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「イデオロギーとユートピア」カール・マンハイム(著)
イデオロギーの影響下にある人は虚偽意識の中にある
この本は今から100年程度前に発表されたものであり、またイデオロギー研究をする人には一読必須の本です。
本自体の内容はイデオロギーについてはもちろんですが、カール・マンハイムが提唱した「知識社会学」について解説する意味合いの方が深いように思えます。
ですので「イデオロギーとユートピア」単体だけ読んでも理解は難しいのが難点です。
イデオロギーは現在も様々な形で存在しています。極端なイデオロギーの影響下にある人の意見が理解できないレベルのぶっ飛び方をしているのを見たことある人もいるかもしれません。
・イデオロギーはどのような歴史を歩んだのか
本書の中で私がもっとも興味を持ったのはイデオロギーが、どのような歴史を経て生まれたのかということです。
マンハイムはイデオロギーの誕生にはまず意識哲学の成立があったといいます。
社会には自分たちではわかりもしない要素が多数存在しています。それらの分散している諸要素を容易に理解するために意識哲学が「世界像」を提供しました。
世界像=諸要素を体系的に理解するためにできる(仮の)構造
これによって実際にはわからないけど、世界像の中で考えるとこうだろうという「虚偽意識」が発生します。
また歴史を経るごとに世界像は個人から集団へと広がります。いい例としてナショナリズムが言えますね。
そして社会の中で「階級」などの差が生まれてくることで、より別の世界像が誕生して、それぞれの集団が特定のイデオロギーを持つようになったとマンハイムはイデオロギーの歴史を語ります。
・イデオロギーの生み出す虚偽意識
イデオロギーの影響を受けると虚偽意識を持つとマンハイムは言います。
まぁ虚偽意識がどういうものかは極めて簡単な話です。要は現実とは乖離した妄想の類です。陰謀論はいい例です。
陰謀論者の見ている世界は陰謀論者じゃない人からすると極めて不思議な世界です。それが事実ではない世界であるならば虚偽意識の影響下にあると言えます。
虚偽意識が生まれてしまう理由はイデオロギーが体系化していたり、全体的な世界像をつくり出していることで、他要素についても説明できてしまうところにあります。
この虚偽意識はイデオロギーにおいて最も重要な要素だと言えます。そのイデオロギーから脱却するまで彼らには別の常識が通用しています。
脱却する方法は当人が気づく他ないのですが、それまではどうにもできません。これがイデオロギーの難しいところですね。
・終わりに
マンハイムは本書を通じて思想地図を描く試みをしているのではないかと思います。情報が多様化する現代では、イデオロギーも多様な形で存在しています。
イデオロギーから身を守る術は正直言ってないのですが、現実を見ることが大事です。
それでも完全に逃れることはできないという現実を理解するだけでも、極端な虚偽意識に飲まれることを予防できると思います。