業が破綻し閉鎖された。Amazon.comなど生き残った企業も、シスコシステムズが単独でその株式価値の80%を失い、市場資本金の大部分を失っている。

歴史的には、1840年代の鉄道、20世紀初頭の自動車、1920年代のラジオ、1940年代のテレビ、1950年代のトランジスタラジオ、1960年代のコンピュータタイムシェア、1980年代のホームコンピュータやバイオテクノロジーなど、過去の技術ブームと株式市場崩壊に類似しているといえる。

概要
1998年から99年にかけての低金利の影響で、新興企業が増加した。その中には、現実的な計画や管理能力を持った起業家も少なくないが、そのような能力を持たずとも、ドットコムのコンセプトの新しさによって、投資家にアイデアを売り込むことができた起業家が大半であった。2000年、ドットコムバブルが崩壊し、多くの企業が資金繰りに行き詰まり、倒産した。しかし、21世紀初頭には、多くの企業が生き残り、成功を収めている。

バブルへの序曲

1993年にリリースされたMosaicとそれに続くウェブブラウザにより、コンピュータユーザーはWorld Wide Webにアクセスできるようになり、インターネットの利用が一般化した。デジタルデバイドの解消、接続性、インターネット利用、コンピュータ教育の進展により、インターネットの利用が増加した。1990年から1997年にかけて、アメリカの世帯に占めるコンピューターの保有率は15%から35%に上昇し、コンピューターの保有は贅沢品から必需品へと変化した。1997年の納税者保護法(Taxpayer Relief Act of 1997)により、キャピタルゲイン課税の上限が引き下げられ、投機的な投資への意欲が高まった。 1996年の電気通信法の施行により、多くの新しい技術が生まれ、多くの人々がその恩恵を受けようとした。

特に、ネット通販からスタートした企業の多くが、大きな成功を収めた。オンラインマーチャンダイジングが収益性の高い追加収入源になり、オンライン・エンターテイメントやニュースの何社かは粘り強く事業を続け、最終的に経済的に自立した。従来のメディア(特に新聞社、放送局、ケーブルテレビ局)も、ウェブがコンテンツ配信のための有益で収益性の高い追加チャネルであり、広告収入を得るための新たな手段であることに気がついた。バブル崩壊後も生き残り、最終的に繁栄したサイトには、2つの共通点があった。それは、健全なビジネスプランと、ユニークとまではいかないまでも、特によく定義され、よくサービスされている市場のニッチであった。

バブルの発生
これらの要因の結果、多くの投資家は、ドットコム企業、特にインターネット関連の接頭辞や「.com」を社名に持つ企業には、どんな評価でも投資したいと思った。ベンチャーキャピタルは簡単に調達できた。IPO で大きな利益を得た投資銀行は、投機を煽り、テクノロジーへの投資を促した。経済の第四次産業の株価が急速に上昇し、その企業が将来利益を上げるという確信が重なり、多くの投資家が株価収益率のような従来の指標を見過ごして技術の進歩に信頼を置く環境を作り、株式市場のバブルを引き起こした。

1995 年から 2000 年の間にナスダック総合株価指数が 400%上昇した。1999年には、クアルコムが2,619%、他の大型株12銘柄がそれぞれ1,000%以上、さらに大型株7銘柄がそれぞれ900%以上上昇した。1999年のナスダック総合株価指数は85.6%、S&P500は19.5%上昇した。

ブームの絶頂期には、有望なドットコム企業がIPOによって公開企業となり、利益を出したことがなくても、場合によっては実質的な収益を実現したことがなくても、相当額の資金を調達することが可能であった。

バブルの崩壊

ドットコムバブルは2000年3月に崩壊し、テクノロジー色の強いナスダック総合指数は3月10日に5,048.62(日中5,132.52)でピークに達し、2001年になると、バブルのデフレが本格的に進行した。ドットコムの大半は、ベンチャーキャピタルやIPO資本を使い果たし、しばしば利益を上げることなく、取引を停止していた。しかし、このような状況にもかかわらず、インターネットは、商取引、これまで以上に大量のオンライン情報、知識、ソーシャルネットワーキング、モバイル機器によるアクセスなどを原動力に成長を続けた。

「利益よりも成長」という考え方と「ニューエコノミー」の無敵のオーラによって、一部の企業は精巧なビジネス施設や従業員のための豪華な休暇に贅沢な出費をするようになった。新製品やウェブサイトの発売時には、ドットコムパーティーと呼ばれる高価なイベントを開催する企業もあった。このあたりのお馬鹿さかげんはこの連載で前に言及をした。

通信バブル

ドットコムバブルの後、多くのインターネットビジネスの顧客が倒産したため、通信会社は大量の過剰設備を持つことになった。そのため、地域携帯電話インフラへの継続的な投資により、接続料金は低く抑えられ、高速インターネット接続がより手頃な価格で提供されるようになる。この間、World Wide Webをより魅力的なものにするビジネスモデルの開発に成功した企業は数少ないが例をあげるなら、航空会社の予約サイト、グーグルの検索エンジンとその収益性の高いキーワードベースの広告アプローチ、イーベイのオークションサイトやアマゾン・ドット・コムのオンラインデパートなどがあげられる。世界中にいる何百万人もの人々に低価格でリーチでき、リーチしたその瞬間に販売したり、意見を聞いたりすることができるため、広告、通信販売、顧客管理など多くの分野で、既存のビジネスのドグマを覆すことが約束された。ウェブは、無関係な売り手と買い手をシームレスかつ低コストで結びつけることができる、新しいキラーアプリだったのだ。


1996年の米国電気通信法施行後の5年間に、通信機器会社は、光ファイバーケーブルの敷設、新しいスイッチの追加、無線ネットワークの構築に、ほとんどが負債で賄われた5000億ドル以上を投資した。 アメリカ合衆国政府は技術インフラに資金を提供し、企業の拡張を促すために有利なビジネス法や税法を制定した。

バブル崩壊

そしてバブルが崩壊する。2000年に入り、企業は2000年問題に備え、技術への支出は不安定になった。コンピュータシステムが1999年から2000年に時計とカレンダーのシステムを変更するのに苦労し、より広い社会的、経済的問題を引き起こすかもしれないと懸念されたが、十分な準備を行ったため、実質的に影響や混乱はなかった。当時連邦準備制度理事会の議長であったアラン・グリーンスパンは、何度か金利を引き上げた。この行動は、多くの人がドットコムバブルの崩壊を引き起こしたと信じていた。しかし、ポール・クルーグマンによれば、「彼は市場の熱狂を抑えるために金利を上げたのではなく、株式市場の投資家に証拠金規制を課そうとしたわけでもない。その代わりに、2000年のようにバブルが崩壊するまで待ち、その後に混乱を一掃しようとしたとされる」と説明された。

2000年3月10日金曜日、ナスダック総合株価指数は5,048.62でピークに達した。唐突に、トーマス・ペンフィールド・ジャクソン判事は、United States v. Microsoft Corp. (2001)の事件で結論を出し、マイクロソフトがシャーマン反トラスト法に違反する独占と抱き合わせで有罪であると判決を下した。これにより、マイクロソフト社の株式の価値は1日で15%下落し、ナスダックの価値は350ポイント(8%)下落した。多くの人々は、この法的措置がテクノロジー全般にとって悪いものであると考えた。

2000年4月14日金曜日、ナスダック総合指数は9%下落し、25%下落した。2000年6月までに、ドットコム企業は広告キャンペーンへの支出の見直しを余儀なくされた。2000年11月9日には、アマゾン・ドット・コムの支援を受けていたペッツ・コムが、IPO完了からわずか9ヶ月で倒産した。その時までに、ほとんどのインターネット銘柄は高値から75%も値を下げ、1.755兆ドルが消し去られていた。 以降、 2001年10月のエンロン事件、2002年6月のワールドコム事件、2002年7月のアデルフィア通信社事件などいくつかの会計スキャンダルとそれに伴う破産によって投資家の信頼はさらに損なわれた。

2002年の株式市場の低迷の終わりまでに、株式はピークから時価総額で5兆ドルを失っていた[59]。 2002年10月9日の谷で、NASDAQ-100はピークから78%ダウンし、1114に低下していた。

その後

多くのドットコム企業に出資し、バブル崩壊で純資産の9割を失ったベンチャーキャピタリストのフレッド・ウィルソンは、2015年の著書で、ドットコムバブルについてこう述べている。

私の友人に名言がある。彼は、「非合理的な高揚感なしには、重要なものは何も築かれなかった」と言う。つまり、鉄道や自動車、航空宇宙産業などの建設に投資家が資金を提供し、懐を開かせるためには、ある種のマニアックさが必要だということです。この場合、投資された資本の多くは失われましたが、インターネットのための非常に高いスループットのバックボーンや、多くの機能するソフトウェア、データベース、サーバー構造などに投資されたのです。そのようなものが今日のものを可能にし、私たちの生活すべてを変えたのです...それがこのすべての投機マニアが築いたものなのです。

以上、ドットコムバブルについて概説をした。この期間に投資されて、いまに残ったものは

1)インターネットのための非常に高いスループットのバックボーン

2)多くのソフトウェア

3)データベース

4)サーバー

である。

破壊的イノベーションの歴史がおしえることは現在のメタバースが可能になったときに、我々はどのように日常生活を送っているのかを我々は予言することができない、ということだ。だが予言できないということは大きな問題ではないのである。メタバースが破壊的技術であるための基本的な条件であると言っても良い。これから起こることに備えておくためには、メタバースがどのような技術によって構成されており、それを組み合わせるとどのようになるのか、を知ることである。そしてそれはメタバースを定義することなのだ、とBallは第二章を結ぶ。

このアプローチは素晴らしいと思う。メタバースがもたらす未来を予言するのでもなく、逆にもたらすかもしれないディストピアを予言するわけでもない。ネットバブルがのこしてくれた技術的遺産を活用する技術がどのようなものであり、それを組み合わせるとどのようなことが起こるのかを細かく調べていくことが必要なのだ。未来を予言している暇があったら、こうした技術の組み合わせがいまのシステムを破壊して葬り去る破壊的イノベーションになる瞬間に、素早くビジネスの波の前に出ることが大事なのだ。

とBallはメタバースを構成する技術とそれを説明する歴史をかなり明確に呈示した後に、いよいよメタバースとは何かの定義にむかう第3章に入る。ここはなかなか理解するにはタフな章なのだがわかりやすく解説をしていきたい。そして第4章、インターネットの次にくるもの、あるいは次のインターネットを説明する章でメタバースの意味を説明していく。ここまでをきちんと理解したグループが次のイノベーションの勝者となる、というわけだ。ここが終わると、どのようにメタバースを作っていけばいいのかの各論である第二部、メタバースのイノベーションパワーを説明する第三部へと向かう。Ballの本で一番難しいのは第3章の定義のところで、ここを乗り越えると議論は進む。第1章は定義に必要な新しい歴史の説明であり、第二章はどうして我々はこの歴史が理解できないかの説明だった。次回から第三章にむかっていく。辛抱がいるところであるが、お付き合い願えれば幸いである。

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メタバース 徹底して解るまで その14

5

okudenaohito

2022年8月19日 18:55

メタバースの定義を書く予定だったが、ちょっと仕事が立て込んでいて、時間がとれない。そこで簡単にこれから書くことを紹介しておく。

第3章 メタバースの定義(ようやく!!)では次のように定義が紹介される。

1)Virtual Worlds
2) 3D
3) Real time Rendered
ときて、ここまでは最近のメタバース展示会で、いろいろなところがデモをやっていてわかりやすい。だが、これはメタバースのほんの一部だ。まだ定義は続く。つまり今展示されているほとんどのメタバースはここまでしか出来ていない。
つぎに必要なことは次のような特徴だ。
4)Interoperable Network
5) Massively Scaled
6) Persistance
7) Synchronous
とくる。ここまで展示会にでているメタバースではまだでてきていない。が、研究プロジェクトレベルでは発表されているものもある。ここを押さえないとメタバースにはならない。
そして、まだある。ここからが本番。
8)Individual sense of presence
9) continuity of data
この9番目は非常に大事で
identity
history,
entitlement,
objects
communications and
payment
が含まれる。この9)を押さえないとメタバースのパワーは発揮されない。

メタバースの戦いは4)から9)まで現状では手つかずである。
これをすべて実現するには今のインターネットの次のインターネットを考えなくてはいけない。この動きを引っ張るのは誰か?

来週の初め頃にはメタバース 徹底して解るまで 15以降を上げていくが、ここが非常に大事で、なかなか理解されないが、ここを抜けたらメタバースの戦いで結構いいところまでいけるはずである。

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メタバース 徹底して解るまで その15

3

okudenaohito

2022年8月24日 08:01

さて、いよいよメタバースの定義である。Ball のThe Metaverseにおける『定義」の特徴は3次元空間からインターネットプロトコル、さらにはそのしたのデータ構造までの複数のレイヤーを縦に組み立てて、それをメタバースの定義としているところである。個別のレイヤーについて語っているわけではない。また個別のレイヤーはある意味すでにあるテクノロジーなのでこの組み合わせが、シュンペーターからクリステンセンに流れる「破壊的イノベーション」となり、鉄道網、電話網、インターネット網という19世紀から21世紀にかけて大きく社会を変えていったインフラストラクチャーを破壊して次のインフラストラクチャーを生み出していくとしているところだ。では順番に紹介していきたい。

定義は次の9つからなる。

1)Virtual Worlds
2) 3D
3) Real-Time Rendered
4) Interoperable Network
5) Massive Scaled
6) Persistance
7) Synchronous
8) Unlimited Users and Individual Presence
9) Data structure

である。8)と9)はこの章の記述では、最初の7つの定義と並列させているが、Ballの主張であり、その分わかりにくい書き方になっている。僕はそれに賛同するところがあるので、説明を加えて定義として扱っている。詳しくは後ほどのnoteで書くことにする。

では、順番にBallの本に従ってメタバースの定義を詳しく解説していきたい。

1)Virtual Worlds


すでにメタバースの展示会はいくつも今年の前半に行われている。ぱっと見てメタバースだと説明できるのはこの世界はデジタルデータで作られた仮想世界 virtual world だ、ということである。もう何十年も我々は仮想世界に『ゼルダの冒険』のようなビデオゲームを通じて親しんできた。またデズニーのピクサーの映画やワーナー・ブラザースの「マトリックス」などで仮想世界のイメージは何となく理解できるだろう。メタバースはこのイメージが先行して、実際に登場してきたゲームとかエンターテイメントの経験を意味するのだと思われている。

確かにメタバースの環境は3次元空間であったり二次元空間であったりする。またMUDのようなゲームの場合、文字だったりする。だが、ピクサーの映画は鑑賞するだけで、その環境のなかにユーザーとして入ることは出来ないし、ゼルダの冒険は自分1人しかユーザーとして参加できない。この個人のユーザーはゲームをしているときに多種類のデバイス、キーボード、モーションセンサー、あるいはユーザーの動きを追いかけるカメラにつながっていたりはする。

Virtual worldは「実際の世界」を忠実に表現することもある。この場合は「デジタルツイン」と呼ばれ、ゲームの舞台のようなときもあれば、工場における作業を学ぶ空間だったり、商売が行われる場所であったり、ヨガなどのレッスンが行われる場所であったりする。このようなメタバースも展示会レベルではわれわれはすでに親しんでいるものだろう。またこうした空間で行われるゲームに関しても我々はイメージできる。たとえば任天堂の『The Legend of Zelda: Breath of the Wild』などだ。

