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『天国へ届け、この歌を』スマホ版

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記事一覧

短編小説『背徳の味わい』

彼女の作った料理は美味しい。 その上、お箸とお茶碗の重量感がいい。 この重量感が、ご飯の…

大河内健志
1か月前
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短編小説『季節外れの木蓮の香り』

「貴島さん、分りますか?ここのところに黒い影が映っているでしょう。こちらが4月の検査結果…

大河内健志
1か月前
6

短編小説『永遠の眠りにつく時』

開けているのが辛くなった。 思わず目を閉じる。 妻の美由紀と浮気相手の美月が現れて、お互…

大河内健志
2か月前
6

短編小説『恋するオジサンの憂鬱』

香田美月を別に避けているのではないけれど、会合があったりして時間が合わない日が続き、彼女…

大河内健志
3か月前
17

短編小説『煌めく川の向こう側』

いつもの会社帰り。 いつものホーム、いつもの時間の地下鉄、いつも乗る前から2両目の3番目…

大河内健志
3か月前
17

短編小説『ワタシの歌を聞いてくれる人』

二人並んで歩いている。 暫くの間お互いに黙ったままでいる。 声には出していないけど、ワタ…

大河内健志
6か月前
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短編小説『悲しくなるほど美しい』

暫く歩いて閑静な住宅街を抜けると、小さな町工場や倉庫が立ち並ぶ、殺風景なところに出た。 そこを通り抜けるのが、淀川の花火大会が見える名前の知らない用水路を大きくしたような川の土手たどり着ける近道なのだ。 干からびたアスファルトの道路。枯れ果てた街路樹のように無造作に立つ電柱。切りっぱなしのトタンでできた人気のない建物。 辺り一面に赤さびがこびりついている。 それは、古い血痕のように黒ずんでいて、乾いた血のような鼻につく臭いが立ち込めている。 街全体が、中世の絵画のよ

短編小説『鯖の煮付けと独り酒』

娘のカンナは、お友達と食事をして帰るので今日は遅くなるとメールが入っていた。 だから今夜…

大河内健志
7か月前
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短編小説「地下鉄が黄昏の鉄橋を渡るときに思うこと」

やっと一日が終わった。帰りの地下鉄御堂筋線は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こう…

大河内健志
7か月前
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短編小説「目を閉じて広がる景色」

遠くで若い女性の引き裂くような叫び声がした。 全身に鉄の鎧をまとった大男がベッドの周りを…

大河内健志
8か月前
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短編小説『思い出を失ってしまうことの悲しみ』

お父さんが亡くなってしまったことより、お父さんとの思い出を失ってしまったことが悲しい。 …

21

短編小説『嫉妬より奥深に存在する美しい輝き』

自分のレジ袋に目をやった。 突き出ている土のついたごぼう。 スーパーマーケットのロゴが大…

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短編小説『嫉妬より奥深くに棲む魔物』

旦那が単身赴任をしている北大阪のマンションにきている。 名古屋で受けた精密検査の結果が悪…

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短編小説『美味しさが奏でるメロディー』

久々に手料理を味わっている。 それにしても香田さんの作った料理はおいしい。 その上、お箸とお茶碗の重量感が良い。 この重量感があるから、ご飯のほくほくとした噛み応えが引き立てられる。 ご飯の一粒が、それぞれに生命を持ったように主張し、噛むほどに調和して幾層にも味を変えて行く。 私は、香田さんが出した命題をひたすら解き明かすようにひたすら食べ続けた。 合間にスパークリグワインを飲む。 和食に合わないような気がしたが、意外にこれが合う。 引き締まった大人の芳醇な味