大好き&推したいインド映画
RRRで初めてインド映画を観て衝撃を受けて以来、のめり込むようにインド映画を観るようになった。
RRRはテルグ語映画だけど、私はより現実的で社会風刺に長けており、面白い脚本が多いタミル語映画を中心に今は観ている。(メインはタミルだが、他言語の映画もチェックはしている)
そんな私が、今までに観たインド映画の中でより思い入れの強い作品を紹介したいと思う。
ちなみに私はどちらかと言うと、ヒーローが悪を倒して大団円の王道マサラムービーよりも、ハッピーエンドorバッドエンド、予算規模に関わらず凝った脚本の映画が好き。(もちろんマサラムービーも大好き)
'96(2018年)/タミル語
私をタミル映画の沼に落としたきっかけの作品。
RRRへの熱狂も冷めていき、インド映画飽きてきたかも…と思った頃にたまたま観たのがこの「'96」。しっとりとした大人のラブストーリー。
主演は人気俳優ヴィジャイ・セードゥパティ、トリシャー。彼らの演技力にも心を奪われた。
この映画はまずラームが写真を撮りながら世界放浪しているソングシーンから始まる。曲も良く、撮り方も巧くてうっとりしてしまう。セードゥパティの演技も、「演技」を感じないリアルさ。
その後はとあるきっかけで同窓会が開かれることになり、ラームは学生時代に想いを寄せていたジャーナキに数十年ぶりに再会する。同窓会後に2人が過ごす、たった一夜のノスタルジックな物語。
この映画の好きな点は、画面から土や風の臭いが漂ってきそうなリアルな画。学生時代の回想シーンは、まるで私に無い青春時代を思い起こさせてくれるようなリアルな情景。(笑)
そして巧妙に作り込まれた脚本。純粋すぎて神聖さすら感じてしまうラームの深過ぎる愛情が逆に私たちを苦しくさせる。ハグやボディータッチなどのスキンシップが無くても、ここまで大きな愛情を表現できるんだ…と感動した。
全てが美しい映画で、初見した夜は泣き腫らして翌朝目がパンパンになったのも良い思い出…。
【本国版予告】
ヴィクラムとヴェーダー(2017年)/タミル語
脚本に欠点がないと言っても過言ではない(異論は認める)完璧な映画「ヴィクラムとヴェーダー」。
主演は「きっと、うまくいく」ファルハーン役でも有名なR.マーダヴァン(全然面影ない!)、前述「'96」のヴィジャイ・セードゥパティ。
映画はアニメーションから始まる。飢餓に苦しむ民衆に心を痛めている勇敢な王は、怪しい魔術師に諭されて悪魔を退治しに向かう。迫る敵を倒していく王だが、悪魔に背後を取られてしまう。そして悪魔が王に「物語を語ってやろうか?」と言う所でタイトルカードが出る。
このアニメーションでいう王がマーダヴァン演じる警官ヴィクラム、悪魔がセードゥパティ演じるギャングの重要人物ヴェーダーになる。
ヴィクラムが追っているヴェーダーが突然警察署に自首してきて、取り調べをするヴィクラムに対して「話をしてあげましょうか?」と言う所から物語が展開していく。
この脚本の作り込みの巧さ!善悪のラインが徐々に曖昧になっていく様が本当に巧い。飄々とした語り口のヴェーダーの話を聞くうちに、ヴィクラムの信念に迷いが生まれ始める。後半にはフラグがどんどん回収されていき、素晴らしいラストを迎える。
主演2人のワイルドな渋さにも酔える。何度観ても反芻が止まらない大好きな映画。
【本国版予告】
女神たちよ(2016年)/タミル語
以前紹介した「ジガルタンダ・ダブルX」と同じカールティク・スッバラージ監督によるフェミニズム寄りの作品「女神たちよ」。監督は男性な上、撮影当時30代前半だった点にも驚き。
主演は「ジガルタンダ・ダブルX」でも主演を務めるS.J.スーリヤー、ヴィジャイ・セードゥパティ。
この映画のキャストは演技が全員巧すぎる。特に男性陣は救いようのないドクズばかりなのだが、俳優達もそんなキャラクター性を理解した上でしっかり演じきっているのがとても好感。
大好きなのは、S.J.スーリヤー演じる映画監督アルル。プロデューサーとトラブルになり製作した映画の公開が未定となり、ショックで酒浸りになっている。妻ヤーリニに暴力振るうわ、外でトラブルを起こすわでヤーリニは疲弊してしまい、アルルに離婚を突きつける。周りの援助でなんとかアル中を克服したアルルが、ヤーリニと再びヨリを戻そうと企画したフラッシュモブが下↓のソング。
こんなアルルのように、この映画に出てくる男達はみんな人間臭さと可愛げがあって憎みきれない所が最高なポイント。女もそんな男達に何度も振り回され、でも許してしまう。男女の群像劇の顛末に「なんでこうなるんだ…」と「まあこうなるしかないか…」と複雑な感情になる。ラストシーンのS.J.スーリヤーの演技は本当に素晴らしい。
複数キャラクターを見事に魅せる脚本のお陰で、観る度に新たな発見がある。
【本国版予告】
Maharaja(2024年)/タミル語
4作連続ヴィジャイ・セードゥパティの主演作、「Maharaja」。(彼は演技巧い上に脚本選びも上手いので、つい贔屓しちゃうのは許して欲しい…)
この映画は現地の批評家から大絶賛され、劇場公開版はセードゥパティの主演作で初めて興収10億ルピーを達成。ネトフリ配信後は、タイや中東地域など非インド系国家でもランキング上位に食い込むなど世界中で視聴された。ちなみに日本では未配信…。
ジャンルは犯罪スリラー。この作品は封切り当時に関東圏の上映会で観たが、脚本があまりにも巧すぎて驚いてしまった。前半はややコメディー。時系列が頻繁に切り替わったり、関連性のなさそうな複数キャラクターが点在したりするのだが、時系列と時系列がピタッと一致し全てが繋がっていった時の鳥肌は今でも忘れない。ラストの画も含め素晴らしいアート性、散りばめられたフラグからの考察も止まらない。2024年の暫定ベスト映画。
ヒンディー語圏の有名監督アヌラーグ・カシャップが俳優としてこの作品に出ているのだが、振り返った時のニタッと笑った表情が本当に恐ろしい…!しかし、愛する娘のために強盗殺人を繰り返すアヌラーグ演じるセルヴァムの罪深過ぎるキャラクターも憎めない…最低だけど憎みきれないのが狡い…。
ちなみにMaharajaの監督・脚本を務めたニッティラン・サーミナータンは今作が監督2作目。低予算で高品質なニューウェーブ系の映画を製作してくれる才能溢れた新人材が、今後またどのようにタミル映画界を盛り上げてくれるのか益々楽しみで仕方がない!
