ヴィンテージが、自分らしさを取り戻してくれた
自宅から10分歩けば、ユニクロもGUも無印もユナイテッドアローズもアーバンリサーチも、とにかく何でも揃う。私は今、とんでもなく便利な場所に住んでいる。
ベッドでゴロゴロしながらYouTubeやZOZOで新作アイテムの情報を仕入れたら、10分後には店舗に行って実物をチェックできる。普段からアンテナなんて張らなくても、巷の流行りなんてものは、すぐに自分のものにできる。
今のマンションに住み始めて丸2年。安易に流行に乗り続けられる私は、どんどん「イケてる女」に進化したような気でいた。
10年ほど前、郊外にある実家で暮らしていた頃、雑誌で見つけたテキスタイルのトートバックに一目惚れしたことがある。
欲しいという気持ちを抑えながら、まずは、そのバッグのブランドのことを調べたり、自分がもっている洋服とどう合わせるか妄想したりしながら、本当に自分が買うべきかどうか熟考した。
何日も悩みに悩んだ上で、どうしても譲れないと思ったので、ようやく購入の意を固め、片道1時間かけてショップに出向くための予定を立てた。
あの日の買い物はとてつもなく楽しかったし、バッグを購入したときには心が満たされ、大きな幸せを感じた。
そういった想いをもって購入したものこそが、自分らしさを形づくってくれるのだろうし、そんな経験をできた自分は「イケてた」と思う。
あれから10年。なんでも手に入る環境に身を置いてから、どうやらわたしは思考停止状態に陥っていたようだ。
自分が本当に欲しいかどうか、好きかどうか、そんなことは深く考えていなかった。ただただ「流行っているから」「近くで売っているから」という理由だけに流されて、自分らしさや感性を見失っていた。そんなの、全然イケてない。
今年の春先、近くに古着屋さんができた。
独身のころはよく古着を買っていたので、古着自体は好きだったはずなのだが、そういえば最近手にすることがなくなっていた。
暇だし久しぶりに見てみるか。なんて思いながら、ふらっとその古着屋さんに立ち寄ってみた。
手編みで肉厚なフィッシャーマンニットや、アメリカの大学らしきロゴの入ったスウェット、丈が長めのギンガムチェックシャツに、いい具合に色褪せてダメージの入ったジーンズーー。
店内のあらゆる棚にずっしり商品が積まれている。品数自体は山ほどあるが、どの商品も1点もので被りがない。一つひとつ手に取り、サイズやデザインや商品の状態をじっくりチェックしながら、自分に合うものを探していくーー。
気に入ったデザインのものがあっても、ブカブカだったり、状態が悪くてどうしても気になる汚れがついていたりしたら、それは購入にまで至らない。
何十分も店内に居座って商品を吟味しながら、ついに「これだ!」と思って手にとったのは少し褪せたブルーのヴィンテージデニム。
前から欲しかった色味で、目立った汚れもなく状態良好。さあ、あとはサイズが合うかどうか。
ドキドキしながら試着室に入り、デニムに足を通し、ウエストをしめて、ピッタリと私の身体にフィットしたとき、あの日の買い物と似たような充実感と高揚感を味わった。
便利な場所に住んで、仕事にも慣れ、10年前よりかは余裕をもって生活ができるようになった。
ちょっとしたものくらいは、衝動買いできる年齢にもなった。でも、買い物に対する熱量は下がってしまっていた。
「なんとなく」で買ってしまったものに、自分の想いや感情が乗っていることは少ない。要するに、自分らしさがない。自分が、ない。
そんな毎日の中で、ヴィンテージデニムとの出会いが「自分らしさ」を取り戻してくれた。
一つの商品と向き合う時間が長くなるのが、ヴィンテージアイテムの魅力だと思う。商品のことをじっくり見て、考えて、自分とマッチしたものだけ、迎え入れることができるから。
もちろん、流行りのものだって好きだ。
でも、そういったものを購入するときに「流行っているだけ」という理由だけで購入するのは、自分のことも商品のことも蔑ろにしているような気がする。
一つひとつの商品をじっくり見て、感じて、自分が本当に欲しいのかどうかを熟考してこそ、その商品の本当の魅力に気づけるのだと思う。
ヴィンテージが教えてくれた自分らしさ。
これからどれだけ年を重ねようとも、どれだけ便利な生活をしようとも、自分の心のトキメキに耳を傾けることを忘れず、自分らしさを表現していきたい。
正真正銘の「イケてる女」を目指して。