だが、現在市販されている仮想世界で人気を博しているのはこうしたゲームではない。同じ任天堂からでている『Animl Crossing: New Horizons』である。

Animal Crossingは日本語タイトルは「あつまれ動物の森」である。これは従来の意味でのゲームではない。明確なゴールもなければ、勝ち負けがあるわけでもない。南の島で人間を形取った動物によるコミュニティを作り、庭木を育て、自分の場所を作り、ちょっとした小物の売り買いをする。

仮想世界でいま活発なのはこのようなゲームプレイ(ゲームを行う目的)が存在しない活動なのだ。たとえば香港国際空港のデジタルツインがある。これはゲームエンジンUnityによって作られており、空港のメンテナンスや改装をパッセンジャーの動きにあわせておこなうものである。

空港のデジタルツインは他にもあるが、空港全体がデジタルツインとして作られていて、そこに実際の交通、天候などのデータ、警察や救急隊のデータが反映するようになっていて、都市計画の専門家がゾーニングや建築計画の承認などを行う。

このようなヴァーチャルワールドは3次元グラフィクスの専門家がつくることもあれば、アマチュアがつくることもあり、ビジネスを考えることもあれば、好きで作って公開していることもある。この世界を作る作業量はUnityなどの3次元作成エンジンの登場で大幅に削減されて、多くのデジタルツインが登場している。

このような動きは止まらない。Robloxの提供する環境でつくられた経験世界で有名なものに、すでに紹介したAdopt Me!があるが、Ballによると、2017年に登場して、2011年には一度に200万人の人がこの世界で遊んでいて、2021年の終わりには、合計で300億人の人がこの世界を経験していたという。

このようなヴァーチャルワールドは特定のプラットフォーム専用に販売されることもあれば、複数のプラットフォームで販売される(クロスプラットフォーム)こともある。2019年から2020年にかけてEpic社はFortniteを複数のプラットフォーム Nintendo's Switch, Microsoft's Xbox One, Sony's Playstation4に加えて、WindowsとMac Osに提供し、さらにモバイルのiOSとAndroidに提供した。プレイヤーはこの複数のプラットフォームでゲームをすることが出来て、自分のポイントやギア(装備品)を持ち運びできるようにした。

デジタルツインのなかで複数のプレイヤーが行動してそれをガバナンスする形のサービスがいくつか生まれてきて、ブロックチェーンをつかってゲームを提供するところも登場してきた。この話はあらためて行う。

いずれにしてもメタバースというとイメージできるのは仮想世界である。だが仮想世界だけがメタバースを規定している定義ではない。

2) 3D


メタバースにおいて3次元空間である、ということは非常に大切である。デジタル3次元空間は決して新しい技術ではない。いまのインターネットで提供されるサービスの筆頭であるwebは画像もテキストも二次元の情報である。このような二次元でタッチスクリーン上に表示された情報の操作に人間はかならずしも適しているとはいえない。

さらにここ数十年おこなっているオンラインでのコミュニケーションについても再考するべきだろう。1980年代、90年代のインターネットのコミュニケーションは基本的にテキスト中心であった。1990年代の終わりから2000年代の初頭にかけて、PCの記憶容量が増えて、インターネットのスピードも速くなり、イメージの交換が容易になり、webサイトが登場し、音楽ファイルの交換も行えるようになった。Facebookの登場もこの頃だ。次いで、2000年代の後半から2010年代の初頭にかけて高性能の画像や動画のコミュニケーションが盛んになり、YouTube, Instagram, SnapshotそしてTiktokが登場してきた。

この歴史は我々にいくつかの事を教えてくれる。
その1: 人は自分が慣れ親しんでいる世界のより詳細なデジタル化を好む
その2: 人はネットワークの水準に合わせて自分のリアルの経験を持ちこんでくる
その3:この変化は若者の社交促進アプリ(social application)から始まる

以上をふまえていかにして三次元アプリケーションが既存のアプリケーションの市場を破壊していくかをみることができる。

この方向で興味深いのは教育ソフトウェアである。初等教育ではなくて高等教育や職業教育が二次元タッチスクリーンの退屈で効果のない教育ソフトしかリモート環境において提供されておらず、大学教育や大学院教育ではまったく普及していない。コロナパンデミックのあとですら、変化はない。しかしながらこのような分野こそ3次元環境が使われるべきなのだ。人体の中を赤血球になって旅をしていくとか、こうした教育を三次元メタバース空間では行うことが出来る。しかしながら高等教育におけるメタバース環境の提供は遅れている。だが、間違いなくこの領域でのラーニングにメタバースを使うことが出来る。かならずしもヘッドセットを使うものではないかもしれないし、場合によっては、無数のIoTがネットワークにつながるセンサーになっている状態を要求するかもしれない。このようなことをふくめて3Dの問題を考えておくことが必要である。

3) Real-time Rendered


さて次のメタバースの定義はreal-time renderedであることだ。メタバースでは様々なインプット情報、データ、そしてなにを描くか(render)を決める規則がくみあわさって三次元世界がリアルタイムに描き出されなくてはいけない。

2013年の映画 ピクサーの映画に『モンスターユニバーシティ』がある。

12万以上の映画のフレームがあり、それぞれをレンダリングするのに29時間かかるといわれた。それが12万フレームである。この計算をするためにピクサー社は2000台のコンピュータを連結したデータセンターを構築し、1フレーム7秒でレンダリングする仕組みを作り出した。もちろんこれはデズニーの財力だからできることであり、建築会社などは一晩かけて画面をレンダリングした。しかしながら仮想環境を映画のセットにつかうためにはリアルタイムでレンダリングする仕組みが必要になる。レンダリングを前もっておこなうのでは実際の演技の変化についていけないからだ。

コンピュータの環境がユーザーにとってリアルタイムであると感じるには少なくとも一秒で30フレーム、理想的には120フレームレンダリング出来なくてはいけない。デズニー・ピクサーのように巨大なコンピュータシステムを用意する予算はないのである。

(この項、続く)


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メタバース 徹底して解るまで その16

3

okudenaohito

2022年8月24日 08:12

さて、ここまでの3つの定義をみたしたメタバースはいま我々はメタバース展示会で見ることが出来る。だがこれだけでは来るべきメタバースにはならない。ここから先に行くことが大切なのだ。これから手がついてくるであろうメタバースの特徴を説明するメタバースの定義、4,5,6について説明していこう

4) Interoperable Network

メタバースのイメージが普及してくるにつれて、ユーザー達はあるメタバースから他のメタバースに自分のアイデンティティや属性を維持したまま移動をしたくなる。それは同じアバターで、同じ服や装置のまま移動して、時として別の場所で購入した服や装置を身につけ、またそれらを交換したり販売したりしたくなる。たとえばMincraftで購入した服をRobloxで着たりすることを好むようになる。あるいはFIFAのゲームにメタバースから参戦して、そのゲームの時にしか販売されない特別なシャツをゲットして、それをきて別のあつまりに参加したりしたくなる。

さらにはどこで何をしようと買おうとあるいは販売しようと、そうしたデータはどのメタバースに行っても使えるような状態になっていて欲しい。比喩的にいうとマイナンバーのような仕組みが必要になる。このような世界が登場するには、メタバース間で「インターオペラブル」にならなくてはいけない。あるコンピュータシステムから別のコンピュータシステムにアバターがいどうしても、自分のデータへのアクセスができなくてはいけないのだ。

インターオペラビリティはインターネットにおいては実装されている。TCP/IPと呼ばれるプロトコールを使うことで、データがインターオペラビリティを持つ。それを可能にしているのが、the Internet Engineering Task Force (IETF)と呼ばれる組織であり、Ballの説明によると、1986年にアメリカの連邦政府の下に、非営利のオープンスタンダート促進の組織として設立された。現在では連邦政府から独立した全世界を対象とした組織となっている、とある。

インターネットがインターオペラブルになったのはTCP/IPの力だけではない。PCであれ大きなコンピュータであれ、またインターネット回線のプロバイダーであれば小規模であれ大規模であれ、またデバイスの製造業者もソフトウェア開発業者もみずからTCP/IPを使うことに自発的に同意したからである。

また多くの活動組織がインターネットとWWWがどのような規模になろうとインターオペラブルであることに同意した。Webのヒエラルキーの最上層に当たる.com, .org, .eduにおけるインターオペラビリティの同意、IPアドレスの同意、コンピュータ上のリソースとHTMLに与えられるURL(the Universal Resource Loctor)のインターオペラビリティの同意も行われた。

インターネット上を行き来するファイルに関しても同意が形成された。JPEG, MP3, HTML, webpageをレンダリングする方法、ファイル間の変換(たとえば、JPEGからPNG)の方法の合意もなされた。現在iPhoneで取った写真がFacebookに簡単にアップできるのも、FacebookからGoogle Driveにダウンロードできるのも合意によるインターオペラビリティがインターネットの上で成立しているからである。

インターネットの歴史が教えてくれることはシステム、技術的標準、習慣などが異なるアプリケーション、ネットワーク、デバイス、オペレーティングシステム、言語、ドメイン、国家、などをこえてインターオペラビリティをもって展開出来たことである。だが、メタバースにおいてインターオペラビリティを確立するにはいままでのインターネットの歴史をこえて、もう少しこの問題を深く検討する必要がある。

まず現状のメタバースでレンダリングエンジンのインタオペラビリティがない。メタバースを運営している組織は独自のレンダリングエンジンを使い、そのなかでオブジェクト、テクスチャー、にくわえてプレイヤーのデータを管理している。このデータをほかのメタバースの運営組織と共有しようとするところがない。いまのところメタバースの設計者はインターオペラビリティを考えていない。これでは世界は広がらないのである。ユーザーの経験は他のメタバースに対して閉じられており、経済圏も閉じている。

メタバース間で標準を決めることは簡単ではない。2次元でアバターを作る限り、インターネットのインターオペラビリティに従っていれば良い。だが三次元のアバターをつくるとなると問題は急にむつかしくなる。アバターに着せる服を考えてみても、3次元情報に加えて、何枚重ねているのか、きているのがシャツなのかジャケットなのか、顔は一体なのか、目と鼻とそばかすは別のオブジェクトなのか、人型でない場合、クラゲのようなボディなのか箱のようなボディなのか。入れ墨はどう扱うか、ネクタイは?ネックレスは?つまりアバターの三次元データを共有するだけでは不十分なのだ。

さらにユーザーがあるメタバースでジャケットを購入したとして、それを所有したというデータはどこに保存されているのだろうか。ジャケット販売における金銭のやり取りの記録はどうするのか?

以上は購入品に関するデータだが、もうすこしシリアスに身分証明書がインターオペラブルになるにはどうすればいいのか。支払いはどうなるのか?など問題は山積である。標準は技術や科学ではなく政治である。発見によって決着をするものではなくて、コンセンサスを作らなくてはいけない。二次元のインターネット世界でこれだけ大変だったのだがら3次元のメタバースにおいてインターオペラビリティの確立は不可能という意見もある。

だが、1970年代のコンピュータの世界を振り返ってみると、多くのグループがそれぞれの方法を主張して争っていた。この時代をプロトコール・ウォーの時代という。この時代の混乱が乗り越えられたのがコンセンサスが経済的な理由でなされたからだと言われている。つまりTCP/IPによるインターオペラビリティが普及することでインターネットにより多くのユーザーと開発者が集まってきた。集団の合意をとりつけるより、インターオペラビリティを推奨するところにユーザーや開発者があつまってくれば標準は成立していく。メタバースの標準を主導していく集団はどこになるのか?ここに注目してインターオペラビリティの方向を見つけていくことが必要になっていくのだ。

5) Massive Scaled

インターネットは膨大なユーザーがいるが、これをひとつのシステムでサポートするのは不可能である。インターネットがthe internetになったようにメタバースがthe metaverseになるためには多くのメタバースが参加しなくてはいけない。現状のメタバースはデジタルで仮想のテーマパークであって、リアルワールドの多様さも複雑さも反映していないのである。

ここでメタバースの語源を分解してみよう。スティーブンスが「スノークラッシュ」で使った言葉はギリシャ語のメタを宇宙を示すユニバースからユニをとって接頭語としてつけたものである。メタは越えるとか超越するといった意味を持つ。メタデータとはデータを説明するデータの事である。メタフィジックスとは哲学の一分野で存在や同一性や変化、空間と時間、因果律、可能性の研究をする学問で、エネルギーや力に関係する動きや行動を研究する。こうしてメタとヴァースが組み合わされてひとつの言葉になると、ここのコンピュータが生み出す複数のユニバースの上位に存在するものとなる。

この考え方を適応すると、Robloxはメタギャラクシーであり、Adopt Me!はひとつの仮想世界となる。その世界をひとつの国と考えるならそのなかに多くの県があり市があり街があることになる。Facebookはthe internetではなく、無数のFacebookのサイトが統合されたもので、わかりやすくいえば二次元のメタバースであると考えても良い。これが三次元メタバースになるのが未来である。そこではRobloxやMincraftやFoertniteがメタバースを生み出すプラットフォームとなり、Epic社(Fortnite を開発し、UnrealEngineを公開している)のCEOのTim Sweeney は次のように言う。
「数十年前にすべての企業がウェブページを作成し、ある時期にはすべての企業がフェイスブックページを作成したように、人々は自分たちで自分たちのメタバースをつくるようになる。」

6) Persistance データの永続性

次の定義はメタバースはデータの永続性つまりパーシステンス(Persistance)を持たなくてはいけない、ということである。この概念は理解が難しいのでBallの議論を丁寧にたどっていきたい。

現在のメタバースゲームでは、完全なパーシステンスを実現しているものはほとんどない。一定期間、仮想世界の一部または全部がリセットされるようになっている。例えば、「Fortnite」や「Free Fire」というゲームがある。下記はFortnite任天堂版からだ。
https://www.nintendo.co.uk/Games/Nintendo-Switch-download-software/Fortnite-1388372.html




次はFreefireである。


プレイヤーは試合中、さまざまな建造物を建てたり破壊したり、森に火を放ったり、野生動物を殺したするが、およそ20~25分後にマップは事実上「終了」し、Epic GamesとGarenaによって破棄される。実際、レンダリングの複雑さを軽減するために、30秒後に「アンロード」されるような、破壊不可能な岩の弾痕などのデータも、ある試合の中で破棄されることがある。

すべての仮想世界がFortniteのマッチのようにリセットされるわけではない。例えば、World of Warcraftは連続的に実行される。

しかし、その仮想世界が完全に持続するということはない。開発元(この場合はActivision Blizzard)が大規模なアップデートを行った時には仮想世界は変化する。

仮想世界における「永続性」の問題は、現実世界では発生しないので、少し理解することが難しい。物理的な木を切り倒すと、切り倒したことを覚えているかどうかに関係なく、また、大地が他の木や活動をどれだけ追跡しているかに関係なく、その木はなくなる。しかし、バーチャルツリーは、ユーザのデバイスとそれを管理するサーバーが、情報を保持するか、レンダリングするか、他の人と共有するかを積極的に決定しなければ永続性を失う。コンピュータが計算をしていなければ、永続性は維持されない。このことをよくしめしているのは、ゲーム「EVE Online」である。

Epic社が販売しているEVE OnlineはSecond Lifeのような2000年代前半の「プロトメタバーズ」やRobloxのような新しいゲームほど有名ではないが、Ballによると示唆に富むゲームだという。EVE Onlineは2003年のローンチ以来、継続的かつ根気よく運営されている。また、Fortniteのように数千万人のプレイヤーを12人から150人の20分から30分のマッチに分割するゲームとは異なり、EVE Onlineでは毎月数十万人のユーザーが、8000近くの星系と7万近くの惑星にまたがる単一の共有仮想世界に参加している。この会社についてはあまり知られていない。ちょっと調べてみた。wikiからである。
https://en.wikipedia.org/wiki/Eve_Online

