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No.248 靴おろしのおまじない、していますか?

 もう、あの日からひと月が経ちました。
 7月に入り、
 「その靴だと蒸れるから、夏用の靴を買いましょう。」
とカミさんが私の靴を見かねたようにそう言いました。オールシーズン型の「時節と場所を選ばない(いや、選ばせない?)愛用の靴」は、ご主人同様くたびれた風情です。

 桃太郎にお伴する犬か猿か雉のように従順な私は、言われるまま、差し出されるままに、通気性の良い、メッシュでブラックな特殊加工のゴムシューズを買ってもらいました。素材が軽く、かかとがエアリーで、「お魚になった私」に対抗して「足に羽が生えた私」の賛辞を贈りたい代物です。

 子どもの頃、新品の靴を買ってもらったとき、いつ、どうやっておろすか、真剣に考えました。というのも、
 「夜中に新品の靴をおろしたらいかんので!」(いけないんだよ!)
と言われていたからです。昔は、街灯もない夜の外出は危険だったからでしょう。また、お通夜に出かけたり、故人に新しいはきものを履かせたりして見送るなどのイメージもあったからだろうと思われます。

 戦後ひとケタ生まれの私ですが、子どもの頃、新品のズックをわざと砂や泥をつけて汚してから学校に履いて行った覚えのある方は少なくないのではないでしょうか?嬉し恥ずかしの裏返しの気持ちがあのような行動をとらせたのでしょうが、あれも一種の新しい靴をおろすときのおまじないだったと言えなくもありません。

 7月10日、読売新聞のコラム「編集手帳」にそんな疑問に答えてくれるような記事が出ました。関西学院大学教授の島村恭則氏の著書『みんなの民俗学』(平凡社新書)には、新しい靴をおろす時のおまじないが地域や家庭で独特のものがあると載っているそうです。
 「靴底にマーカーで『安全』と書いたり、ぐちゃぐちゃに塗りつぶしたり(浜松市出身)、やむをえず夜におろすとき、魔除けのために底を火であぶる(大阪府豊中市出身)、靴の中に入らないようにして塩をまく(福岡市出身)…と言った報告が紹介されていた。」
私は、さっそく「安心・安全」の「安」の一字を新品のシューズの裏に書き添え、おまじないとさせてもらいました。

 3年ほど前の晩秋に、在職中に大変お世話になった他校の元校長先生宅を訪問したことがありました。奥さんとは初対面でしたが、いとまごいをした玄関先で、
 「毎年作っている瓜のぬか漬けなんです。よかったら食べてください」
と言って持たせてくれました。帰宅して新聞の包みをほどいてみると、少し大きめのタッパーに瓜の糠漬けが詰まっていました。

 そのタッパーの蓋の真ん中に「寿」の達筆な一文字がマジックで書かれてありました。
 「ぬか床が傷まないようにとのおまじないの『寿』か?さすがだなぁ」
と思った私は、お礼の電話を差し上げたときに奥さんに訊いてみました。
 「あれは私の名前の一文字なんですよ。よそのと間違えないように…」