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私は何者か、526
結局、たいへんな時間と体力と脳みそと、お金を使って、あるものを処分した。ずっと肩にのし掛かり、または、背中に背負わされてきたようなもの。かたちなどあってないような。ないのに、あるような。要するに、わたしにとっては、不要のものである。いや、無用のものであるのか。
放たれて、軽くなる。
午後遅く、髪を切りに行く。さらに、軽やかになる。
何せ、身軽であることが信条。
朝夕、めっきり涼しい。靴下を探す朝食の時間。窓からの風は、もしかして、秋のそれ。
おろしたての白いスニーカー。お気に入り濃紺のワンピース。新しいセルフレームの眼鏡を付けて、肩にリュックを掛けて、出かけるのである。新しく、身軽なわたくしの旅。
誰が教えてくれたのか、花の咲き乱れる斜面から広がる黒曜石の海岸。そこから間近に見える冥王星の図書館。古いキルトの手触りと温もりがよみがえる。
そこに遊ぶといふ、選りすぐられた時間。
そこに在るといふ、唯一の幸福。
夢のような話ではあるが、波打ち際でずっと待っていよう。
わたしは何者か。