Eve Online(イブ・オンライン)は、CCP Gamesが開発・運営する宇宙を舞台にした永続的な世界の多人数参加型オンライン・ロールプレイング・ゲーム(MMORPG)である。Eve Onlineのプレイヤーは、採掘、海賊、製造、貿易、探査、戦闘(プレイヤー対環境、プレイヤー対プレイヤーの両方)など、ゲーム内のさまざまな職業や活動に参加することができる。このゲームにはプレイヤーが訪れることのできる合計7,800の星系が存在する。

このゲームはプレイヤーの相互作用に関してその規模と複雑さで有名である - その単一の共有ゲーム世界において、プレイヤーは他のプレイヤーと台本にない経済競争、戦争、政治計画を行う。 B-R5RB の Bloodbath は単一の星系で数千のプレイヤーが参加した戦闘で、21時間かかり、ゲーム史上最大かつ最も高価な戦闘の一つとして認識された。

Eve Online は2003年5月に北米とヨーロッパでリリースされた。2003年5月から12月までSimon & Schuster Interactiveから出版され、その後CCPが権利を買い取り、デジタル配信方式でセルフパブリッシングを開始した。2008年1月22日、Eve OnlineがSteamで配信されることが発表された。2009年3月10日、再びアタリ株式会社から箱型での店頭発売。2013年2月にEve Onlineは加入者が50万人を突破。

とある。現在はEpicのストアから購入できる。

Ballの説明によると、EVE Onlineの素晴らしい永続的仮想世界の背景には、革新的なシステムアーキテクチャがある。それと同時にEVE Onlineの仮想世界は、基本的に何もない3次元空間であり、壁紙の背景は銀河のように見える。ユーザーは本当に惑星を訪れることはできず、ゲームの永続性はエンタイトルメント(プレイヤーの船や資源など)と関連する位置情報の管理によって行われている。このやり方により、メタバースが存在しているコンピュータの計算負荷が少なく、ユーザーのデバイスは、あたらしい場所にいけば、そのオブジェクトを管理するサーバーに問い合わせてレンダリングするだけになっている。さらに、EVE Onlineは、日単位、四半期単位、あるいは年単位で世界がかわってしまうことはない。EVE Onlineの目標は、あくまでもプレイヤーの様々な派閥が惑星、星系、銀河を征服することにある。征服の戦いは、プレイヤー達が企業の設立、同盟の形成、艦隊の戦略的配置を行うことで実行される。このため、EVE Onlineの大部分は、サーバー上ではなく、サードパーティのメッセージングアプリケーションや電子メールを介して、実際に「現実世界」で行われている。ユーザーは何年もかけて攻撃計画を立て、敵ギルドに潜入して裏切り、資源取引や新造船建造のために巨大な個人ネットワークを構築していく。大規模な戦闘が起こることはあっても、それは極めて稀で、仮想世界そのものというよりも、仮想世界の資産(例えば船)を破壊することになる。

StephensonのSnow Crashでは、メタバースは惑星サイズの巨大で詳細な仮想世界であり、ほぼ無限のビジネス、訪問する場所、活動、購入するもの、出会うべき人々が存在するものである。また、ユーザーによって行われたほぼすべてのことが、いつでも、いつまでも残ることになっている。仮想世界だけでなく、その中の個々のアイテムにも永続性は当てはまる。私たちのアバターやバーチャルスニーカーは、使用するにつれて摩耗し、そのダメージを永遠に反映することになる。そして、相互運用性の原則に従って、これらの変更は私たちの行く先々で持続することになる。

このような体験を生み出し、維持するためには、データの読み込み、書き込み、同期(これについては後述)、レンダリングが必要で、その量は前例がないばかりか、今日可能なものをはるかに超えている。

仮想世界がオフラインになったり、リセットされたり、シャットダウンされたりすると、プレイヤーにとっては、まるで存在しなかったかのような状態になる。たとえ運営が続けられていたとしても、プレイヤーがその世界でのプレイを止めた瞬間、所有している仮想グッズ、履歴や実績、ソーシャルグラフの一部までもが失われる可能性が高い。これは、仮想世界が「ゲーム」である場合にはあまり問題にならないが、人間社会が教育や仕事、医療などのために仮想空間へ有意義に移行するためには、小学校の通知表や野球のトロフィーのように、その空間で行うことが確実にデータとして存続していなければならないのである。

パーシステンスをどのように定義して運用していくかはメタバースの実現のために避けて通れない重要な課題なのである。

今回紹介したメタバースの定義4,5,6は課題を抱えつつも、こうした定義が組み込まれたメタバースへの道は見えている。さて、次回は定義の7と8と9について説明する。この3つの定義はまだ手がついていないが、これが成立しないと本当のメタバースにはならないのである。

(この項、続く)


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メタバース 徹底して解るまで その18

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okudenaohito

2022年8月26日 16:58

第4章 次のインターネット

さて、Ballの結論 the next internetである。この言葉、ちょっと説明しておく。an internet インターネットは多くの数がある。これは無数にあるがTCP/IPのプロトコールを使うという約束で相互接続することができるので、無数のインターネットがつながって巨大なメッシュのようになる。これがthe internetである。定冠詞のtheがついて、無数のインターネットの上に存在するインターネットという意味になっている。スマートフォンの登場でモバイルインターネットが生まれたが、これは今のインターネットの延長、つまりTCP/IPでつながっていくインターネットである。メタバースはインターネットで確立したこの標準をアップデートするあるいは置き換える仕組みを確立して新しいデバイスをこの中に加えていく動きでもあり、さらにはGAFAMと小さな独立系開発者、そして我々エンドユーザーの関係も変えていく可能性をもっているものなのだ。

メタバースの登場によって引き起こされるこの大変動を予感しているからこそ、実際にメタバースが到達するまでまだ大分時間がかかるにもかかわらず、多くの企業がメタバースの事を調べて投資も行っている。このような大変化はメインフレーム時代(1950年代から1970年代)からの変化は1980年代に始まり、パーソナルコンピュータが1990年代にはドミナントな存在になっていく。ここでの主役はマイクロソフトであり、OSのWindowsとOfficeソフトウェアがDell, Compaq, Acerなどのコンピュータに搭載されて普及していった。そして、2000年代後半にはスマートフォンがドミナントなコンピュータとなっていく。

ではメタバースの時代が到達するとドミナントになっていくのはなにか?Ballは、それはRobloxやMincraftであり、ゲームエンジンのunRealEngineであり、Unityだという。つまりメタバースは、次のthe internetであり、それが成立するのは多くのa metabase つまり一つ一つのメタバースが、協力関係になって、それがthe metabaseつまり internetsのthe internet つまりインターネットのインターネットを生み出していく。

またメタバースはインターネットのプロトコールなどすべての遺産を否定して行くわけではない。インターネットのプロトコールの上にメタバースを実現するためのプロトコールを付け足していくのだ。またインターネット時代に開発されたソフトウェアなども必要なものは使われ続けるだろう。またメタバース時代のインターネットはコンピュータ以外のモノもつなげていく。

なぜビデオゲームが次のインターネットを主導していくのか?

Ballはメタバースのドミナントなプレイヤーはゲーム会社だと次のような趣旨の説明を続ける。まとめておく。

メタバースを特徴つけるリアルタイムレンダリングによる3D仮想世界やシミュレーションは、その複雑さから、パソコンやインターネットが登場した当初は、ほとんど一般には利用されていなかった。また当時のグラフィックコンピュータはリアルをシミュレーションできないため、消防士訓練には使えなかった。重力で曲がらない弾丸は軍のスナイパーの訓練には役には立たないし、建築会社は 光がどのように建物に反映するかというシミュレーションができなければ、グラフィックコンピュータを使って建物を設計する価値はない。しかし、ビデオゲームに必要なのは、リアルな火や重力、熱力学ではなく、「楽しさ」であった。8ビットCPUをつかった単色の表示しかできなくても面白いゲームは面白い。この世界にグラフィックコンピュータは向かっていった。長い間、一般家庭で使われるゲーム機やゲームに特化したPCがコンピュータグラフィックスの市場であった。

2000年には、日本のソニーが発売した新型デバイス「プレイステーション2」が世界規模のテロリズム(ミサイル誘導装置の処理など)に利用されることを懸念し、輸出制限が欠けられた。翌年、アメリカのドン・エバンス商務長官は、家電産業の重要性を訴える中で「昨日のスーパーコンピューターは今日のプレイステーションだ」と述べた。当時、スーパーコンピュータは、レーダーの強化、パターン認識、衛星画像処理、人工知能研究などに使用されていた。このようなスーパーコンピュウータと同性能あるいはそれ以上の能力をもつマシンが多数のプレイステーションを連結して動かすことで構築できたのだ。

さらに、こうしたゲーム機やゲームPCで使われていた部品を作っていた会社が、現在最も強力なテクノロジー企業のひとつとなっている。それがグラフィック能力に特化したCPUを製造している大手企業であるNvidiaだ。同社は消費者向けの技術プラットフォームであるGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftと並んで、世界10大公開企業の1つにランクされている。

NvidiaのCEOであるJensen Huang氏は、ゲーム業界の巨人になることを意図して会社を設立したわけではない。彼は、いずれグラフィックスベースのコンピュータが必要になるという信念に基づいて会社を設立した。だが、市場はビデオゲームにあり、高度な能力と技術はこの市場に向けて当初は開発されたい。「特殊なグラフィック能力を必要とする市場が、同時に経済的な規模も大きい、というのは非常に珍しい」とHuang氏は2021年にタイム誌に語っている。「本当に強力なコンピュータを必要とする市場は、気候シミュレーションであれ、分子力学的な創薬であれ、非常に小さい規模であることが普通だ。市場が小さいので、あまり大規模な投資をする余裕がないのです(中略)。だから、気候の研究をするために設立された会社というのは、あまり見かけないのです。われわれはビデオゲームの会社を市場として、大きな売り上げをあげ、大量の技術投資を行った」と述べている。

Nvidiaが設立されたのは、ゲーム業界ではすぐに代表作とされた「Snow Crash」のわずか1年後だった。にもかかわらず、Stephensonは、ゲームによるメタバースの出現は、この小説で「完全に見逃していたこと」だと述べている。「メタバースを考えていたとき、私はこれらのものをすべて手に入れられるようにする市場メカニズムを考え出そうとしていたのです。『スノウ・クラッシュ』が書かれた当時は、3Dグラフィックのハードウェアは一部の研究所にしか普及しておらず、非常に高価なものでした。もし3D映像がテレビ並みに安くなるとしたら、テレビと同じように3D映像の市場も大きくなるはずだと考えたのです。だから、『スノウ・クラッシュ』のメタバースは、テレビみたいなものだと......。ところが、私が予想していなかったこですが、実際に3Dグラフィックスのハードのコストを下げるために登場したのは、ゲームだった。20年前に話していたようなバーチャルリアリティは、私たちが予測したような形では実現しませんでした。それは、ビデオゲームという形で実現したのです」。



メタバースのためのCPUはゲームから生まれたが、同様の理由で、リアルタイム3Dレンダリングに最も適したソフトウェアソリューションも、ゲームから生まれた。Epic Games の Unreal Engine や Unity Technologies の oponymous エンジンが最も有名である。なかでも急速に存在をつよめているのがEpic社のunRealengineである。下記の写真はCEOのTim Sweeneyである。

ここで、見落とされがちな点であるが、ゲーム業界はネットワークの能力改善にも大きな貢献をしている。ゲーム開発者、パブリッシャー、プラットフォームは、何十年にもわたってインターネットのネットワーク・アーキテクチャの限界と戦い、対処してきた。そのためい、インターネットから次のインターネットであるメタバースに移行する際に必要なネットワークプロトコールのアップデートに関して独自の専門知識を持っている。

オンラインゲームは 1990 年代後半から同期的かつ継続的なネットワーク接続を必要とし、Xbox、PlayStation、Steam は 2000 年代半ばからほとんどのタイトルでリアルタイムのオーディオチャットをサポートしている。このため、ネットワークが切断されたときにプレイヤーに代わって制御を引き継ぐ予測型 Al、あるプレイヤーが突然他のプレイヤーより先に情報を受け取った場合にゲームプレイを目立たなく「ロールバック」するカスタム ソフトウェア、および多くのプレイヤーに影響を与える可能性がある技術的な課題を無視するのではなく、それに沿ったゲームプレイを作成する能力をゲームに組み込む必要があった。

ゲーム会社はこうして「誰かが実際に過ごしたいと思う場所を作る能力」
を身につけていった。『Snow Crash』では人々は通りのバーに行く。だがいま登場しつつあるメタバースでは、皆が過ごしたい場所はたとえば、ゲームの『Warcraft』で、そのなかで一緒に襲撃を行うなかまが集まるギルドで時間を過ごしている。」と語っている。

これはゲートウェイギルトの様子だ。自分が所属するギルドでギルドの一員であり戦いで友達を助ける、ということもあるが、ゲートウェイでは別のギルトに所属する人と出会える。ゲームに特化した仲間だけではなくて、気楽に多くの人と社交を楽しむことができる。

さて、以上を踏まえて、第二部ではいかにしてメタバースを作っていくのかについて話を進めていきたいと思う。 破壊的 イノベーションであるメタバースは、いまゲーム機器とゲームに必要なレンダリングエンジン、そして、TCP/IPを拡張したコミュニケーションの上で登場しようとしているのだ。
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メタバース 徹底して解るまで  19

okudenaohito

2022年8月30日 14:32

さて、メタバースの定義を第1部で終えて、Ball は第2部でメタバースの構成技術について語っている。Building the Metaverseと題されていて
第5章 Networking
第6章 Computing
第7章 Virtual World Engines
第8章 Interoperability
第9章 Hardware
第10章 Payment Rails
第11章 Blockchain
となっていて、それぞれ重要な技術トピックで、僕も継続的に追いかけてアップデートしている領域だが、ここでの紹介はちょっと古い。このあたり正に日進月歩で、1年前の議論ではついて行けない。なので、ここに関しては別の形で「今」をnotesで連載したい。ここでは、ここを省略して
第3部 How the Metaverse Will Revolutionize Everythingを細かく紹介解説加筆をしていきたいと思う。
このセクションは次の章からなる。
第12章 When Will the Metaverse Arrive?
第13章 Meta-Business
第14章 Metaverse Winners and Losers
第15章 Metaverse Existence
結論 Spectators, All
とある。どれも面白そうだ。次回から順番に読み砕いていきたい。




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メタバース 徹底して解るまで 20

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okudenaohito

2022年8月30日 14:37

Part III

How the Metaverse
Will Revolutionize Everything

Chapter 12 When Will the Metaverse Arrive?

