薄雪 二
ポストのダイヤルを回し溜まりに溜まった広告を選り分けていたのだが両手共々あまりにもかじかんでいてうまく進まない
少しでも良くなればと思い握りこぶしに息を吹き入れてみたのだけれどこれのせいで微妙に湿った手のひらを晒すこととなり余計冷たい
もう時間も無いしそれより何より部屋を出てほんの数秒で凍ったように動かなくなった指をこれ以上動かしたくなかった僕はダイヤルを小突き、肩で乱暴にマンションの玄関ドアを押し開ける
寒い 白い だ
昨日の夕方から雨の降る音がしないのにもかかわらず謎に聞こえていた水を撥ねる音に納得する
清澄な冬の朝の空気をゆっくりかき混ぜるかのように雪が降っていた
道路脇に植えられたイチョウはどの枝も漏れなく葉を落とし、また所々に雪芽を育んでいる
僕はもはや冷気をそれとなく伝えるためだけにはめ込まれていると思っていた部屋とベランダを隔てる全面磨りガラスの引き戸からでは伺い知ることのできない景色の中にいた
一昨年ワゴンセール品の中から買い当てた黒と赤橙と黄朽葉色が無難に配置されているマフラーに深く顔を委ね、まばらに色づく歩道を行く