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宮本武蔵はこう戦った

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#小説の書き方

短編小説「武蔵が無になるとき」

短編小説「武蔵が無になるとき」

全速力で間合いを詰める。

小次郎の端正な顔が徐々に大きくなる。

血走った眼差しが全ての動きを認知しているかのように己の全身に突き刺さる。間合いは三間を切る。

互いが踏み込めば剣が届く距離に迫る。

だがどちらかが踏み込まなければ届かない距離。

見切る。

踏み込むと見せかけてその場を動かず相手に初太刀を打たせて空を切らせ隙が出たところを確認してから、確実に相手を仕留める。

佐々木小次郎の

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短編小説「宮本武蔵が約束に遅れた理由」

短編小説「宮本武蔵が約束に遅れた理由」

武蔵は、小舟に乗り込むと、真ん中の粗末な敷物が敷かれた席に腰を据えた。

そして、船頭を見やり、目で出すように促した。

船頭はそれには返答せず、おもむろに立ち上がり、櫂(かい:舟をこぐ道具)を手繰り寄せた。

右手の肘の二寸ほど先がなかった。

かつては、足軽として、戦に出ていたのだろうか。

粗末な身なり船頭なのだが、明らかに、それは切り合いで、切り落とされた跡と見受けられる。

得体のしれな

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