【本国版予告】
Kumbalangi Nights(2019年)/マラヤーラム語
私が初めて観たマラヤーラム映画がこの「Kumbalangi Nights」。タミル映画「Vikram」でマラヤーラム俳優ファハド・ファーシルの瞳の演技に魅入ってしまい、他の作品を観てみたいと思ったのがきっかけ。
この映画の大好きな点は、風光明媚なケーララ州の景色!土埃の多いタミル映画を見慣れてしまったせいで、クンバランギの新鮮な緑と、風でキラキラと光る水面が眩しく見えた。家でこの映画を流しながらのんびり過ごすのも心地よさそう。
長閑で優しい音楽もお洒落で素晴らしい。この映画の世界観をより引き立てる良い仕事をしている。
上↑のソングの通りボビーは学生時代の後輩ベイビーと付き合うことになるのだが、そんな2人に立ちはだかるのは、ファハド・ファーシル演じるベイビーの義兄シャンミ。今の日本にも蔓延っている害悪な"男らしさ"を体現したような威圧的な男。無職のボビーを見下し嘲笑うかのような眼差しにゾワッとする。
過剰な演出は無く、写実的な表現が本当にリアル。まるでドキュメンタリーのよう。しかしどこを切り取っても美しく、静かにエモーショナルを誘う不思議な世界観。心の動きや変化もわかりやすく、感情移入しやすい。
スクリーンで観たら、きっと没入感が半端ないんだろうな…と思う傑作。静かに涙が滲む。
【本国版予告】
Haider(2014年)/ヒンディー語
これまで紹介した南インドから場所はガラッと変わり、北インド/ヒンディー語圏の映画。インドとパキスタンの国境カシミール紛争を元に、シェイクスピアの悲劇「ハムレット」を翻案として製作された「Haider」は衝撃作。
主演のシャーヒド・カプールはこの脚本に感銘を受け、ノーギャラでも良いからこの役をやりたいと懇願したそう。
復讐心に苛まれ、悲劇が悲劇を呼ぶ悪循環。失わなくても良かったはずの存在もハイダルの側で散っていく。しかし、山岳地帯で雪原が広がるカシミールには様々な"赤色"がとてもよく映える…。全体的に彩度を抑えたどんよりとした画面も、この不幸感漂う映画の雰囲気にとても合っていた。
シャーヒド・カプールは、本国では「チョコレート・ボーイ」という愛称が付けられるほどのアイドル系ハンサムだが、本作後半では坊主頭となり、異質な存在感を放つようになる。劇中劇の演技は圧巻。ビー玉のように大きく透き通った瞳が美しい…。
母ガザーラー役タッブーの演技も本当に素晴らしい。その姿は母親としての落ち着きと、情念とも言うべき女としてのメラメラとした色気が混在する不思議な魅力に満ちている。そして彼女の行動がハイダルを苦しめ続けることになる。
脚本もよくできており、清々しいほどに焼け野原。悲劇的だがとても観やすく、歴史的背景を知らなくても比較的わかりやすい。こんな素晴らしい作品に日本語字幕が付いていない事が未だに信じられない…。
(カシミール紛争とそれに伴う情勢不安を描いている為、こんなセンシティブなテーマの映画をよくインド国内で公開できたな…と感心するばかり。ちなみに今ではこの題材はNGらしい。)
【本国版予告】
ランガスタラム(2018年)/テルグ
テルグ映画だけど、どこかタミル映画のような雰囲気を持ち合わせる「ランガスタラム」。私が観たテルグ映画の中では最も異質な作品。
「RRR」ラーマ役のラーム・チャランが主演している為、公開当時の映画館には多くの観客が観に来ていた記憶。
前半は農村部で繰り広げられるお気楽コメディで、楽しそうなダンスソングが続く。しかし、最後まで観た後に再度このダンスシーンを観ると、その歌詞に圧倒される。インド映画は繰り返し観る事で監督の意図が顕になり、初見とは違う感覚を味わえるのも楽しみの一つ。
ラーム・チャラン演じるチッティ・バーブはダリット(不可触民/カースト制度にすら属さない最下等の身分)の青年。田舎村で呑気に暮らしていた無学のチッティが社会構造を知ってしまった時、その表情の変貌が切ない。
この作品を初鑑賞した時はあまりの衝撃に言葉を失ってしまった。カースト制度による身分や貧富の差をテーマにした映画はこれ以外にも多数観てきたけど、ここまでエンタメに昇華できて且つ見応えのあるツイストを見せてくれる映画を私はあまり観た事がない。
【本国版予告】
【日本版予告】