さてメタバースの時代はいつ来るのか?Ballはイノベーション技術の歴史を遡りその流れでメタバースの登場を見ようとする。いまメタバースのよる破壊的イノベーション前夜だというわけだ。

インベーションはいつくるのかについては、コンピュータ業界大手の中でも意見は分かれる。マイクロソフトのCEOのNadella氏はすでにメタバースはきているという。Facebook のCEOのZuckerberg氏は次の5年から10年のうちにくるという。Epic 社のCEOのSweeneyとNVideaのHuang氏がいつ来るかの特定は避けて、次の2〜30年には来るだろうと述べる。

このようにメタバースはいつ来るのかの予言は難しいようだが、ここで視点をかえて、歴史的なイノベーションの事例を二つ見てみよう。一つは携帯電話。もう一つは電気である。まずは携帯電話のイノベーションの歴史を見てみよう。自動車電話の歴史から初めても良いが、2G回線によってはじまったデジタルの携帯電話の歴史に注目してみよう。1999年にWireless Application Protocol standardが作られWAPブラウザーが作られ、インターネットにつながるBlackBerry 6000、7000が作られた。


このあとBallはiPhoneの歴史に向かうが、我々は3G回線によって登場したi-modeを覚えているだろう。i-modeはコンテンツの記述にWAPではなくて、webで普及していたHTMLの携帯電話版c-HTMLを採用して、web のコンテンツを作っていた大量の制作者がi-modeに流れ込むことを可能にした。当時僕はNTTdocomoの研究所で3G回線をつかうサービスの研究を手伝っていたのだが、研究グループのボスが僕に「奥出君、国際標準を決める会議にi-modeをもっていったら、すぐに採用された。技術の詳細の検討があるかと思ったらユーザー数が圧倒的だから、というのだ。こんなことってあるのだねえ」という事だった。

i-modeの成功は華々しく、NTT-Docomoで僕たちがやっていた3Gの回線をつかったコミュニケーションサービスが採用されることはなかった。だが、3G回線を使うとスケジュールアプリケーションも地図のナビゲーションも使えるし、何よりも画面の描写が段違いだった。これを採用しない、という決定は当時のi-modeの意思決定のトップによってなされたが、考えた我々は納得いかなかった。が決定は決定。そしてiPhoneが登場する。

i-Modeの失敗、またBlackberryを初めとする2G携帯電話の展開の失敗は、なぜかNOKIAも含めて世界中の携帯電話メーカーがキーボード入力にこだわり、また携帯電話をコンピュータとしては非常にプリミティブなものであるとしか考えないで、開発をして、形のデザイン、たとえば二つ折りにできるとか、にこだわっていた。プログラミング能力が低くても開発できるということを大事とおもっていた。

そしてi-Phoneの登場である。携帯電話を全部蹴散らした。それはイノベーションの反復的進歩の歴史をなぞるような動きだった。そこで、反復運動的進歩の歴史をBallに従って見てみよう。

電力のイノベーション

19世紀の後半から20世紀の中ばにかけて電力のイノベーションが起こった。決してスムースに社会に普及していったわけではない。一つは産業構造の変化を生み出した。そして、それが次に社会システムのプロセスの変動を引き起こしたのだ。エジソンは電力発電所をマンハッタンとロンドンに1881年に建設した。電球を発明したわずか2年後である。電球への電力の需要は決して多くはなかった。エジソンが発電所をつくった25年後には5%から10%の工場は電力で動いていた。多くは発電所から伝送されたものではなくて、工場の敷地で作られた電力であった。が、突然新しい動きが1910年から20年にかけた起こる。工場に提供される動力の50%に、そして1929年には78%になっていた。


この変化を引き起こしたのは単純に電気という技術イノベーションが普及したからではない。まず最初に工場内で動力としてつかわれていた蒸気が電気の置き換わった。工場経営者は電気の特性を見て、より電力にふさわしい工場を作るようになった。それまで工場は油にまみれて汚れていて危険で、蒸気を作る仕組みが壊れると工場全体がストップしていた。ところが電気の導入によって工場の環境が安全になり、また工作機械の部品を付け替えることで縫製や切断だけではなくてプレスや溶接にも機械を使うことが出来るようになった。

工場はより清潔になり、明るく、生命の危険の少ない場所になっていった。また異なった種類の工作機械を同じ敷地で動かすことも出来るようになった。そして製造の工程に最適化して工場システムを作ることが出来るようになった。1700年代に導入された組み立てプロセスが電力によって合理化され、1913年にはフォードが最初の自動車組み立て工場を作った。どこでも電力をつかえるような設備をつくり、製造のプロセスに合わせて最適化された組み立てラインを造ることができたのである。

フォードの成功をみて他の産業の工場も変貌を始め、電力をつかった製造ラインが「イノベーション」された。こうして大量の自動車が電力をかつようした組み立て工場から生み出されていったのである。

ここでのポイントは大事に電力革命は電力のイノベーションをおこなったエジソンとは関係の無いところで発生したことである。電力によって多くの領域で起こったイノベーションが統合された。

spanning power management

manufacturing hardware

production theory

などにおけるイノベーションが統合された。統合することでアメリカの1920年代 Roaring Twentiesが到来した。労働生産性も資本生産性も伸び、第二次産業革命が勃発したのである。

下記は1929年のフォードの工場から出荷されて並べられている自動車。

https://canadianautodealer.ca/wp-content/uploads/2021/12/In-1929-the-Art-Deco-designed-Automotive-Building-opened-at-Torontos-Canadian-National-Exhibition-for-auto-shows1.jpg

20年代のパーティの様子

https://static.wikia.nocookie.net/totalwar-ar/images/e/ed/Roaring_Twenties.jpg/revision/latest?cb=20190201161444


iPhoneの登場 2007

https://www.macworld.com/wp-content/uploads/2022/08/iphone_original_2007_01-100727595-orig.jpg?quality=50&strip=all

さて、今まで見てきたように、電気の普及の歴史は携帯電話の歴史を理解するときに役に立つ。iPhone登場は2007年であるが、最初から携帯端末が備えるべきすべての特徴をもっていた。

タッチスクリーン

アップ・ストア

高速データ通信

インスタント/メッセージ

だが、だが、2008年の2番目のiPhoneが登場するまでiPhoneのプラットフォームは大きくならなかった。2番目が登場して、いきなり300%ののびを示し、その後も成長を続けた。3Gで通信ができて、携帯端末からwebの閲覧が出来て、ネットワークを活用できる多くのアプリケーションがアップストアから販売された。このどちらもAppleのイノベーションではない。チップから3Gにアクセスする方法も規格もAppleが提唱したものではない。多くの開発者はiPhoneのためにアプリケーションをつくり、様々な規格が登場した。ペイメントもすでに確立した方法をつかっていた。CPUもゴリラガラスも他社のものである。2020年に発売されたiPhone12 は5G対応である。だが、Appleはゲームエンジンも高速のGPUも開発していない。だからこそゲームディベロッパーは公正なゲームをつくりアップストアから販売した。アップストアの70%の収益はゲーム会社からである。つまりiPhone 12の完成に至るまでには、システム全体にわたる革新と投資が必要だったが、そのほとんどをAppleは行っていないのである。

iPhone12

タッチスクリーンという新しいハードウェアを導入した初代iPhoneはユーザーにこのインターフェイスの使い方を教育する方法をいろいろ工夫した。iPhone12では、物理的なホームボタンをスクリーンのなかにいれてソフトウェアかしてタッチスクリーンのインターフェイスを与えた。そして、この物理的なインターフェイスを無くして生み出した空間にセンサーやより進んだコンピュータ部品を埋め込んだ。多くのソフトウェア開発者達はこうした新しい機能を使った複雑なソフトウェアを開発するようになった。ホームボタンが無くなり、ユーザーはいままでなく自由に二本指でiPhoneを操作できるようになったのである。

A Critical Mass of Working Pieces

さて、二つの破壊的イノベーションの歴史を簡単に見てきたが、どれほどの部品が集まるとメタバースイノベーション爆発の臨界点(critical mass)に到達するのであろうか。いまバーチャルワールドといってもほとんどがゲームの世界だ。現在の社会にそれほど大きな影響を与えていない。

しかしながら、何かが起きている。多くのCEOはメタバースが急成長するのはまだ先だという。だが必要な部品はそろいつつある。急速に統合されつつある。

部品1:高精細のタッチスクリーンを備えた安価なモバイルコンピュータが12歳以上の人口の3分の2に普及しようとしている。

部品2:この安価なモバイルコンピュータは、CPUとGPUを備えた強力なレンダリングエンジン付きで、複数のアバターとその環境の動きをリアルタイムで描写することが出来る。

部品3:高速の4Gモバイルチップセットはユーザーがどこにいても部品2の環境にアクセス出来るようになる。

部品4:ブロックチェーンを使ったプログラムがメタバースのみならず様々な分散環境でユーザーとコンピュータを結びつけて、より安全で健全な活動を保証する

部品5:クロスプラットフォームゲーミングができる仕組みが登場する。

ゲームでのクロスプレイの仕組みとは、あるゲームで購入したバーチャルグッズや使用した暗号通貨がほかのゲームでの使えることである。そうしたデータにくわえて、ゲームでの履歴も他のゲーム環境に持って行ける。20年後には可能になるなどと言われているが、2018年にソニーのPlaystation内では可能になっている。

クロスプラットフォームは次の理由で重要である。

理由1:メタバースはひとつではなく、複数のメタバースを訪問することでユーザーの経験が拡大していくところが大切である。そうでなければ閉じたひとつの世界の経験しか獲得できない。

理由2:クロスプラットフォームでお互いのメタバースがつながり、ユーザーが他のユーザーにつながる頻度が高まれば高まるほどメタバースワールドは豊かになっていく。

理由3: ゲームやアバターや環境をつくる費用はゲーム会社においては前もって決められている。しかしこうした複数のメタバース世界がつながることで、ユーザーが経験できる環境が豊かになり、そこで使うお金も増え、結果としてゲームディベロッパーは新しい開発を行うことが出来るようになる。

理由4:文化が変わる。Fortniteは2017年にゲームを初めて、2021年までに200億ドル売り上げたという。その収益のほとんどが下記からである。

デジタルアバター

バックパック

ダンス(emotes)

だった。今やEpicは世界でも有数のファッションの販売を誇る

Dolce and Gabbana

Balenciaga

The Next Drivers of Growth


さて、残されたメタバースが破壊的イノベーションになる理由はなにか? それは政府によるAppleやGoogleに対する勧告である。オペレーションシステムとソフトウェア販売ストアと支払いシステムはそれぞれ分離されて別の組織が扱うものになっていく。ARやVRのヘッドセットもスマートフォン端末から切り離され、どこでも使えるようになる。最終的には全部分離分割されていく。だが、すぐに政府の勧告によって有効になるのは次の三つである。

理由1:技術的な要素が固有のメタバースから切り離されていく。

インターネットサービスが向上

コンピューティングパワーが向上

ゲームエンジンパワーが向上:使いやすく、高速で、安価になる

インターオペラビリティが向上

ペイメントシステムが向上

理由2 世代交代が進む

iPad nativeがRobloxを大きくした。75%の子供がRobloxプラットフォームで遊んでいる。これから生まれる子供達は皆gamerである。


理由3: i-Pad ネイティブのアマチュアゲーム世代がプロフェッショナルな開発者やビジネスリーダーになっていく。

以上である。Ballがメタバースによる大きなイノベーションが起こると予言している。それも未来の出来事ではなくて、いま動いているとするのだ。確かにゲームの進化は目を見張る。NVideaが高度な能力を必要とする医療機器などを市場として開発をおこなっていて、ゲーム産業へのGPU供給という巨大な市場を得ることはできなかったし、その利益を投資して技術開発を急激なスピードで行うことは出来なかっただろう。

上の写真は3Dコンピューティングの黎明期1990年代に隆盛をきわめたシリコングラフィックスという会社のコンピュータである。当時僕はVRの実験をしていて、三カ所でおおきな作品をつくり、いったい何台購入したことか。一億円を超える機械を4台とか並べて使って事もある。こうした研究はそれなりの予算が付くので、研究が認められると購入できる。だが、こうした巨大予算を獲得する機会は限られている。売れる台数も限られる

Nvideaはこの時代にPCにつけるグラフィックボードの会社として出発して、ゲームマシンで地位を築いて、大量に販売してその利益を投資していまのグラフィックコンピュータのGPUの開発に成功した。この連載で前に説明したように、ゲームの市場がなければいまのような超高性能で安価なコンピュータは存在しないのである。

こうして登場したゲームマシンを前提にしてグラフィックスエンジンが登場して、あっというまにメタバースのリアルタイム三次元表示が当たり前のことになた。3Gから4Gそして5Gと無線のスピードは進化して、またネット枠の技術も進歩して恐ろしいほど能力は上がった。また光ケーブルをつかうことで通信のコストも激変した。表示のディスプレイも高精細で安価になっていった。ブロックチェーンの登場で、しっかりとプログラムをすれば、メタバース世界でのコミュニケーションの安全も守ることが出来る。そしてなによりも、こうした環境が当然と感じる、iPadで育った世代がメタバースを構築するエンジニアになる年になってきている。これだけの条件がそろって、メタバースイノベーションが来ないわけはない、とBallは述べるのである。

では、メタバースが登場するとして、そこでどのようなビジネスがうまれてくるのか。次に第13章 メタービジネスについて議論したい。










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okudenaohito

2022年9月5日 18:00


第14章 メタバースの勝者と敗者


順番からいうと13章 Metabusiness なのだがこの章を飛ばして14章メタバースで誰が勝つか に進めたいと思う。個別の産業の説明より大きな立場で分析しているので、次はどうなるのか、を知りたい読者にはこの順番がふさわしい気がするからだ。パートⅡはメタバースの作り方で、いろいろと興味深い話ではあるが、各論である。パートⅢはメタバースビジネスの将来であり、くわえて、一番大切な哲学的な視点の変化が前に出てくる。この視点からメタバースを整理して、個別具体の技術を語ると、大分意味が変わってくる。さらにどのようなビジネスが立ち上がってくるのか、もわかりやすくなる。

さて、最初に結論を書いておく。メタバースの世界の勝者はIVWP(Integrated Virtual World Platform)を提供したところになる。この世界で活躍するiPadネイティブの心をつかんだところがメタバースの勝利者になる。この議論はなかなか複雑に展開する。そもそもIVWPの意味をネットで探してもいまのところは出てこない。これはIntegrated Virtual World Platformの略である。これを巡る破壊的イノベーションの争いに生き残ったところがメタバースの勝者となる。

Ballの話は進み、いよいよ、メタバースの到来で誰が勝者になり、だれが敗者になるか、の議論である。Web2の勝者はGAFAMの5社である。このなかで生き残る会社はあるのか、さらに、別の会社が主導権を握るのか、まったく新しい会社がでてくるのか。予言は予言なので当たることもあるし当たらないこともある。しかしながら破壊的イノベーションの歴史にて照らし合わせると、大きな変化が起こる直前にあることがわかる。

Ballの議論をまとめてコメントをつけていきたいが、ポイントは次の質問である。

質問1: 新しい「メタバース経済」の価値とは何なのか?
質問2: 誰がそれをリードするのか?
質問3: メタバースは社会にとって何を意味するのだろうか?

