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#13 大学生、初めてスナックに行く【レシピ】

スナック。

薄暗い店内、まわりは飲み会帰りのネクタイ姿のサラリーマン、カウンターでママからお酒を注いでもらい、煙草を片手に乾きもののおつまみを。お酒と話に興が乗ったらカラオケで得意な曲を1曲……

そんな令和から平成を飛び越え昭和テイストのイメージが満載なスナック。

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入社以来スナックに行ったことなんて、取引先や社内のおじさん先輩社員行きつけの店に連れて行ってもらった数回のみで、自分からスナックのドアを開けたなんてことはまずありません。


ですが、そんな僕が初めてスナックに行ったのは、ひとりで、東北青森の場末の店舗、しかも学生時代のことでした。

◇◇◇

青森のスナックに迷い込んだ話

その時僕は大学2年生で、青森県をひとり旅していました。

お金もギリギリの貧乏旅行ではあったのですが、せっかく青森にいるのだから何かいいものを食べたい、青森の郷土料理を食べたいと思い調べたところ、どうやら青森には「じゃっぱ汁」という料理があるようです。

なんでもタラのアラや白子をごった煮にした味噌汁とのことで、想像しただけで濃厚なダシが出ていて美味そうです。

そいつをつまみに一杯やるか!と、当時からすでにおっさんの素質があった僕は、ワクワクしながら夜になるのを待ち、青森の歓楽街に繰り出しました。

しかし、ほとんどの店がすでに閉まっていたのです。

当時、横浜で大学生をしていた僕からしたら、夜21時に目につくほとんどの店がやっていない状況は信じ難いもので、スクーターをベンチ替わりに談笑する金髪の少年たちと、塾帰りの中学生くらいしか人がいなかったのを覚えています。

これはコンビニで弁当とビールでも買って帰るか……と諦めかけていた時、


「じゃっぱ汁、あります」と書かれた看板を発見しました。


しかしその看板は、道路に面したお世辞にも入りやすそうな飲食店ではなく、迷い込んだ者を裏路地の怪しい雑居ビルの中にいざなう看板でした。当時20歳なりたてのうら若き青年だった僕にとっては全力で不安しかなかったのですが、雑居ビルの階段を上がりドアを開けてみると、そこがまさにスナックだったのです

◇◇◇

うっかりスナックに入ってしまい、どうしていいかわからず固まる僕はハッキリいってかなりの不審者だったと思うのですが、そこはママさんもプロですから、「若いお兄さんねえ」なんていってカウンターの一番端っこの席を促してくれました。

さらに、「私みたいなオバちゃんより、若い子と話したってよ」と若いお姉さんを僕の前につけてくれました。

当然というか、そんな場末のスナックに東京からの大学生がひとりで迷い込んでくることなんて無いでしょうから、

「こんな何もないところにひとりで来て、お兄さん変わってるなあ」

と言われました。


僕はビールと念願のじゃっぱ汁を頼み、お酒の酔いと、店内の大人びた雰囲気もあって、色々な話をしてしまっていたように記憶しています。

当時の僕は、なんとなく自分の将来に対して漠然とした不安を抱いていました。時間は腐るほどあるのに何も為せない学生の自分、バックパッカーで垣間見てしまった途上国の情景、自信があったはずなのに停滞するバンド活動、早くも就職に向けた動きを見せる友人や彼女。

秋の夜空に自分の不安を溶け込ませたい、そんなどこか捉えどころのない日々のことを僕は訥々と話していたと思います。


お姉さんはずっとニコニコと相槌を打ってくれ、時々「お兄さんは東京で頑張ってる人なんだねえ」「すげぇねえ」と、何かの解決話をしてくれるわけでもなく、ただただ話を聞いてくれました。


生意気なお年頃だった僕は、スナックなんて何度か来たことあります風でいましたが、実際は結構緊張していて、じゃっぱ汁の味はあんまり覚えていません。


お姉さん優しかった。

多分そんな僕のことは見透かしてたと思う。でもただ優しく話をニコニコ聞いてくれた。

お姉さんの顔もほとんど覚えてない。多分緊張して下ばかり向いていたから。


◇◇◇

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翌日、遠い町に走る夕暮れの道、市バスに乗っていたのは僕ひとりでした。

窓から見える風景は、東京では見られない黄金色の田園風景で、ただそれだけが遠くまで続く何の変わり映えもしない美しい景色に僕は言葉を失いました。

旅の雰囲気がそうさせるのか、僕はバスの運ちゃんに、関東から一人旅で来たんですよー、と言いました。

運ちゃんは、
「そうか。兄ちゃん、こんな何もないところ、来てくれてありがとうな!」

と、僕しかいない車内に向けてわざわざアナウンスをし、ガハハと笑いました。


やめてよ。
そういうことをされるとグッときてしまう。
僕は、昨晩も今も、グッときてしまっている。

お姉さんも運ちゃんも「何もない」と言いましたが、「何かがある」ってのは一体どういうことなんだろう、というのを、その頃からよく考えるようになりました。


小さな旅と小さな出会いが、小さな気づきを与えてくれたという、本当に小さな話ではありますが。



◇◇◇

【じゃっぱ汁】

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【じゃっぱ汁】 4~5人分
タラのアラ 1尾分程度 (肝も手に入れば是非)
タラの白子 100g
ねぎ 1/2本
人参 1/2本
ごぼう 1/3本
しいたけ 7-8本
木綿豆腐 1丁
出汁 800cc
酒 100cc
味噌 大さじ4~5程度

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1.タラのアラと白子は熱湯で湯通しして臭みを抜き、ぬめりなどを取る。
2.ねぎ、ごぼうは斜め切り、人参はいちょう切り、椎茸は好みの大きさに、豆腐は賽の目に切る。

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3.出汁に酒、(1)を加えて火にかけ、煮立ったらアクを取って弱~中火に落とし、野菜類を入れる。

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4.くったりしてきたら豆腐を入れ、味噌を溶いて完成。

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お姉さん、自分で作るまでになってしまったよ笑。


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東京オカザキッチン|飯と旅
感謝の極みです。どうもありがとうございます。