見出し画像

No.752 小さな炎が燃えました

「もう、我は駄目だと思ふ時もある やってゆかうといふ時もある」
と讃の入った中川一政画伯の虎の絵に惚れてしまったのが、向田邦子です。

『森繁の重役読本』などのラジオの脚本家、『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『だいこんの花』『阿修羅のごとく』などのテレビドラマの脚本家、『父の詫び状』『無名仮名人名簿』『眠る盃』など稀代のエッセイストとして、また『あ・うん』『思い出トランプ』そのほか小説家としても名作を残している人物です。
 
そんな湧出の泉のごとくに作品を生み出した向田邦子が、中川一政のあの讃にご執心だったという画廊さんの思い出話を読んだ時に、彼女でさえも時としてそんな気持ちになり、画伯の言葉に背中を後押しされたことがあったのかな?などと下衆の勘繰りをしてしまうのです。
 
ところが、こちとらは正真正銘の駄馬ですから、何をするにも「いこか、もどろか」と逡巡し、毎日のコラムも「もうダメかも?いや、まだいけるぞ!」と引いては押し寄せる心の波が、それこそ日替わり定食のように形を変えて頭に浮かんで来てしまうのです。
 
「いいんじゃないか?書けるときに書く。書きたい時に書けば…。」

そんな思いの中、今年いただいた年賀状に、教え子からのこんなコメントがありました。
「『私』という木の年輪と体重は増えるばかりで、頭の引き出しから何も出てきません(笑)」

もう、思いっきり笑っちゃいました。こんな私を思いやっての自虐ネタが、何とも嬉しい。そして、「笑わせて、読ませて、考えさせる」彼女の言葉に、「気持ちを楽にして励んでほしい」というエールを感じたのでした。

私の中で、ポッと小さな炎が燃えました。