多くの企業はいまメタバース騒動を目の前にして、この三つの質問をしているのではないか?だが、こうした質問に正しく答えることは意外に難しい。

質問1: メタバースの経済価値

メタバースとは何か、いつ到来するのかについて、決定的な議論は出ていないが、多くの経営者はうまくいけば、自社にとって何兆円もの価値があると信じている。nVidiaのJensen Huangは、メタバースの経済価値は最終的に物理世界のそれを「超える」と予測している。

メタバースの経済規模は実際どのくらいのものなのだろうか。過去を振り返ってみても、iPhoneの登場でモバイルインターネット時代になって少なくとも15年、インテル・マイクロソフトのプラットフォームとインターネット技術が結びついて40年、IBMや富士通NECといったデジタルコンピューティング時代になって4分の3世紀が過ぎた。それぞれの「モバイル経済価値」「インターネット経済価値」「デジタル経済価値」がどれほどの価値を持つかについてのコンセンサスは得られていない。

メタバースはまだ存在せず、その開始時期も明らかでないため、モバイル経済価値に焦点を当てるのは困難である。メタバースについて「メタバース経済」の規模を測るより現実的なアプローチがある。それは哲学的なものである。この話がなぜ冒頭で述べた結論、勝者はIVWPになる、と深く関係していくが、哲学的な議論に向かう前に、経済的な数字をもう少しまとめておこう。

Ballの説明によると、2032年にメタバースがデジタルの10%になり、その間に世界経済に占めるデジタルの割合が20%から25%になり、世界経済が平均2.5%の成長を続けるとすると、10年後にはメタバースの経済規模は年間3兆6500億ドルに達するという。この数字は、2022年以降のデジタル経済の成長の4分の1、同時期の実質GDP成長の10%近くをメタバースが占めていることを示す。メタバースは、2032年のデジタル経済の30%を占めるかもしれないと想像する人もいる。

この数字は推測にすぎないが、経済がどのように変容するかを正確に描写している。メタバースを開拓する企業は「デジタル」または「フィジカル」経済のいずれかをリードする企業よりも速く成長し、我々のビジネスモデル、行動、そして文化を再定義することになる。破壊的イノベーションが起きると想定すると、ベンチャー企業や株式市場の投資家は、メタバース関連の企業を他の企業より高く評価し、投資して、人々に多額の富をもたらすことになる。

現在、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトの5社の2021年の売上高は1兆4000億ドルで、デジタル支出全体の10%未満、世界経済全体の1.6%を占めると報告されている。世界を支配する魔の帝国というには規模は小さい。だが、これらの企業は、社会に大きな影響を与えている、とBallは述べる。

質問2: メタバースをリードする企業とは?

メタバース時代をリードするのはどの企業か?いろいろ言われているがFacebookは過小評価出来ないという。30億人の月間ユーザーと20億人の日次ユーザーを抱え、オンラインで最も利用されているIDシステムを持っている。すでにメタバース関連の取り組みに年間120億ドルを費やし、VRハードウェアの出荷を他社に数年先行して行い、創業者はどの企業幹部よりもメタバースを信じている。だが、破壊的イノベーションは投資をすれば勝てるというものではない。予測不可能なものだ。過去にいくつもの間違いをおかしてきたマイクロソフトも侮れない。アプリストアやスマートフォンの役割から、一般消費者にとってのタッチスクリーンの重要性まで、すべてにおいて間違っていた。Windows OSと統合されたMicrosoft Exchange、Officeスイートなどの収益に頼り、今まできたが、顧客が好むものをサポートするという決断が出来る会社になっている。マイクロソフトのサービスをことごとく蹴散らした、Googleはどうだろうか?Googleは仮想世界、仮想世界プラットフォーム、仮想世界エンジン、あるいはそれに類するサービスを自社で持っていない。ナイアンティックはもともとGoogleの子会社だったが、2015年にスピンアウトした。その2年後、グーグルは衛星画像事業をプラネット・ラボに売却した。2016年には、クラウドゲームストリーミングサービス「Stadia」の構築に着手し、2019年末にサービスを開始した。同年初め、グーグルは「クラウドネイティブ」コンテンツスタジオである「Stadia Games and Entertainment」部門も発表した。しかしながら、2021年初頭、このスタジオは閉鎖された。その後の数カ月で、ゼネラルマネージャーを含む多くのスタディアのトップが、グーグル内の他のグループに移ったり、会社から完全に退職したりした。

こうした動きに比較して、Epic GamesUnityRoblox Corporationといった企業は、すでに新たな破壊的イノベーションの勝者への道を行っているように見える。評価額、収益、事業規模はGAFAMに比べると控えめだが、彼らはプレイヤーネットワーク、開発者ネットワーク、そして、仮想世界を持ち、メタバースにおける真のリーダーとなり得る。過去10年半の間、GAFAMはストリーミングTV、ソーシャルビデオ、ライブビデオ、クラウドベースワードプロセッサー、データセンターなどについて主に関心を寄せてきた。だが、「メタバース」に必要な子どものための仮想遊び場やその世界を作るゲームエンジンにはほとんど関心を払ってこなかった。またGAFAMはエピック、ユニティ、ロブロックスを買収しようとはしなかった。ビデオゲームという領域が重要な領域であるとはおもっていなかったのだ。RobloxのIVWP(統合仮想世界プラットフォーム)はゲームエンジンUnityである。(最近ではunReal Engine 5を使うことも出来る)。そして、何よりも大切なのは、Roblox はiPad ネイティブといわれる子供達がコンテンツを制作している。彼らが大人になるのはもうすぐだ。彼らはソーシャルネットワークを採用したことすらない消費者なのである。

Facebookがメタバースへの最も積極的な投資家であり、Googleが最も位置付けが低いとすれば、Amazonはその中間に位置している。アマゾン・ウェブ・サービスはクラウドインフラ市場の3分の1近くを占めている。メタバースはかつてないほどのコンピューティングパワー、データストレージ、ライブ配信力を要求する。つまり、メタバースが成長して他のクラウドプロバイダを使うようになっても、現状のサービスでメタバースから大きな利益を得ることができる。しかし、メタバースに特化したコンテンツやサービスを構築するアマゾンの取り組みは現状ほとんど成功していない。

ちなみにBallは最近までAmazonの開発のプロデュースに関わっていたので、このあたりの分析はなかなか面白い。Amazonでは音楽、ポッドキャスティング、ビデオ、ファストファッション、デジタルアシスタントなど、ほとんど成功していない。創業者JefLBezosは "計算能力を活用してばかげたゲーム "を作ることを目標にAmazon Game Studiosを設立して、毎年数億円を費やしてきた。しかし、制作したタイトルのほとんどは発売前にキャンセルされた。Amazon Game Studiosの少ない販売例の一つは2022年2月にリリースして絶賛された「Lost Ark」である。

だがこれはAmazon Game Studiosが作ったものではなく、S.milegate RPGが開発し、2019年に韓国でリリースされ、その1年後にAmazonが英語圏の契約を結んで発売したものである。アマゾンはゲームエンジンも開発しており、ゲーム「ファークライ」のパブリッシャーであるクライテックが所有する中堅の独立系ゲームエンジン「CryEngine」のライセンスを取得した。その後数年間、Amazonは数億ドルを投じてCryEngineを、AWSに最適化させて、UnrealやUnityの競合となりうるLumberyardへと変貌させた。

ところが、このエンジンは開発者にあまり採用されず、2021年初めにLinux Foundationが開発を引き継ぎ、「Open 3D」と改名し、無料かつオープンソースとした。アマゾンはこれまでのところ、リアルタイムレンダリング、ゲーム制作、ゲーム配信の周辺では、ほぼすべての取り組みが期待外れとなっている。

面白いことに、ここにEpicも加わっている。この動きは追いかけてみたいね。


Appleもメタバースのイノベーションにおいては重要な役割を持つかもしれない。同社のハードウェア、オペレーティングシステム、アプリプラットフォームは、仮想世界への重要なゲートウェイであり続け、メタバース時代が来ても何十億もの高収益をもたらし、技術標準やビジネスモデルに対する影響力も強いままだと思われる。また、軽量、高出力、使い勝手の良いAR・VRヘッドセットやその他のウェアラブルを開発・発売する場合、iPhoneとの統合性が高いこともあり、有利な立場を維持することが出来る。

しかし、AppleはRobloxのような独自のIVWPを開発していないことが知られている。これは繰り返すが、Integrated Virtual World Platformの略語であり、これを提供することによって、他者がバーチャルワールドを構築することがより簡単に、より安く、より早くできるようになる。これはメタバースの世界構築においてもっとも大切な概念の一つである。また、このプロセスにより、バーチャルオブジェクトとデータの標準化がさらに進む。
IVWPの開発者は、仮想世界で拡大を続けるオブジェクトとますます高性能になるネットワークの構築において、お互いに協力をしているのだ。Appleはゲームに関する専門知識が乏しく、またソフトウェアやネットワークではなくハードウェアに特化した企業であるため、今後有力なIVWPを構築する可能性は低いと思われる。

GAFAM企業のなかで、メタバース時代に生き残るのはマイクロソフトかもしれないと言われている。2001年に発売された最初のXbox以来、投資家や会社幹部はマイクロソフトにゲーム部門が不可欠なのか、それとも邪魔なのかを議論してきた。しかし、サティア・ナデラがマイクロソフトのCEOに就任して3ヶ月後、彼はマイクロソフトとしてのゲーム戦略を明らかにして、数十億ドルでMinecraftを買収した。これは利用者数最大といわれるIVWPである。

マイクロソフトはゲーム体験をビジネスの中心に置いた。マイクロソフト・フライト・シミュレーターは、Xbox Game Studiosが開発・発売したものである。この作品は、無償利用できるオンライン地図であるOpenStreetMapsのデータを活用し、Azureの人工知能がこれらのデータを3Dビジュアライゼーションで描写し、リアルタイムの気象情報を提供し、クラウドデータストリーミングを行っている。


Xbox部門は、独自のハードウェア群、世界で最も人気のあるクラウドゲームストリーミングサービス、ファーストパーティゲームスタジオの艦隊、および少数の独自エンジンも持っている。2022年1月、マイクロソフトは中国以外の独立系ゲームパブリッシャー最大手のアクティビジョン・ブリザードを750億Sドルで買収することで合意した。GAFAM史上最大の買収額といわれている。この買収を発表した際、マイクロソフトは「(Activision Blizzardは)モバイル、PC、コンソール、クラウドにわたるマイクロソフトのゲーム事業の成長を加速させ、メタバースのためのビルディングブロックを提供する」と述べた。



多くの点で、Nadella 氏の Minecraft に対するアプローチは、Microsoft 社は全体的な戦略を変更してモバイル時代を生き延びてきた。この戦略によると、マイクロソフトのサービスは自社のオペレーティングシステム、ハードウェア、技術スタック、またはサービスのためだけに設計されることはなく、かつてのように、自社で動作するように最適化されることもない。代わりに、プラットフォーム非依存型になる。マイクロソフトのサービスは、自社のプラットフォームにとらわれず、できるだけ多くのプラットフォームをサポートするとしてきた。こうして過去10年、マイクロソフトは、コンピューティングOSの覇権を失いながらも成長することができた。この哲学を、メタバース時代にも当てはめよう、そしてオフィスもゲームもこのなかにとりこむとしたのだ。

1946年に設立されたソニーもまた、興味深い。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、売上高で世界最大のゲーム会社であり、自社開発のハードウェアやゲーム、サードパーティーの出版・流通に関わる事業を行っている。SIEはまた、世界第2位の有料ゲームネットワーク(PlayStation Network)、世界第3位のクラウドゲームストリーミング配信サービス(PSNow)、および複数の高度なゲームエンジンをつかって、『The Last of Us』『God.of War』『Horizon Zero Dawn』などのオリジナルゲームを開発している。


一方、ソニー・ピクチャーズは、売上高で最大の映画スタジオであると同時に、独立系テレビ/映画スタジオ全体でも最大である。また、ソニーの半導体部門は、イメージセンサーの世界的リーダーであり、50%近い市場シェアを持ち(アップルはトップ顧客)、イメージワークス部門は視覚効果やコンピュータアニメーションのトップスタジオである。ソニーのHawk-Eyeは、世界中の多くのプロスポーツリーグで、3Dシミュレーションやプレイブラックを通じて審判を支援するコンピュータビジョンシステムとして使用されている。

サッカークラブのマンチェスターシティでは、試合中にスタジアム、選手、ファンのライブデジタルツインを作成する技術も導入している。


ソニー・ミュージックは、売上高で第2位の音楽レーベルでありTravis Scott はSony Music artistである。


CrunchyrollとFunimationは世界最大のアニメストリーミングサービスを提供している。

ソニーの資産とクリエイティビティを振り返ると、メタバースが出現した今、大きな可能性を感じさせる。SONYがメタバース時代の勝者でいいのでは、と思う人がおおいだろう。

だが、問題が無いわけでは無い。ソニーのゲームはほとんどプレイステーション専用であり、SIEはモバイル、クロスプラットフォーム、マルチプレイヤーゲームでヒット作を生み出すことに成功しているとは言えない。ゲームハードやコンテンツには強いが、オンラインサービスでは後塵を拝しており、半導体の分野では日本が強みを発揮しているものの、コンピューティング・インフラやバーチャル・プロダクトの分野ではリーダーシップを発揮していない。

これはどういうことかというと、ソニーがメタバースに移行するためには、 GAFAMのサービスや製品を利用する必要があるということになる。2020年、ソニーは強力なIVWPであるDreamsをリリースした。

しかしながら、多くのユーザーや開発者を惹きつけることはできなかった。他のIVWPとは異なり、Drezznjs_was.はフリー・トゥ・プレイではなく、40ドルで販売された。さらに、競合するIVWPは世界中の何十億ものデバイスでプレイできるのに対し、このタイトルはPlayStation®コンソールに限定されていた。
ここ何十年か、ソニーはチャンスを逃した会社とされてきた。ソニーはウォークマンを通じて携帯音楽機器の世界的なマーケットリーダーであり、世界第2位の音楽レーベルを所有していた。が、デジタル音楽に革命をもたらしたのはアップル社であり、ソニーは家電、スマートフォン、ゲームに強みを発揮したが、携帯電話事業からは撤退し、コネクテッドTV.デバイスの分野にも完全に乗り遅れた。ソニーは、守るべきレガシーTV事業を持たない唯一のハリウッド大手であり、NetflixがDVDからピボットしたのと同じ年にストリーミングサービスCrackleを開始したが、この機会を生かすことはできなかった。

ソニーがメタバースを実現するためには、多大なイノベーションだけでなく、前例のない部門横断的なコラボレーションが必要である。そして、同時に、PlayStationのような緊密に統合された自社製品の外に出て、サードパーティのプラットフォームと接続する必要がある。

最後の候補者はNvidiaである。この会社はグラフィックス・ベース・コンピューティングの時代のために30年以上かけて成長してきた。Amazon、Google、Microsoft のデータセンターに搭載されているハイエンドの GPU や CPU を供給している。しかし、Nvidia は、それ以上のサービスを展開している。例えば、同社のクラウドゲームストリーミングサービス「GeForce Now」は世界で2番目に利用されており、ソニーの数十倍、AmazonのLunaやGoogleのStadiaよりも桁違いに大きく、マーケットリーダーのMicrosoftの半分の規模となっている。

一方、Omni Verseのプラットフォームは、3D標準を開拓し、異種のエンジン、オブジェクト、シミュレーションの相互運用を容易にし、「デジタル、ツイン」および現実世界のためのRobloxのようなものになる可能性がある。

Nvidiaはゲームを制作したり、VR用のヘッドセットを販売することはないだろうが、自社のIVWPを提供してMetaverseで活躍する可能性の高い会社である。

この先はわかりにくいが、Robloxで遊んでいる世代はiPad ネイティブであり、彼らはいま大人になろうとしている。そして、シリコンバレーからだけではなくて、様々な場所で何千(あるいは何万)人もの同時ユーザーを素晴らしいゲームや、ブロックチェーンアプリケーションを開発して、魅力的なIVWPを生み出す可能性がある。

質問3: メタバースは社会にとって何を意味するのだろうか?

