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大河内健志
2020年5月17日 23:45
父、無二斎より、小倉藩の権力争いのごたごたを収める意味も含めて、「佐々木小次郎」なる剣術師範と試合をしてくれと懇願された時も、さほど気にも留めていなかった。政治ににかかわる垢じみた剣術家など、いつものように一蹴してやればよいと思っていた。しかし、見てしまった。佐々木小次郎の使う剣を。その存在自体を見てしまった。それは、今までに見たことのない存在。自分の範疇の中に入らない存在
2020年5月31日 23:46
一刀両断、斬り下ろす。むぅ、手応えがない。突進してきた武蔵が急に身体をのけ反らせ、砂の中に沈み込むようにしてかわした。一太刀で仕留めることが出来なかった。しかし、小次郎には、まだ心に余裕があった。武蔵は、小次郎の間合いに踏み込んで入っているが、彼が打ち込むことが出来る間合いには入っていないからだ。愛刀長光は三尺三寸、武蔵の木刀はせいぜい二尺五寸もあるまい。一足分の距離
2020年5月29日 11:56
武蔵は、目を閉じたままでいる。闇夜の中にいる。 力の限り、砂の上を走る。 小次郎の顔が段々と大きくなる。 燕返しの前触れである横に払う太刀の動きがない。小次郎の太刀は大上段、頭上のまま。 それでも走る。 目の前が小次郎の顔で一杯になった。 ハッ!頭上に、稲妻。 斬られる! 思わず目を閉じる。 思いっきり足を踏ん張る。砂の中に両足を打ち込むように、突き刺す。体が