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ドン・ジョヴァンニに鉄槌を下したワルター騎士長

モーツァルト作曲のオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を聴くとこの曲はまさにワルターのものだと思う時がある。

何でと言って、それは後述しますが、ドン・ジョヴァンニは今更言うまでもなく、希代の悪(羽賀研二ではない)と言っても良いような男。強姦、そして騎士長の殺害。立派に犯罪者だ。

騎士長はドン・ジョヴァンニに改心を迫ったが、ドン・ジョヴァンニは改心せず騎士長によって地獄に落とされる。

ここでなぜワルターが出てくるのか。

1939年次女のグレーテルがその夫によって殺害される、という大事件が起きた。この男はナチだったのだ。

ワルターの心痛ははかり知れないものがあっただろう。

1942年に録音されていたこのドン・ジョヴァンニ序曲を聴くと、その恐ろしい表情に驚かされる。ほかの誰も、今に至るまでこんなデモーニッシュなドン・ジョヴァンニ序曲を聞かせていない。

勝手な想像であるが、この時ワルターは騎士長になったのだ。
渾身の力で、娘を殺害したナチを地獄に落としたのではないだろうか。

温厚な(若い時にはかなり激情的な演奏もしたと文献にはあるが)、人格者で知られたワルターがこんな音を出した。

ここにワルターの親心を見ずにはいられない。

この演奏を聴くといつも私はやり場のない思いに怒りとも悲しみともつかない気持ちになる。

グレーテルに心からの哀悼を捧げたい。


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