私は何者か、374
耳鳴り。
右の耳には夏草を自在に鳴く虫の声。
左の耳には絶え間なく流れる水の音。
目を瞑れば、それらの音は、今の暮らしからわたしを遠ざけ、記憶の淵に連れ去る。ぽっかりと口を開けた風の穴の縁にわたしは佇んでいる。風は深く遠く太く細く長々と吹き荒び、何もかも、この身体さえも何処かへ運んでゆこうとする。残るものは、この儚い思想とともにそれを支える虫時雨と細く絶え間ない流れだけである。
風の穴の向こう。
誰も行ったことがないところ。
浮かぶものは、草花、オフィーリア。
やはり、水辺。
わたしは何者か。