五感を呼び覚ます松井玲奈『カモフラージュ』の読み方
作者の松井玲奈さんは、作品に登場させる小道具の使い方が非常にうまいと思います。
「空っぽの弁当箱」「ケチャップ」「ビー玉」「クッキー」「餃子」「桃の種」など、物語の中の描写で使われている小道具すべてがキーワードになっており、それぞれに意味を持たせてあります。
わざわざ心理描写を書き込まなくても、小道具に投影されている深みをたどってゆけば、心の動きが見事に浮かび上がってくるのです。
それは、読者の原体験やその時の感情によって、様々なディテールを描き出して、それぞれの読者だけのオリジナルな物語になって生まれてきます。
この作品をすでに読まれた方、これから読もうとされている方にお勧めの読み方を紹介します。
作品の中に二度以上使われている名詞にしるしを付けてゆきます。マーキングしても構いませんし、線で囲っても構いません。それだけです。要するに読み返したときにわかるようにだけすればよいのです。
最初に、繰り返して出てくる名詞にしるしをつけながら、ざっと読みます。
次に、しるしを付けたところを中心に、どういう使い方をしているのか、変化している様子に注意をしながら、読み返します。
そうすれば、高級料理を食べているような贅沢な気分で、この作品を読むことができるはずです。
正直に言って、作者の松井玲奈さんが元アイドルの方とは知りませんでした。プロフィールを調べて、同名のアイドルの人がいるのかなと思いましたが、同一人物だとわかってびっくりしました。
作品を読む限り、一流の小説家としか思えません。しかも、私の好みの作品を書かれている作家さんです。年齢を重ねるごとに円熟味を増した作品を書かれることでしょう。
この方は、将来間違いなしに芥川賞を取られると思います。
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