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後味の悪い結末に作者の生への執念を見た 藤原伊織『シリウスの道』の読み方

最初に、この本を読み終えたとき、なんとも複雑な思いに駆られました。今までの絡み合った伏線が、解きほどかれ、全てが昇華されると期待をしていたのに、全く期待外れの結末に終わっているのです。

伏線がつながらず、それぞれが思いの外の最悪の結果に終わっているので、読み終えた後に、消化しきれないものが残っているような後味の悪い読後感にとらわれました。

最初、作者がこの物語を完結せずにいたのは、次回作を書くためにわざとそういう結末にしたのだと思っていました。

しかし、調べても次回作を書かれたような形跡はありません。

藤原伊織さんのプロフィールを見て驚きました。この『シリウスへの道』が出版された、わずか2年後に食道癌で亡くなられているのです。

2005年に癌を公表されているので、この作品を不治の病に侵されながら、執筆されていたのではないでしょうか。体を蝕んでゆく病魔と闘いながら書いておられたと思われます。

幼友達との友情とその関係。電通でのハードの仕事内容と複雑に絡み合う人間関係。それらをハッピーエンドで終わらせなかった。歯切れの悪い、負の方向でのエンディングになっています。

そこに深い意味が込められているのではないかと思います。

あえて外した。私は、そう思います。

物語をハッピーエンドで終わらせると、全てが昇華してしまいます。後に残るのは、差し迫っている「死」だけになってしまいます。

結末を完結させない未熟なものにすることによって、また続きを書かなければならないという使命を自分自身に課したのです。書くことへの未練を残すことによって「死」までの猶予が与えられると信じたのです。

まだ書き続けたいという思いを、まだ生き続けたいという思いに託したのだのではないでしょうか。私は、そこに作者の生きたいという執着の念を強く感じます。

この本をすでにお読みになった方、まだ読まれておられない方も以上のことを念頭に置いて、お読みください。

非常に感慨深い物語として読むことが出来るでしょう。


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大河内健志
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