No.623 その名に似合わず、グルメットな女神
こんな人名(苗字)のクイズがありました。
Q.「阿さん、さて、何と読むでしょう?」
A.「いのうえさんです。」
そのココロは、「あ」は「いの上(前)」にあるから、ということだそうです。そういえば、「一」と書いて「にのまえさん」と読む例もあったように思います。我が息のし易いようなオジサンギャグの世界が、こんなところにもあります。
ところが、意外にも、これが嘘から出た真でした。「うちの山の神が!」などと言いますが、コワ~イ妻を婉曲にいう言葉として国語辞典にも記されています。
Q.「山の神って誰のことでしょう?」
A.その答えは、「いろは歌」にあります。
「いろはにほへとちりぬるを
わかよたれそつねならむ
うゐのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑひもせすん」
その、いろは歌の「やま」の上(=前)には「おく」があります。ゆえに、「山の上(神)」=「奧さん」だというのが、その理由です。「えっ、今頃知ったの?」の誹りもあるかもしれませんが、私は、大好きなネーミング法に「ヘーボタン」を乱打しました。
その「山の神」は、見たことがありませんが、醜女だとか言われます。鬼より怖い形相を、余すところなく、又惜しむことなく夫に見せる「我が妻」を揶揄して「山の神」と呼んだ最初の男性は、心優しき恐妻家だったのでしょうか?いや、恐妻家の男神だったのでしょうか?
しかも、この「山の神」、容貌が醜いだけではなく、美しい女性が山に入ると嫉妬するとさえ言われました。そこで、きこりたちは、この女神の怒りを鎮めるために、さらに醜悪なお顔のオコゼの類を捧げたといいます。女心を逆手に取った捧げ物ですが、グロテスクな見た目とは裏腹に、オコゼの味わいはトラフグを凌ぐとさえ言われます。
山の神(奥様)は「魔女」ではなく、人も羨む「美食家(グルメット)」だったのです。