説得力。
軽音部の渚先輩はハードボイルドでカッコよかった。
「まあ、未来のことなんか、俺にとっちゃ過去のことさ」
と、何言ってるか分からないが、
異常な存在感と、低い声のトーン、渋い雰囲気で、そこにいるすべての人を納得させてしまう。
「なんか、未来を見てるとかじゃないんだ、きっと、もっと凄い世界が見えているんだ渚先輩は」
と、みんな深読みする。
不良たちが、公園で騒いでいた。
渚先輩は、
「まあ、そんな夜もあるさ」
と、特に怖がることもなく、いきなりハモニカを吹き出した。
不良たちは、ケラケラ笑いながら、こちらに寄ってきたが、
渚先輩のハモニカの音色と、その存在感に引き込まれ、
いつの間にか、ただの観衆へと変わり、そして演奏が終わると、何か納得したように、帰っていった。
スゲー、さすが渚先輩。と、そこにいる誰もが思った。
また別の日の夜のこと。
僕は、軽音部の部室にギターを忘れていたことに気づき取りに行くと、
そこに、人の気配が。
誰だこんな夜にと、のぞいてみると、いたのは、渚先輩だった。
「……」
渚先輩は、月明かりに照らされ、美しかった。
と思ったら、唐突に服を脱ぎ、パンツだけになると、
一瞬、緊迫した顔のあと、
「キューちゃん、キューちゃん」
と、高い声で言い、手をバタバタさせながら、ぴょんぴょん跳ね始めた。
な、なんだ?
「キューちゃん! キューちゃん!」
「なっ」
と、ガタッ。と、後ろに仰け反ったはずみで、身体が扉に当たってしまった。
「誰だ?!」
僕は、渚先輩に見つかってしまった。
「……」
何を言っていいか分からない。
なんだったんだ、あの、オチャラケタ子供みたいな動きは……でも聞けない。
「びっくりしたか?」
「は、はい」
「生きるってのは、解放を求めてるわけさ」
渚先輩は、またいつもの渚先輩に戻っていた。
「え、はぁ」
「まあ、こんな夜もあるのさ」
渚先輩が言うと、よく分からないが異常な説得力がある。
僕は、そうか、そんな夜もあるのかと思った。
けど、たまに思い出す。
どんな夜なのさ、と。