答え:信頼がこれまで以上に重要になる社会の構築がメタバースによって可能になる

さて、こうした競争において、哲学的な考察が必要な領域がある。それが「信頼」である。どの企業が破壊的イノベーションを経てメタバースの世界で主流になっていくのかは解らない。だが一握りのIVWPが、メタバースのプラットフォームとなり、人々がメタバースで費やす時間、コンテンツ、データ、および収益のかなりのシェアを占めていくだろう、ということである。

我々にとって大切なことは、メタバースをめぐる戦いは大企業同士でも、大企業とそれを駆逐しようとするスタートアップ企業との間でもない。iPodからiPhoneへの流れで、2007年にアップルがクローズドモバイルエコシステムを立ち上げた。アップルはこの判断で、モバイル経済を生み出し、より大きく成熟させ、同時に歴史上最も価値と利益のある会社と製品を生み出してきた。15年後の現在、米国のパーソナルコンピュータにおけるアップルのシェアは3分の2以上(ソフトウェア販売のシェアは4分の3に近い)二なる一方で、以前に詳細を紹介したEpicとの裁判に見られるように、アップルの支配は開発者と消費者から多くの選択肢を奪っている。

大企業なのかスタートアップなのか、という対立ではなくて、あたらしい軸をたてると話は見えてくる。Ballは次のように説明する。Epic Games の開発者向け Unreal ライセンスは、特定の Unreal Engine プログラムの開発者に無期限の権利を与える。また、Unreal のライセンスでは、開発者がカスタマイズをほぼ自由に行えるため、開発者は将来のアップデートを使用せず、4.13、4.14、5.0、およびそれ以降に Epic が追加するものの代わりに、独自に構築することを選択することが可能となっている。

Epic社はブロックチェーンによる権利の分散化も考えている。相互に排他的ではない権利をメタバースに構築するために、「現実世界」の法制度を拡張して、非物質的なものの物質性を反映させることが必要と主張している。Tim Sweeney氏は、「強力な企業が裁判官、陪審員、死刑執行人として行動する能力を持ち、「製品を作り」、「製品を流通させ」、「顧客関係」をサービスすることを止めることができる」という活動を行う(Appleの行動を指す)ことから誰も利益を得られないと論じている。

ここで非常におもしろいのはメタバースのなかに信頼を基本とする仕組みを生み出そうとしていることである。IVWPを構築するためには開発者を惹きつける必要がある。そのためにはIVWPを信頼してもらわなくてはいけない。現状のIVWPはより良い、より収益性の高い仮想商品、空間、世界をより簡単に、より安く、より速く構築するために、何十億も投資している。彼らはまた、単なるパブリッシャーやプラットフォームではなく、パートナーであるに値することを、メタバースのポリシーとして提供することに新たな関心を示している。これは常に優れたビジネス戦略でしたが、メタバースを構築するために必要な投資の膨大さと、それが開発者に求める信頼に答えるものになり、それがIVWPの発展を促す。よって、この戦略が最重要視されるようになったのです。

2021年4月、マイクロソフトは、PCのWindows Storeで販売されるゲームの手数料を従来の30%から12%に抑え(Xboxではそのまま)、Xboxユーザーはゲーム機のXbox Liveサービスに加入する必要なく、フリートゥプレイのゲームをプレイできると発表した。2ヵ月後、この方針は修正され、非ゲームアプリはマイクロソフトのものではなく、独自の課金ソリューションを使用できるようになり、その結果、VisaやPayPalなどの決済レールから課される2~3%のみを支払えばよくなった。9月までに、XboxはEdgeブラウザを「最新のWeb標準」に更新したと発表し、ユーザーはXboxの競合他社(GoogleのStadiaやNvidiaのGeForce Nowなど)が所有するクラウドゲームストリーミングサービスを、Microsoftのストアやライブサービスを使用せずに、デバイスからプレイできるようになった。

マイクロソフトの最も重要な方針転換は2022年2月に行われ、同社はWindowsオペレーティングシステムのための新しい14項目の方針プラットフォームと、"ゲームのために(同社が)構築する次世代マーケットプレイス "を発表しました。これには、サードパーティの決済ソリューションやアプリストアをサポートすること(そして、それらを使用することを選択した開発者に不利益を与えないこと)、ユーザーがこれらの代替手段をデフォルトオプションとして設定する権利、開発者がエンドユーザーと直接コミュニケーションする権利(そのコミュニケーションのポイントが、Microsoftのストアやサービス群を除外することによってより良い価格やサービスを得られることをユーザーに伝えることであっても)、が含まれていた。重要なことは、Xboxのハードウェアは赤字で販売され、Microsoft独自のストアで販売されるソフトウェアによって累積的な利益を生み出すように設計されているため、これらの原則のすべてが「現在のXboxコンソールストアに直ちにかつ全面的に適用されるわけではない」ことをMicrosoftが表明したことである。ただし、Microsoftは「Xbox本体上のストアであっても、ビジネスモデルを適応させる必要があることは認識している。. . . 残りの原則については、時間をかけてギャップを埋めていくことを約束します」と述べた。

2021年10月にFacebookのメタバース戦略を発表する際、マーク・ザッカーバーグは「メタバースの経済性を最大化」し、開発者をサポートする必要性について明確に述べている。例えば、ザッカーバーグ氏は、Facebookのデバイスは引き続き原価以下で販売されるが(コンソールに似ているがスマートフォンとは異なる)、同社はユーザーが開発者から直接、あるいは競合するアプリストアを通じてアプリをダウンロードできるようにすると述べている。また、OculusのデバイスはFacebookアカウントを必要としなくなり(2020年8月に新しいポリシーとなった)、自社独自のAPIスイートを作るのではなく(要求するのはともかく)、ブラウザベースのAR・VRアプリ用のオープンソースAPIコレクション「WebXR」とインストール型のAR・VRアプリ用のオープンソースAPIコレクション「OpenXR」を継続して使用すると発表した。

その後数週間のうちに、Facebook は、かつてサポートされていたものの数年間閉鎖されていたいくつかの API と競合プラットフォームとの統合を発表した。最も注目すべき例のひとつは、InstagramのリンクをTwitterに投稿すると、関連するInstagramの写真がツイートの中に表示される機能である。Instagramは2010年のサービス開始後間もなくこのAPIを提供しましたが、2012年にFacebookに買収されてわずか8カ月後にこのサービスは削除された。

マイクロソフト、フェイスブック、そしてその他の巨大企業について皮肉るのは簡単なことだ。2020年5月、マイクロソフトのブラッド・スミス副会長(ナディラ氏はCEOで会長)は、オープンソースソフトウェアに関して同社は「歴史の間違った側にいた」と述べ、2022年2月には、米上院が可決した、アップルとグーグルに自社のモバイルOSを第三者のアプリストアや決済サービスに開放するよう求める法案を公に支持した(彼はこの「重要」法案により「競争を促進し、公正さと革新を確保できる」と述べている)。

さて、IVWP型のメタバースプラットフォームでは開発者やユーザーがプラットフォームを信頼できることが必要になり、そのようなプラットフォームだけが勝ち残っていく。これが哲学である。この哲学を実現するのがブロックチェーンをつかってプログラミングできるapplicationの「トラストレス」で「パーミッションレス」な性質である。

人々は、Google MapsやInstagramなどの「Web 2.0」の時代には多くの素晴らしいサービスを無料で受け、多くのキャリアやビジネスがこれらのサービスの上に、そしてこれらを通じて構築された。しかしながら、個人情報を膨大にGAFAMに蓄積されてしまったいま、多くの人はこの交換が公平なものではなかったと考えている。ユーザーは「無料サービス」の見返りとして、これらのサービスに「無料データ」を提供し、それが何千億ドル、何兆ドルという価値のある企業の構築に利用されたのだ。

さらに悪いことに、これらの企業は事実上顧客のデータを永久に所有し、その結果、データを生成したユーザーが他の場所でそれを使用することが難しくなっている。例えば、アマゾンのレコメンデーションは、何年にもわたる過去の検索と購入に基づいているため、非常に強力だが、その結果、同等の在庫、低価格、同様の技術があっても、ウォルマート(あるいは他の「新興企業」)は、アマゾンの顧客を満足させるために常に困難な道をたどることになる。これでは公正な競争が保てない。公平な競争を維持するためにはアマゾンにため込まれた自分の履歴をエクスポートして競合サイトに持ち出す権利をアマゾンはユーザーに提供しなければならない。Instagramのユーザーには、技術的にはすべての写真をダウンロード可能なZIPファイルにエクスポートし、競合サービスにアップロードする権利は与えられているが、コレを行うプロセスは簡単ではない。また、各写真の「いいね」やコメントを引き継ぐ方法は提供されていない。また、多くの人が、「データで構築された企業」が、現実世界を劇的に悪化させ、サービスを利用する人々の心理的・感情的な生活に悪影響を及ぼしていると考えている。ザッカーバーグがメタへの社名変更を発表したときの反応の大部分は、嘲笑で占められていた。なぜ、フェイスブックのような会社が、さらに我々の生活に入り込む必要があるのか?知らないうちに社会はオーウェルが『1984』で描いたような社会になり、ギブソンやスティーブンソン、クラインが描いたディストピアとなってしまったのではないか?

これはappleが1984年に打った記念碑的なコマーシャルで、IBMの巨大なコンピュータが社会をしはいしている。それをappleはぶちこわす、というものである。オーウェルの小説をもとにしている。当時はこうした哲学をもっていたApple社だが、いまや巨大コンピュータによる支配側に回ったと言うことである。

さて、ここで非常にたいせつなことがある。現在 「Web3」「Metaverse」という言葉が混同されている。巨大なクラウドに個人のデータをため込みそれを強力なコンピュータで分析して人々の行動を予測してビジネスを行う。これがweb2である。ことときに、GAFAMの技術巨人たちに与えられる個人の自由を束縛する力はス座間市鋳物がある。メタバースという言葉はディストピアSFからきているという歴史を最初に紹介したが、マトリックス、メタバース、オアシスという言葉で表される世界を支配する人々がその情報を悪用することを止めることは出来ない。絶対的な権力はかならず腐敗する。

EpicのCEOであるスウィーニーは警告する。「もし、ある中央企業がメタバースを掌握したら、彼らはどんな政府よりも強力になり、地球上の神となるであろう。」ここがメタバースの真剣な議論における最も重要な点である。メタバースが登場して我々がそこに生きていくためには、メタバースが絶対的な権力をもたない必要がある。そのようなメタバースで無い限り、私たちは信頼をもたないだろう。web3とはそのような信頼を生み出すものであり、ブロックチェーンをつかって様々なアプリケーションを構築して私たちの周りにいあるメタバース世界を信頼できるものにしていく必要があるのである。そのための「信頼」を生み出す政策を作り、ブロックチェーンアプリケーションにして、web3として、メタバースに埋め込んでいく必要があるのである。


次回第15章ではTCO/IPを拡大して信頼できる環境をblockchainで構築していくための政策について議論を進めたい。


メタバース 徹底して解るまで 21|okudenaohito|note

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メタバース 徹底して解るまで 22

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okudenaohito

2022年9月17日 15:48

第15章 メタバース的存在 

OIVWP(Open Integrated Virtual World Platform)を目指して


メタバースを言い換えると統合的仮想世界プラットフォームIVWP
(Integrated Virtual World Platform)
である。現在存在しているIVWPで活発なものはRoblox, MinecraftそしてFortnite Creativeである。




このプラットフォームはUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンが組み込まれている。下記がゲームエンジンのイメージだ。




ゲームエンジンは実際にコーディングをしなくてもゲームや体験場所、仮想世界を造ることができる。ゲームエンジンから部品を選んで組み立てれば良いのである。いままでのゲームやコンテンツ制作に比較して、簡単に少人数でプログラミングの経験が無くてもゲームを造ることができる。Robloxでは小学生が仮想世界を作って遊んでいる。

もう一つ大切なことがある。こうしたIVWPはゲームエンジンで仮想世界を作るサービスだけでは無く、このプラットフォーム内でユーザーがゲームエンジンでつくったゲームで活動するために必要なもろもろのサービスを提供している。たとえば
IDアカウント
コミュニケーションシステム
アバター管理用データーベース
仮想通貨

などである。IVWPを使えば、コンテンツを簡単に使うエンジンと作った世界を管理するサービスが入手できるのだ。Facebookの頁を作るように仮想世界が作れるようになっている。Robloxはさらにユーザーがつくった部品(クリスマスツリーなど)を販売できるマーケットプレイスも提供している。

ゲームの開発者は自分の作ったゲームからの収入に加えて、自分がつくった部品からも収益を上げることが出来る。またゲームを作ろうとしている人はこうした部品をつかうことでより簡単にゲームを造ることができる。ゲームエンジンだけをつかってゲームを作るには、様々なサービスを自前で開発しなくてはいけない。多くのゲーム開発会社はそうしている。しかし、IVWPの中で開発をするとこうしたサービスはすでに用意されている。

一方でIVWPそのものを作ることは高度なプログラミング技術と設計が要求される。だが、一度このプラットフォームをつくるとこのプラットフォーム内でつくられたゲームを構成する部品は別のゲームでも使うことが出来る。新しい使い手が既製の部品を改善することも出来る。つまりIVWPの中の多くの開発者達はお互いに協力しながら自分たちの世界を拡大していくことができるのだ。ネットワークに接続されているため、多くのユーザーが集まってくる。そして集合的なR&Dが始まる。現状ではIVWPはRobloxとFortniteとMinecraftであるが、完全にユーザーに開発を委ねているのはRobloxだけである。

さて、IVWPはゲームエンジンであるUnityかUnrealを中心に作られていて、仮想世界を作るにはコードを書く必要がない。その世界をマネージメントするサービスはIVWPの中がコードを書いて提供する必要がある。このコードの部分にブロックチェーンを使ったIVWPも存在する。有名なものにはDecentrandthe Sandboxがある。利用者はRobloxやMinecraftの1%にも及ばないが、これらのプラットフォームではユーザーに彼らが開発したゲームあるいは「世界」を所有することを許している。だが、これは私見だが、そこに集まるユーザーにRobloxやFortnite createのような活気が感じられない。

さて、IVWPをapple storeで販売するとIVWPが上げた収益の30%をAppleが「税金」として持って行くことに意義を申し立てたEPICの話はすでに書いたが、Appleがプラットフォームでは無く、EPICがプラットフォームであるというのがこの裁判のポイントであった。

この話を例えば教育のコンテンツを例として考えてみよう。コンテンツをつくってAppleで販売すれば30%を持って行かれる。だが教育コンテンツ向けIVWPがあったとすると、作るのは簡単で、実際にある程度の利益が出るまでは開発者に金銭的負荷がかからない。多くの人が開発者となりコンテンツを提供して、そこで遊ぶ(学習する)ユーザーがふえればふえるほど、Appleやグーグルのプラットフォームでコンテンツを配り課金するときの経済的な不利益が大きくなるのである。GAFAMのなかで、IVWPに対応するプラットフォームを持っているのはマイクロソフトだけだ。だが大きな動きはない。SONYもIVWPを作ったが人気が出ていない。

IVWPの人気がでるには、多くのユーザーが自由にコンテンツをつくり、それがある程度の収益を生み、ますます多くのユーザーがコンテンツを提供するようになる。この循環が必要だ。多くのコンテンツを集め、そのなかから魅力あるコンテンツが生まれてくる。この流れが大切なことはもちろんだが、IVWPがオープンになり、いろいろな場所でコンテンツやアバターが活躍するようになると、魅力的なコンテンツはさらに増えていくだろう。だが、IVWPをオープンにするには「信頼」の問題を解決しなくてはいけない。

