見出し画像

今月の「辞めたい」の数。


真面目な、肇君。

毎月、何度かは「辞めたい」と思う。でも、まあ、別に今の仕事に限らず、いつでも「辞めたい」はつきものなので、

今月の「辞めたい」は、六回ぐらいで済んだ。
ボチボチだな。

みたいな感じでもあったりして。

けれどまあ、結構、ギリギリの「辞めたい」が多い月もあって、そんな時、肇君は、かなりナーバスになって、心を痛める。

まだ若い頃、「辞めたい」が一瞬で最高潮に駆け上がり、職場の予定を書くホワイトボードに「職探し」と書いて辞めたことがある。

勿論理由もあったのだけれど、肇君は、その衝動で辞めた事実によって、結構落ち込み、自分を否定して、そこから持ち直すのも大変だった。

盗んだバイクで走りだしたかったが、兄貴の原付を許可とって借りて、真冬の道路を飛ばした。

寒い。ガクガク震えた。
「ああ、辞めたな……」
と、寂しくなって泣いた。

辞めたくって辞めたのに、なんで寂しくなっているんだろう。と、肇君は思った。

そして、ファミレスの片隅で、ベーコンとほうれん草のソテーをつまみ、ホットコーヒーを飲みながら考えた。

「……」

いいように使われている。見くびられている。適当にあしらわれている。誰とも打ち解けられない。苦しい。苦しい。
もう、ここにはいたくない。と感じたとき。

「辞めたい」理由が、共通して、心の寂しさを感じている時なのかもしれないと思った。

そして、寂しさを感じたくないのなら、それなりの努力をしなくてはならない。そう、自分に突き付けられている気がして、また苦しくなる。肇君は、そんなに器用ではないのだ。
そして、真面目なので、真正面で、振舞いの下手さに落ち込むのだ。

そこから、「辞めたい」は肇君に「常駐」する意識として、迎え入れることにした。
辞めたいと思えているうちは、実は、まだ自分を諦めていないという意味にすら思えてきた。

相変らず、肇君は、「辞めたい」と思いながら、日々過ごしている。
そして、「必ず、辞める」と思ってもいる。


この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします。大切に使わせていただきます。