哲学・日記・メモ 「印象派・個人表現の誕生」
印象派・個人表現の誕生
●19世紀後半のフランスの印象派の画家たちは、戸外出て世界の光を直接画面に写生しようとした。彼らは手順と時間をかける古典的描法を用いず(ぼかしのスフマート技法や透明なメディウム層をレイヤー状に重ねるグリザイユ技法等)、筆のタッチそのものを一発で決めていく、プリーマ描法を使い始める。
●これは極めて短時間で作品を仕上げることが出来るであるが、この描法がもたらしたものは時短に限ったことではなかった。画家たちはその短時間の筆のタッチの一瞬にその時の気分を乗せる事が出来るようになったからである。軽く、ウキウキしたタッチ。重くどんよりしたタッチ。画家が今思い考えている事も一筆一筆に込める事が可能になったのである。
●後期印象派にヴァン・ゴッホが位置しているとともに、ゴッホが表現主義の先駆とみなされているのを鑑みれば、画家個人の感情表現は、印象派から始まる、と考える事はさほど間違ってはいないのではないかと思う。あるいは、印象派のプリーマ技法こそが「絵画は画家個人の内面を表現するものである」と言う時代性を用意するものであったのではないか。
●ルネサンスが「人間の再生」であったとしたら、印象派は「個人の誕生」の萌芽であったのかもしれないし、「人間」とは異なる概念である「個人」を準備するエポックであったのかもしれない。
2021年6月 岡村正敏