【インド映画】Amaran(2024年)/タミル語
10月末〜11月初旬のこの時期はインド最大のお祭ディワリの季節。祭日の連休に合わせて、インドでは注目映画が数多く公開される。この「Amaran」もその一つ。
主演のシヴァカールティケーヤンといえば、陽気でコメディライクな庶民的ヒーローなイメージが強かったけど、このAmaranのポスタービジュアルは明らかにそのイメージとは違い、個人的にかなり衝撃的だった。知らないシヴァカールティケーヤンが見れると期待して、今回も自主上映会に行って来た。
概要
【原題】Amaran
【公開日】2024年10月31日
【言語】タミル語
【上映時間】2時間49分
【監督・脚本】ラージクマール・ペリアサミー
【音楽】G.V.プラカーシュ・クマール
【キャスト】
・ムクンド少佐…シヴァカールティケーヤン
・インドゥ…サイ・パラヴィ
・ヴィクラム…ブヴァン・アローラ
・アミット・シン・ダバス大佐…ラーフル・ボース
浅い感想
この映画は実在のインド軍人ムクンド・ヴァラダラジャンの伝記映画。インド映画にありがちな派手なアクションシーンや、お気楽なコメディーパート、大胆な脚本やダンスシーンも一切無く、リアルに忠実で、淡々としたストーリー運びの硬派な映画だった。
舞台はカシミール地方。インドとパキスタン(と中国)が領有権をめぐり長い間紛争を続けているデリケートな地域。今は停戦中だけど、未だに緊張状態が続いている。ムクンドはこの前線で指揮をとり、パキスタン側の"過激派テロリスト"の排除に全力を尽くした人物。
アクションシーンはとても見応えがあった。映画館で観ると銃撃や爆撃の轟音が体に響き、ものすごい没入感。結構心地良かった。痛ましいシーンは多かったけど…。
アクションシーンの演出というのは大体、何が起きている?!な状態がある(個人的に)けど、Amaranのアクションシーンは比較的シンプルでかなり見易く、何が起きているのかをしっかり追う事ができた。どのシーンもインドアーミー達がとても格好良かった。
ムクンド役のシヴァカールティケーヤン、作品は「Maaveeran(2023年)」と前回紹介したGOATでのカメオ出演ぐらいでしか見た事なかったけど、優しく柔らかい表情と雰囲気、タレ目に笑い皺のできるくにゃっとした笑顔が魅力的で、元々かなり好きな俳優だった。
そんなイメージからガラリと変わった今回の軍人役。記憶上、元々そこまでマッチョではなかったはずなので、役柄に合わせてかなり役作りを頑張ったのがボリュームある体格から見て取れる。広い背中が格好良い。白髪混じりの髭も相まって、渋くてめちゃくちゃ風格がある。
熱くて真面目で周囲の人間から好かれるキャラクターも良かった。こういった硬派な路線のシヴァカールティケーヤン、もっと見たい。
ただ、この映画のMVPは間違いなく妻インドゥ役のサイ・パラヴィ。彼女の繊細な演技に感情移入せざるを得なかった。演技もダンスも巧く、ナチュラルな雰囲気が可愛らしい女優さんで大好きだけど、この映画での演技も素晴らしかった。
ムクンドが愛しくて堪らない愛情表現、異言語異教徒のムクンドをあまり良く思わない家族との葛藤と苦しみの涙、軍人の妻としての苦悩やそれを乗り越えようと努力する様子、言葉に出さずとも全てが手に取るようにわかり、その健気で愛おしい役柄に心が揺さぶられまくった。
改めてサイ・パラヴィの事が大好きになった。
G.V.プラカーシュ・クマールの音楽も最高だった。ヒップホップぽいノリの雰囲気から上のサイ・パラヴィの動画のような温かいBGMまで、マルチに色々な種類の音楽が劇中に散りばめられており、それがどれも上手く機能していたと思う。鑑賞中何度も「音楽が最高!!」と心の中で拍手していた。
私の好きなシーンは、移動中の車で緊張した面持ちのムクンドを和ませようと映画の話題を振るシーン。
インドは異なる言語を母語とする民族が集まっている不思議な国なので、インド軍にももちろん異言語を話す人間同士が集まっている。タミル人のムクンドにタミル映画の話題を振るマラヤーラム人、ヒンディー映画の歌を歌うタミル人、テルグ映画も忘れるなと怒るテルグ人。みんな目を輝かせている。
この緊張がほぐれて談笑するシーン、胸が熱くなった。言語が異なっても、インド人にとって映画というのは心が躍るような共通娯楽であり、自分たちの言語圏を誇示する上でも重要な要素なんだなと改めて感じた。映画の話になると、みんなの心は一つになれる。日本には無い感覚なので、いつも新鮮に思う。
全体的にはかなり良質な映画だった。最初から最後までずっと面白く、退屈なシーンも無く、集中して観れた。
殺伐とした戦闘シーンに度々差し込まれるムクンドとインドゥの心温まるシーンのバランスも良かった。リーダーシップをとる威厳のある軍人としての姿だけでなく、家族を愛する一人娘のパパとしての姿もクローズアップしていたのが良かった。(特に寝落ちビデオ通話のシーン、めちゃくちゃ良い……。)
"愛国"を前面に出す映画というよりは、過剰な表現をせず、あくまでも1人の軍人の伝記映画に留めていたのが好感。ただ少々淡々とし過ぎたような気もするし、ここはもっとこういう演出の方がわかりやすかったんじゃ無いか、というシーンもあったりする。
でも大満足。最近観た映画の中では最も心に刺さった。(劇場で大号泣してちょっと恥ずかしかった程度に…)
私にとっては"立派な軍人の伝記"というより、"家族の物語"として心に刺さった。この映画に出会えた事を嬉しく思う。
おまけ
ムクンドの信頼できる相棒:ヴィクラム役のブヴァン・アローラがインスタにオフショを大量公開してくれている。有難い………!!!
シヴァカールティケーヤンって本当に優しそうな顔してる。可愛い。
本国版予告