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No.636 孤独でも夢を見られる人々

言葉は生まれ、世界の人々にその種を宿します。そんな事を思ったのが、2014年のノーベル賞平和賞を授賞したマララ・ユスフザイ(17歳)さんのスピーチでした。
「…(略)…いわゆる大人の世界は理解するでしょうが、私たち子どもには分かりません。『強い』といわれる国々は戦争を起こす上では強いのに、なぜ平和をもたらす上では弱いのか。なぜ銃を渡すのは簡単なのに、本を与えるのは大変なのか。戦車を造るのは易しいのに、なぜ学校を建てるのは難しいのか。…略…」
 
世界の誰もが気付き、思い描く言葉でしょう。しかし、その言葉を対句表現で強調し、世界中の人々の胸に迫る言葉に昇華してしまうところが、この人の魅力であり、神が惚れ込んだ才知なのだろうと思いました。8年後を予言したかのような言葉でもあります。
 
そのパキスタン出身のマララさんは、女性が教育を受ける権利を訴えたことからイスラム過激派の標的となり15歳で銃撃されましたが、一命を取り留め、先のノーベル平和賞を受賞したのでした。彼女は2021年に結婚したことをツイッターで報告しており、現在は、自ら設立した基金を通して、世界各国で、女性の教育などを支援する活動を行っているといいます。今年25歳の若き活動家は、真摯に夢を追い続けています。
 
同じノーベル賞で、「物理学賞」に輝いた三人の日本人のうちの一人、赤崎勇先生は、LED開発で世界中の研究者が諦めた窒化ガリウムにこだわった人物です。「一人で荒野を行く心境だった」と回顧しています。孤独に耐えた、名に違わぬ「勇気」ある人物です。そこには飽き足りない、いや尽きせぬ「究明して、人々に貢献したい」思いに裏付けされているようです。
 
私の好きな読売新聞のコラム「編集手帳」には、受賞翌朝のシビれる記事があります。
「光を遮断された暗闇のなかでつぼみをつける花がある。美しいものは孤独な歯ぎしりのなかから生まれるものらしい。中村修二カリフォルニア大学教授(60)の回想に接してそう思う◆会社勤めの頃は製品がさっぱり売れず、「会社の無駄メシ食い」と罵倒された。昇進は後輩に抜かれた。開き直ってからは上司の命令を一切聞かず、電話は取らず、会議の招集も無視して研究に没頭したと著書にある◆世界を驚かせた輝ける青色発色ダイオード(LAD)はけんか腰の苛烈な研究生活のなかで生まれている。孤独の木に咲いた現代文明の〝青い花〟である◆その業績により、中村さんと赤崎勇名城大学教授(85)、天野浩名古屋大学教授(54)の3氏にノーベル賞物理学賞が贈られる。『ほら、あれもニュースのおじさんたちのおかげだよ』。今朝はどこかの街の交差点で、幼い子供に信号機を指さして語るお父さんやお母さんがいるだろう◆朗報を祝って今宵は小欄も、みずからいつもより少し多めの『飲~める賞』を授けるとしよう。おそらくは青色LEDの漁り火に魅せられただろうイカの刺し身を、乾杯の友として。」(2014年10月8日)
 
こんな記事を際やかに鮮やかにものすることのできるコラムニストの頭の中をちょっぴりでもよいから覗いてみたい気がするのは、己の言葉の淋しさを思い知らされる時です。オジサンギャグでも、ちゃんと締められるところが、またニクイ!

※画像は、クリエイター眼鏡屋□×56さんの「夜ノ街ニ、光ヲ灯ス」を使わせていただきました。お礼申します。