No.690 三十一文字の深遠なる世界。その1
言葉と心を31音のリズムに託した日本人の心のありように打ちのめされた気がするのは、私だけなのでしょうか?noteをご覧の皆さんにお伺いしたくて紹介するのです。
作品は、『平成万葉集』(讀賣新聞社、2009年刊)の1,000首の中から、勝手に25首選ばせていただきました。以前紹介した短歌とは、別の作品です。今日(12首)と明日(13首)の2日間に分けて時間泥棒させてください。
いくさには農馬もゆきぬ施主のぶと記念の馬碑に込めし母の名
(91歳・男性、福島県)
経済の混乱つづく年の瀬に「なにもない」とふ財産もある
(72歳・男性、東京都)
携帯の蛙の絵文字ただひとつ夫の帰りを我に知らせぬ
(49歳・女性、兵庫県)
この家も住む人無くて崩るるか南天の実のひときわ紅し
(76歳・男性、石川県)
健やかに美しきもの見む終の日にアイバンクへと託す両眼
(68歳・女性、宮城県)
遠き世の人の恩讐思はせて皇居の堀に鳴く牛蛙
(80歳・男性、秋田県)
初めてのデイサービスに行く朝夫は黙って味噌汁すする
(68歳・女性、千葉県)
一人称で戦争語る人の減る六十年を豊かに過ぎて
(69歳・女性、和歌山県)
海に戦死の兄を憂ふる母なりき永き歳月魚口にせず
(75歳・女性、東京都)
喜寿過ぎて乙女の如き恋心おぼえし我を如何とぞせむ
(79歳・女性、長野)
「後継者なきまま私も老いたり」と閉店書店に貼り紙のあり
(68歳・女性、栃木県)
五歳児がつま先立ちをするときに明日の夢がすぐそこにある
(68歳・女性、カナダ)
今から13年前に編集された『平成万葉集』には、国の内外から4万6千首もの応募があったそうです。そのうちの千首(約2,2%)だけが採録されました。平成という時代を生きた人々が、日々の営みや人生の機微や喜怒哀楽を31音に込めました。そんな心の花の色香に、心を奪われています。
※画像は、クリエイター・S |動画編集💻さんの、タイトル「短歌」をかたじけなくしました。上品で、扉を開けたくなるような誘われる気持ちになります。お礼申します。