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【エッセイ】初恋のビートルズ

 人生で初めて夢中になったものは何?と聞かれたら、迷わず「彼ら」の名前を答えると思う。
 イギリスの港町で生まれて、かつて世界中の女の子たちを狂わせた、クールでチャーミングな4人組。
 …そう、ビートルズだ。彼らは私の原点にして頂点ともいえる。

 彼らのことを、2005年生まれの私はもちろんリアルタイムでは知らない。出会ったきっかけは父だった。
 幼稚園のときから公文に通っていて、英語に興味を持った私を見て、小学校1年生のときに父が「ビートルズ聴いてみたら?」と言った。
 洋楽好きな父はいつもカーステレオでマイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイを流していて、正直に言うと私にはそれらの音楽はよくわからなかった。だからその「ビートルズ」とかいう聞き慣れない文字列にも最初から興味を持ったわけではなかったけれど、父が言うならばと、ベストアルバム『1』を聴いてみることにした。

 しばらくして私の両親は、私にビートルズを薦めたことを後悔する羽目になった。なぜなら私はすっかり彼らの音楽の虜になり、両親がうんざりするくらい、何十周も何百周も『1』を聴き続けていたからだ。小学生の私にも理解できる程度の英単語で書かれた歌詞や、4人のアイドル性に強烈に惹かれていき、ほどなくして他のアルバムも一つ残らず聴いた。

 それは間違いなく私の初恋で、どうしようもなく彼らに夢中だった。

 一通りすべての曲を知って、小学2年生になった私に、父はある一冊の本をプレゼントしてくれた。『ビートルズ全詩集』という名のハードカバーで、全ての曲の歌詞が対訳で載っているものだった。
 小学生の吸収力というのは本当に凄まじく、その宝物を手にした私は、1日に3,4曲ずつ、日本語と英語の詞を見ながら歌うことで、歌詞を暗記していった。どうしてそんな情熱があったのだろうと思うが、それは私の夕食後の日課になっていた。
 そんなことを毎日、何周もしているうちに、公文を続けていたこともあって私の英語力はめきめきと伸びて、気づけば私は小学校低学年のうちに基本的な英文法と英単語はマスターしてしまった。
 中高の英語の先生に叱られるかもしれないが、それ以来私は机に向かって英文法の勉強をしたことはほとんどない。180曲の歌詞が英作文の例文として頭に刻まれているお陰である。大学生になった今でもほとんど覚えているのだから、本当に小学生の記憶力はすごい。さすがにアカデミックな英単語はビートルズの歌詞には出てこないので、単語帳は持つようにしていたけれど。

 あの時以上に頑張って何かを勉強し、それがずっと残っているというようなことはない。受験勉強にすらあの熱量は持てなかった。私を突き動かしていたのはビートルズへの愛、ただそれだけだったのだ。

 彼らと出会って、つまり私が本格的に英語に触れるようになって10年以上が経つ今、私は全ての授業が英語で行われ、4人に1人が留学生と言われる国際系の大学に通っている。高校まではかなり英語ができるほうだった私もそんな大学に入ってしまえば凡人またはそれ以下のレベルで、周りの友人にいい刺激をもらいながら日々を過ごしている。

 ジョンを、ポールを、ジョージを、リンゴを、彼らの音楽を、生き方をもっと深く知りたい。その一心で勉強した英語は、結果的に私の人生の強力なパートナーになったし、これからもそうであり続けるだろう。

 「好きこそものの上手なれ」ということわざがあるけれど、本当にその通りだと思う。
 これからの私は、人生であと何度、夢中になれるものを見つけることができるかな。あの胸がざわざわと鳴る興奮を、あと何度味わうことができるだろう。

 まだ見ぬたくさんの可能性に思いを馳せて、今夜も "Love me do"を口ずさむことにしよう。





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