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私は何者か、357
包丁の刃が欠けた。少し、まだ、冷凍の部分が残っていたのに、玄関チャイムが鳴ったりして、バタバタしていて、つい、やってしまった。捨てて。捨てておいてね。と、彼に頼んでおいた。わかった。と、彼は確かに言った。包丁なんかたくさんあるんよ。また、持ってくるわ。と、週末の家の包丁三昧。
昨日、ご用で彼がひとりでかけた。帰ってきて、新聞紙に包まれた、長物を出している。なんと、例の、刃のこぼれた包丁を研ぎに出していたらしいのだ。寸法も短くなって、でも、ペティナイフよりは大きい。けど、切れ味冴え渡るよな輝き。
はよ、切れ味確かめてみよー。
白葱をトントン刻むひと。
彼は、そんな人。
捨てておくよ。うんうんて言ったのに、包丁が可哀想やろって、研ぎに出してくれていたなんて。
ありがと。
ええひとやねって言うたら、ええ人って馬鹿みたいやなー。って、笑っている。
ええひとは、そんなふうに言って、忘我のうたた寝に身を委ねる。
そんなひとを、そっとしておく。
眠ることは大切なこと。
脳の掃除と、夢の観覧。
そこに、少しでも、ちいさな隙間があるのなら、それは、我らの感情の隠れ場所。
俄雨。
わたしは何者か。