「正常化」への長い長い道のり。
「うわっ、スワップが▼1,500億円もショート(=資金不足 )だ!」
少々専門的な話で恐縮だが「損切丸」が投資銀行の「円資金繰り」を担当していた時、このスワップ(金利交換のデリバティブ)の資金繰りが急変するのが大変だった。トレーダーは市場の動きに合わせて「より儲かる方」にポジションを傾けるので、当日朝になって資金繰りが突然変わる。*事前にお伺いを立てる日本の銀行と違い「儲け」しか頭にない外資は容赦がない。資金繰り担当は急遽「コール市場」にO/N( Over Night、本日~翌営業日の資金)を取りに行かざるを得ない。
*ちなみに邦銀でこんな事をやれば始末書もの。なぜなら資金部は毎日資金繰り予定を日銀に報告しており、大きくぶれれば説明責任を負う。説明が不十分で同じような事が繰り返されれば、半沢直樹ではないが「日銀考査」でみっちりやられる。最悪担当者は ”島流し”(左遷)だ。
午後になると取引が少なくなるので、▼1,000億円を超える不足は午前中が勝負。ただ**こちらが困っているのを見透かされると金利を吊上げられてしまうので、ショートが大きい時ほど「三味線を弾く」(=平静を取り繕う)。なかなか痺れる心理ゲームだ。
**日本のコール市場では「大手邦銀>大手地銀>外銀・その他中小金融機関」という「日本村の序列」がまかり通る。ムーディーズ等の "格付" などお構いなし。世界的には "格上" のはずの外銀が「上乗せ金利」を要求されるのは腹立たしい限りだが「資金繰り」を埋めなければ「破綻」。スワップの連中に文句を言ってもしょうがないので、じっと堪えて高い "お金" を取りに行く。午後3時以降はほとんど取引が成立しないから実質6時間の勝負だ。毎日毎日キリキリしながら仕事をしていた。
これが「平常時」のマネーマーケットの姿である。だが今の「コール市場」ではこのようなキリキリする緊張感は皆無。O/Nの取引量は一時の7~8兆円から14~15兆円まで回復したが、それは日銀の特別枠@0.10%に積むための「裁定取引」であり「破綻」リスクを背負ったものではない(日銀「地域金融強化のための特別当座預金制度」を導入へ。↓ ご参照)。
3/19 日銀「金融政策総点検」 @19 Mar 2021概要。↓ で既に「スティルス・テーパリング」を発動している日銀だが「正常化」への道のりは長い。資金市場を現在の「過剰超過」から「トン」=±ゼロまで持っていく過程を想像すると気が遠くなる。 "お金" の「出し手」と「取り手」がキチンとO/N取引をする日はいつになるのだろう(いや、そもそも訪れるのか?)。もう10年以上今のような状態が続いているため、「資金繰り」の ”技術” は廃れ「破綻」リスクを背負えるトレーダーなど存在しない。
かろうじて「金利」のついている米国のドル金利市場は少し状況が良い。それでも蛇口を止めるだけの「テーパリング」をFRBが "予告" しただけで、↓ 10/29 米国債市場で繰り広げられる「仁義なき戦い」。米国債市場では「国債流動性の枯渇」も心配されており、今の荒っぽい相場の原因になっている。特に「イールドカーブ」は滅茶苦茶である。
加えてこの数年間の投資銀行の「退職ラッシュ」。 ”FIRE” ではないが、年間所得が "億" を超えるようなトレーダーも続々辞めており(「損切丸」は違います。苦笑)、マーケットを熟知する人材も減っている。
更にAI取引やCTA(Commodity Trading Advisor)のような ”トレンドフォロー型” ファンドが増えたことで、マーケットは「理屈」より「流れ」で動く傾向が強まっている。クォンツなど「理論派」は立場が弱くなっており「バリューで逆張り」のような取引は手掛け難い。会社側もどんどん短期的な収益に傾斜するので、一度傾いた「流れ」は止まらなくなる。
「ゼロ金利で ”お金” は ”ジョーカー” から ”エース" (A)になった」
その昔「ゼロ金利政策」が導入された頃、日銀担当者との間で出た話だ。金利が@2%、@3%有る時は「お金」を持ったままO/Nで運用しなければ金利収入がゼロ、つまり「損」をするので、市場では ”ババ抜き” = ”ジョーカー” になる。だが「ゼロ金利」になれば運用してもしなくても金利収入がゼロなので、安全性を考えれば ”エース" 。「資金繰り」の数字の管理だけなら素人でもできるため、特別な ”技術” は必要無い。
今度は逆に ”エース" が ”ジョーカー” にひっくり返るわけで、日本もアメリカも、そしてヨーロッパもここからの「正常化」は並大抵ではあるまい。***経験の無いトレーダーは右往左往することになる。今の米国債の振れ幅を見ていると、今後の「荒れる相場」が思いやられる。
***正直、その時になって呼び戻されても対応できる自信は「損切丸」にはない。いくら経験があっても市場全体が機能しなければ ”技術” を生かすことができないからだ。もっとも体力も気力も衰えて "腑抜け" になっている今の状態では何の役にも立つまい。せいぜい頑張ってこの「損切丸」に書き留めていくのが関の山(苦笑)。しかし現場は大変になりそうだ😔。
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