No.606 松露饅頭と愛犬チョコの思い出
在職中に遠足がありました。高校生なので、おやつ菓子は100円以内などとせず、太っ腹なところを見せてやれと、ドーンと300円以内としました。さすがに、
「バナナは、おやつに入りますか?」
などと質問する生徒はいません。戦後、バナナが高級品と言われた時代がありましたが、今はそんなことはなくなりました。現在では60%もの人々が「バナナはおやつに入る」という認識だそうです。
さて、私も何か菓子を持参しようと、帰宅してから水屋(古いか?)の中を物色しましたが、「イカのつま味」1袋(298円なり)しかありませんでした。
「『イカのつま味』は、おやつに入りますか?」
残念ながら、酒のお伴(肴)ということで却下となりました。
「今日は、菓子は無しか…」
とサンドイッチの入った弁当1個を、リュックに入れて登校しました。すると、ナ・ナ・何と、我が机の上に大好きな佐賀あわび屋の「大原松露饅頭」1箱が置かれてありました。その辺りだけ光を放っています。聞けば、野球部の部長が佐賀に練習試合に行ってきた土産だとか。
「お土産は無事故でいいのお父さん」
と常は言っているくせに、その心遣いに小躍りしたいような気持ちです。おかげで、遠足のお伴ができました。えっ、「300円以上ではないか!」ですって?鋭い!鋭すぎる!
この松露饅頭は、唐津を代表する銘菓の一つです。江戸時代末期の1850年に創業。 あわび屋という屋号で海産物問屋を営んでいた初代惣兵衛の妻が焼饅頭をつくっていたのが松露饅頭の起源だそうです。 虹の松原(黒松)の下に生える「きのこ」を「松露」といい、饅頭の形がその松露と似ているので、お殿様からこの名前をもらったという由緒ある菓子です。直径2cmほどの可愛いヤツです。あっさりした甘さの漉し餡が、カステラ生地の薄い衣をまとい、まん丸に焼き上げられています。
一体、どうやって作るのだろうと調べてみたら、ほぼタコ焼き器のような特別な銅板で、ひとつひとつ丁寧に手作りで焼き上げていました。20個作るのに動画で5分ほどかかっていました。手間暇かけた丁寧な職人の作業は、いつまでも見ていられるほど美しい技でした。
その昔、好物の松露饅頭を買って帰った夜の間に、まだ3歳前後で元気の盛りだった相棒のチョコ(ミックス犬)が、松露饅頭(15個入り)の箱を食い破って食べてしまうという前代未聞の狼藉を働いたことがあります。箱が変形して角っこに挟まったたった1個だけが難を逃れて残っていました。仰天して怒るのも忘れたくらいです。
犬に糖分の与え過ぎはNGでしょう?松露饅頭を理性も働かせずに14個食べてしまったチョコは、体調を壊すか病気になるに違いないと覚悟しました。ところが、ご本人は、けろりとしています。
しかし、ただで済むはずはありませんでした。私と共に散歩する盟友のチョコでしたが、ウンチは、2日間毎回ねっとりした紫色のそれでした。それこそ、こしあんが絞り出されたような格好でした。食べたのは彼女、出したのも彼女、そして、始末するのは御主人の私でした。
食い物の恨みは恐ろしい。あれからもう12年も経とうとしているのに、昨日のことのように思い出します。チョコはすっかり歳を取り、今では菓子箱をかみ砕く顎の力もなくなりました。