デジタル時代は、私たちの生活のさまざまな側面を向上させた。情報へのアクセスはかつてないほど大きくなり、私たちが入手できる情報の多くが無料で手に入る時代となった。物理的に遠く離れている者同士が、より身近に感じられるようになり、アートが簡単に手に入りるようになった。これほど多くのアーティストが自分の作品に対価を払ってもらったことはない。

しかし、IVWPをつくり、多くのコンテンツクリエータをあつめ、さらにオープンIVWPで複数のメタバースでコンテンツクリエータが活動できるようになると、「信頼」の問題が大きくなる。インターネットが登場してTCP/IPが普及した今でも、私たちは誤った情報、操作、過激化、嫌がらせや虐待、自分のデータの所有管理の権利、不十分なデータセキュリティ、その他多くのオンライン生活上における信頼の確立の困難さに直面している。現在、IVWPで活動をしている多くのクリエーターやゲーマーの活動はいまのインターネットではなく次のインターネットの世界であり、この世界での信頼を確立する方法が明らかにならないとメタバース世界は登場してこない。

オープン化されたIVWPであるメタバースでは、私たちの生活、労働、余暇、時間、支出、富、幸福、そして人間関係の多くがオンラインになる。オープンなIVWPが到来すると、我々は「実際にオンラインで存在する」ようになる。その結果、大きな未解決の社会技術的課題が明らかになる。誤報や選挙の改ざんが増加し、現在のような脈絡のない発言、荒らしのツイート、誤った科学的主張といった複雑な状況がIVWPの登場でさらに大きな問題となる。メタバースにおける不正な資金調達の摘発は難しい。またバーチャルおよびフィジカルな新技術を駆使したメタバースにおいて、ハラスメントがどのようになるのか、を考えることは恐ろしい。

Ballは次のように信頼の問題を列挙していく。

データの権利と使用に関する問題はより大きな問題をはらんでいる。民間企業や政府が個人データにアクセスするという問題だけでなく、ユーザーは自分が何を共有しているのかを理解しているのか?ユーザー自分のデータを適切に評価しているのか。IVWPは、ユーザーにデータを返す義務があるのか?無料サービスは、データ収集を「買う」という選択肢をユーザーに提供しなければならないのか、もしそうなら、それはどのように評価されるのか。私たちは今、これらの質問に対する完璧な答えを持っているわけではなく、それを見つけるための方法もない。しかし、メタバースは、より多くのデータやより重要な情報をオンラインに置くことを意味する。また、このデータを無数の第三者と共有し、その第三者がデータを変更できるようにすることを意味する。この新しいプロセスは、どのように安全に管理されるのか?誰が管理するのか?ミスや失敗、損失、違反があった場合の救済措置は?さらに言えば、仮想データは誰が所有すべきものなのだろうか?Robloxで何百万ドルもかけて開発したビジネスには、構築したものに対する権利があるのか?それを他の場所に持っていく権利はあるのか?Robloxの中で土地や商品を購入したユーザーは、その権利を持つのだろうか?(291頁)

このようなBallの指摘はそのとおりである。ではどのように信頼の構造をIVWPに組み込んでおけば良いのか?

メタバースのガバナンス

こうした問題を考えるにはメタバースのガバナンスをしっかりと考えることが大切になる。誰が、どのように、どのような哲学に基づいてメタバースを構築するのかが大切になる。仮想世界のプラットフォーム運営者やサービスプロバイダを超える統治機関がないことが問題なのだ。インターネットではこの問題はIETFが扱った。この団体は、当初は米国連邦政府によって設立され、インターネットの自主的な標準化、特にTCP/IPの標準化の舵取りをするためのものであった。IETFやその他の非営利団体(そのうちのいくつかは国防総省によって設立された)がなければ、私たちが知っているようなインターネットは存在しなかったと言われている。

20世紀を通じて、政府は、通信、鉄道、石油、金融サービス、そしてもちろんインターネットに至るまで、新しいテクノロジーを導いてきた。しかし、GAFAMが台頭してきたこの15年ほどの間に、政府はその能力を失ってしまった。メタバースはこの先をいく仕組みである。そこで、ユーザー、開発者、プラットフォームは新しい経済活動を始めるだけでは無く、それをガバナンススするだけの新しいルール、標準、統治機関、が必要となる。以下メタバースガバナンスに関するBall氏の意見をまとめておく。

2022 年、米国、欧州連合、韓国、日本、インドを含む多くの政府が、アップルとグーグルがアプリ内課金ポリ シーを一方的に支配し、競合する決済サービスをブロックする権利や他の決済レール(例えば、ACH や電信)を 中断する権利を有するべきかどうかに注目している。しかし、決済は、プラットフォームが開発者、ユーザ、潜在的な競合他社を支配するために使用する手段であるが、その1つに過ぎない。AppleやGoogleのようなプラットフォームは、ユーザーのアイデンティティ、ソフトウェア配布、API、などをハードウェアやオペレーティングシステムからアンバンドリングしなくてはいけない。メタバース社会でとデジタル経済が繁栄するためには、ユーザは自分のオンライン・アイデンティティと購入したソフトウェアを「所有」できなければいけない。ユーザーは入手したソフトウェアをどのようにインストールし、どのように支払うかを自分で選択できなければいけない。一方、開発者は自分のソフトウェアが特定のプラットフォーム上でどのように配布されるかを自由に決定することができなければいけない。
また、独立したゲームエンジン、統合された仮想世界、アプリストアを構築する開発者の保護も強化する必要がある。unrealの開発者向けライセンスに対するEPIC社CEOのスウィーニー氏のアプローチは、ライセンスの終了を企業内部ではなく、裁判所の手続きに委ねるというものである。これは正しいものだが、事実上の法律がどこで終わり、立法・司法プロセスがどこで始まるかを決定するのは、営利企業だけであってはいけない。たとえエピック社のように、その「利他主義」がより良いビジネス慣行と結びついているとしても、彼らの利他主義をあてにすることはできない。決定的なのは、新しい法律が仮想資産、仮想居住、仮想コミュニティに特化して書かれない限り、物理的な商品、物理的なモール、物理的なインフラの時代に設計された法律が誤って適用され、利用される結果になる可能性が高いということである。メタバースの経済がいつの日か物理的世界のそれに匹敵するようになるなら、政府はその中の仕事、商取引、消費者の権利を同じように真剣に考える必要がある。(296p-297p)

以下Ball氏のメタバースガバナンスへの提案を整理すると

1)プラットフォームを規制するポリシーを制定する。
政府がIVWPが、自分たちが作った環境、資産、体験を輸出したいと考える開発者を、どのように、どの程度サポートしなくてはいけないかに関する政策を制定する。

IVWPのために作られたコンテンツは、そのIVWPの中で作られることがほとんどである。Robloxで作られたコンテンツは、基本的にRobloxだけでつかわれる。Robloxのコンテンツはライブストリームのように一時的なものではなく、継続的に更新される。このとき、現状では開発者が複数のIVWPにまたがって活動しようとする場合、その制作物のほとんどすべての部分を作り直さなければいけない。open IVMPではこの作業は時間とお金の無駄になる。IVMPがオープンでないと、開発者は単一のプラットフォームに依存する。すると、開発者は特定のIVWPの投資が増大して、そのIVWPから離れることが難しくなる。すると、開発者は、優れた機能性、経済性、成長性を提供する可能性のある新しいIVWPをサポートする可能性が低くなり、既存のIVWPは競争がなくなり、自分のプラットフォーム改善の努力無く、市場を独占できるようになる。支配的なIVWPが「レント・シーク」する可能性さえあるとBallは述べる。
自由競争行動を前提とする資本主義経済において不正な競争状態を作り出すことを「レントシーク」という。この場合のレントとはrentであり、家賃の事だが、歴史的にはイギリスの農園主が小作人から徴収していた地代のことを意味していた。これから転じて制度や規制などによって苦労せずに得られる利益、つまり「利権」という意味を持つようになった。企業などが、政府や官庁などに働きかけを行い、自らの利益を増やすように法律や政策、税制などを変更させようとする活動のことである。IVWPのユーザーを振りにする不公平なルールをレントシークという。
過去10年間、GAFMSと呼ばれるインターネットプラットフォームは、このような行動をしてきたと批判されてきた。例えば、多くのブランドは、Facebookのニュースフィードのアルゴリズムの変更により、自発的にFacebookページを「いいね!」したまさにそのFacebookユーザーにリーチするために、事実上広告を購入することを強制されたと主張している。2020年、AppleはApp Storeのポリシーを改定し、一部の例外を除き、サードパーティのIDシステム(例えば、FacebookやGmailアカウントによるログイン)を使用するiOSアプリは、Appleアカウントシステムもサポートする必要があるようにした。
IVWPの中には、選択的エクスポートをサポートしているものがある。オープンにしているのだ。例えば、Robloxは、Robloxで作られたモデルを、OBJファイルフォーマットを使ってBlenderに取り込むことを可能にしている。しかし、システムからデータを取り出しても、それが使えるデータであるとは限らない。たとえ使えるデータであっても、それを使えるようにするプロセスは必ずしも簡単ではない。この案配はプラットフォームの裁量次第である。
この仕組みをなくして、プラットフォームをオープンにすることを政府はIVWPに要請することが出来る。これは規制であると同時にメタバースの標準を形成する機会でもある。IVWPのエクスポート規約、ファイルタイプ、データ構造に関するポリシーを設定する。これによって、規制当局はプラットフォームのインポート規約、ファイルタイプ、データ構造のポリシーもけっていすることができる。最終的には、仮想没入型教育環境やARプレイグラウンドをあるプラットフォームから別のプラットフォームへ、ブログやニュースレターを移動するのと同じように、できるだけ簡単に移動できるようにポリシーを制定する必要がある。

2)健全なメタバースを生み出す明白な法律や政策変更を行う。

2-1)スマートコントラクトとDAOは法的に認知されるべきだ。

これらの規約やブロックチェーン全体が永続しないとしても、法的地位はより多くの起業家精神を刺激し、搾取から多くを保護し、より広い使用と参加につながるだろう。このようなことが起こると、経済は繁栄する。

2-2)暗号通貨への投資、ウォレット、コンテンツ、取引に関するいわゆるKYC(Know Your Customer)規制を拡大する。

KYC(Know Your Customer)とは本人確認を行う手続きであり、銀行や証券会社などの金融機関や、仮想通貨/暗号資産取引所などの口座開設の際に行われる。一般企業でも与信管理や反社チェックの一環としてコンプライアンスチェック/ KYCチェックを行う。この規制により、ブロックチェーンベースのゲームなどのプラットフォームは、顧客の身元と法的地位を検証し、政府、税務機関、証券会社に必要な届出を行うことが求められるようになる。ブロックチェーンの性質上、KYC要件がすべての「暗号」に及ぶことはない。--国税庁や警察がすべての現金取引を監視できないのと同じことである。しかし、ほぼすべての主流のサービス、マーケットプレイス、契約プラットフォームがこの情報を義務付けるのであれば、ほとんどの取引はこの要件の下で行われ、そうでないものは詐欺のリスクを認識するために割り引かれる(ちょうど、ほとんどの人がブランドのないマーケットプレイスや匿名のアカウントから購入するより、eBayを使って検証済みの販売者から購入することと同じことである)。

2-3)政府がデータの収集、使用、権利、および罰則について強いアプローチをとる。

メタバースに焦点を当てたプラットフォームが能動的、受動的に生成、収集、処理する情報の量は膨大である。言動はほとんどすべて、カメラやマイクで撮影され、時には民間企業が所有するバーチャルツインに収められ、さらに多くの企業と共有されることになる。今日、何が許されるかは、開発者や開発者のアプリケーションを実行するオペレーティング・システム次第であることが多く、ユーザーには軽く理解されるに過ぎない。規制当局は、不測の事態に対応するだけでなく、プラットフォームに何が許されるかを先導し、時には拡大する。「許されること」の中には、ユーザーがデータの削除を要求したり、データをダウンロードして別の場所に簡単にアップロードしたりする権利も含まれる。 

規制をつくるだけではなく、取り締まる監視システムを運用する法律も作る必要がある。メタバースプラットフォーム企業が特権的な情報を保護する能力を持っているかを証明する。それができない場合にどのように罰せられるかを決める。

IVWPをつくりユーザーがコンテンツやアイテムを作り、販売し、別のユーザーに遊んでもらい、買ってもらう。さらに複数のIVWPの間をコンテンツを作るクリエイターもコンテンツで遊びアイテムを購入するユーザーも自由に動くことが出来るようにオープン化する。そのことによってメタバースは我々の生活を大きく変えていく。だが、この世界は新しいガバナンスを構築しておかないと、健全に拡張していくことはないのである。






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メタバース 徹底してわかるまで その23

okudenaohito

2022年9月19日 11:05


メタバース最終章

全員が観客だ


"テクノロジーは、誰も予想しないような驚きを頻繁に生み出す。しかし、最も大きく、最も幻想的な開発は、しばしば数十年前に予測されるものである。"

Ball はこの言葉を本書の最初に述べている。彼が注目したのはヴァネヴァー・ブッシュである。彼はアナログではあるが、複雑な計算をおこなう機械をつくることが可能であるとのインスピレーションを持った。そしてその複雑な計算ができれば多くのことを予測する事が出来る不思議な能力を発揮できると考えた。この能力をつかえば、政府が重要な役割をこなせるだろうと予測した。

コンピュータの将来を予言した論文でインタラクション技術の研究者としてしられるブッシュが構想したMemexが発表されたのは第二次世界大戦の直後であった。これは単なる想像の機械では無く、ブッシュが技術者として構築可能だと確信を持っていた機械であった。ユーザーが要求するあらゆるコンテンツを物理的に保存し、ユーザーがそれに接続するとその情報を提供するものである。今日巨大なクラウドサーバーに接続をして無数のユーザーが検索をするiPhoneは、まさにブッシュのMemexが実現したものである。

SFの世界はブッシュの描いた未来よりも一見したところ、先に行っているようにおもえる。『2001年宇宙の旅』でスタンレー・キューブリックは、人類が宇宙を植民地化し、感覚を持った人工知能が出現している未来を映画いている。だが、そこにはMemexはない。iPadのような小型のディスプレイは朝食を食べながらテレビを見るくらいにしか使われず、映画の中の電話はまだ鈍重でコードが必要である。ニール・スティーブンソンの『スノー・クラッシュ』は、何十年にもわたるサーバースペースの研究開発プロジェクトにインスピレーションを与え、今では地球上で最も強力な企業の多くを導いているといわれる。しかし、スティーブンソンは、メタバースはゲームから生まれるとは考えていなかった。メタバースはテレビ業界から生まれると考えていた。『スノウ・クラッシュ』では人々は通りのバーに行く。いまはゲーム内で人々は集まっている、とスティーブンソンは驚いている。

さて、BallがMetaverseで描いた未来ではリアルタイムでレンダリングされた3Dの仮想世界が中心となる。これをIVWP(Integrated Virtual World Platform)と呼んでいる。また5Gさらには6Gの登場で、ネットワークの帯域幅、遅延、信頼性はすべて改善されると予言する。GPUの登場でコンピューティングパワーが増大し、より高い同時実行性、より高い持続性、より高度なシミュレーション、そしてまったく新しい体験が可能になるとする。実際量子コンピューティングの開発の進展は華々しく、ハードウェアからソフトウェアへと開発の重心が動いている。

