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お父さんお母さんがそこにいた

図書館の絵本コーナーで絵本を選んでいる際に、後ろから

「破いちゃ駄目だよ」

というなにやら物騒な行為を嗜める男性の声が聞こえてきた。

「なんでー?」

と女の子。

「他の人も読むんだから、大切にしなきゃ駄目でしょ」

と多分お父さん。

ものすごく当たり前なことなのだが、なんかその当たり前な言葉にちょっと心を惹かれた。
SNSではあんなに価値観や言葉が荒れ放題なのに、

現実世界ではちゃんとしたお父さんがそこにいる

ことに安心した。
ついで、他の場所では

「投げないよ」

と娘に言葉を投げかけるお母さんの声。
きっと本を投げて渡したのだろう。
そして、彼女は読み聞かせを始める。

ちゃんとしたお母さんもそこにいた。

ネットに毒された僕には、現実世界のギャップが妙に新鮮だった。
ものすごく当たり前を、当たり前に教育できる人たちが、ちゃんと親になっている。

特に、何も珍しい出来事でもない。
図書館という昔から変わらない場所で、昔から変わらない風景があることが、ちょっと嬉しかったのだろう。
懐古厨というものだろうか。
でも、なんか今日はいい日だった。

帰り道、冷たい缶コーヒーを買って飲んで帰った。
これもまた、昔から変わらず甘ったるいのだった。

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