9.11 夕景をさがしにー利尻岳⑤
ー小屋の人たちー
暗くなってから、単独の男性が小屋にやってきた。
ぼくを含めて計5名となった。
明日ご来光を見るために早くから起き出すのでご迷惑おかけします、と申し訳なさそうに言う声のいい男性の方と、女性の方。
放浪の彼は、朝がとても弱いという。
単独で最後に来た人は、とりあえず早めに出発すると言う。
ぼくは、なんだかこんな素晴らしい夕景に出逢ったので、頂上はどうでも良い気になっていて明日の朝の天気と自分の気分次第ということにした。
強風が屋根を叩く。
19時早々に寝てしまったご来光組を除いて、ぼくたちは自然と話しをしだす。
放浪の彼は、いろいろとあちこちのパンフレットを持って、うれしそうにヘッドランプの下に広げてくれる。
最後に来た人と次に向かう礼文島の話しをしている。
利尻岳から沓形に下山して、礼文行きの船の時間に間に合うかなあ、というような話し。
最後に来た人は、東京出身で今年に札幌へ転職してきた、ぼくと同じ年齢のようだ。
北海道あちこちの話し、温泉地の話しをする。
そして、少し生き方の話しも。
放浪の彼が最初に小屋にやってきた時、ぼくから最初に声をかけた。
「どちらから、いらしたのですか?」
「帰るところ、ないんスよね」
と彼は、そう言っていた。
ぼくは、マズイことを訊いてしまったのかな?と
そのとき一瞬とまどったのだ。
一緒に過ごし、話しをしていると、とても実直で一生懸命な人だと思った。
それは、勤め人にとって山行は日程的に制限されることがあるよね、そこでやるからまた楽しいのだよね、というような話しを最後に来た人としていたときだった。最後に来た人は、家庭もあるのでなおさらだ、とも言っていた。
放浪の彼は、
「ぼくはもう、この先ちゃんとした仕事に就くとか考えていないし、
半分死ぬ覚悟なんですよね」
と、自然に明るく、きっぱりと言っていた。
「みんな、ぼくみたいな生活を自由で良いと言うけれど、
みんなはそうできないみたいなんですよね、
一度定職とかに就いちゃうと、ですね・・・そうス」
いろいろな彼の話しを聞いた。
あくまでも人の考えや生き方を知り、いろいろと摩擦があり、そして認め合い達している、自分の位置を知っている、そんな人との間隔を知っているような心地よさが彼にはあった。
そんな彼は、北海道は2回目だと言うのに、地名はもちろん、移動や滞在その印象、歴史的な背景まで、漠然とはしているものの、普通にこの地に暮らす北海道の若者よりも広くそのことを会得していた。
ホントウに、人なつっこい、良い青年だな、と感じた。
そして日々の自分の仕事や生活を振り返りつつ、シュラフにもぐりこんだ。
つづく