メタバース世界がいま我々の経験している世界と大きく変わるわけではない。水平および垂直に統合された一握りの企業がメタバース経済のかなりの割合を支配していくだろうとBallは言う。規制当局はこれらの企業に対してより厳しい監視の目を向ける。ただし、メタバースにおける主要なカテゴリー・リーダーの一部は、現在私たちが知っているリーダーとは異なっている可能性がある。またメタバース経済の発展に不可欠な相互運用性は、ゆっくりと達成されていく。こうして生まれてくる様々な仮想世界と統合された仮想世界プラットフォームは、現実の世界経済の場合と同様に、データやユーザーの交換に異なるアプローチを取りながら、ゆっくりと少しずつオープンへと向かっていく。

税金、関税、手数料、複数のIDシステム、ウォレット、仮想ストレージ・ロッカーなどがオープン化に向けて必要となる。ここでブロックチェーンがどのような役割を果たしていくことになる。Ballはここを断言していないが、2022年現在のブロックチェーンアプリケーションの開発の動向をみると、この流れは止まらないと筆者は思う。

否定的な見方は、金融におけるブロックチェーンのアプリケーションに多くの人の注目があつまったためだ。たしかに2021年から2022年初頭にかけて、ブロックチェーンは高騰を続け、主流の開発者や才能ある創業者、数百億ドルのベンチャーキャピタル、および機関投資家を惹きつけた。たしかに将来的には大きな可能性があるとおもわれる。しかし、どれだけの収益を生み出すかは依然として不確実なまま、私たちは現在の誇大広告に踊らされる段階を終えて、次のフェーズに向かっている。そのときに、次の3つの要因が重要になるとBallは述べる。それは
1)どのようなメタバース体験がいつ可能になるか
2)主要な技術的障壁を明確にして、克服する活動は何か、
3)技術的障壁を克服したとして企業が「メタバースで」構築すべきものを正確に把握するまでにどれくらい時間がかかるか、
の三点である。

ではどうするかと、Ballは議論を進める。iPhoneの展開をみると、参考になるのではないか。2007年から2013年までに発売された最初のiPhoneを思い出してみると、AppleのOSは非常にskeuomorphicスキューモーフィックであった。

スケオモーフィズム(Skeuomorphism)とは、表現されたものを現実世界のものに似せて作るというデザインコンセプトである。この方法はユーザーインターフェース(UI)やウェブデザイン、建築、陶磁器、インテリアデザインなど、多くのデザイン分野で一般的に用いられている。スケオモーフィズムに対抗するデザインの考えはフラットデザインである。

スキューモーフィズム(Skeuomorphism)とは現実世界に対応させたオブジェクトをデザインして表示したり、現実世界でのユーザー同士の対話方法を模倣してデザインされたインターフェース・オブジェクトのことである。我々が見慣れている例としてはデスクトップにあるゴミ箱がよく知られている例としては、ファイルを捨てるときに使われるごみ箱がスキューモーフィズムにほってデザインされたアイコンである。この方法はユーザーが認識している概念を用いることで、インターフェースオブジェクトを親しみやすいものすると言われている。

この考えは生態心理学者のJames Gibsonが提唱する "アフォーダンス "から持ちこまれたものである。アフォーダンスとは、物体や環境の他の特徴が静物に与える行動可能性の情報のことである。アフォーダンスの例としてよく挙げられるのは、ドアの取っ手や押しボタンで、これらは回転させたり押したりできることを物理的なデザインで情報としてユーザーに伝えている。デジタル世界に存在するデザインではあるが、自然の世界で私たちがモノに対して抱く自然な解釈と一致する。

AppleのモバイルOSであるiOSの初期バージョンでは、ユーザーインターフェース全体にスキューモーフィズムが多用されていた。(例:光沢のある「本物」のボタンに似たボタン、白枠の写真が実際の写真のように見える、など)。iOSのスキューモーフィズムは、タッチベースのスマートフォンを使ったことがない人が直感的に使える理由の一部であると言われていた。

さて、ここからデザイン論の問題に展開するといろいろと解ることがでてくるので、Ballの本を離れて、ニック・バビッチ(Nick Babich)のエッセイを少し紹介しておきたい。

はUXアーキテクトであり、ライターです。過去10年間、ソフトウェア業界で研究開発に特化した仕事をしてきました。広告、心理学、映画など、興味の対象は無数にある。
https://xd.adobe.com/ideas/principles/web-design/flat-vs-material-skeuomorphic-examples/

この論文は
Flat vs. Material vs. Skeuomorphic Design Examples 
と題されている。

スキューモーフィズム
スキューモーフィズムという言葉は、ギリシャ語の「skeuos(容器や道具の意)」と「morphḈ(形の意)」に由来している。プロダクトデザインでは、スキューモーフィズムを、オブジェクト、アイコン、ボタンが現実世界の対応するものを模倣するUIデザインに用いられるテクニックと定義している。先に述べたゴミ箱アイコンがわかりやすい例だ。

スキューモーフィズムをデザインの方法として採用する理由の一つは、これがヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の向上に役立つと言われているからである。1980年代、パソコンがほとんどの人にとって新しい概念だったころ、これは重要なことであった。Appleは、ユーザーにとって見慣れた要素やアイコンを作ることで、学習曲線を最小限に抑えようとした。スティーブ・ジョブズは、スキューモーフィズムがテクノロジーをより使いやすくすると考え、これを好んで採用したのである。

下記はスーザン・ケアが制作したApple Macintoshのオリジナル・スキューモフィック・アイコンの例である。懐かしい人も多いのではないか。


画像クレジット Shane Bzdok via Flickr.

スキューモーフィズムの第二の波は、2000年代の最初の10年間の終わりに登場した。モバイル機器の台頭により、デザイナーはこれらの新しい機器の操作方法をユーザーに理解してもらうために、再びスキューモーフィズムを使うことを余儀なくされたのだ。2008年当時、多くのユーザーにとってタッチスクリーンのコンセプトは新鮮だったため、デザイナーはユーザーが現実世界での経験を参照できるようなUI要素を作成した。たとえば、Apple iOS 6のカメラアプリのアイコンは、ドロップシャドウ、深度、テクスチャなどの3D効果により、現実のカメラに似せて作られている。



デザイナーは、アイコンのような小さな要素だけでなく、UIの背景のような大きな要素にも、スキューモーフィックデザインを使用した。

Apple iOS 6では、3Dの棚と木の質感を持つ、本物の本棚のようなスキューモーフィックな本棚が使われている。

ところが2011年にスティーブ・ジョブズが亡くなってから数年後、Appleはスキューモーフィズムを放棄する。それにはいくつかの大きな理由があった。

1)2010年代半ばまでに、ほとんどのユーザーはすでにインターフェースの使い方を習得しており、それを手助けする実世界の要素を必要としなくなった。
2)スキューモーフィズムは、レスポンスに優れないため、デザインの拡張が難しかった。純粋に装飾的な要素を多用するため、さまざまな画面や解像度に適応させるのが非常に難しくなる。各サイズ/解像度に対応したビジュアルデザインの詳細を作成する必要があった。
3)スキューモーフィズムはリソースを大量に消費するので、読み込み時間が長くなり、消費する帯域幅も大きくなる。

このデザイン原則の変更によってスキューモーフィズムは死んだとおもわれていたが、2020年、AppleはBig Surと呼ばれるmacOSのデザインにスキューモーフィズムの要素を復活させた。

下の画面では、OSのコントロールセンター、特にディスプレイとサウンドのコントロールに注目してもらいたい。ディスプレイの輝度バーには、輝度調整のための重い影など、スキューモーフィズムの小さなディテールが使われている。



もう一つの注目すべき例は、Big Surのアイコンだ。下のスクリーンショットに見られるように、Apple MailとApple Messagesのデザインで、スキューモーフィズムデザインのアイコンが復活している。


フラットデザイン


スキューモーフィズムト対立するデザイン原則にフラットデザインがある。
2006年、Microsoftは「Zune」という音楽プレーヤーを発表した。このプレーヤーはAppleのiPodと競合するはずだったが、Microsoftはこの戦いに敗れた。しかし、このプレーヤーは、フラット・ウェブデザインという新しい概念を世界に紹介した。

Zuneを作るために、デザイナーはMicrosoft Metroと呼ばれる新しいビジュアル言語を作り出しました。Metroは、スキューモーフィズムとはまったく逆のものでした。ミニマリズムを核に、純粋に装飾的な要素をすべて取り除き、純粋に実用的なデザインにすることが、この言語の背後にある目標だったのである。Metroは、デジタル製品におけるフラットデザインの最初の事例のひとつで、MicrosoftはWindows 8を含む多くの製品でこの言語を使用した。

Windows 8のビジュアルデザインは、Metro言語をベースにしている。





これにより、立体的な要素を一切排除したフラットデザインの流れが確立した。現実世界を模倣しようとする様式的なディテールを一切排除しているのだ。フラットデザインには以下のような特徴がある。

1)2Dの要素
2)シンプルなタイポグラフィー
3)ミニマリズム
4)大胆な色使い

ユーザーがデジタルのパターンやインタラクションに慣れ親しむようになり、現実世界の要素を模倣した不要なビジュアル要素を導入する必要がなくなったため、フラットデザインの方針が登場した。しかし、フラットデザインには大きな欠点がある。フラットデザインは、デジタルなインタラクションに慣れ親しんだユーザーには最適だが、デジタルなインタラクションにあまり慣れていないユーザーにとっては、直感的な言語ではないので使いにくいのだ。

フラットな美学は視覚的なデザインの詳細をすべて削ぎ落としてしまうため、最終的なデザインは視覚的な記号性が弱くなってしまう。この問題を解決するために、デザイン界ではフラット2.0を開発した。フラットデザインのなめらかでミニマルな特徴をすべて具現化したビジュアルスタイルだが、3Dに少し近づいたデザインになっている。例えば、微妙な影やグラデーションだけを導入し、UXを向上させている。現在ではFlat 2.0は多くのアプリケーションで使われている。

たとえばAdobeのデザインシステム「Spectrum」である。



マテリアルデザイン

さて、2014年にGoogleは「Material Design」という独自の言語を発表した。このデザインシステムは、フラット2.0をよりバランスよく解釈したもので、現実世界とデジタル世界を融合させようとするものだ。「マテリアル」という言葉は、現実世界のオブジェクトの特性に似たデジタルオブジェクトを暗示している。


Material Designをつかうことで、異なるAndroidデバイス上での見え方を統一することができた。現在マテリアルデザインは、この作業を容易にする一連のガイドラインとしてうまく機能している。マテリアルデザインの他の例としてはYouTubeがある。

デザイン方針の視点からマテリアルUIを説明すると、ほとんどフラットな要素を使いながら、微妙な3Dタッチを加えることである。この3Dタッによってデザイナーは多次元的な体験を生み出す事が出来る。


マテリアルデザインのシャドウを使用したUIボタンの例。

Material Designでは物理演算も導入されている。Material Designの原則は、現実世界での物事の仕組みを模倣しつつ、それを徹底的に簡略化することである。Material Designは、リアルさを、私たちの脳をインターフェイスの仕組みに慣れさせるためのツールとしてのみ使用しているという。 以上、すこしデザイン論に寄り道をしたが、続けたい。Appleがスキューモーフィックデザインを利用していたiOS6の時代には、今日の消費者向けデジタル製品のリーディングカンパニーが数多く誕生している。Instagram、Snap、Slackといった企業は、IPを使用して固定電話(Skype)やテキスト(BlackBerry Messenger)に電話をかける古いユースケースを破棄して、デジタルコミュニケーションのあり方のみならず、コミュニケーションの方法、理由、そしてその内容についても再構築した。Spotifyは、インターネット上でラジオを再放送する(Broadcast.com)のでもなく、インターネット専用のラジオ(Pandora)を作るのでもなく、我々が音楽にアクセスし発見する方法を変えた。 以上の流れをみると、「メタバース・アプリ」のインターフェイス・インタラクションデザインはどの方向に向かっていくか予想は難しい。例えば、ビデオ会議が3D表現されていて、会社の役員室のシミュレーションとなっているのでいいのだろうか?Netflixだがバーチャルシアターの中にある、だけでいいのか。こうした問題意識をもってユースケースとテクノロジーのすりあわせをデザインで行うプロセスが始まったとき、メタバースは始めて、生活にとって重要な意味を持ち、空想的なビジョンではなく、より現実的なものになって行くと思われる。 メタバースの開発は、批評と同時に、失望と幻滅をもたらす。1995年、米国の天文学者であり、米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所のシステム管理者であったクリフォード・ストールは、「シリコン・スネーク・オイル」を書いた。 Silicon Snake Oil: Second Thoughts on the Information Highway Library Binding – October 1, 2008English Edition by Clifford Stoll (著)



この本の出版に際して、彼は『ニューズウィーク』誌の社説で、「20年間オンラインを利用してきて、私は当惑している。この最もトレンディで売られすぎたコミュニティには、不安を感じる。ビジョナリーたちは、在宅勤務の労働者、インタラクティブな図書館、マルチメディア教室の未来を見ている。電子タウンミーティングやヴァーチャルコミュニティの話もある。商業やビジネスは、オフィスやモールからネットワークやモデムに移行するだろう。そして、デジタル・ネットワークの自由は、政府をより民主的にするだろう。ばかばかしい。インターネットは、編集されていないデータの大きな海であり、完全であるかのように見せかけることはできない」

2000年12月、Daily Mailは「Internet 'May Just Be a Passing Fad as Millions Give Up on It'」という見出しのニュースを掲載した。ドットコムクラッシュが始まった直後の記事であり、ナスダックの株価は40%近く下落しさらに、残ったものも半分になっていった。NASDAQがドットコム時代の高値に戻るまでその後、12年かかった。この本が出版された2022年現在、ナスダックはその時の高値の3倍以上になっていた。ストールの批判は、まだ発表されていないメタバース批判のように読める。

先駆者であっても、未来を予測することは難しい。コンピューティングとネットワーキングの過去2つの時代を考えてみよう。インターネットを熱烈に信じる人々でさえ、何百万というウェブサーバーに何十億というウェブページが存在し、1日あたり3千億の電子メールが送信され、1日あたり何十億というユーザーがいて、1つのネットワーク、Facebookが月間30億以上、1日あたり20億ものユーザーをカウントするという未来を想像できていたわけではない。2007年1月に初代iPhoneを発表したとき、スティーブ・ジョブズはこれを革命的な製品だと表現した。もちろん、彼の言うとおりだった。しかし、この初代iPhoneにはApp Storeもなければ、サードパーティの開発者に作らせる計画もなかった。なぜか?ジョブズは開発者たちに、「SafariのフルエンジンがiPhoneの中に入っているんだ。といったと言う。

しかし、iPhoneが発表されてから10ヶ月、発売されてから4ヶ月後の2007年10月、ジョブズは考えを改めた。2008年3月にSDKが発表され、同年7月にApp Storeがリリースされた。1カ月も経たないうちに、約100万人のiPhoneユーザーがダウンロードしたアプリの数は、4000万人以上のiTunesユーザーがダウンロードした楽曲の数の30%にも及んだ。その後、ジョブズはウォール・ストリート・ジャーナル紙にこう語っている。「現実は予測をはるかに超えており、我々はこの驚くべき現象を見守るしかない。」

メタバースの軌跡は、大まかには同じようなものになるだろう。技術的なブレークスルーが起こるたびに、消費者、開発者、起業家が反応する。やがて、携帯電話、タッチスクリーン、ビデオゲームなど、些細に見えるものが不可欠となり、予測されたもの、あるいは考えもしなかった方法で世界を変えることになったように世界を変えてしまうのである。

(完)


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