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B2B法人営業とは何か?4-2-2. 商談スキルの全容【課題ヒアリング後編】~無自覚なニーズを聞き出す~
本稿は商談スキルの全容の第二弾【課題ヒアリング編】の後編です。課題ヒアリングにおいて必要なスキルを以下のように整理し、1については前回、解説いたしました。
自己開示と強みや能力のアピール
オープン/クローズド質問の使い分け
傾聴と共感、要約確認による心理的安全性の醸成
回答の理解と、次の質問への論理的連鎖
仮説の検証と仮説の再構築の高速回転
核心を捉え、さらに掘り下げる踏み込み
対話を整理し、意味あるストーリーにまとめる構想力
2. オープン/クローズド質問の使い分け
Yes/Noで答えられる質問法がクローズドクエスチョン、自由に答えてもらうような質問法がオープンクエスチョンですね。自由に話してもらえるほどには未だ商談の場が温まっていない場合や、逆に盛り上がって広がり過ぎた話題を絞り込みたい場合にクローズドクエスチョンが有効です。その逆の場合に活きるのが、オープンクエスチョンです。
有効活用できる場面が違うため、使い分けが必要になります。いずれかに偏ると、それぞれの質問法が持つデメリットが目立つようになります。なのでバランスよく織り交ぜて質問を重ねることが効果的です。
そこで、課題のヒアリングの際には「クローズドを多用せずに、できるだけオープンクエスチョンで聞くことが有効」などと言われますが、個人的には懐疑的です。ヒアリングが上手い営業は、クローズド質問を効果的に差し込んでいます。
もう一歩踏み込んで核心に迫るとき、課題を網羅するために別の観点で切り込むとき、相手の話の矛盾を突くとき、いずれの場合も一旦、相手からYesを獲得する必要があるためです。
それをやらないと対話に締まりがなくなったり、相手が「理解されていない」と感じたり、「何を聞かれるのだろうか」と、警戒心を強めたり、最悪は「こいつ失礼な奴だな」と誤解されたりするからです。当然、そういう心理状態になった顧客が、核心的なニーズを自ら話すことはないでしょう。
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3. 傾聴と共感、要約確認による心理的安全性の醸成
顧客の「心理的なガード」を下げさせるという意味では、傾聴と共感は欠かせません。もちろん、顧客が自らの課題や悩みの解決に向けて、他社の営業を頼る状態に既になってるのであれば、ガードを固める必要などないのですが、そうでなければ傾聴と共感は欠かせません。傾聴と共感については、他のコラムで詳述していますので、こちらをご参照ください。
親近感を感じられないばかりか「無能過ぎて期待も湧かない」となると、商談を切り上げられかねません。その意味では、要約確認が意外と有効です。心理的ガードを崩すジャブみたいなものです。こまめに繰り出しましょう。
効果的な要約確認は、結構利きます。「さっきまでのとりとめもない話をここまでクリアにまとめたか?!しかもこの短時間に?対話しながら?」と、評価されます。大げさではないです。
4. 回答の理解と、次の質問への論理的連鎖
前の質問と次の質問の間に自然な流れやつながりを感じられないと、顧客は違和感を覚えます。「先ほど答えた内容を理解しているのだろうか?」や「次の質問の意図が分からない」という不信感につながります。質問の度にいちいち枕詞として質問の意図を添えると対話のテンポも悪くなります。
営業上級者は、前の質問に対する顧客の答えの中から、次の質問につながる核心的・本質的なキーワード、あるいはいずれ核心的・本質的なキーワードにつながる匂いのするキーワード候補を捉え、次の質問のテーマに据えます。「今おっしゃった○○について、さらに詳しくお聞かせください」「その○○ですが、要因は何だとお考えですか?」という質問の展開ですね。
しかしながら、これは口で言うほど簡単ではありません。まず、顧客の話を漏らさず傾聴する「集中力」が相当に求められます。結構疲れます。
次に、「何が核心的・本質的なキーワードなのか」を見極める力が求められます。そのためにはその場の観察力・洞察力だけでなく、それまでの話の全容を体系的・構造的に整理し理解する力が必要ですし、「省かれている前提」についても分かっておくことが必要です。だから、事前の顧客分析&仮説立案が重要なのですね。ここは次のスキルにつながっています。
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5. 仮説の検証と仮説の再構築の高速回転
で、たった今、顧客から聞いた話と、事前に立てた仮説を照らし合わせて、場合によっては自身の考えを改める必要が出てきます。仮説の検証と仮説の再構築ですね。
これを商談中に、顧客と対話しながら行う必要があります。じっくりと考えながらできません。顧客との小気味よい対話のテンポが分断されるからです。だから「高速回転」です。
ちなみに今しがた述べた4や5のスキルを実践するためには、よほど頭が良い人でない限り、メモを取ることは必須でしょう。商談中のメモは、後に見返す記録というよりも、商談を有効に行うためのツールと捉えた方がよいと思います。
6. 核心を捉え、さらに掘り下げる踏み込み
前段の「核心の捉え方」については4で既述しました。後段の「掘り下げる踏み込み」について解説します。
やや抽象的な表現になりますが、掘り下げる「方向」が適切でないと、せっかく捉えた核心から再度離れていくことになります。掘り下げた先の話題が、さらにそのテーマの核心に近付いていることが、正しい掘り下げなのですね。では、具体的にどうするか?
一つには、掘り下げる順番が重要です。基本形は、①What?「具体的には?」②Why?「なぜ?」③How「どうやって?」となるでしょうか。
掘り下げるべき対象の実像が明確になっていないのに、その原因や背景を探ったところで話の展開を見失うだけですし、原因や背景を深く理解できていないのに、解決策に走ったところで表面的な答えしか出てきません。だから、掘り下げる順番が重要です。
二つには、上記の②Why?のフェーズで「それはなぜですか?」を単純に繰り返すことが挙げられます。トヨタの改善手法のように最低でも「なぜを5回」繰り返すぐらいでちょうどよいと思います。3回目くらいで顧客は思考の「未踏領域」に差し掛かります。ただし、なぜの問い方にバリエーションをつけないと、顧客を不愉快にさせる恐れがありますのでご注意を。
7. 対話を整理し、意味あるストーリーにまとめる構想力
最後は、既述の4,5,6スキルの総合技ですね。繰り返しになりますが、手元に商談中に書いたメモがないと、難しいと思います。ところで後段の「意味あるストーリー」って、何でしょうか?
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結論から言うと、今日、顧客からヒアリングできた情報と、事前に仮説立てし対話を通じて検証/再構築した課題を総合して見えてくる「解決の方向性」のことです。当然、解決の方向性の中には、自社の商材やサービスはもちろん、自社や営業が取り得る努力で行える施策や活動も含まれます。
なので、課題ヒアリングはこの「意味あるストーリー」が明確になってくるまで行うことが必要です。課題ヒアリングは手段であって目的ではありません。目的である「(受注確度が高い)ソリューションを企画すること」が達成できれば、そこでヒアリングは切り上げていいのです。
では、このストーリーにまとめ上げる構想力は、どうすれば身につくでしょうか?それは次回のテーマである「企画立案」の経験を積むことで身につくのだと思います。