オキサトさんに聞こう① 職人さんが減る理由
このコラムは、京都芸術大学京都伝統文化イノベーション研究センターのために書いたものですが掲載が終わっていたので、ここに再掲しました。
Q:
職人さんが減少している状況についてどう思いますか?(岸くん)
職人さんはなぜ減ってしまうのですか?(はるか)
A:
かつては、工芸を買って使ってくれる人、工芸を売ったり職人に仕事を頼んだりしてくれる人、そして工芸をつくる職人さんの3者がよいバランスで存在したので、職人さんは仕事に困らずに作り続けることができました。
しかし、生活スタイルや売り買いする場所が変わり、使い勝手が合わなかったりと、3者の思いや道具としての役割が少しずつズレはじめ、さらには効率的に安価に作られた代用品が、より使いやすく買いやすくなったりと、社会で必要とされる商品の種類は、かつて工芸品に求められたものとは変わっていきました。そして、次第に伝統工芸品は、売り買いされる量も減り、作り続けるにも職人みんなが食べていける多量な仕事の確保が難しくなりました。これが、一番大きな、職人が減った理由だと思います。
他にも理由は幾つもあります。例えば、就職するタイミングの変化です。昔は中学や高校を卒業して、地元の工房や職人に入門するケースが多くありました。今では、大学を卒業してから就職する人が大半です。となると、地元産業としての工芸以外にも多くの魅力的な仕事やこだわりを活かせる仕事を多く知ってから仕事を選べるので、職人という職業が多くの選択肢の中で薄れてしまい希望者自体が減りました。
意外な理由では、農業の変化です。工芸の素材調達や道具づくりなどは農家や山間部の農閑期・休耕期に支えられていました。実はいまも手織りの伝統的な織物などは各地の農家が支えています。しかし、年中忙しい兼業農家が増え、山間部からも人が減り、工芸を支えてくれた各地の作業者がいなくなり、作りたくても作り続けることができずに廃業する工房もあります。
もちろん、いずれも、根底にはよりよい生活や、よりよい賃金などを求めた結果があるのでしょうが、単に需要の変化による売上の減少だけでなく、このように、進学や国内各地の就労スタイルの変化などが複雑に重なって職人が減ったというのが実状です。
ただ、職人は減る一方な訳でもありません。最近は、その地域の素材や歴史や自然を積み重ねてつくる伝統産業への関心は広がりはじめ、職人の仕事現場にいける『仕事旅行社』、富山で宿泊しながら職人仕事を楽しむ『BED&CRAFT』、兵庫のデザイン事務所が若い職人を育てるために立ち上げた『MUJUN WORK SHOP』など、職人になるためのきっかけの場も増えています。
僕自身、伝統工芸はじまって以来の低迷期であるここから、どう新しい息吹を吹き込みながら伝統工芸の職人さんが残っていくかとても楽しみです。実際に僕の周りには20代や30代の職人が多くいます。やった分だけが形として残り、知恵を絞った分だけ仕上がりが向上する仕事にやり甲斐を感じながら、素材と文化に立ち向かう姿を見るたびにほれぼれします。もし、プロデューサーという仕事が職人にとって必要ない時代だったならば僕自身、職人の道を歩んでいたかもしれません。
文責:永田宙郷